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第11話 撤退

戦いは続いていた。


しかし。


状況は少しずつ変わり始めていた。


「くそ……!」


白銀戦線のプレイヤーが膝をつく。


防衛設備。


地形。


そして。


長年培ってきた戦闘経験。


それらがあっても。


敵の攻撃は止まらなかった。


「負傷者を後ろへ!」


仲間達が叫ぶ。


それでも。


戦線は徐々に押されていく。



「サイオン!」


ハヤテの声が響く。


サイオンは壁にもたれながら立っていた。


先ほどの影による奇襲。


あの一撃は大きかった。


深い傷。


まともに動けば、さらに悪化する。


それでも。


サイオンは前を向く。


「まだ……戦えるッス。」


ハヤテは険しい表情になる。


「無茶言うな。」


「今のお前じゃ……。」


サイオンは笑う。


「でも。」


「ここを守らないと。」


その言葉に。


ハヤテは何も言えなかった。



アイスは戦場全体を見ていた。


敵の数。


味方の状態。


残っている戦力。


全てを確認する。


そして。


理解する。


「……。」


勝てない。


いや。


正確には。


このまま戦えば。


勝つ可能性より。


失う可能性の方が高い。


「アイスさん……。」


白銀戦線の仲間が不安そうに見る。


アイスは拳を握る。


悔しい。


ここは仲間達と作り上げた大切な場所だ。


簡単に渡したくない。


しかし。


目の前にある現実は変わらない。


「……。」


アイスは静かに呟く。


「これは。」


「『決闘』じゃない。」


周囲の仲間達が見る。


「勝負に負けても終わりじゃない。」


「そんなものじゃない。」


視線の先には。


傷ついた仲間達。


倒れているプレイヤー達。


「ここで死ねば。」


「現実でも……終わる。」


その言葉に。


誰も反論できなかった。


これは。


命を懸けた戦いだ。


アイスは決断する。


「撤退する。」


一瞬。


周囲が静まる。


「……ですが。」


仲間が悔しそうに言う。


「この場所を……。」


アイスは首を振る。


「分かっている。」


「僕だって悔しい。」


「でも。」


「今、優先するべきものは。」


一人一人を見る。


「拠点じゃない。」


「仲間の命だ。」


「全員に伝えろ!」


アイスが指示を出す。


「撤退準備。」


「負傷者を最優先。」


「絶対に置いていくな!」


その声には。


迷いがなかった。


白銀戦線の仲間達は動き出す。


悔しさを抱えながら。


それでも。


生き残るために。


戦場から離れる。


その時。


アイスは遠くを見る。


「……。」


必ず戻る。


そう心に決めながら。


白銀戦線の撤退戦が始まった。



「……。」


狐獣人の少女。


ヨミは何も言わない。


ただ。


虚ろな瞳のまま。


大鎌を振るう。


「っ!」


俺は《朧》で受け流す。


重い。


見た目からは想像できないほどの力。


そして。


迷いがない。


攻撃に感情がない。


ただ。


命令された動きを繰り返している。


「……。」


俺は距離を取る。


強い。


でも。


それ以上に。


この戦い方が気に入らない。


目の前の少女は。


自分の意思で戦っているんじゃない。


「ガウ!」


アイスの声が響く。


「長くは戦えない!」


俺も分かっていた。


周囲の状況。


白銀戦線の負傷者。


撤退を始めた白銀戦線。


ここで時間を使いすぎれば。


全員を守れなくなる。


ヨミが再び動く。


大鎌が迫る。


俺は紙一重で避ける。


そして。


懐へ入り込む。


武器を狙わない。


倒すためではなく。


動きを止めるため。


「……。」


一瞬。


ヨミの腕を取る。


しかし。


すぐに振りほどかれる。


「……。」


まるで痛みすら感じていないようだった。


返事はない。


ただ。


大鎌を構える。


その姿を見て。


俺は拳を握る。


「ガウ!」


再びアイスの声。


「撤退する!」


その言葉に。


俺は周囲を見る。


白銀戦線の仲間達。


負傷したサイオン。


必死に支えるハヤテ。


そして。


撤退を指揮するアイス。


「……分かった。」


俺はヨミを見る。


今ここで無理をするべきじゃない。


勝つための戦いではない。


守るための戦いだ。


俺は後ろへ下がる。


ヨミは追撃しようとする。


しかし。


アイスが杖を向ける。


地面が凍り。


ヨミの足元を封じる。


一瞬だけ。


動きを止める。


その隙に。


俺達は撤退する。



「急げ!」


白銀戦線の仲間達が移動する。


「負傷者を優先!」


撤退する仲間達の後方。


俺は最後尾につく。


敵が追ってくる。


なら。


俺が止める。


《朧》を構える。


「……。」


ここで勝つ必要はない。


全員を帰す。


それだけでいい。



やがて。


遠くに王虎の牙の集落が見えてきた。


戻ってきた。


全員で。


白銀戦線の仲間達は悔しさを抱えている。


拠点を失った。


戦いに勝てなかった。


それでも。


誰一人。


置いてこなかった。


「おかえりなさい!」


たるとの声が響く。


その瞬間。


張り詰めていた空気が少しだけ緩む。


「なんてこと!」


「早くこちらへ!」


「傷を治します!」


たるとは負傷者へ駆け寄る。


俺はその光景を見る。


戦いは終わっていない。


でも。


守るべきものは。


まだここにある。

第11話「撤退」を読んでいただき、ありがとうございます!


今回は、勝利ではなく「守るための選択」を描いた回でした。


強敵を前にして、最後まで戦うことだけが勇気ではありません。


この世界では。


倒れてしまえば終わり。


これは決闘でも、ただのゲームでもありません。


だからこそアイスは、悔しさを飲み込み撤退を選びました。


そしてガウも。


敵を倒すことではなく、仲間全員を帰すことを優先しました。


拠点を失った白銀戦線。


姿を現した《深淵の剣》。


そして。


王虎の牙の戦いは、まだ始まったばかりです。


次回。


傷ついた仲間達を迎え、新たな戦いへの準備が始まります。


お楽しみに!

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