第11話 撤退
戦いは続いていた。
しかし。
状況は少しずつ変わり始めていた。
「くそ……!」
白銀戦線のプレイヤーが膝をつく。
防衛設備。
地形。
そして。
長年培ってきた戦闘経験。
それらがあっても。
敵の攻撃は止まらなかった。
「負傷者を後ろへ!」
仲間達が叫ぶ。
それでも。
戦線は徐々に押されていく。
◇
「サイオン!」
ハヤテの声が響く。
サイオンは壁にもたれながら立っていた。
先ほどの影による奇襲。
あの一撃は大きかった。
深い傷。
まともに動けば、さらに悪化する。
それでも。
サイオンは前を向く。
「まだ……戦えるッス。」
ハヤテは険しい表情になる。
「無茶言うな。」
「今のお前じゃ……。」
サイオンは笑う。
「でも。」
「ここを守らないと。」
その言葉に。
ハヤテは何も言えなかった。
◇
アイスは戦場全体を見ていた。
敵の数。
味方の状態。
残っている戦力。
全てを確認する。
そして。
理解する。
「……。」
勝てない。
いや。
正確には。
このまま戦えば。
勝つ可能性より。
失う可能性の方が高い。
「アイスさん……。」
白銀戦線の仲間が不安そうに見る。
アイスは拳を握る。
悔しい。
ここは仲間達と作り上げた大切な場所だ。
簡単に渡したくない。
しかし。
目の前にある現実は変わらない。
「……。」
アイスは静かに呟く。
「これは。」
「『決闘』じゃない。」
周囲の仲間達が見る。
「勝負に負けても終わりじゃない。」
「そんなものじゃない。」
視線の先には。
傷ついた仲間達。
倒れているプレイヤー達。
「ここで死ねば。」
「現実でも……終わる。」
その言葉に。
誰も反論できなかった。
これは。
命を懸けた戦いだ。
アイスは決断する。
「撤退する。」
一瞬。
周囲が静まる。
「……ですが。」
仲間が悔しそうに言う。
「この場所を……。」
アイスは首を振る。
「分かっている。」
「僕だって悔しい。」
「でも。」
「今、優先するべきものは。」
一人一人を見る。
「拠点じゃない。」
「仲間の命だ。」
「全員に伝えろ!」
アイスが指示を出す。
「撤退準備。」
「負傷者を最優先。」
「絶対に置いていくな!」
その声には。
迷いがなかった。
白銀戦線の仲間達は動き出す。
悔しさを抱えながら。
それでも。
生き残るために。
戦場から離れる。
その時。
アイスは遠くを見る。
「……。」
必ず戻る。
そう心に決めながら。
白銀戦線の撤退戦が始まった。
◇
「……。」
狐獣人の少女。
ヨミは何も言わない。
ただ。
虚ろな瞳のまま。
大鎌を振るう。
「っ!」
俺は《朧》で受け流す。
重い。
見た目からは想像できないほどの力。
そして。
迷いがない。
攻撃に感情がない。
ただ。
命令された動きを繰り返している。
「……。」
俺は距離を取る。
強い。
でも。
それ以上に。
この戦い方が気に入らない。
目の前の少女は。
自分の意思で戦っているんじゃない。
「ガウ!」
アイスの声が響く。
「長くは戦えない!」
俺も分かっていた。
周囲の状況。
白銀戦線の負傷者。
撤退を始めた白銀戦線。
ここで時間を使いすぎれば。
全員を守れなくなる。
ヨミが再び動く。
大鎌が迫る。
俺は紙一重で避ける。
そして。
懐へ入り込む。
武器を狙わない。
倒すためではなく。
動きを止めるため。
「……。」
一瞬。
ヨミの腕を取る。
しかし。
すぐに振りほどかれる。
「……。」
まるで痛みすら感じていないようだった。
返事はない。
ただ。
大鎌を構える。
その姿を見て。
俺は拳を握る。
「ガウ!」
再びアイスの声。
「撤退する!」
その言葉に。
俺は周囲を見る。
白銀戦線の仲間達。
負傷したサイオン。
必死に支えるハヤテ。
そして。
撤退を指揮するアイス。
「……分かった。」
俺はヨミを見る。
今ここで無理をするべきじゃない。
勝つための戦いではない。
守るための戦いだ。
俺は後ろへ下がる。
ヨミは追撃しようとする。
しかし。
アイスが杖を向ける。
地面が凍り。
ヨミの足元を封じる。
一瞬だけ。
動きを止める。
その隙に。
俺達は撤退する。
◇
「急げ!」
白銀戦線の仲間達が移動する。
「負傷者を優先!」
撤退する仲間達の後方。
俺は最後尾につく。
敵が追ってくる。
なら。
俺が止める。
《朧》を構える。
「……。」
ここで勝つ必要はない。
全員を帰す。
それだけでいい。
◇
やがて。
遠くに王虎の牙の集落が見えてきた。
戻ってきた。
全員で。
白銀戦線の仲間達は悔しさを抱えている。
拠点を失った。
戦いに勝てなかった。
それでも。
誰一人。
置いてこなかった。
「おかえりなさい!」
たるとの声が響く。
その瞬間。
張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
「なんてこと!」
「早くこちらへ!」
「傷を治します!」
たるとは負傷者へ駆け寄る。
俺はその光景を見る。
戦いは終わっていない。
でも。
守るべきものは。
まだここにある。
第11話「撤退」を読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、勝利ではなく「守るための選択」を描いた回でした。
強敵を前にして、最後まで戦うことだけが勇気ではありません。
この世界では。
倒れてしまえば終わり。
これは決闘でも、ただのゲームでもありません。
だからこそアイスは、悔しさを飲み込み撤退を選びました。
そしてガウも。
敵を倒すことではなく、仲間全員を帰すことを優先しました。
拠点を失った白銀戦線。
姿を現した《深淵の剣》。
そして。
王虎の牙の戦いは、まだ始まったばかりです。
次回。
傷ついた仲間達を迎え、新たな戦いへの準備が始まります。
お楽しみに!




