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第10話 深淵から来た者達

戦場を包む空気が張り詰める。


俺とゼノス。


互いの視線は真っ直ぐぶつかっていた。


「面白い」


ゼノスは薄く笑う。


「その考えがどこまで通用するか試してやる」


その笑みを見た瞬間、俺の中で何かが切れた。


これ以上、こいつと言葉を交わす意味はない。


俺は忍者刀《朧》を構え、一気に地面を蹴った。


「止める!」


一瞬で間合いを詰める。


狙うのはゼノス。


だが――。


「ヨミ」


ゼノスは避けようともせず、ただ一人の名を呼んだ。


次の瞬間。


ガキィィン!!


甲高い金属音が戦場へ響く。


「っ!」


《朧》の刃が、巨大な大鎌によって受け止められていた。


衝撃で火花が散る。


俺はすぐに後方へ飛び退いた。


視線の先。


そこに立っていたのは、一人の狐獣人の少女だった。


黒色の髪。


小柄な身体には不釣り合いなほど大きな鎌。


だが何より目を引いたのは、その瞳だった。


何も映していない。


怒りも。


恐怖も。


迷いも。


まるで心を失った人形のように、ただ虚ろな瞳で俺を見つめている。


「……」


少女は何も言わない。


ただ静かに大鎌を構えた。


その姿を見て、俺は小さく息を呑む。


「操られているのか……」


返事はない。


少女はゼノスを一瞬だけ見た。


命令を待つように。


ゼノスは満足そうに笑う。


「そう警戒するな」


「ヨミはよく働く」


その言葉には人を人として見ている様子は微塵もなかった。


まるで道具を自慢するような口ぶり。


俺は思わず拳に力を込める。


「人を……そんな風に扱うのか」


ゼノスは肩をすくめた。


「使えるものを使っているだけだ」


「それの何が悪い?」


価値観が違う。


根本から。


こいつとは絶対に分かり合えない。


「ヨミ」


ゼノスが静かに命じる。


「そいつを始末しろ」


その一言だけだった。


少女の身体が音もなく消える。


「っ!」


横から迫る大鎌。


俺は《朧》を抜き放ち、間一髪で受け流す。


再び火花が散る。


重い。


細い腕からは想像もできないほどの力が伝わってきた。


俺は距離を取る。


ヨミは追撃してこない。


ただ静かに大鎌を構え、次の命令を待つように立っている。


その姿が痛々しかった。


「……必ず助ける」


小さく呟く。


ヨミの瞳が、ほんのわずかに揺れた気がした。


だが次の瞬間には、その光も消えていた。


ゼノスは楽しそうに笑う。


「さて、どこまで抗えるか」


俺は《朧》を握り直す。


目の前の相手は強い。


だが、それ以上にこの少女をこのままにはしておけなかった。



一方、その頃。


別の前線では、サイオンがヴァルガ、バルドの二人を相手に激しい戦いを繰り広げていた。


「はぁっ!」


サイオンが《流銀飛翔》で一気に上空へ舞い上がる。


装備へ組み込まれた液体金属を念動力で操り、戦場を縦横無尽に駆け巡る。


「《流銀槍》!」


銀色の槍が高速で射出される。


「甘い!」


ヴァルガは大剣を振り抜き、真正面から叩き落とした。


砕け散った液体金属は空中で再び形を変え、今度は鋭い刃となってバルドへ襲い掛かる。


「《流銀刃》!」


ガガガガッ!!


だが、バルドは最小限の動きだけで全てを槍で弾き返した。


「悪くないが通らん」


「固いッスね……!」


サイオンは苦笑しながら距離を取る。


その隣では、ハヤテが援護へ向かおうとしていた。


「サイオン!」


「今行く!」


だが、その行く手を操られたプレイヤーたちが塞ぐ。


「や、やめてくれ……!」


「お願いだ!」


「近付かないでくれ!」


涙を流しながら、それでも身体は勝手に剣を振るってくる。


「くっ……!」


ハヤテは刃ではなく峰で攻撃を受け流す。


柄で手首を打ち、足を払う。


気絶させても、次のプレイヤーが立ちはだかった。


「どいてくれ!」


「俺はあんたたちを斬りたくねぇ!」


それでも彼らの身体は止まらない。


自分の意思とは無関係に武器を振り続ける。


その間にも、サイオンは二人を相手に戦い続けていた。


「《流銀鎖》!」


液体金属が鎖へ変形し、ヴァルガへ伸びる。


しかし。


「遅ぇ!」


ヴァルガは鎖を力任せに引き千切る。


その直後。


「……隙だ」


バルドが一歩踏み込んだ。


鋭い突き。


サイオンは《流銀盾》を展開し、間一髪で受け止める。


ガァァン!!


重い衝撃が腕を貫く。


さらに。


「終わりだぁ!」


ヴァルガの大剣が横薙ぎに迫る。


「っ!」


盾ごと吹き飛ばされる。


ドォォン!!


サイオンの身体が岩壁へ激突した。


砕けた岩が周囲へ飛び散る。


「サイオン!」


ハヤテが叫ぶ。


助けに向かおうとする。


だが、その前へ再び操られたプレイヤーたちが立ち塞がった。


「くそっ!」


峰で攻撃をいなしながら前へ出ようとするが、思うように進めない。


「どいてくれ!」


「頼む!」


その叫びも届かない。


サイオンは岩壁を蹴り、空中でなんとか体勢を立て直す。


口元から血を拭い、小さく笑った。


「さすが指名手配三位のギルドッスね……」


その瞬間だった。


ゾクリ、と背筋を冷たいものが走る。


「――っ!」


反射的に振り返る。


だが、遅かった。


影が揺らぐ。


何もなかった空間から、一人の男が姿を現した。


黒い装束。


感情の見えない瞳。


「もらった」


低い声とともに、黒い刃が閃く。


ズバッ――。


鮮血が宙を舞った。


「がはっ……!」


サイオンの身体が大きく吹き飛ばされる。


「サイオン!!」


ハヤテの叫びが戦場へ響いた。


サイオンは地面を何度も転がり、岩へ激突してようやく止まった。


「がっ……!」


口から血のエフェクトが溢れる。


腹部には深い斬り傷。


装備へ組み込まれた液体金属も一部が砕け散り、思うように動かない。


「サイオン!」


ハヤテは必死に駆け出そうとする。


しかし。


「ぐっ!」


またしても操られたプレイヤーたちが立ち塞がる。


峰で攻撃を受け流し。


武器を弾き。


気絶させる。


それでも次から次へと操られたプレイヤーたちが押し寄せ、ハヤテは前へ進めない。


「くそっ……!」


拳を握り締める。


目の前で仲間が危険に晒されている。


それなのに助けに行けない。


そのもどかしさが胸を締め付けた。


一方。


吹き飛ばされたサイオンはゆっくりと立ち上がる。


「まだ……終わらないッス」


息は荒い。


視界も霞む。


それでも液体金属を操り、再び構えを取る。


その様子を見て、黒装束の男は静かに口を開いた。


「よく避けた」


「あと少し遅ければ心臓を貫いていた」


サイオンはその声の方へ視線を向ける。


「アンタ……誰ッスか」


男は静かに答えた。


「《深淵の剣》四天王」


「ミレイア」


その名を聞いた瞬間。


バルドがわずかに口元を緩める。


「ようやく来たか」


ヴァルガは豪快に笑った。


「ははは!」


「これで終わりだな!」


サイオンは三人を見渡す。


ヴァルガ。


バルド。


そしてミレイア。


四天王が三人。


その全員が、サイオンの前に立っていた。


「さすがに……」


苦笑が漏れる。


「これはキツいッスね」


それでもサイオンは武器を下ろさなかった。


「でも――」


「ここを通す気はないッス」


液体金属が再び形を変える。


傷ついた身体を支えるように銀が腕へまとわりつき、サイオンは構え直した。


「往生際が悪ぃな!」


ヴァルガが豪快に笑い、大剣を振り上げる。


「……終わりだ」


バルドも槍を構えた。


二人が同時に踏み込む。


「《流銀盾》!」


銀の盾が展開される。


ガァァン!!


大剣が叩きつけられ、続けざまに槍が突き込まれる。


衝撃。


衝撃。


さらに衝撃。


「ぐっ……!」


サイオンは歯を食いしばる。


盾越しに伝わる重い一撃。


足が少しずつ後ろへ押されていく。


「まだ耐えるか!」


ヴァルガはさらに力を込める。


盾へ亀裂が走った。


その様子を見ていたハヤテは歯を食いしばる。


「サイオン!」


助けに行こうとする。


だが、その前へ操られたプレイヤーたちが立ちはだかった。


「お願いだ!」


「近付かないでくれ!」


「身体が勝手に……!」


涙を流しながら、それでも武器を振るう。


「くそっ!」


ハヤテは峰で攻撃を受け流し、一人、また一人と気絶させていく。


だが数が多い。


前へ進めない。


その間にもサイオンは追い詰められていく。


「もう終わりッスか?」


ヴァルガが獰猛に笑う。


「まだだ……!」


サイオンは盾を維持し続ける。


その瞬間。


「悪い!」


ハヤテが叫んだ。


「少しだけ眠っててくれ!」


《白夜》を大きく構える。


「六の太刀――《旋風》!」


ブォォンッ!!


鋭い斬撃と共に強烈な衝撃が周囲へ駆け抜ける。


刃ではない。


峰で放たれた一撃が、操られたプレイヤーたちをまとめて吹き飛ばした。


「ぐわっ!」


「きゃあっ!」


数人が武器を手放し、その場へ倒れ込む。


「今だ!」


白銀戦線のメンバーが一斉に駆け寄り、倒れたプレイヤーたちを拘束していく。


ハヤテはその一瞬の隙を逃さなかった。


「サイオン!!」


地面を力強く蹴る。


一直線に戦場を駆け抜ける。


その先では、ヴァルガの大剣がサイオンへ振り下ろされようとしていた。


「終わりだぁ!」


「っ……!」


サイオンは《流銀盾》を構えたまま動けない。


間に合わない。


――その瞬間。


「何っ!?」


ヴァルガが目を見開く。


キィィィン!!


《白夜》が大剣を真正面から受け止めた。


激しい火花が辺りへ散る。


「悪い!」


「待たせた!」


ハヤテは歯を食いしばりながら大剣を押し返す。


ヴァルガはニヤリと口元を吊り上げた。


「へぇ……」


「ようやく来たか!」


ハヤテも《白夜》を構え直し、不敵に笑う。


「仲間をやらせるわけにはいかねぇからな」


後ろでは、サイオンが口元の血のエフェクトを拭い、小さく笑った。


「十分ッス」


「来てくれただけで十分ッスよ」


ハヤテは《白夜》を構えたまま、不敵に笑った。


「一人じゃねぇ」


「ここからは二人だ」


その言葉にサイオンも小さく笑みを浮かべる。


「心強いッス」


二人は肩を並べ、再び武器を構えた。


その前には、《深淵の剣》四天王。


ヴァルガ。


バルド。


ミレイア。


三人の強者が立ちはだかる。



一方、別の戦場では。


「《氷壁》」


氷の壁が戦場をわける。


そこに一人の女性が歩いてくる。


「あなたが《白銀戦線》ギルドマスターのアイス?」


「誰だ」


「私は《深淵の剣》四天王のリリアよ」


ガウがヨミと対峙し、アイスもまたリリアとの戦いが始まろうとしていた。

第10話「深淵から来た者達」を読んでいただきありがとうございます!


ついに《深淵の剣》四天王が本格参戦!


ぜひ次回もお楽しみください!

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