第10話 深淵から来た者達
白銀戦線の拠点を襲撃した謎の敵。
その正体が、ついに明らかに!
圧倒的な力を持つ者達。
そして。
力こそ全てだと考える者達。
《王虎の牙》が大切にしてきたものとは、正反対の思想。
新たな強敵との戦いが、今始まる――。
戦場の中心。
一人の男が立っていた。
周囲のプレイヤー達は、その男を避けるように道を開けている。
ただ立っているだけ。
それだけなのに。
今までの敵とは違う圧を感じる。
俺は忍者刀《朧》に手をかける。
後ろにはアイスが立っている。
「……気を付けろ。」
アイスが小さく呟く。
「あの男。」
「普通じゃない。」
俺も同じことを感じていた。
目の前の男。
戦場の中心にいるのに。
まるで全てを支配しているような雰囲気を持っている。
「おいおい。」
男は笑う。
「そんな警戒するなよ。」
「俺は話をしに来ただけだ。」
アイスが冷静に問いかける。
「お前は誰だ?」
男は少し笑う。
そして。
堂々と名乗った。
「俺はゼノス。」
「ギルド《深淵の剣》のギルドマスターだ。」
その名前。
俺は知らない。
だが。
アイスが驚いた顔をする。
「お前達が深淵の剣か。指名手配ギルドがなんのようだ!」
ゼノスは白銀戦線の拠点を見る。
「いい場所だ。」
「天然の要塞。」
「守りやすい地形。」
「強者が集まるには最高の場所だ。」
そして。
俺達を見る。
「だから。」
「この拠点を俺達によこせ。」
アイスの表情が変わる。
「……断る。」
即答だった。
ゼノスは笑う。
「だろうな。」
「簡単に渡すような奴らなら、ここまで興味は持たない。」
俺はゼノスを見る。
「なぜ欲しがる。」
ゼノスは肩をすくめる。
「決まっている。」
「力ある者が、力ある場所を手に入れる。」
「それだけだ。」
「弱い奴を守るために使うなんて。」
「理解できない。」
その言葉。
俺は一歩前へ出る。
「……。」
たるとの想いを。
仲間達の居場所を。
こいつに渡すつもりはない。
「アイス。」
「分かっている。」
アイスも杖を構える。
一瞬。
地面を蹴ろうとした。
その時。
「ヨミ。」
ゼノスが呟く。
「行け。」
次の瞬間。
影が動いた。
「……っ!」
俺の前に何かが飛び込んでくる。
巨大な鎌。
反射的に《朧》で受け流す。
甲高い音が響く。
距離を取る。
そこに立っていたのは。
狐獣人の少女だった。
大きな大鎌を持っている。
しかし。
何かがおかしい。
その目には。
何も映っていなかった。
怒りも。
恐怖も。
迷いも。
ただ。
命令されたから動いている。
そんな虚ろな瞳。
「……。」
俺は少女を見る。
「操られているのか……。」
少女は答えない。
ただ。
無言で大鎌を構える。
ゼノスの命令を待つ人形のように。
「ヨミ。」
ゼノスが笑う。
「やれ。」
その言葉に。
狐獣人の少女は動き出した。
俺は《朧》を構える。
「……。」
この相手は。
強い。
でも。
それ以上に。
俺は許せなかった。
◇
白銀戦線の前線。
激しい戦闘が続いていた。
「はぁっ!」
ハヤテの刀が閃く。
敵の攻撃を受け流し。
そのまま距離を詰める。
「やるな。」
槍を持つ男が笑う。
「この状況で、そこまで冷静に戦える奴は珍しい。」
ハヤテは刀を構え直す。
「そっちこそ。」
「普通のプレイヤーじゃないだろ。」
隣では。
サイオンが別の敵と戦っていた。
空を駆け。
攻撃をかわし。
一瞬の隙を狙う。
しかし。
相手もその動きを見切っていた。
「速いな。」
「だが。」
「動きが分かれば、対応できる。」
大剣が迫る。
サイオンはギリギリで回避する。
「危ないッスね……。」
それでも。
二人は押されていなかった。
敵の中でも特に強い二人を相手に。
互角に戦っている。
槍を持つ男が笑う。
「なるほど。」
「白銀戦線に、これほどの実力者がいるとはな。」
もう一人の男も頷く。
「認めよう。」
「お前達は強い。」
ハヤテが笑う。
「そりゃどうも。」
「でもな。」
「こっちも負けるつもりはないぜ。」
槍を持つ男は、槍を構え直す。
「ならば。」
「名乗っておこう。」
「俺はバルド。」
「深淵の剣、四天王の一人だ。」
サイオンの表情が変わる。
「深淵の剣……!」
その時。
サイオンが口を開く。
「四天王ってことは……。」
「まだ他にもいるってことッスか。」
バルドは笑う。
「ああ。」
「俺達は四人いる。」
その瞬間。
空気が変わった。
「……っ!」
サイオンの危険察知が反応する。
しかし。
遅かった。
背後。
何もない空間から。
黒い影が伸びる。
「サイオン!」
ハヤテが叫ぶ。
影は。
サイオンの身体を貫いた。
「……っ。」
一瞬。
時間が止まったように感じた。
サイオンの身体が傾く。
「サイオン!」
ハヤテが駆け寄る。
影はすぐに消える。
そこには。
誰もいない。
しかし。
確かに気配が残っている。
バルドが静かに笑う。
「姿を見せる必要はない。」
「奴はそういう戦い方だからな。」
ハヤテは周囲を見る。
どこにも姿がない。
だが。
敵はまだいる。
影の中に。
「……卑怯だな。」
ハヤテが呟く。
バルドは首を振る。
「違う。」
「これも力だ。」
「勝つために使えるものを使う。」
サイオンを支えながら。
ハヤテは敵を見る。
こいつらは。
ただ強いだけじゃない。
力を使うことに迷いがない。
その考え方自体が。
王虎の牙とは正反対だった。
白銀戦線の戦いは。
さらに激しさを増していく。
第10話「深淵から来た者達」を読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、物語の大きな転換点となる回でした。
これまで王虎の牙は、仲間やNPC達と共に安心して暮らせる場所を作るために歩んできました。
しかし。
今回登場した《深淵の剣》は、まったく違う考えを持っています。
力を持つ者が全てを手に入れる。
弱い者は強い者に従う。
その思想は、たるとやガウ達が守ってきたものとは相反するものです。
そして。
その中には、自分の意思を奪われた少女ヨミもいました。
彼女がなぜそのような状態になっているのか。
王虎の牙は彼女をどうするのか。
次回、さらに激しい戦いが続きます。
お楽しみに!




