↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
39/203

第9話 戦いたくない敵

――森の中。


《王虎の牙》と《白銀戦線》のメンバーは、拠点を目指して森の中を駆け抜けていた。


先頭を走るのはアイス。


その後ろをロイド、ミーナ、グレイ、エルナが続く。


俺とハヤテも、その後ろから速度を緩めることなく駆けていた。


木々の間を吹き抜ける風が頬を打つ。


誰も口数は少ない。


皆、同じことを考えていた。


何も起きていなければいい。


だが。


その願いとは裏腹に、不安だけが胸の奥で静かに膨らんでいく。


「サイオンさんなら大丈夫ですよね……?」


不安そうに呟いたのはエルナだった。


ロイドは前だけを見据えたまま答える。


「大丈夫だ」


「サイオンは簡単にやられる男じゃない」


「そう簡単に突破されはしない」


そう言いながらも、その声にはわずかな焦りが滲んでいた。


ミーナも杖を握る手へ自然と力を込める。


「どうか……何事もありませんように」


その時だった。


――ガキィィン!!


森の静寂を切り裂くように、鋭い金属音が響く。


続いて。


――ドォォン!!


大地を震わせるような爆発音。


木々に止まっていた鳥たちが、一斉に空へ飛び立った。


「今の音は……!」


ハヤテが険しい表情を浮かべる。


アイスは立ち止まらない。


ただ静かに呟いた。


「始まったか」


その一言だけで全員の表情が変わる。


「急ぐぞ!」


アイスがさらに速度を上げる。


「はい!」


ロイドたちも一斉に駆け出した。


俺とハヤテも顔を見合わせ、小さく頷く。


「あぁ!」


木々の間を縫うように駆け抜ける。


岩場を飛び越え。


枝を払いのけながら、白銀戦線の拠点がある岩山を目指した。


やがて視界が開ける。


巨大な岩山。


天然の要塞。


白銀戦線の拠点。


――その瞬間だった。


「ぐあああっ!」


一人の白銀戦線のプレイヤーが勢いよく吹き飛ばされる。


「前線を維持しろ!」


「回復班、急げ!」


「右側を突破させるな!」


怒号が飛び交う。


剣と剣がぶつかり合う音。


飛び交う魔法。


砕け散る岩。


拠点の入口は、すでに激しい戦場と化していた。


「間に合わなかったか……!」


ロイドが悔しそうに歯を食いしばる。


アイスも険しい表情で戦場を見つめた。


「いや、まだ終わってはいない」


静かだが力強い声だった。


「まずは前線を立て直す!」


「ロイド!」


「はい!」


「ミーナとエルナを連れて負傷者の救護を頼む」


「グレイは防衛線へ」


「了解!」


四人は迷うことなく持ち場へ散っていく。


「ガウ、ハヤテ」


アイスが俺たちを見る。


「前線へ行く」


「あぁ」


俺は忍者刀《朧》へ手を掛けた。


ハヤテも《白夜》を抜き放つ。


「派手なお出迎えだな」


苦笑しながらも、その目は真剣だった。


俺たちは岩場を一気に駆け上がる。


そして、防衛線の最前線へ辿り着いた瞬間――。


「サイオン!」


ハヤテが思わず叫ぶ。


銀髪の青年が、岩山の間を縦横無尽に駆けていた。


いや。


飛んでいるように見える。


だが違う。


サイオンの専用装備には液体金属が組み込まれている。


アークスキル《流銀念動サイコメタル》によって、その液体金属を念動制御し、推進力と姿勢制御を行うことで空中を自在に機動しているのだ。


攻略組でも真似できる者はいない。


サイオンだけの立体機動戦。


「はぁっ!」


液体金属が一瞬で槍へと変形する。


空中から放たれた銀の槍が敵の足元へ突き刺さる。


さらに形を変えた液体金属が鎖となり、敵数人をまとめて拘束した。


「ここは通さないッス!」


いつもの軽い口調。


だが、その表情には余裕はなかった。


サイオンの正面には、大剣を肩へ担いだ巨漢。


そして長槍を構えた無口な男。


二人だけがサイオンの猛攻を真正面から受け止めていた。


「あいつら……」


ハヤテが目を細める。


「普通のプレイヤーじゃねぇな」


俺も静かに頷いた。


「あぁ」


「強いな」


その時だった。


「どけぇぇぇっ!!」


巨漢の男が大剣を振り上げる。


凄まじい勢いで振り下ろされた一撃。


「《流銀飛翔》!」


サイオンは装備へ組み込まれた液体金属を念動力で制御する。


銀色の液体金属が推進力を生み出し、その身体を一気に真上へ押し上げた。


轟音。


大剣が地面へ叩き付けられ、岩盤が砕け散る。


「逃げ足だけは速ぇな!」


巨漢の男が獰猛に笑う。


その直後。


「……」


無口な槍使いが音もなく踏み込んだ。


鋭い突き。


二撃。


三撃。


一切の無駄がない。


「速っ……!」


「《流銀盾》!」


液体金属が瞬時に巨大な盾へと変形する。


ガガガガッ!!


鋭い槍撃が銀の盾を何度も叩き付けた。


衝撃が腕へ伝わり、サイオンは空中へ押し返される。


「くっ……!」


体勢を崩しかける。


しかし再び空中で姿勢を制御。


空中で一回転しながら距離を取る。


「返すッス!」


「《流銀刃》!」


液体金属が十数枚の鋭い刃へと変化する。


銀の刃が念動力によって一斉に射出された。


だが、槍使いは最小限の動きだけで次々と弾き落とす。


巨漢は真正面から突っ込み、大剣でまとめて薙ぎ払った。


「はははっ!」


「そんな攻撃じゃ俺たちは止められねぇ!」


二人の連携は見事だった。


片方が攻めれば、もう片方が逃げ道を塞ぐ。


互いの隙を完全に補い合っている。


「一人で二人を相手にしてたのか……」


思わず俺は息を呑む。


サイオンの額には汗が浮かび、呼吸も少しずつ荒くなっていた。


それでも後ろへは下がらない。


その背中の先には、仲間たちが守る拠点があるからだ。


「《流銀槍》!」


液体金属が一本の巨大な銀槍へと変形する。


サイオンは触れることなく念動力だけで槍を操り、高速で射出した。


鋭い一撃が巨漢へ迫る。


しかし。


「甘ぇ!」


巨漢は大剣で真正面から弾き飛ばす。


銀の槍は岩壁へ突き刺さり、大きな亀裂を刻んだ。


その瞬間。


「もう十分だ」


静かな声が戦場へ響いた。


アイスだった。


サイオンが振り返る。


「アイス!」


その表情が少しだけ緩む。


「戻ってきたッスか!」


「あぁ」


アイスは静かに前へ出る。


「ここからは僕たちも戦う」


俺とハヤテも、その両脇へ並んだ。


ハヤテは刀を肩へ担ぎ、口元を吊り上げる。


「二対一ならともかく」


「二対二なら公平だろ?」


俺は忍者刀《朧》を静かに抜く。


「ここから先は私たちも相手をする」


巨漢の男はニヤリと笑った。


「へぇ」


「援軍ってわけか」


槍使いも無言のまま武器を構え直す。


戦場の空気がさらに張り詰める。


だが――。


その時だった。


「や、やめてくれぇ!」


前線のさらに奥から、悲鳴が響いた。


「戦いたくない!」


「お願いだ!」


「助けてくれ!」


その声に、俺たちは一斉に視線を向ける。


そこには、武器を握りながら涙を流すプレイヤーたちの姿があった。


その光景を見た瞬間。


俺たちの足が止まった。


武器を握るプレイヤーたち。


だが、その顔には敵意などなかった。


あるのは恐怖だけ。


「来るな!」


「お願いだから近付かないでくれ!」


「戦いたくないんだ!」


涙を流しながら剣を構える青年。


震える手で槍を握る女性。


足は震え。


今にも武器を落としてしまいそうだった。


アイスも静かに前を見つめる。


「……強制されているのか」


その言葉に一人の青年が叫んだ。


「助けてくれ!」


「俺たちは《深淵の剣》に捕まったんだ!」


「逆らったら仲間を殺すって……!」


その声を聞いた瞬間。


ハヤテが舌打ちした。


「最低だな……」


「こんなの戦いじゃねぇ」


俺も拳を握る。


目の前にいるのは敵じゃない。


被害者だ。


その時、大きな笑い声が響く。


「ははははっ!」


「いい顔してるじゃねぇか!」


大剣を担いだ巨漢が、腹を抱えて笑っていた。


「どうした?」


「斬れねぇのか?」


「目の前に敵がいるぜ?」


その言葉に白銀戦線の前線が揺らぐ。


誰も動けない。


剣を振るえば、助けを求めるプレイヤーを傷付けてしまう。


振るわなければ、防衛線が崩れる。


まさに敵の狙い通りだった。


「趣味が悪い」


アイスが冷たく呟く。


巨漢は肩をすくめた。


「戦争なんて勝てばいいんだよ」


「使えるもんは何でも使う」


その隣で槍使いも静かに槍を構える。


「……」


何も言わない。


ただ命令を遂行するだけというように。


俺は一歩前へ出た。


「ガウ」


アイスが静かに呼び止める。


「殺すな」


「あぁ」


俺は頷く。


「そのつもり」


ハヤテも刀を握り直す。


「だったら派手に暴れられねぇな」


「でも助ける方法はある」


サイオンが口元を上げた。


「そうッスね」


「敵を倒すだけが戦いじゃないッス」


俺たちは互いに頷き合う。


白銀戦線。


王虎の牙。


二つのギルドは同じ答えへ辿り着いていた。


誰一人、見捨てない。


その覚悟だけは揺るがなかった。


「全員、聞いてくれ!」


アイスの声が戦場へ響く。


戦い続けていた白銀戦線のメンバーが、一斉にアイスを見る。


「相手は敵じゃない!」


「無理に倒そうとするな!」


「武器を弾き、動きを止めろ!」


「絶対に殺すな!」


その指示に、白銀戦線のメンバーたちは力強く頷いた。


「了解!」


「気絶させればいいんだな!」


「任せてください!」


その一方で、《深淵の剣》の構成員たちは不満そうな声を上げる。


「はっ!」


「甘い連中だ!」


「そんな戦い方で勝てると思ってるのか!」


巨漢の男は大剣を肩へ担ぎ、大笑いした。


「聞いたか、お前ら!」


「こいつらは本気で斬れねぇらしい!」


「だったら押し潰せ!」


その号令と同時に、《深淵の剣》の構成員たちが一斉に前へ出る。


その先頭に立っていたのは、助けを求めていたプレイヤーたちだった。


「くっ……!」


「やめろ!」


「お願いだ!」


泣きながら武器を振るう。


自分の意思ではない。


それでも振るわなければならない。


その姿を見て、俺は静かに息を吐いた。


「ハヤテ」


「あぁ」


「私たちは前を止めて後ろは《白銀戦線》に任せよう」


俺は《朧》を構え、一歩踏み出す。


最初に飛び込んできたのは剣を持った青年だった。


振り下ろされる剣。


俺は半歩だけ身体をずらす。


刃を受けない。


流す。


力の向きを変える。


青年の体勢が大きく崩れた。


そのまま手首を掴み、軽く捻る。


「うっ!」


剣が地面へ落ちる。


続けて首筋へ手刀を落とした。


「ごめん」


青年はその場へ崩れ落ちる。


気絶しただけだ。


命に別状はない。


その様子を見たハヤテも笑う。


「ガウ、やるな!」


刀を抜いたまま、一切刃を当てない。


柄で手首を打ち。


足を払う。


峰で肩を叩き、次々と敵を気絶させていく。


「悪いな」


「少し寝ててもらうぜ!」


白銀戦線のメンバーたちも動き始めた。


「《氷槍》!」


アイスが放った氷の槍は、敵ではなく地面へ突き刺さる。


氷の壁が生まれ、戦場を分断した。


「こちらへ来い!」


「今なら逃げられる!」


助けを求めていたプレイヤーたちは顔を見合わせる。


「逃げられない!奴に行動を縛られてる!」


その叫びに、アイスの眉がわずかに動く。


「行動を縛る……?」


「そんなスキルがあるのか」


青年は苦しそうに首を振る。


「わからない!」


「でも……体が勝手に動くんだ!」


「逃げようとしても!」


「武器を捨てようとしても!」


「逆らえない!」


震える腕が、再び剣を握り締める。


「やめろ……!」


「やめてくれ!」


本人の意思とは関係なく、身体だけが前へ踏み出す。


「くっ……!」


ハヤテが歯を食いしばる。


「完全に操られてやがる」


アイスは戦場全体へ視線を走らせる。


操られているプレイヤーは一人や二人ではない。


五十人。


いや、それ以上だ。


前線のほとんどが苦しそうな表情を浮かべていた。


「誰が操っている……?」


俺も辺りを見渡す。


こんな人数を同時に操るなら、必ず術者がいるはずだ。


その時だった。


「……見事だ」


低く静かな声が、戦場へ響く。


その一言だけで、その場の空気が変わった。


《深淵の剣》の構成員たちは、一斉に左右へ道を開ける。


まるで王のために道を譲るように。


その奥から一人の男がゆっくりと歩いてくる。


黒い外套。


冷たい笑み。


人を見下ろすような視線。


男は涙を流しながら武器を握るプレイヤーたちを一瞥すると、興味なさそうに鼻で笑った。


「弱者を守ろうとするとは……」


「ずいぶんと愚かな連中だ」


その赤い瞳がゆっくりと俺たちを見据える。


「だからお前たちは弱い」


男が一歩前へ出る。


それだけで、周囲にいた《深淵の剣》の構成員たちが嬉しそうに笑みを浮かべた。


「ゼノス様だ……!」


「ギルドマスター!」


「来たぞ!」


歓声が上がる。


白銀戦線のメンバーにも緊張が走った。


「……あれが」


ロイドが息を呑む。


アイスは静かに頷いた。


「あぁ」


「《深淵の剣》ギルドマスター」


「ゼノス」


その名を聞いた瞬間、戦場の空気がさらに重くなる。


ゼノスはゆっくりと俺たちを見回した。


その視線には、敵を見るというより品定めをするような冷たさがあった。


「攻略組《白銀戦線》か……」


「聞いていた通り……面白い連中だ」


アイスが一歩前へ出る。


「人を道具のように扱い、助けを求める者まで利用して……それがお前のやり方か!」


ゼノスは鼻で笑う。


「利用できるものを利用して何が悪い」


「弱い者にはその程度の価値しかない」


「守られるだけの存在だ」


その言葉に俺の拳へ自然と力が入る。


「違うな」


思わず口から言葉が漏れた。


ゼノスの視線が俺へ向く。


「弱いから助けるんじゃない」


「仲間だから助けるんだ」


戦場が静まり返る。


ゼノスは数秒だけ俺を見つめると、小さく笑った。


「実に甘い考えだ」


「だからお前たちは弱い!」


俺は静かに《朧》を構える。


「その甘さで守れるものがあるなら」


「私はそのままでいい」


ゼノスの口元がゆっくりと吊り上がった。


「面白い」


「なら、その考えがどこまで通用するか試してやろう」


張り詰めた空気が戦場を包み込む。


ゼノスがゆっくりと右手を上げる。


それだけで、《深淵の剣》の構成員たちが一斉に武器を構えた。


白銀戦線も、王虎の牙も、それぞれ武器を握り直す。


誰も動かない。


誰も目を逸らさない。


静寂が戦場を支配していた。

第9話を読んでいただきありがとうございます!


王虎の牙とは正反対の思想を持つ彼との対決が、いよいよ始まります。


次回もぜひお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。