第9話 戦いたくない敵
白銀戦線の拠点。
そこへアイス達が戻った時。
すでに戦いは始まっていた。
「……っ!」
遠くから聞こえる戦闘音。
岩山に囲まれた天然の要塞。
本来ならば、簡単に突破されるような場所ではない。
しかし。
拠点の周囲には、複数のプレイヤー達が押し寄せていた。
白銀戦線の部下が叫ぶ。
「敵が攻めてきています!」
アイスの表情が変わる。
「くそっ!」
予想していた事態。
だが。
戻ってきた時には、すでに戦闘は始まっていた。
◇
白銀戦線の防衛線。
そこでは。
サイオンが一人、敵の前に立っていた。
「ここは通さないッス。」
空を駆けながら、敵の攻撃をかわす。
その動きは圧倒的だった。
しかし。
相手もただのプレイヤーではない。
敵の中でも特に強いと思われる二人。
大剣を担いだ大柄なプレイヤー。
そして。
槍を構えたプレイヤー。
二人とも、明らかに周囲のプレイヤーとは違う力を持っていた。
「強い……。」
ハヤテが戦場を見る。
「普通のプレイヤーじゃないな。」
俺も頷く。
「幹部クラス……かもしれない。」
だが。
サイオンは、その二人を相手に戦い続けていた。
圧倒的な速度で攻撃をかわし。
空中から反撃を繰り出す。
それでも。
サイオンの目的は勝つことではない。
時間を稼ぐこと。
仲間達を守るために。
「さすがだな……。」
ハヤテが呟く。
「一人であいつらを止めてる。」
俺は戦場を見る。
「サイオンがいなければ、もっと被害は出ていた。」
実際。
拠点への侵入は防げている。
防衛設備も機能している。
白銀戦線の力なら。
普通に戦えば、互角に戦えるはずだった。
だが――
「……。」
アイスは戦場を見て、表情を曇らせる。
理由は分かっていた。
◇
「助けて……!」
「お願い……!」
「戦いたくない……!」
戦場に響く声。
そこにいたのは。
無理やり戦わされているプレイヤー達だった。
彼らは武器を持ち。
敵として向かってくる。
しかし。
その表情は苦痛に歪んでいた。
「やめてくれ!」
「俺達だって戦いたくない!」
「助けてくれ!」
白銀戦線のプレイヤー達は攻撃をためらう。
当然だった。
目の前にいるのは敵。
しかし。
本当に戦いたいと思っている相手ではない。
「くそ……。」
剣を握る手が震える。
「どうすればいいんだ……。」
倒せばいい。
そう簡単に言える状況ではなかった。
◇
「これが狙いか。」
アイスが呟く。
敵の目的。
単純な戦力差ではない。
相手が攻撃しにくい状況を作り出すこと。
無理やり戦わされているプレイヤー達を利用し。
白銀戦線の動きを封じる。
「卑劣な戦い方だ。」
ハヤテが険しい表情を浮かべる。
俺は戦場を見る。
助けを求める声。
苦しそうな表情。
それを見て。
拳を握る。
「助ける。」
俺は呟く。
「全員。」
◇
白銀戦線の拠点。
防衛戦は続いていた。
しかし。
最大の敵は。
目の前の強者ではない。
戦いたくない相手と戦わなければならない。
その状況そのものだった。
戦場はさらに激しさを増していた。
「来るぞ!」
敵プレイヤー達が一斉に押し寄せる。
白銀戦線のプレイヤー達も迎え撃つ。
しかし。
誰もが迷っていた。
目の前にいるのは敵。
それでも。
助けを求める仲間達だった。
「……。」
俺は戦場を見る。
迷っている暇はない。
「私が行く。」
「ガウ。」
アイスが呼び止める。
「無茶はするな。」
俺は小さく笑う。
「分かってる。」
「でも。」
「助けを求めているなら、放っておけない。」
その時。
前線から大きな音が響く。
「サイオン!」
ハヤテが叫ぶ。
サイオンは二人の強敵を相手に戦っていた。
しかし。
明らかに負担が大きい。
「俺が行く!」
ハヤテは刀を抜く。
《白夜》
その瞬間。
一気に戦場を駆け抜ける。
「速い……!」
敵プレイヤー達が驚く。
ハヤテは止まらない。
サイオンの隣へ到達する。
「助太刀するぜ。」
サイオンが笑う。
「助かるッス!」
二人は背中を合わせる。
一人では止められない敵。
しかし。
二人なら。
◇
一方。
アイスが前へ出る。
迫ってくる奴隷プレイヤー達。
彼らは武器を構える。
「……。」
アイスが呟く。
そして。
手をかざす。
「《氷結領域》」
瞬間。
地面が凍りつく。
足元から広がる氷。
プレイヤー達の足を止める。
「な、なんだ……!」
「動けない……!」
氷は足元だけを包み込み。
彼らの動きを封じているだけだった。
「安心しろ。」
アイスは静かに言う。
「あなた達を傷つけるつもりはない。」
◇
俺も前へ出る。
迫るプレイヤー。
振り下ろされる武器。
俺は一歩踏み込む。
攻撃を受け止めない。
流す。
力の方向を変える。
相手の体勢が崩れる。
その瞬間。
手刀。
「……っ。」
プレイヤーはその場に倒れる。
気絶。
それだけ。
俺は次の相手を見る。
「悪い。」
「少し眠っていて。」
襲いかかる攻撃をかわす。
相手の力を利用して倒す。
武器を奪う。
動きを封じる。
殺さない。
それが俺達の選択だった。
「なぜだ……。」
倒れたプレイヤーが呟く。
俺は答える。
「助けを求めていたからだ。」
「それだけだ。」
◇
戦場。
ハヤテとサイオンは強敵を相手に戦う。
アイスは氷で敵の動きを止める。
俺は一人ずつ確実に無力化していく。
白銀戦線は少しずつ立て直し始めていた。
しかし。
その時。
戦場の奥。
一人の男が歩いてくる。
周囲のプレイヤー達が道を開ける。
「おいおい。聞いてた話とは違えじゃねぇか!」
俺はその姿を見る。
明らかに違う。
今までの敵とは。
存在感が。
その男が俺の後ろをみる。
男は笑う。
「面白いな。」
「力があるのに、甘い。」
その男は。
この戦場の中心人物だった。
第9話「戦いたくない敵」を読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、これまでとは少し違う戦いを描きました。
強い敵を倒すだけなら、答えは簡単です。
でも。
目の前にいる相手が、本当は戦いたくないと思っているなら?
そんな状況で、ガウ達が選んだのは「倒す」ではなく「助ける」ことでした。
王虎の牙は、強さを求めるギルドではありません。
誰かを守るために力を使うギルドです。
そして今回の戦いでは、そんな彼らの考え方とは正反対の存在も姿を見せました。
次回。
王虎の牙と謎の敵、その思想がぶつかります。
お楽しみに!




