↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/202

第6話 建設開始

会議を終えた、その日の午後。


王虎の牙の集落。


昨日までと変わらない景色が広がっていた。


畑。


家々。


小さな広場。


住民たちの声。


子どもたちの笑い声。


けれど、一つだけ大きく変わったものがある。


集落の一角。


これまで何もなかった空き地に大量の資材が集められていた。


切り揃えられた木材。


大きさごとに分けられた石材。


縄。


杭。


工具。


土を運ぶための荷車。


その光景を見つめながら俺は静かに息を吐いた。


まだ街はない。


だが。


ここに積まれた一つ一つがこれから形になる未来の一部だった。


「よーし!」


たるとが両手を握り締める。


「それじゃあ、始めましょう!」


集まっていた仲間たちが一斉に顔を上げる。


王虎の牙。


白銀戦線。


そして、作業を手伝う住民たち。


誰もが同じ場所へ視線を向けていた。


「街づくり、開始です!」


たるとの声が集落へ大きく響いた。


その瞬間、あちこちから歓声が上がる。


「おお!」


「やるぞ!」


「頑張りましょう!」


子どもたちまで一緒になって手を叩いていた。


そんな様子を見て、俺も自然と笑みを浮かべる。



最初に動いたのはゴウマだった。


設計図を広げ。


資材置き場の前へ立つ。


「まずは作業区域を分ける」


いつもの落ち着いた声。


だが、今は普段以上に力がこもっていた。


「外壁の建設予定地」


「住宅の予定地」


「資材置き場」


「加工場所」


「人が通る道」


一つずつ指を差しながら説明していく。


「全部を近くに置けばいいわけじゃない」


「荷車が通る場所に人が集まれば危険だ」


「資材を積みすぎれば崩れる」


「無理に同時進行すれば、必ずどこかで事故が起きる」


集まった仲間たちは真剣に耳を傾けていた。


ガンテツが腕を組む。


「勢いで全部始めりゃいいってわけじゃねぇんだな」


「当然だ」


ゴウマは即答する。


「街を作る前に、怪我人を出してどうする」


「安全に進めることが最優先だ」


現実世界では警察官だったゴウマらしい言葉だった。


戦いの時だけではない。


人を守るために何が危険なのかを先に考える。


それがゴウマの役目なのだろう。


「さすがゴウマね」


リンファが優しく微笑む。


「こういう時、本当に頼りになるわ」


「そうか?」


ゴウマは少しだけ照れたように頭をかいた。


「俺は戦うより、こういう方が向いているのかもしれんな」


「どっちも向いてると思います!」


たるとが元気よく答える。


「戦ってる時も頼りになります!」


「今もとっても頼りになります!」


「……そうか」


ゴウマは少しだけ視線を逸らした。


その横で、リンファがくすりと笑う。


「照れてるわね」


「照れていない」


「そういうことにしておくわ」


周囲に小さな笑いが広がった。


張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。


その後、ゴウマは再び設計図へ視線を落とした。


「アイス」


「外壁の位置を確認してもらえるか?」


「あぁ」


アイスが前へ出る。


設計図と実際の地形を見比べる。


「昨日話した通り、入口は広くしすぎない方がいい」


「人の出入りはしやすくする」


「だが、敵が一気に流れ込める幅にはしない」


ロイドも周囲を見渡す。


「正面だけではなく、左右から回り込まれない位置も考えるべきです」


「見張り台を置く場所も、今のうちに決めておいた方がいいでしょう」


バレットが少し離れた位置から地形を見る。


「高台はあそこだな」


全員が視線を向ける。


集落の南側。


少しだけ地面が高くなっている場所。


「外壁の上だけじゃなく」


「自然の高さも利用した方が射線を確保しやすい」


「見張り台を一つ置くならあそこがいい」


エルナも真剣な表情で目を細める。


「確かに」


「魔物が来ても早く気付けそうです」


アイスは静かに頷いた。


「そこを基準にしよう」


ゴウマが地面へ木の杭を打ち込む。


「ここから」


さらに一定の間隔を空けて、別の杭を打つ。


「ここまでが正面の外壁だ」


一本。


また一本。


杭が地面へ打ち込まれていく。


やがて、何もなかった土地に。


これから作られる外壁の線が見え始めた。


「すごい……」


たるとが小さく呟く。


まだ石も積まれていない。


壁もない。


ただ杭と縄が並んだだけだ。


それでも。


頭の中にしかなかった街の輪郭が初めて現実の土地へ描かれていた。


「本当に始まったんですね」


たるとは嬉しそうに笑う。


「まだ線を引いただけだ」


ゴウマはそう言いながらもその表情はどこか誇らしげだった。


俺は縄で囲まれた土地を見渡す。


「最初の線がなければ何も始まらないね」


ゴウマは小さく頷いた。



作業区域が決まると。


次は資材の振り分けが始まった。


「外壁用の石材はこっちだ!」


ゴウマの声が飛ぶ。


「住宅用の木材は北側へ!」


「道具は一か所へまとめろ!」


仲間たちが一斉に動き始める。


荷車を押す者。


縄を運ぶ者。


杭を打つ者。


石材を選別する者。


住民たちも自分にできる仕事を探しながら動いていた。


「私たちも運びます!」


何人かのNPCが木材へ手を伸ばす。


だが、ゴウマはすぐに声を掛けた。


「無理はするな」


「重い物はガンテツたちへ任せろ」


「怪我をしないことが一番大事だ」


「はい!」


住民たちは素直に頷き。


今度は軽い工具や縄を運び始めた。


誰か一人だけが頑張るのではない。


できる者ができることをする。


それだけで広い空き地が少しずつ建設現場へ変わっていく。


俺は全体を見回しながら、人手の足りていない場所へ向かう。


「ガウ!」


たるとが後ろから声を掛けてきた。


振り返ると腕いっぱいに木の杭を抱えている。


少しふらついていた。


「持ちすぎだよ」


俺は半分を受け取る。


「これくらい大丈夫です!」


「落としたら危ないよ」


「うっ……」


たるとは少しだけ頬を膨らませた。


「私も力になりたいんです」


「分かってる」


俺は歩き出す。


「だからって一人で全部やろうとしないで」


「私たちもいるから」


その言葉にたるとは一瞬だけ驚いた顔をする。


そしてすぐに笑顔になった。


「はい!」


「一緒に運びましょう!」


並んで歩き。


外壁予定地へ杭を届ける。


その途中、子どもたちが小さな縄を抱えて走ってきた。


「ぼくたちも手伝う!」


「これ持ってきたよ!」


たるとはしゃがみ込み、笑顔を向ける。


「ありがとうございます!」


「でも走ると危ないからゆっくりお願いしますね!」


「はーい!」


元気な返事。


その後ろでは大人たちが笑いながら見守っている。


何もなかった土地へ杭が並び。


縄が張られ。


資材が運ばれていく。


まだ完成したものは一つもない。


それでも。


集落はさっきまでとは違う場所になり始めていた。



「よし!」


ゴウマが周囲を見回す。


「次は石材を運ぶ!」


「外壁の土台になる石だ!」


「一番重い物から片付けるぞ!」


「おう!」


真っ先に返事をしたのはガンテツだった。


腕をぐるりと回し。


首を鳴らす。


「やっと俺の出番だな!」


その横へ、大柄な男が静かに並ぶ。


グレイだ。


「……俺も行く」


ガンテツは豪快に笑う。


「勝負するか!」


「どっちが多く運べるか!」


グレイは少しだけ口元を緩めた。


「面白い」


「負ける気はない」


二人は巨大な石材が積まれた場所へ歩いていく。


住民たちが少し離れて見守った。


「あんな大きな石……」


「持ち上がるの?」


そんな声が聞こえてくる。


ガンテツは拳を握り締めた。


「行くぞ!」


アークスキル。


剛力解放ギガント・ブレイク》。


瞬間。


全身の筋肉が膨れ上がり、凄まじい力が宿る。


ガンテツは二人がかりでも動かせないような巨石へ手を掛けた。


「ふんっ!」


軽々と持ち上げる。


「おおおっ!」


住民たちから歓声が上がった。


「すごい!」


「持ち上げた!」


ガンテツは豪快に笑う。


「力ってのはな!」


「壊すためだけにあるんじゃねぇ!」


「こうやって!」


「何かを作るためにも使えるんだ!」


そのまま巨石を担ぎ、外壁予定地まで歩いていく。


地面がどしどしと揺れる。


その姿を見ていたグレイも無言で近付いた。


鍛え抜かれた肉体だけで巨石へ手を掛ける。


「……っ!」


低く息を吐き。


巨石をゆっくりと持ち上げた。


「おぉ……」


ガンテツほど豪快ではない。


だが、確かな力だった。


「やるじゃねぇか!」


ガンテツが笑う。


「悪くない!」


グレイも静かに答える。


「お前ほどじゃない」


「でも、これくらいなら運べる」


「はっはっは!」


「十分だ!」


二人は競うように何度も石を運び始めた。


その姿を見た住民たちから自然と拍手が起こる。



その頃。


少し離れた場所ではドランが木材を眺めていた。


一本一本を持ち上げ。


木目を確認する。


「こちらは住宅用ですな」


「こちらは外壁の足場向きですな」


「長さを揃えておきますぞ」


職人らしい目だった。


必要な木材を見極め。


無駄なく仕分けていく。


その横へミーナが歩み寄る。


「ドランさん」


「地盤を固める前に確認していただけますか?」


「うむ」


ドランは頷いた。


「この辺りは少し柔らかいですな」


「先に石を敷いた方がよいと思いますぞ」


「分かりました」


ミーナは静かに杖を構える。


「では失礼します」


土属性魔法。


淡い光が足元へ広がる。


柔らかかった地面が少しずつ締まり始めた。


砂が沈み。


土が固まる。


「すごい……」


エルナが目を丸くする。


「地面が変わっていく」


ミーナは優しく微笑んだ。


「建物は土台が大切ですから」


「見えない場所ほど丁寧に作らないといけません」


ドランも満足そうに頷く。


「これなら丈夫な建物になりますな」


二人は自然と息が合っていた。



「私も何か手伝えることを考えるね~」


セリアがのんびりと辺りを見回す。


「でも~」


「今ある魔法だけだと少し不便かも~」


アイスが興味深そうに振り返る。


「不便?」


「うん~」


セリアは首をこてんと傾げた。


「だったら作る~」


その一言に白銀戦線の面々が首を傾げる。


「作る?」


ロイドが聞き返す。


セリアは眠たそうな表情のまま頷いた。


「ないなら新しく作ればいいもん~」


そう言って静かに目を閉じる。


周囲の空気がわずかに震えた。


セリアのアークスキル。


幻想創造ファンタズマ・クリエイト》。


存在しない魔法を、新しく創り出す力。


頭の中で魔法陣が組み上がっていく。


必要な効果。


魔力の流れ。


扱いやすさ。


建築現場で使うことを前提に、一つずつ形になっていく。


数分後。


セリアはゆっくりと目を開けた。


「できた~」


その場にいた全員が息を呑む。


「《建築補助ビルド・アシスト》」


淡い光が木材へ触れる。


すると積み上げられていた木材がゆっくりと浮かび上がった。


「えっ!?」


エルナが思わず声を上げる。


浮かんだ木材はゆっくりと移動し。


決められた位置へ正確に並んでいく。


さらに木材同士がぴたりと固定された。


「便利~」


セリアは満足そうに頷く。


「これなら建てる時も楽~」


アイスは珍しく目を見開いていた。


「……本当に」


「魔法そのものを作ったのか」


「うん~」


「欲しいのがなかったから作った~」


あまりにも当然のように答えるセリア。


ハヤテが苦笑する。


「本人は普通に言ってるけどとんでもないことだからな」


ロイドたちも苦笑するしかなかった。


戦うためではない。


街を作るためだけに、新しい魔法を生み出す。


セリアらしい魔法の使い方だ。



その頃。


シズクは外壁予定地の周囲をゆっくりと歩いていた。


足元へ視線を向け。


地面の状態を一つずつ確認していく。


「シズクさん?」


エルナが不思議そうに声を掛ける。


「何をしているんですか?」


シズクはしゃがみ込み、土へそっと手を添えた。


「結界の核を埋める場所を探しています」


「核?」


「はい」


シズクは静かに頷く。


「結界は完成してから張るものではありません」


「街を作る段階から準備しておくことで、より強固になります」


アイスも興味深そうに近付いてきた。


「なるほど」


「外壁そのものを結界の土台にするのか」


「はい」


「完成してから付け足すより効率も強度も上がります」


アイスは小さく頷いた。


「よく考えられている」


その言葉にシズクは少しだけ照れたように微笑む。


「皆さんが安心して帰ってこられる街にしたいですから」


「戦う人だけじゃありません」


「子どもたちも」


「住民の皆さんも」


「ここなら大丈夫だと思える場所を作りたいんです」


その言葉を聞きアイスは静かに空を見上げた。


「……君たちらしい考え方だ」



俺は少し離れた場所からその様子を眺めていた。


あちこちで響く笑い声。


資材を運ぶ仲間たち。


働く住民たち。


走り回る子どもたち。


昨日までは何もなかった場所が。


今日という一日だけで大きく姿を変え始めている。


昔の俺なら。


こんな景色を見ても何も感じなかったかもしれない。


強くなること。


生き残ること。


それだけを考えていた。


誰かと笑い合う未来なんて想像したこともなかった。


「ガウー!」


聞き慣れた声が響く。


振り返るとたるとが笑顔で手を振っていた。


「ぼーっとしてないで手伝ってください!」


「石がまだ残ってますよー!」


「分かってる」


思わず笑ってしまう。


俺は木槌を肩へ担ぎ、仲間たちのもとへ歩き出した。



やがて太陽は西へ傾き始める。


「今日はここまで!」


ゴウマの声が集落へ響いた。


「あー!」


ガンテツが大きく伸びをする。


「さすがに疲れたな!」


「でも気持ちいい疲れだ!」


グレイも汗を拭いながら頷く。


「……悪くない」


住民たちからも笑顔がこぼれる。


「ありがとうございました!」


「皆さん、お疲れさまでした!」


今日一日で完成したものはまだ多くはない。


外壁の基準となる杭。


資材置き場。


整えられた作業区域。


固められた地盤。


それだけだ。


たるとは夕日に照らされる建設予定地を見つめ、小さく呟く。


「まだ始まったばかりですね」


「あぁ」


アイスも静かに頷く。


「だが、この一歩が一番大切だ」


「焦らず積み重ねればいい」


その言葉にたるとは力強く笑った。


「はい!」


「絶対に素敵な街にしてみせます!」


暖かな夕日が、集落全体を優しく照らす。


笑顔で片付けを始める仲間たち。


今日という一日は終わる。


だが。


俺たちの街作りはまだ始まったばかりだった。

第6話を読んでいただきありがとうございました!


今回はついに王虎の牙の街づくりが本格的にスタートしました!


戦闘ではなく、それぞれの得意分野を生かして一つの街を作っていく様子を書いていてとても楽しかったです。


王虎の牙の街がどんな姿へ変わっていくのか、ぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。