第29話 温かな食卓
今回は戦闘ではなく、王虎の牙らしい日常回になります。
ダンジョンの中で一週間、一人で戦い続けたノエル。
そんな彼女が初めて「休んでもいい場所」を見つけるお話です。
白銀戦線のみんなとも宴会です♪
王虎の牙の集落。
夕方。
「ただいまー!」
たるとの元気な声が響く。
「おかえりなさい!」
NPC達が笑顔で迎える。
その声に。
集落を警護していた二人も振り返った。
「おかえり。」
リンファが優しく笑う。
「無事でよかったわ。」
隣ではセリアが眠そうに手を振る。
「おかえりー。」
「……あれ?」
セリアがノエルを見る。
「新しい人?」
「うん!」
たるとが嬉しそうに頷く。
「ノエルさんです!」
「よろしくお願いします。」
ノエルは頭を下げる。
しかし。
その動きは少しふらついていた。
「……。」
リンファがすぐに気付く。
「ノエルさん。」
「大丈夫?」
「はい。」
反射的に答える。
でも。
体は正直だった。
一週間。
暗いダンジョンの中。
限られた食料。
常に迫る危険。
いつ魔物が襲ってくるか分からない緊張。
ずっと気を張り続けていた。
限界は、とっくに来ていた。
「まずはご飯ね。」
リンファが優しく言う。
「え?」
「それから休むこと。」
「お部屋を準備するわ。」
「お風呂も付いているから、ゆっくりしてね。」
「……。」
ノエルは言葉を失う。
部屋。
お風呂。
食事。
そんな当たり前のものが。
今の自分には、とても遠いものに感じた。
◇
食堂。
そこには大きな机が用意されていた。
並べられた料理。
採れた野菜を使った料理。
焼きたての肉。
温かいスープ。
パン。
そして。
たくさんの人。
王虎の牙のメンバー。
白銀戦線のメンバー。
集落で暮らすNPC達。
全員が同じ机を囲んでいた。
「……。」
ノエルは思わず立ち止まる。
「どうしました?」
たるとが首を傾げる。
「いえ……。」
ノエルは周囲を見る。
プレイヤー。
NPC。
本来なら違う存在。
でも。
ここでは誰も気にしていない。
笑っている。
話している。
同じ料理を食べている。
まるで。
一つの家族みたいだった。
「座ろ?」
俺が声を掛ける。
「今日は客じゃない。」
「ダンジョン攻略した仲間。」
その言葉に。
ノエルは少し驚いた。
仲間。
その言葉を。
こんなに自然に向けられたのは久しぶりだった。
「……はい。」
小さく頷き、席につく。
◇
「それでは!」
たるとが手を合わせる。
「いただきます!」
「いただきます!」
声が重なる。
ノエルも少し遅れて手を合わせる。
「いただきます。」
スープを一口。
温かい。
優しい味だった。
「……。」
思わず目を閉じる。
美味しい。
ただ、それだけなのに。
胸の奥が少し苦しくなる。
最後に。
こんな風に誰かと食事をしたのは。
いつだっただろう。
「ノエルさん!」
たるとの声で我に返る。
「もっと食べてください!」
「え?」
「まだまだありますよ!」
「でも……。」
ノエルは周囲を見る。
みんな普通に食べている。
笑っている。
遠慮なんてしていない。
「遠慮しなくていいですよ!」
たるとは笑う。
「ご飯はいっぱい食べた方が元気になります!」
その言葉に。
ノエルは少しだけ笑った。
「……はい。」
白銀戦線のメンバーも、食事を楽しんでいた。
「……。」
アイスは静かに料理を見る。
「どうですか?」
リンファが尋ねる。
少し間を置いて。
「……美味しい。」
短い返事。
でも。
いつもの冷静な表情とは少し違っていた。
「でしょう?」
ハヤテが笑う。
「ここの飯は最高なんだよ。」
「確かに。」
白銀戦線の槍使いも頷く。
「こんなに美味しいご飯は初めてです!」
「うま!」
その横では。
「うまいッス!!」
サイオンが勢いよく料理を食べていた。
「これ毎日食べられるんスか!?」
「サイオン。」
アイスがため息を吐く。
「食事中くらい落ち着け。」
「無理ッス!」
「美味しいものは大事ッス!」
そのやり取りに。
食堂へ笑い声が広がる。
ノエルは、その光景を静かに見つめていた。
戦場では。
誰もが強くあろうとする。
誰もが生き残るために必死になる。
でも。
ここでは。
誰もがただの人だった。
笑って。
食べて。
明日を楽しみにしている。
「……。」
ノエルは小さく笑った。
「こういう場所……。」
「あるんですね。」
その呟きは。
誰にも聞こえなかった。
でも。
胸の奥には確かに残った。
◇
食事が終わる。
「部屋へ案内するわ。」
リンファが優しく声を掛ける。
「ありがとうございます。」
ノエルは頭を下げる。
ノエルは静かに部屋へ向かった。
◇
食事が終わった後。
白銀戦線のメンバーは帰り支度を始めていた。
「今日はありがとうございました。」
アイスがたるとへ頭を下げる。
「こちらこそ来てくれて嬉しかったです!」
たるとは笑顔で答える。
「料理も美味しかった。」
アイスは静かに続ける。
「そして。」
「この場所が、なぜ多くの人を惹きつけるのか少し分かった気がする。」
その言葉に。
たるとは首を傾げる。
「?」
「ここには強さだけではないものがある。」
アイスは集落を見る。
畑。
家々。
笑い声。
「守る価値のある場所だと思った。」
たるとは少し照れたように笑った。
「ありがとうございます。」
「でも。」
「特別なことをしているつもりはないんです。」
「みんなで楽しく暮らしたいだけですから。」
その言葉に。
アイスは小さく頷いた。
「だからこそ、なのだろうな。」
◇
「では。」
アイスが一歩下がる。
「今日は招いてくれてありがとうございました。」
「今度は僕達の拠点にも遊びに来てくれ。」
「はい!」
たるとが元気よく返事をする。
その横で。
「いや~。」
サイオンが満足そうにお腹を撫でる。
「ごちそうさまッス!」
「本当に美味しかったッス!」
「またご飯食べに遊びに行くッス!」
「目的が食事になってませんか?」
シズクが呆れたように言う。
「大事なことッス!」
サイオンは真剣な顔で答える。
そのやり取りに。
みんなが笑った。
「それでは。」
白銀戦線のメンバーは集落を後にする。
「また会おう。」
アイスが振り返る。
「はい!」
たるとが手を振る。
その背中が見えなくなるまで。
王虎の牙のメンバーは見送った。
◇
場面は変わり。
来客用の部屋。
ノエルは一人、湯船に浸かっていた。
「……。」
温かいお湯。
柔らかな照明。
静かな時間。
「はぁ~……。」
思わず声が漏れる。
一週間。
冷たい石の床。
常に警戒する日々。
いつ襲われるか分からない恐怖。
そんな時間が。
少しずつ溶けていく。
「……温かい。」
小さく呟く。
こんな普通のことが。
今は何より嬉しかった。
風呂を上がり。
用意された服へ着替える。
部屋には柔らかな布団。
綺麗な寝具。
「……。」
ノエルは少し戸惑う。
こんなに安心して眠る準備をするのは。
いつ以来だろう。
不動の盾ではいつも夜営ばかりだった。
順番に寝て、起きて、周囲を警戒。
でも。
今は。
守ってくれる人がいる。
「……。」
ノエルは布団へ入る。
柔らかい。
温かい。
安心する。
「明日は……。」
何かを言おうとした。
でも。
限界だった。
次の瞬間。
すぅ……。
「……。」
眠っていた。
一瞬だった。
◇
翌朝。
「ノエルさん。」
「起きてますか?」
扉の外から声が聞こえる。
しかし。
返事はない。
「……。」
たるとが首を傾げる。
「寝てますね。」
リンファが小さく笑う。
「よっぽど疲れていたんでしょうね。」
その部屋の中。
ノエルは久しぶりに。
何も心配せず眠っていた。
それは。
一人で戦い続けた少女が。
初めて手に入れた休息だった。
29話でした!
今回はノエルと王虎の牙の距離が少し縮まる回でした。
不動の盾として、ずっと仲間を守る側だったノエル。
でも。
守る側の人間にも、休める場所や頼れる仲間は必要だと思っています。
王虎の牙は強さだけを求めるギルドではありません。
一緒に笑って。
一緒にご飯を食べて。
帰ってきたいと思える場所を守るギルドです。
そして白銀戦線との関係も少しずつ深まっています。
次回からまた日常回に戻ります!
お楽しみに!




