第24話 不動の盾
――私には攻撃する力がない。
昔からそう言われてきた。
剣を振っても一撃で魔物を倒せない。
魔法も使えない。
仲間のように派手な必殺技もない。
何度も思った。
私も。
一撃で魔物を倒せるくらい強くなりたい、と。
大きな炎を放つ魔法使い。
一瞬で敵を斬り伏せる剣士。
遠くから正確に射抜く弓使い。
そんな仲間たちを見て羨ましいと思ったことは一度や二度じゃない。
でも。
ある日、仲間が笑って言った。
「ノエル」
「前は任せたぞ」
「はい!」
私はいつものように盾を構える。
巨大な魔物が咆哮を上げる。
鋭い爪が振り下ろされる。
――ガギィィィン!!
大盾へ凄まじい衝撃が走る。
それでも私は一歩も退かない。
「今です!」
仲間たちが一斉に飛び出す。
剣士が斬り裂き。
魔法使いが炎を放ち。
弓使いが弱点を射抜く。
巨大な魔物は断末魔を上げ、その場へ崩れ落ちた。
「やったぁ!」
仲間たちが笑顔で駆け寄ってくる。
「さすがノエル!」
「お前が前に立ってくれたから勝てた!」
「やっぱりノエルの盾は世界一だな!」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が温かくなる。
私は攻撃が得意じゃない。
誰よりも強いわけでもない。
でも私が前に立つことで仲間は安心して戦える。
「ありがとう」
仲間の笑顔を見る。
その笑顔を守れるなら。
それだけで十分だった。
だから私は決めた。
どんな攻撃が来ても。
どんな敵が現れても。
この盾だけは絶対に下ろさない。
「ノエル」
「はい!」
「これからも俺たちを守ってくれ」
私は力強く頷いた。
「任せてください!」
守ること。
それが私の役目。
それが――私の誇りだった。
◇
私たちのギルド。
名前は――《不動の盾》。
ギルドマスターは私。
構成員は六人だけの小さなギルドだった。
名前の由来は私が使う大盾。
どんな攻撃も受け止めるその戦い方から、仲間たちが名付けてくれた。
「《不動の盾》を突破できる奴なんていない!」
剣士の青年が胸を張る。
「いやいや、一番すごいのはノエルの盾だろ」
弓使いの少女が笑う。
「私たちはその後ろで暴れるだけだもん」
魔法使いも苦笑した。
「もうみんな大げさですよ」
私は照れ笑いを浮かべる。
「大げさじゃないって」
「ノエルが前にいてくれるから安心して戦えるんだからさ」
その言葉が何より嬉しかった。
攻撃力は低い。
派手な技もない。
それでも仲間は私を必要としてくれる。
だから私はこのギルドが大好きだった。
◇
そんな私たちは仲間が見つけた沼地のダンジョンへ挑むことになった。
「沼地のダンジョンか」
「楽しみだな!」
仲間たちは期待に胸を膨らませていた。
「油断は禁物ですよ」
私は苦笑しながら盾を持ち直す。
「分かってるって」
「でも、ノエルがいるなら大丈夫だろ?」
「もちろん!」
みんなが笑う。
私も笑った。
その時は、本当にそう思っていた。
いつも通り攻略して。
またみんなで笑って帰れると。
だが――。
ダンジョンの奥でそれは起きた。
カチッ。
小さな音。
足元へ魔法陣が浮かび上がる。
「え……?」
「転移罠だ!」
誰かが叫んだ。
次の瞬間、眩い光が視界を埋め尽くす。
身体が浮く。
仲間へ手を伸ばす。
「みんな!」
届かない。
光は私たちを容赦なく引き裂いた。
そして――。
気付けば。
私は一人だった。
「……みんな?」
返事はない。
静まり返った迷宮に私の声だけが虚しく響いていた。
◇
最初はすぐに合流できると思っていた。
仲間たちなら大丈夫。
きっと近くにいる。
そう信じて私は迷宮の中を歩き続けた。
何度も名前を呼んだ。
「返事をしてください!」
静まり返った通路に私の声だけが響く。
返事はなかった。
魔物を倒しながら進み。
分かれ道を一つずつ調べ。
何度も同じ場所を歩いた。
それでも仲間は見つからない。
そして、三日目。
目の前にキルログが流れた。
《プレイヤー・レインが死亡しました》
「……え?」
思考が止まる。
「うそ……」
信じられなかった。
だが、それで終わりではなかった。
《プレイヤー・クロスが死亡しました》
《プレイヤー・ミリアが死亡しました》
《プレイヤー・ガイルが死亡しました》
一人。
また一人。
仲間の名前が消えていく。
「やめて……」
「お願いだから……」
震える声は誰にも届かない。
最後に残ったのは――
《プレイヤー・アルドが死亡しました》
その文字を見た瞬間。
私はその場へ膝をついた。
「みんな……」
握っていた剣が床へ落ちる。
乾いた音だけが響いた。
涙が止まらなかった。
もっと私が強ければ。
もっと早く合流できていれば。
守れたかもしれない。
でも。
もう誰もいない。
◇
それから、四日後。
食料は底をつき。
回復薬も使い切った。
それでも私は盾を手放さなかった。
この盾だけは。
仲間との思い出だけは。
絶対に失いたくなかったから。
目の前の魔物は私一人でも戦えない相手ではない。
でも。
私とは相性が悪すぎた。
私の片手剣には毒が塗られている。
普段ならほんの少しでも傷を付ければいい。
そこから毒を流し込み。
時間を掛けて相手を弱らせる。
それが私の戦い方だった。
でも。
この魔物は毒が効かなかった。
しかも岩のように分厚い外殻が刃を弾く。
盾で防ぎ。
隙を見て剣を振るう。
だが。
ギィィィン!!
何度斬り付けても。
刃は外殻に弾かれるだけだった。
終わりの見えない戦い。
腕は重い。
足も震える。
それでも私は立ち続ける。
「まだ……」
「まだ倒れられない」
その瞬間だった。
魔物が大きく腕を振り上げた。
衝撃に耐えきれず転がってしまった。
避けられない。
次がくる。
盾を構える。
そう思った時――
「ガウ!」
誰かの声が響いた。
次の瞬間、黒い影が目の前を駆け抜ける。
ギィィィィン!!
激しい金属音。
振り下ろされた魔物の腕が逸らされる。
私の前には一人の狼獣人の少女が立っていた。
黒い刀を静かに構えたその背中はどこか頼もしかった。
少女は振り返り、小さく微笑む。
「大丈夫?」
たった一言。
その一言だけで。
張り詰めていた心がほどけていくのを感じた。
私はずっと守る側だった。
誰かを守ることが私の役目だった。
だから。
誰かが私の前に立って守ってくれたのは――初めてだった。
気付けば涙が頬を伝っていた。
「……ありがとうございます」
ここまで読んでいただきありがとうございました!
今回はノエル視点のお話でした。
「攻撃する力はなくても誰かを守る力なら誰にも負けない。」
そんな想いを胸に戦い続けてきた少女です。
それでは、第25話もよろしくお願いします!




