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第22話 迷宮の罠

未知のダンジョン攻略開始!

沼地の最奥。


黒い霧の向こうに口を開ける巨大な洞窟。


そこが、白銀戦線によって発見された新たなダンジョンだった。


王虎の牙。


白銀戦線。


二つのギルドによる初めての共同攻略が始まる。


アイスを先頭に一行はゆっくりと洞窟の中へ足を踏み入れた。


ひやり、と冷たい風が頬を撫でる。


外とはまるで別世界だった。


湿った空気。


岩肌を伝って滴り落ちる水滴。


ぽたっ。


ぽたっ。


静かな音だけが洞窟内へ響いている。


壁は古びた石造り。


長い年月を経ているのかところどころ苔が生え、亀裂も走っていた。


淡く光る鉱石が壁に埋め込まれており、その青白い光だけが薄暗い通路を照らしている。


「いかにもダンジョンって感じだな」


ハヤテが辺りを見回しながら呟く。


その表情は楽しそうだ。


未知の場所へ挑むことに胸が躍っているのだろう。


だが、ゴウマは険しい表情を崩さない。


「油断するな」


短く言う。


「未知の場所だ」


「罠」


「魔物」


「何が待っているか分からない」


その言葉に全員が小さく頷く。


アイスも静かに口を開いた。


「慎重に進もう」


全員が武器へ手を掛ける。


俺も《朧》の柄へそっと手を添えた。


隊列は事前に決めた通り。


白銀戦線が先頭を進む。


その後ろを俺とハヤテが続く。


少し間を空けてゴウマ。


最後尾はバレット、たると、シズクが固める。


互いの姿が見える距離を保ちながら、一歩ずつ慎重に進んでいく。


「たるとさん」


シズクが静かにたるとへ視線を向ける。


「私から離れないでください」


「お足元にもお気を付けくださいね」


「はい!」


たるとは元気よく返事をした。


「シズクも気を付けてくださいね!」


「ありがとうございます」


シズクは柔らかく微笑んだ。


そのやり取りに俺も少しだけ頬が緩む。


「みんなも無茶しないでくださいね!」


たるとが仲間たちへ声を掛ける。


「もちろん」


俺は軽く手を振った。


「危なくなったらすぐ逃げる」


「逃げる時は一緒だ」


ゴウマも短く言う。


その言葉にたるとは安心したように頷いた。


しばらく歩き続ける。


曲がり角を一つ。


さらにもう一つ。


だが――。


「……」


俺は足を止めた。


「どうした?」


ハヤテが小声で尋ねる。


俺はゆっくりと周囲を見回した。


「静かすぎる」


その一言でその場の空気が変わる。


「魔物の気配がない」


「一匹もだ」


ハヤテも眉をひそめる。


「確かに変だ」


「普通なら入口付近に弱い魔物くらいいてもおかしくないよな?」


後方からサイオンも首を傾げる。


「おいらたちが入口を見つけた時は確かに魔物の反応があったッス」


「でも今は何にも感じないッス」


アイスはゆっくりと壁へ視線を向ける。


「誰かが魔物を倒したのか……」


「いや、それともダンジョンそのものが侵入者を誘い込んでいる可能性もある」


湿った空気が肌へまとわりつく。


洞窟の奥から吹いてくる冷たい風だけが静かに頬を撫でていった。


まるで迷宮そのものが侵入者を静かに待ち構えているかのようだった。


さらに奥へ進む。


通路は少しずつ広くなり天井も高くなっていく。


湿った空気は変わらない。


それでもどこか違う。


「広くなってきたな」


ハヤテが小さく呟く。


「うん」


俺も短く返事をする。


やがて通路の先に淡い光が見えた。


「開けた場所があります」


白銀戦線の槍使いが静かに報告する。


アイスは小さく頷いた。


「全員、警戒を維持」


慎重に歩を進める。


そして――。


目の前の景色が一気に開けた。


「……広い」


たるとが思わず息を呑む。


そこは巨大な空間だった。


天井は見えないほど高い。


壁を埋め尽くすように古い文字が刻まれている。


長い年月を経ても消えることなく残り続けた文字は淡い光を帯び、不気味な存在感を放っていた。


床の中央には巨大な魔法陣。


幾重にも重なった円と紋様。


見たこともない複雑な術式が床一面へ描かれている。


「これは……」


アイスがゆっくりと歩み寄る。


「古代魔法か」


「いや、それ以上に古い術式かもしれない」


ゴウマも眉をひそめる。


「不用意に近付くな」


「まず周囲を確認するぞ」


全員が散開し、慎重に周囲を調べ始めた。


俺も壁へ刻まれた文字を見上げる。


まるで何かを伝えようとしているようだった。


だが読めない。


「読める人はいないか?」


ゴウマが尋ねる。


全員が首を横に振った。


その時だった。


「リーダー」


白銀戦線の魔法職の女性が壁際で声を上げる。


「この文字ですが……」


「もしかするとダンジョンの構造を示しているのかもしれません」


アイスは視線だけを向ける。


「慎重に調べろ」


「決して床の中央へ近付くな」


「はい」


女性はゆっくりと頷いた。


一歩。


また一歩。


壁際を確認しながら歩く。


慎重だった。


決して油断していたわけではない。


その時。


――カチッ。


小さな音。


本当に小さな音だった。


その音をその場にいた全員が聞き逃さなかった。


「……!」


女性の足元が淡く光り始める。


「下がれ!」


アイスが叫ぶ。


ゴウマも同時に怒鳴った。


「罠だ!」


だが。


一瞬、遅かった。


女性の足元から魔法陣が一気に広がる。


床に刻まれていた巨大な術式が眩い光を放ち始めた。


「転移罠です!」


シズクが声を上げる。


「全員、離れてください!」


青白い光が部屋全体を包み込み始める。


空気が震える。


床が唸る。


魔力の奔流が部屋中を駆け巡った。


「近くの仲間を掴め!」


アイスの叫びが響く。


その瞬間、全員が反射的に動いた。


シズクは迷うことなくたるとの腕を掴んだ。


「たるとさん!」


「絶対に離しません!」


「シズク!」


たるとも強くその手を握り返す。


俺も反射的に二人へ向かって駆け出した。


「たると!」


手を伸ばす。


あと少し。


伸ばした指先がたるとの手に触れる。


その瞬間。


ゴォォォォッ!!


魔法陣の光が一気に膨れ上がる。


猛烈な魔力の渦が俺たちを飲み込んだ。


「くっ……!」


身体が宙へ浮く。


立っていられない。


視界が激しく揺れる。


「ガウ!」


シズクの声が聞こえる。


「離れちゃダメ!」


たるとの必死な声も響く。


「大丈夫!」


「今行く!」


俺は必死に腕を伸ばした。


だが、その距離は少しずつ離れていく。


まるで見えない力に引き裂かれるようだった。


「ガウ!」


ハヤテが叫び、俺をたるとの方に押した。


「踏ん張れ!」


ゴウマの怒号。


「全員、防御しろ!」


アイスの指示が飛ぶ。


だが、その声さえも次第に遠ざかっていく。


光はさらに強くなる。


何も見えない。


何も聞こえない。


ただ眩い白だけが世界を埋め尽くしていた。


そして――。


世界が反転した。



冷たい感触が背中を打つ。


「っ……」


ゆっくりと目を開ける。


見知らぬ石造りの部屋。


さっきまでいた大広間ではない。


「ここは……」


身体を起こし、周囲を見回す。


「ガウ……」


聞き慣れた声がした。


振り向くと、そこにはたるとが座り込んでいた。


「たると!」


その隣ではシズクもすぐに立ち上がる。


「たるとさん、怪我はありませんか?」


「はい!」


「私は大丈夫です!」


シズクは安心したように胸を撫で下ろした。


俺も二人の無事を確認し、小さく息を吐く。


「よかった……」


だが。


周囲を見回してもハヤテもゴウマもいない。


アイスたちの姿も見当たらなかった。


静寂だけが部屋を包んでいる。


「……分断されたみたいだね」


俺は静かに呟いた。



その頃――。


別の場所。


「……ここは」


アイスは静かに目を開けた。


石造りの通路。


薄暗い空間。


先ほどまでいた大広間とは明らかに違う場所だった。


「みんな、無事か!」


アイスが声を掛ける。


「大丈夫です!」


白銀戦線の槍使いが返事をする。


「俺も問題ない」


ハヤテもゆっくりと立ち上がった。


周囲を見回す。


だが、ガウたちの姿はどこにもない。


アイスは静かに状況を整理する。


「転移罠によってそれぞれが別の場所へ飛ばされたようだ」


「……厄介だな」


ハヤテが苦笑する。


「まずは合流だな」


「ああ」


アイスは短く頷いた。


「焦る必要はない」


「まずは生存を優先しよう」



さらに別の場所。


「いてて……」


ゴウマが頭を押さえながら起き上がる。


近くには白銀戦線のメンバーが二人倒れていた。


大剣使い。


そして、先ほど罠を踏んだ魔法職の女性だった。


「ゴウマさん……」


魔法職の女性がゆっくりと身体を起こす。


「無事ですか?」


「ああ」


ゴウマは二人の様子を確認しながら答える。


「二人とも怪我はないな?」


大剣使いも立ち上がり、大きく頷く。


「問題ありません」


ゴウマは周囲を見回した。


細い通路が奥へ続いているだけだった。


「ここで立ち止まっても仕方ない」


「まずは出口か、仲間を探そう」


「了解!」


二人も力強く頷いた。



さらに別の場所。


「うぅ……」


サイオンがゆっくりと目を開ける。


「最悪ッス……」


頭を掻きながら立ち上がると、すぐ近くでバレットが弓を拾い上げていた。


「起きたか」


「バレット!」


サイオンはほっとしたように笑う。


「私もいます」


その声に振り向く。


少し離れた場所では、《白銀戦線》の弓使いの女性も身体を起こしていた。


「三人だけッスか」


「みたいだな」


バレットは静かに周囲を見回す。


「他のみんなはいない」


「また合流しないと駄目ッスね」


「その前に」


バレットは弓へ矢を番えた。


「何か来る」


その一言と同時だった。


カサッ――。


通路の奥から小さな物音が響く。


サイオンがすぐに戦闘態勢へ入り、弓使いの女性も矢を番えた。


「いきなり歓迎してくれるみたいッスね」


銀色の液体金属が宙へ浮かび上がる。


静まり返った迷宮の中でそれぞれのグループが動き始める。


王虎の牙と白銀戦線。


二つのギルドは未知のダンジョンによって四つのグループへ分断されてしまった。


迷宮はまだその本当の姿を誰にも見せてはいなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございました!


今回はダンジョン探索が始まった……と思ったら、まさかの転移罠でした。


王虎の牙と《白銀戦線》は四つのグループに分断され、それぞれが未知の迷宮を探索することになります。


果たしてガウたちは無事に合流できるのか。


そして、この迷宮の最奥には何が待ち受けているのか。

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