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第21話 未知のダンジョン

《白銀戦線》と《鉄球戦団》が集落を後にした頃には、すっかり日も落ちていた。


《王虎の牙》の集落には静かな夜が訪れている。


家々の窓からは暖かな灯りが漏れ。


夕食を終えた住民たちが、それぞれの家へと戻っていく。


子どもたちの笑い声も少しずつ聞こえなくなり。


辺りには虫の鳴き声だけが静かに響いていた。


そんな穏やかな夜。


ボンッ!


集落から少し離れた場所で。


何かが爆ぜるような音が響いた。


続いて。


ガチャガチャガチャ……。


カンッ!


「……」


俺はゆっくりと研究所の方を見る。


「……大丈夫なの、あれ」


研究所の煙突からは白い煙が細く立ち上っていた。


その隣で、たるとも苦笑する。


「棚の調整をするって言ってましたので大丈夫だと思います」


少し間を置く。


「……多分」


「多分なんだ」


思わずツッコんだ。


その時。


バチッ!


「うわぁぁぁっ!」


何かが弾ける音と慌てたモルフォの声。


「……」


「……」


俺とたるとは顔を見合わせた。


「本当に大丈夫かな」


「だ、大丈夫ですよ!」


「たぶん調整に夢中になってるだけです!」


「さっきも同じこと言ってたよね?」


「……はい」


そのやり取りを聞いていたセリアが小さく笑う。


「大丈夫だよ~」


「今日は実験じゃなくて、道具の調整だけって約束してるから~」


「ならいいけど……」


もう一度。


研究所を見る。


今度は何も聞こえない。


「……逆に静かになると怖いんだけど」


「考えすぎだよ~」


セリアがのんびり笑った。


その時。


集会所の扉が開く。


「みんな、集まってくれ」


ゴウマが静かに声を掛けた。


「そろそろ作戦会議を始める」



集会所。


俺たちは長机を囲んでいた。


中央には一枚の地図が広げられている。


ゴウマが地図の一点を指差した。


「今回の目的地は、《白銀戦線》が発見した新しいダンジョンだ」


「場所は草原を越えた先」


「沼地エリアの最奥にある」


全員の表情が自然と引き締まる。


「まだ内部の情報はほとんどない」


「どんな魔物がいるのか」


「どんな構造なのか」


「何が待っているのか」


「何一つ分かっていない」


「つまり」


ハヤテが腕を組む。


「完全に未知ってことか」


「ああ」


ゴウマは頷いた。


「だからこそ慎重に動く」


「まずは明日のメンバーを決めよう」


全員がゴウマを見る。


「前衛はガウとハヤテ」


「俺が中衛で全体を見る」


「後衛はバレット」


「遠距離から援護を頼む」


「シズクは――」


「私は集落へ残ります」


シズクが静かに答えた。


「たるとさんの護衛が必要ですので」


「ああ」


ゴウマも頷く。


「その予定だ」


その時だった。


「私も行きます!」


元気な声が響いた。


全員の視線が一斉に集まる。


たると。


本人は、なぜみんなが驚いているのか分からないとでも言いたげに首を傾げていた。


「……え?」


そして。


もう一度、はっきりと言う。


「私もダンジョンへ行きます!」


「たると」


ゴウマが眉をひそめる。


「今回は留守番を頼むつもりだった」


「えぇっ!?」


たるとが思わず立ち上がる。


「なんでですか!?」


「今回は《白銀戦線》との共同調査だ」


ゴウマは落ち着いた声で答える。


「何があるか分からない場所に全員で出る必要はない」


「それに」


地図から視線を上げる。


「俺たちが外へ出るなら集落を守る人間も必要だ」


「ギルドマスターのお前にはこっちを任せるつもりだった」


「でも……!」


たるとが拳を握り締める。


「私だって《王虎の牙》の一員です!」


「危険な場所だからこそ、みんなと一緒に行きたいです!」


「それに私ならみんなを回復できます!」


真っ直ぐな目。


迷いはなかった。


「最近は留守番ばっかりでしたし……」


少しだけ照れくさそうに笑う。


「久しぶりにみんなと一緒に冒険したいなって」


一瞬。


部屋が静まり返った。


「ダメ」


俺が最初に口を開いた。


「却下だ」


ゴウマも即答する。


「私も反対です」


シズクが静かに首を横へ振る。


「俺もだな」


ハヤテも腕を組む。


「悪いが、俺も反対だ」


バレットまで頷いた。


綺麗なくらい全員一致。


「えぇぇっ!?」


たるとの声が集会所に響いた。


「どうしてですか!?」


「だから言っただろ」


ゴウマがため息を吐く。


「集落を空にするわけにはいかない」


「それに今回は何が起きるか分からない場所だ」


「お前まで出るならこっちの守りを一から考え直す必要がある」


「でも!」


たるとは引かない。


「私が弱いからですか?」


「違うよ」


俺はすぐに答えた。


「たるとの回復魔法は心強いよ」


「じゃあ――」


「でも」


言葉を重ねる。


「集落に残る人がいなくなるなら話は別」


「私たちが安心して外へ出られるのは、ここを守ってくれる人がいるからだから」


たるとは口を閉じた。


バレットも頷く。


「回復役がいるのは助かる」


「だが、集落の守りを薄くしてまで連れていく理由はない」


「……」


たるとは俯いた。


「それでも」


「私はみんなと行きたいです」


「危険な場所だからこそ」


顔を上げる。


「私もみんなを支えたいです」


その声は小さかった。


けれど。


そこに迷いはなかった。


しばらく誰も何も言わない。


その時。


「それなら」


リンファが穏やかに微笑んだ。


「私とセリアが集落へ残るわ」


「え?」


たるとが顔を上げる。


リンファは優しく頷く。


「住民のみんなを守る人が必要なんでしょう?」


ゴウマを見る。


「私とセリアが残れば最低限の守りはできるわ」


「それに」


少し笑う。


「モルフォさんの研究所もあるしね」


「誰かが近くにいた方が安心でしょう?」


「私はいいよ~」


セリアものんびりと手を挙げる。


「研究所も気になるし~」


「モルフォが変なこと始めないか見ておくね~」


「それは助かる」


ゴウマが苦笑した。


それから。


少しだけ考える。


「リンファ」


「なに?」


「集落の守りをよろしく頼む」


「ええ」


ゴウマが小さく息を吐いた。


たるとの顔がぱっと明るくなる。


「じゃあ!」


「まだだ」


「えっ」


ゴウマがたるとを見る。


「行くなら条件がある」


「はい!」


「絶対に無茶はしない」


「勝手に前へ出ない」


「危険だと思ったら、すぐ仲間を頼る」


「全部守れるか?」


たるとは力強く頷いた。


「守ります!」


「約束します!」


リンファも微笑みながらたるとの前へ歩く。


「たると」


「あなたが仲間と一緒に前へ進みたい気持ちは分かるわ」


「でも、本当に無茶だけは駄目よ」


「はい!」


「ちゃんとみんなを頼ります!」


「それならいいわ」


リンファは満足そうに微笑む。


そして。


シズクへ視線を向けた。


「シズク」


「たるとのこと、お願いね」


シズクは静かに胸へ手を当てる。


「お任せください」


「たるとさんの護衛はもちろん」


「私の結界で、皆さんの防御と退路の確保も行います」


真剣な目で全員を見る。


「できる限り、皆さんをお守りします」


「ありがとう、シズク」


たるとが嬉しそうに笑った。


俺も小さく息を吐く。


「……分かった」


「行くなら、絶対に一人で動かないでね」


「はい!」


「ちゃんとみんなの後ろにいます!」


思わず苦笑する。


その言葉に部屋の空気も少しだけ和らいだ。


こうして。


《王虎の牙》の共同調査メンバーが決まった。



翌朝。


澄み切った青空が広がっていた。


朝日に照らされた集落にはいつも通りの穏やかな時間が流れている。


「それでは、行ってきます!」


たるとが元気よく手を振った。


「行ってらっしゃい」


「お気を付けて!」


見送りに来た住民たちも笑顔で手を振り返す。


子どもたちが俺たちの周りへ集まってきた。


「ガウお姉ちゃん!」


「お土産よろしくー!」


「過度な期待はしないで待ってて」


俺は苦笑しながら。


近くにいた子どもの頭を軽く撫でる。


「みんなも留守番、よろしくね」


「はーい!」


元気な返事。


少しだけ集落を振り返る。


畑。


家々。


笑顔で見送ってくれるみんな。


「行こう」


ゴウマの声。


俺は前を向いた。


そして。


みんなと一緒に歩き出した。



しばらく進む。


見慣れた草原。


待ち合わせ場所にはすでに《白銀戦線》のメンバーが集まっていた。


「来たッス!」


サイオンが大きく手を振る。


「おはようッス!」


「おはよう」


俺も手を振り返した。


サイオンがこちらのメンバーを見回す。


そして。


たるとを見つけた瞬間。


目を丸くした。


「おぉ!」


「ギルドマスターも来るッスか!」


「てっきり集落に残ると思ってたッス!」


「はい!」


たるとは丁寧に頭を下げる。


「今日はよろしくお願いします!」


「私も全力で頑張ります!」


「無理は禁物ですよ」


すぐ隣からシズクが釘を刺す。


「私はずっとお側にいますから」


「何かあればすぐ仰ってください」


「はい……」


たるとは少しだけ照れくさそうに笑った。


その様子を見てアイスが小さく口元を緩める。


「君たちらしいな」


「何が?」


「いや」


アイスは静かに首を横へ振った。


「賑やかで何よりだ」


ゴウマが笑う。


「これがうちの通常運転だからな」


「悪くない」


アイスも小さく頷いた。


そして。


全員を見回す。


「では、出発しよう」



草原を進む。


風が草を大きく揺らし。


小鳥たちが青空を舞っている。


だが。


さらに先へ進むにつれて。


景色は少しずつ変わっていった。


草木が減る。


地面が柔らかく湿り始める。


踏み込むたび。


ぐちゅ。


ぐちゅ。


足元から嫌な音が響いた。


空気もどこか重い。


「この辺りから足元には注意してくれ」


アイスが前方を見据えたまま言う。


やがて。


視界いっぱいに黒い水面が広がった。


「……沼地か」


バレットが静かに呟く。


濃い霧がゆっくりと漂っている。


ぬかるんだ地面。


立ち枯れた木々。


風は吹いているはずなのに不思議なほど静かだった。


鳥の鳴き声すら聞こえない。


「不気味な場所だな」


ハヤテが周囲を見回す。


サイオンが前方を指差した。


「あそこッス」


霧の向こう。


巨大な岩壁が姿を現す。


その中央にぽっかりと大きな洞窟が口を開けていた。


まるで。


獲物を待ち構える巨大な魔物の顎。


「ここが……」


たるとが息を呑む。


「新しいダンジョンだ」


アイスが静かに頷いた。


「正式名称はまだない」


「発見されたばかりだ」


その言葉に全員の表情が引き締まった。


それぞれが武器へ手を掛ける。


ゴウマが全員を見回す。


「最後に確認する」


「前衛はガウとハヤテ」


「中衛は俺」


「後衛はバレット、たると、シズク」


「勝手に隊列を崩すな」


全員が頷く。


アイスも《白銀戦線》の仲間たちへ視線を向けた。


「いつも通りの配置でいくぞ」


「了解!」


「了解ッス!」


アイスは小さな杖を握る。


そして。


全員へ告げた。


「油断はするな」


「未知のダンジョンほど何が起きるか分からない」


「単独行動は避ける」


「何か見つけても勝手に触れない」


「必ず連携を取って進もう」


俺は《朧》へ手を添える。


ゆっくりと息を吸う。


目の前には誰も知らないダンジョン。


その奥に何が待っているのか。


まだ誰も知らない。


「準備はいいか?」


アイスが尋ねる。


「ああ」


「いつでも」


「問題ない」


次々と声が返る。


アイスが一歩前へ出た。


「行こう」


その一言を合図に《王虎の牙》と《白銀戦線》。


二つのギルドは誰も知らないダンジョンへ足を踏み入れた。

ここまで読んでいただきありがとうございました!


今回はいよいよ新たなダンジョン攻略へ向けて動き出しました!


次回からはいよいよダンジョン探索が本格的にスタートします!


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