第51話 あと一週間
三日後。
土曜日。
《ファンタズマ・ゲイト》。
第三回大型アップデートが実施された。
第三階層から第十階層。
新しいクエスト。
新しいギルド機能。
新しい生活。
生産。
建築。
フィールド。
色々なものが一気に追加された。
そして。
第三階層が解放された。
第二階層の階層守護者を倒したプレイヤーたちはすぐに第三階層へ向かったらしい。
海外でも《ファンタズマ・ゲイト》が発売された。
プレイヤーはさらに増えた。
ギルドランキングも始まった。
《ファンタズマ・ゲイト》の世界は。
どんどん広がっていった。
そして。
時間は過ぎていった。
◇
数週間後。
土曜日。
午前十一時過ぎ。
第一階層。
北側の村。
集会場。
「出来たわよ」
リンファが言った。
「何が?」
「これ」
ドサッ。
テーブルの上に置かれる。
布。
いや。
服?
一着じゃない。
いっぱいある。
「服?」
「そう」
リンファが笑う。
「みんなの分」
「みんな?」
「全員分よ」
「…………」
見る。
一。
二。
三。
四。
五。
六。
七。
八。
本当に八人分。
「ええっ!?」
たるとが立ち上がった。
「これ全部リンファが作ったんですか!?」
「そうよ」
「すごいです!」
「いつ作ったの~?」
セリアが服を覗き込む。
「少しずつよ」
「少しずつって……」
シズクも驚いている。
「八人分ですよね?」
「そうね」
「大変だったんじゃないですか?」
「楽しかったからいいのよ」
リンファ嬉しそう。
そういえば。
この前何作ってるのか聞いた時に秘密って言ってた。
「これだったんだ」
「そういうこと」
「全然教えてくれなかった」
「完成してからのお楽しみって言ったでしょう?」
言ってた。
「おお!」
ハヤテが服を持ち上げる。
「なんかカッコいいぞ!」
「雑に持たないで」
「はい」
怒られた。
「全員、少しずつ違うんですね」
たるとが服を見比べる。
「同じにしてもつまらないでしょう?」
リンファが一着ずつ広げていく。
全部。
和風。
でも同じじゃない。
「これはたるとね」
「私ですか!」
たるとの服。
柔らかそうな生地。
袖は少し広め。
動きやすそうだけど。
どこか巫女みたい。
虎耳と尻尾が邪魔にならないようにもなっている。
「可愛いです!」
「気に入った?」
「はい!」
尻尾が動いてる。
分かりやすい。
「これはセリア」
「わたし~?」
セリアの服。
長めの袖。
少し華やかで魔法使いっぽい。
「かわいい~!」
「袖は邪魔にならないようにしてあるから」
「魔法使う時も大丈夫~?」
「多分ね」
「多分なんですか?」
シズク。
「実際に使ってみないと分からないでしょう?」
「それはそうですが」
「じゃあファイアを~」
「集会場ではやめてください」
早い。
「シズクはこれ」
シズクの服。
落ち着いた形。
装飾も少ない。
でも。
《白晶》と合いそう。
「動きやすそうですね」
「シズクはそういう方が好きかなと思って」
「ありがとうございます」
「次」
リンファが大きめの服を持ち上げる。
「マルコ」
「俺か」
「体格が大きいから大変だったわ」
「悪かったな」
「褒めてないわよ」
「知ってる」
マルコの服は袖が邪魔にならない。
かなり実用的。
武人。
そんな感じ。
「いいじゃねえか」
「でしょう?」
「ありがとな」
「どういたしまして」
次。
もっと大きい。
「ゴウマ」
「俺もあるのか」
「だから全員分よ」
「そうか」
ゴウマの服。
マルコよりさらに動きやすさを重視している。
腕。
脚。
どちらも動かしやすそう。
「拳も蹴りも使うでしょう?」
「ああ」
「邪魔にならないようにしてあるわ」
ゴウマが服を見る。
少し触る。
「いいな」
「それだけ?」
「ありがとう」
「よろしい」
リンファ。
満足そう。
「俺のは!?」
ハヤテ。
「あるわよ」
「どれ!?」
「これ」
ハヤテの服。
羽織。
袴みたいな形。
腰には二本の刀を差せる。
《白夜》。
《黒曜》。
「おおおおお!!」
目が輝いた。
「侍じゃん!!」
「好きそうだと思って」
「好き!!」
即答。
「これで二刀流とか絶対カッコいいだろ!!」
「良かったわね」
「着替えてくる!!」
「まだ待ちなさい」
「なんで!?」
「全員分見せてから」
「早くしろ!!」
子供か。
「次」
リンファ。
自分の服。
「私」
「自分のも作ったんだ」
「もちろん」
リンファの服はみんなと同じ和風だけど少しだけ違う。
リンファが使う《華鋼》にも合っている。
袖も短め。
手甲を邪魔しない。
「似合いそうですね!」
たると。
「ありがとう」
そして。
残ったのは。
一着。
「…………」
リンファがこっちを見る。
笑う。
「最後」
「…………」
「ガウ」
やっぱり。
服を広げる。
黒を基調にした軽装。
袖も。
脚も。
動きやすそう。
腰回りには。
《朧》。
クナイ。
火薬玉。
色々なものを装備出来るようになっている。
狼耳。
尻尾。
そこもちゃんと邪魔にならない。
そして。
「…………」
「どう?」
「…………忍者じゃん」
「そうね」
「忍者じゃん」
「そうね」
二回言った。
「だってガウ、どんどん忍者みたいになってるじゃない」
「なってないよ」
「忍者刀」
「…………」
《朧》。
「クナイ」
「…………」
持ってる。
「まきびし」
「…………」
持ってる。
「火薬玉」
「…………」
持ってる。
「煙幕」
「…………」
使う。
「忍者ね」
「…………」
否定出来ない。
「似合うと思います!」
たると。
「絶対似合う~」
セリア。
「ガウは小柄なのでこういう軽装は合うと思います」
シズク。
「忍者!」
ハヤテ。
「うるさい」
「褒めてんだぞ!?」
「どこが?」
「全部!」
分からない。
「着てみましょう!」
たると。
「今?」
「今です!」
「全員で?」
「もちろんです!」
「俺もか?」
マルコ。
「全員です!」
「俺も?」
ゴウマ。
「全員です!」
◇
少しして。
「おお……!」
ハヤテが自分の姿を見る。
「カッコいい!!」
「良かったわね」
リンファ。
「《白夜》と《黒曜》にも合う!」
二本の刀。
確かに似合ってる。
「たるとも似合ってるね」
「本当ですか!?」
「うん」
「えへへ」
嬉しそう。
セリアも。
シズクも。
リンファも。
マルコも。
ゴウマも。
それぞれちゃんと似合ってる。
そして。
俺。
「…………」
自分を見る。
黒い軽装。
腰に《朧》。
クナイ。
火薬玉。
「忍者だな!」
ハヤテ。
「言わないで」
「忍者ね」
リンファ。
「作った本人が言わないで」
「忍者ですね」
シズク。
「シズクまで?」
「忍者~」
「セリアも?」
「忍者です!」
「たると?」
最後。
マルコ。
ゴウマ。
二人を見る。
「忍者だな」
マルコ。
「忍者だ」
ゴウマ。
「…………」
「似合ってるんだからいいじゃない」
リンファが笑う。
「まあ」
嫌じゃない。
動きやすいし。
《朧》も抜きやすい。
クナイも取りやすい。
火薬玉も。
「…………」
使いやすい。
「気に入った?」
「まあまあ」
「良かった」
リンファが笑う。
「せっかく同じギルドなんだし」
「少しくらい統一感があってもいいでしょう?」
同じギルド。
見る。
八人。
同じ和風。
でも全員違う。
たると。
ハヤテ。
リンファ。
セリア。
シズク。
マルコ。
ゴウマ。
俺。
《王虎の牙》。
「なんかギルドっぽいな!」
ハヤテが言う。
「今までは違ったの?」
「今までもギルドだ!」
「じゃあ何が違うの?」
「雰囲気だ!」
「分からない」
「分かれよ!」
「でも」
たるとが笑う。
「本当にお揃いみたいで嬉しいです!」
「お揃いではないけどね」
リンファ。
「でも同じ感じです!」
「まあ、それくらいがいいでしょう?」
「はい!」
たるとが自分の袖を見る。
尻尾が揺れてる。
気に入ったらしい。
「よし!」
ハヤテ。
「せっかくだし、この格好で狩り行こうぜ!」
「今から?」
「今から!」
「昼飯は?」
マルコ。
「帰ってから!」
「腹減った」
「ゴウマまで!?」
「昼だからな」
「まだ十一時過ぎだぞ!」
「もう昼前だ」
「狩り!」
「飯」
「狩り!」
「飯」
「…………」
「…………」
二人が見合う。
「先に食べませんか?」
たると。
「賛成」
俺。
「私も~」
「私もです」
「私もお腹空いたわ」
「おい!!」
七対一。
「なんでだよ!!」
「お腹空いたから」
「新しい服だぞ!?」
「服は逃げないよ」
「そういう問題じゃねえ!!」
「では、午後一時に村に集合しましょう!」
昼食を食べに次々とログアウトしていく。
一人を除いて。
「みんな落ちるの早いだろ!!」
◇
その日の夜。
午後十一時過ぎ。
「そろそろ落ちるか」
マルコ。
「俺もだ」
ゴウマ。
「明日は何します?」
たると。
「狩り!!」
ハヤテ。
「まだ言ってる」
「今日行けなかっただろ!」
結局。
あの後は狩りに行かなかった。
「ご飯食べて、その後別のこと始めたからね」
「誰だよ建築始めたの!」
「私です!」
たるとが手を上げる。
「知ってる!!」
リンファが笑う。
セリアも笑う。
シズクも。
マルコも。
ゴウマも。
俺も。
今日もいつも通り。
ログインして。
ここに来て。
みんなと遊んで。
くだらないことをして。
気付けば。
夜。
「じゃあ、また明日です!」
「おう!」
「また明日ね」
「おやすみなさい」
「おやすみ~」
「またな」
「ああ」
「うん」
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押す。
視界が白くなる。
──────────
《ファンタズマ・ゲイト》から。
ログアウトが出来なくなるまで。
あと一週間。
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