第2話 凸凹コンビ
東の畑へ続く草原を俺は静かに歩いていた。
風に揺れる草の向こう。
数頭のウルフが畑を囲む柵の周囲をうろついている。
「五匹か」
畑へ近付かせるわけにはいかない。
俺は腰の忍者刀《朧》へ手を掛けた。
「悪いけど――」
一歩踏み込む。
地面を蹴る。
一瞬で距離を詰めた。
「はっ!」
銀色の刃が閃く。
先頭のウルフが悲鳴を上げる間もなく倒れた。
残る四匹が一斉に飛び掛かる。
だが遅い。
俺は身体をひねりながら二匹目を斬り払う。
その勢いのまま三匹目へ。
《朧》が風を裂く。
「ガァッ!」
背後から飛び掛かってきた一匹。
俺は振り向きもせず逆手に持ち替えた刃で受け流した。
勢いを失ったウルフは地面を転がる。
最後の一匹が逃げ出そうとした。
「逃がさない」
地面を蹴る。
一瞬で追いつき横薙ぎに一閃。
五匹のウルフをすべて討伐した。
静けさが戻る。
「ふぅ……」
刀を軽く振って納刀する。
畑を見る。
柵は少し傷付いていたが大きな被害はない。
「これなら大丈夫かな」
俺は小さく頷き集落への道を歩き出した。
◇
東の畑の見回りを終え、俺は集落へ戻ってきた。
「ただいま」
畑を荒らしていたウルフの群れは無事に討伐した。
被害もほとんどなく、これなら農作業にも支障は出ないだろう。
「セリアさん!」
集落の入り口へ近づいたところで、大きな声が聞こえてきた。
「聞いてるんですか!?」
「聞いてるよ~」
「絶対聞いてませんよね!?」
どうやら今日も平和らしい。
苦笑しながら、俺は声のする方へ向かう。
そこにいたのは、予想どおりの二人だった。
木箱に腰掛けてぼんやりと空を見上げるセリア。
その隣で頭を抱えるシズク。
「あ、ガウ」
セリアがひらひらと手を振る。
一方のシズクは、助けを求めるような視線を向けてきた。
「聞いてください、ガウ」
「どうした?」
「セリアが見張り中なのに、ずっと空ばかり見てるんです!」
「だって今日は雲の形が面白いんだもん」
「それは見張りとは言いません!」
「ちゃんと見てるよ?」
「どこをですか!」
「空」
「空じゃなくて周囲を見てください!」
セリアは不思議そうに首を傾げた。
「でも、空も周囲の一部じゃない?」
「違います!」
即答だった。
「ガウはどう思いますか?」
急に話を振られる。
「私に聞く?」
「うん」
「まあ……見張りではないかな」
「ほら!」
シズクが勝ち誇ったような表情を浮かべる。
セリアは分かりやすく肩を落とした。
「味方がいなくなった……」
絶対に演技だ。
「そもそもですね」
シズクは真面目な表情で続ける。
「見張りは集落の安全を守る大切な仕事なんです」
「分かってるよ~」
「本当に分かってますか?」
「分かってるってば~~」
「なら、どうしてさっき『あの雲、お肉に見える』なんて言ってたんですか!」
「お腹空いてたからかな~」
「理由になってません!」
思わず吹き出しそうになる。
「ちなみにシズクは何に見えたの?」
「え?」
「雲」
「私は別に見てません」
「『あっちは盾みたいですね』って言ってたのに~?」
「言ってません!」
「『こっちは剣ですね』って~」
「言ってませんってば!」
耳まで真っ赤になるシズク。
どうやら図星らしい。
「……二人とも仲良いね」
「良くありません!」
「仲良しだよ~」
「違います!」
見事なくらい息が合っていた。
「ガウもそう思う~?」
「まあ、傍から見ればそう見えるかな」
「ほら~」
「ほら~、じゃありません!」
シズクがじたばたと抗議する。
セリアはそんな様子を見て、楽しそうに笑っていた。
正反対の二人。
だからこそ、不思議と息が合うのかもしれない。
「そういえば、ガウ」
「ん?」
「ウルフはどうだった~?」
「もう大丈夫。しばらくは近づいてこないと思う」
「怪我は~?」
「ないよ」
「ならよかった~」
セリアが安心したように頷く。
隣のシズクも、ほっと胸をなで下ろした。
「無茶はしないでくださいね」
「分かってる」
「ガウ、たまに無茶しますから」
「否定できないかも」
「ですよね」
シズクが小さくため息をつく。
「ガウは昔からそういうところあるよね~」
「昔って、そんな長い付き合いじゃないでしょ」
「もう二年だよ~?」
そう言われて、俺は少しだけ空を見上げた。
「私は報告してくるよ」
「あ、じゃあ私も行く~」
セリアが立ち上がる。
「セリアは見張りです!」
「え~」
「え~、じゃありません!」
また始まった。
思わず笑みがこぼれる。
今日も《王虎の牙》は平和だった。
笑い声が絶えない、この小さな集落は。
少なくとも――
シズクの苦労がなくなる日は、まだまだ来そうになかった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
今回はセリアとシズクを中心に、王虎の牙の日常を描いてみました。
次回も引き続き日常回となりますが、少しずつ新しい仲間や出来事も増えていきます。
楽しみにしていただけると嬉しいです。
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それでは、また次回お会いしましょう!




