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第49話 海外展開

《ネクサス・クリエイト》。


本社。


会議室。


「それでは始めましょう」


長いテーブルに並ぶ社員たち。


壁には大きなモニター。


その中央。


《ファンタズマ・ゲイト》


そして。


一番奥。


社長。


神代彰人。


「まずは販売状況からお願いします」


「はい」


一人の社員が立ち上がる。


モニターが切り替わる。


グラフ。


数字。


発売からもうすぐ二ヶ月。


《ファンタズマ・ゲイト》。


その販売本数は今も伸び続けていた。


「国内販売ですが当初の予測を大幅に上回っています」


「具体的には?」


数字が表示される。


「発売前に想定していた二ヶ月時点での販売予測を既に大きく超えています」


「すごいな……」


別の社員が呟く。


「現在も新規プレイヤーは増加しています。 継続率についても非常に高い水準を維持しています」


「理由は?」


神代が聞く。


「複数あります」


資料が切り替わる。


「まず、フルダイブ型VRMMORPGとしての完成度」


「次にプレイヤーごとに異なる遊び方が可能な自由度」


「戦闘、攻略だけではありません」


生産。


料理。


裁縫。


鍛冶。


建築。


探索。


NPCとの交流。


ギルド活動。


様々な項目が表示される。


「攻略を主目的としないプレイヤーの割合も引き続き増加しています」


「前回の報告でもあったな」


「はい」


神代が画面を見る。


「遊び方をこちらで決める必要はない」


「はい」


「プレイヤーが好きなように遊べているならそれがいい」


社員が頷く。


「口コミによる新規購入も非常に多いです」


「なるほど」


順調。


その一言だった。


「そして」


社員が次の資料を表示する。


「この国内での販売状況を受けまして」


画面に大きく表示される。


《海外展開》


「海外版の販売が正式に決定しました」


会議室の何人かが頷く。


既に知っていた者も多いらしい。


「販売開始は?」


「来週を予定しています」


「予定通りか」


「はい」


来週。


《ファンタズマ・ゲイト》が日本国外でも販売される。


「海外からの問い合わせもかなり来ています」


「販売地域は?」


「まずは対応準備が完了した地域から開始します。その後、順次拡大予定です」


神代が頷く。


「サーバーは?」


「問題ありません」


「負荷予測についても、現在の想定人数であれば十分対応可能です」


「分かった」


「当初の予定通り、各国のサーバーは別に扱うようにしてくれ」


「分かりました」


神代が資料を閉じる。


「国内だけで終わらせるつもりは最初からない」


静かな声。


「いずれ、世界中の人間が同じ世界で遊べるようになる」


「それが出来るなら」


少し笑う。


「面白いだろう」


「はい」


次。


資料が切り替わる。


《SYSTEM REPORT》


その下。


一つの名前。


《ELPIS》


「続いて、《ELPIS》について報告します」


《ELPIS》。


《ファンタズマ・ゲイト》を支える自律型管理AI。


導入後少しずつその権限を拡大している。


「現在までの稼働状況ですが」


社員が画面を操作する。


いくつもの項目。


処理速度。


負荷。


学習状況。


NPC管理。


フィールド管理。


クエスト生成。


モンスター管理。


プレイヤー行動分析。


「全て正常です」


神代が画面を見る。


「異常は?」


「確認されていません」


「処理負荷は?」


「問題ありません」


「自律処理は?」


「正常に機能しています」


「プレイヤーへの影響は?」


「問題ありません」


次々に答えが返ってくる。


「むしろ」


社員が続ける。


「想定以上の成果が出ています」


画面が切り替わる。


《第三回大型アップデート》


第三階層。


第四階層。


第五階層。


第六階層。


第七階層。


第八階層。


第九階層。


第十階層。


「今回の第三回大型アップデート」


「第三階層から第十階層までの一括追加が可能になった最大の要因が《ELPIS》です」


「八階層同時か」


「はい」


「当初の開発計画では考えられない速度です」


別の社員が苦笑する。


「正直、人間だけでは無理ですね」


「だろうな」


神代も笑う。


「《ELPIS》はプレイヤーの行動データを分析し、必要と判断されたコンテンツの設計、調整を補助しています」


NPC。


クエスト。


フィールド。


モンスター。


生活系コンテンツ。


様々なデータが表示される。


「特にNPCの自律行動と状況に応じたクエスト生成については大幅な進歩が確認されています」


「生態系システムについても同様です」


「モンスターが周囲の環境や他の個体の行動に応じて自律的に行動を変化させます」


「すごいな」


一人の社員が呟く。


「ゲームの中で本当に世界が動き始めているみたいだ」


神代が画面を見る。


「それが《ELPIS》の役目だ」


プレイヤーが何をするのか。


何を楽しむのか。


何を求めるのか。


それを見て。


考えて。


ゲームをより楽しくする。


《ELPIS》。


希望。


その名前の通り。


プレイヤーのためにこの世界をより良いものにする。


「スキル関連は?」


神代が聞く。


「問題ありません」


画面が切り替わる。


《Rare Skill》


《Arc Skill》


《Extra Skill》


「Rare Skillの取得者は少しずつ増加しています」


「Arc Skillは?」


「こちらも既に複数名が取得しています」


「昇格条件に異常は?」


「ありません」


プレイヤーが何をしてきたか。


何を好み。


何を繰り返し。


何を目指しているのか。


ELPISがそれを分析する。


そして。


条件を満たした《Rare Skill》は。


そのプレイヤーに適した、さらに上位のスキルへと昇格する。


その結果。


生まれるそのプレイヤーだけのスキル。


《Arc Skill》。


「想定通りか」


「はい」


「面白い」


神代が小さく笑う。


「同じゲームを遊んでいても全員が同じ道を歩くわけじゃない」


「そうですね」


「だったら」


「手に入れる力も違っていい」


次。


「PLAYER POINTについては?」


「正常に計測されています」


画面に七つの項目。


《傲慢》


《強欲》


《嫉妬》


《憤怒》


《色欲》


《暴食》


《怠惰》


「現在、上限に達したプレイヤーはいません」


「《七つの大罪》の出現条件も成立していません」


「そうか」


PK。


嫌がらせ。


詐欺。


脅迫。


その他。


プレイヤーが他のプレイヤーに対して行う悪意ある行動。


それを《ELPIS》が判断する。


ただ。


単純な数字だけではない。


その行動がどういう状況でどういう理由で行われたのか。


前後の行動。


会話。


関係。


全てを分析する。


そして。


悪質だと判断された行動のみ。


PLAYER POINTへ反映される。


「PK件数は?」


「増加傾向ではありますが、現時点では想定範囲内です」


「分かった」


神代が頷く。


「引き続き観察を」


「はい」


報告は続く。


第三回大型アップデート。


海外展開。


サーバー。


セキュリティ。


プレイヤー数。


ゲーム内経済。


様々な確認。


そして。


しばらくして。


「以上です」


最後の資料。


神代が全員を見る。


「問題は?」


誰も答えない。


「《ELPIS》を含めて現時点ではありません」


「海外販売についても予定通り進められます」


「第三回大型アップデートも最終確認のみです」


「そうか」


神代が椅子にもたれる。


発売からもうすぐ二ヶ月。


想定以上の売上。


増え続けるプレイヤー。


海外展開。


第十階層まで広がる世界。


そして。


《ELPIS》。


全て順調だ。


「なら」


神代が言う。


「このまま進めよう」


「はい」


会議が終わる。


社員たちが席を立つ。


資料を片付ける。


話しながら。


会議室を出ていく。


神代も立ち上がる。


最後にモニターを見る。


《ELPIS SYSTEM》


《STATUS:NORMAL》


異常なし。


神代は少しだけ笑う。


「これからも頼むぞ」


モニターには。


《NORMAL》


その文字が表示されていた。

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