第43話 手合わせ
数日後。
今日は水曜日の午後9時。
ドンッ!
「…………」
村の広場。
俺は地面に座っていた。
目の前にはマルコ。
そして。
ゴウマ。
二人が向かい合っている。
「ふっ!」
マルコが踏み込む。
手に持った杖を振る。
ブンッ!
「…………」
ゴウマが身体を逸らす。
杖が目の前を通り過ぎる。
その瞬間。
ゴウマが踏み込んだ。
速い。
拳。
マルコの顔。
「おっと!」
マルコが杖を立てる。
ガンッ!
拳が杖に当たる。
そのまま。
ゴウマが腕を伸ばした。
マルコの腕を掴む。
「お?」
腰を落とす。
身体を入れる。
そして。
「ふっ!」
「おお!?」
マルコの身体が浮いた。
ドンッ!
地面に叩きつけられる。
「…………」
強いな。
「いってえ!」
マルコがすぐに起き上がる。
「お前!」
「なんだ」
「普通に投げるなよ!」
「手合わせだろ」
「そうだけどよ!」
ゴウマが構える。
マルコも杖を構え直した。
「もう一度だ」
「おう!」
…………。
楽しそうだな。
集会場が完成してから数日。
ゴウマはまた村へ遊びに来た。
そして。
何故かマルコと手合わせを始めた。
ちなみに今日ログインしているのは俺。
たると。
セリア。
マルコ。
それからゴウマ。
ハヤテは仕事。
リンファは用事。
シズクは課題があるらしい。
なので俺は二人の手合わせを見ている。
たるととセリアは。
コン。
コン。
コン。
少し離れた場所から音が聞こえる。
俺たちが使っている家を増設している。
集会場を作ってから。
たるとは建築にハマったらしい。
…………。
大丈夫かな。
「ガウ!」
「ん?」
マルコ。
「ちゃんと見てろ!」
「見てるよ」
「どっちが強いか判定してくれ!」
「嫌だよ」
なんで俺が。
「行くぞ」
ゴウマ。
「おう!」
マルコが地面を蹴る。
今度は速い。
杖。
右。
ゴウマが避ける。
左。
避ける。
もう一度。
「…………」
ゴウマが腕で受ける。
ガンッ!
ゴウマは止まらない。
一歩。
マルコの懐へ。
拳。
「っ!」
マルコが身体を捻る。
拳が脇を通る。
ゴウマ。
すぐに次。
左。
右。
速い。
大きな身体。
力任せに殴っているように見える。
でも違う。
距離。
足。
身体の動き。
拳を戻す速さ。
無駄が少ない。
「…………」
「お前」
マルコが杖で拳を受ける。
「格闘技やってんのか?」
「ああ」
「やっぱりか!」
杖を振る。
ゴウマが下がる。
「何やってた?」
「学生の頃にボクシングをしていた」
「ボクシング?」
「そうだ」
なるほど。
拳の使い方が上手いわけだ。
「でもよ!」
マルコが踏み込む。
「さっき投げただろ!」
「柔道も出来る」
「ボクシングじゃねえじゃん!」
「今は柔道も使う」
「今?」
ゴウマがマルコの杖を避ける。
「仕事でな」
「仕事?」
俺も少し気になった。
「何の仕事してんだ?」
マルコが聞く。
ゴウマは拳を構えたまま。
「警察官だ」
「…………」
「…………」
警察官。
「マジかよ」
「ああ」
…………。
なんとなく。
納得した。
「じゃあ投げたのも?」
「柔道だ」
「他にもなんか出来んのか?」
「逮捕術」
「…………」
マルコが杖を構える。
「お前、結構ガチじゃねえか」
「そうか?」
「そうだよ!」
ゴウマが首を傾げる。
自覚ないのか。
「面白え!」
マルコが笑う。
「なら!」
地面を蹴る。
「こっちも本気でいくぞ!」
「来い」
二人がぶつかる。
杖。
拳。
回避。
受ける。
踏み込む。
マルコは強い。
前にハヤテと手合わせをしていた時もそうだった。
ゲームの動きを理解している。
武器。
ステータス。
魔法。
使える物を全部使う。
対してゴウマ。
現実で身に付けた動きをそのまま使っている。
拳。
足。
重心。
距離。
相手の動き。
そこからゲームの身体能力を混ぜている。
「…………」
面白い。
俺は二人の動きをずっと目で追っていた。
マルコが杖を突く。
ゴウマが首を傾ける。
避けた。
直後。
ゴウマが杖を掴もうとする。
マルコが引く。
ゴウマが追う。
「ふっ!」
拳。
「甘い!」
マルコが杖で受け流す。
そして。
ゴウマの足元へ杖を振る。
「…………!」
ゴウマが跳ぶ。
そこへ。
マルコの杖。
「もらった!」
ガンッ!
ゴウマの身体に当たる。
「…………」
ゴウマが着地。
「今のは良かった」
「だろ?」
「もう一度やる」
「おう!」
まだやるのか。
「ガウ!」
「何?」
「見てたか!?」
「見てた」
「今の俺の勝ちだろ!」
「まだ終わってないよ」
「そうだな!」
その時。
「ガウー!」
「ん?」
声。
たると。
「ちょっと来てくださーい!」
「何?」
「助けてくださーい!」
…………。
嫌な予感。
俺は立ち上がった。
「ちょっと行ってくる」
「ああ」
「おう!」
二人はそのまま手合わせを続ける。
俺は家の方へ向かった。
◇
「…………」
家。
正確には。
元。
家。
「どうしてこうなったの?」
「…………」
たると。
「…………」
セリア。
二人とも黙った。
目の前。
壁の一部がない。
「増設してたんだよね?」
「はい!」
「なんで壁なくなってるの?」
「増設するから~」
セリアが笑う。
「壊した方が早いかな~って」
「…………」
「ちょっとだけだよ~?」
「壁一枚なくなってるけど」
「ちょっとだよ~?」
ちょっととは。
「ガウ!」
たるとが俺の腕を掴む。
「お願いします!」
「何を?」
「直してください!」
「なんで俺が?」
「ガウは建築上手なので!」
「…………」
集会場建築の時。
技量が高いせいか俺は意外と建築が上手かった。
嫌な予感はしていた。
「たると」
「はい!」
「自分たちで直して」
「…………」
「…………」
「お願いします!」
「嫌だよ」
「ガウ~」
セリア。
「お願い~」
「嫌」
「ガウならすぐ終わるよ~」
「自分でやって」
「…………」
「…………」
二人が俺を見る。
「…………」
やめろ。
「…………」
「…………」
「…………」
「分かったよ」
「やったー!」
「ありがとう~」
はぁ。
「それで」
壊れた壁を見る。
「なんで増設してるの?」
「狭くなってきたからです!」
たるとが答える。
「ギルドも出来ましたし!」
確かに。
今までは六人。
そこにマルコが加わった。
全員が同時に使うことは少ないけど少し狭い。
「それに!」
たるとが笑う。
「これから人が増えても大丈夫なように!」
「増えるの?」
「分かりません!」
「分からないのかよ」
「でも!」
たるとが両手を広げる。
「広い方が楽しいです!」
…………。
理由になってるのかな。
「ここにもう一部屋作って~」
セリアが指を差す。
「こっちにも~」
「増やしすぎじゃない?」
「大丈夫です!」
たると。
「何が?」
「ゲームですから!」
またそれか。
「じゃあ」
俺は壁を見る。
「とりあえずここから――」
「魔法使ったら早いよ~」
「駄目」
「まだ何も言ってないよ~」
「言わなくても分かる」
「少しくらいなら~」
「駄目」
「ちょっとだけ~」
「駄目」
「…………」
セリアが頬を膨らませる。
「シズクみたい~」
◇
それから。
家の増設。
コン。
コン。
コン。
「ガウ! こっちお願いします!」
「はいはい」
「ガウ~、これどこ~?」
「そこ」
「これ~?」
「それ」
「ガウ!」
「今度は何?」
「板が足りません!」
「倉庫にあるよ」
「取ってきます!」
忙しい。
…………。
手合わせ見てただけなのになんで建築してるんだろ。
少しして。
「おーい」
声。
振り返る。
マルコ。
その後ろにゴウマ。
「終わったの?」
「ああ」
マルコが肩を回す。
「疲れた」
「もう一度出来る」
ゴウマ。
「お前元気だな!?」
「まだ動ける」
「俺が疲れたんだよ!」
「そうか」
「そうかじゃねえ!」
結局。
どっちが勝ったんだろう。
「ゴウマさん!」
たるとが手を振る。
「お疲れ様です!」
「ああ」
ゴウマが増設中の家を見る。
「何をしている?」
「増設です!」
「家を大きくするのか?」
「はい!」
たるとが胸を張る。
「これから人が増えても大丈夫なように!」
「…………」
ゴウマが家を見る。
「そうか」
やっぱり反応薄いな。
「二人とも!」
たると。
「ちょうどいいところに!」
「ん?」
マルコ。
「手伝ってください!」
「…………」
「…………」
マルコとゴウマ。
顔を見合わせる。
「俺ら今まで手合わせしてたんだけど」
「大丈夫です!」
「何が!?」
ゴウマが一歩前に出る。
「何をすればいい」
「ゴウマ!?」
「これを運べばいいのか?」
木材を指す。
「はい!」
「分かった」
持ち上げる。
「お前馴染むの早くね!?」
マルコ。
…………。
確かに。
「マルコさんもお願いします!」
「分かったよ!」
結局。
五人で家を増設することになった。
◇
数時間後。
「出来ましたー!」
たるとが両手を上げる。
家が少し広くなった。
「おー」
マルコ。
「ちゃんと出来たな」
「はい!」
「壁なくなった時はどうなるかと思ったけど」
俺が言う。
「それは忘れましょう!」
「忘れないよ」
「ガウ~」
セリアが俺を見る。
「ちゃんと直ったからいいじゃん~」
「俺が直したんだけど」
「ありがとう~」
…………。
まあいいか。
「皆さん!」
たるとが手を叩く。
「ご飯にしましょう!」
「おう」
マルコ。
「そうだな」
ゴウマ。
「…………」
たるとがゴウマを見る。
「ゴウマさんも食べますよね?」
「俺もか?」
「もちろんです!」
「…………」
ゴウマが少しだけ黙る。
「いいのか?」
「はい!」
「そうか」
そして。
「いただく」
◇
集会場の机には料理が並んでいる。
俺。
たると。
セリア。
マルコ。
そして。
ゴウマ。
五人で食べる。
「うまい」
ゴウマ。
「ですよね!」
たるとが嬉しそうに笑う。
「村の皆さんが作ってくれたんですよ!」
「そうか」
「いっぱい食べてください!」
「ああ」
普通に食べてる。
「…………」
ゴウマ。
普通にいるな。
数日前。
遊びに来た。
今日。
また遊びに来た。
マルコと手合わせして。
家の増設を手伝って。
今。
一緒に飯を食っている。
…………。
まあ。
いいか。
「そういえば」
マルコがゴウマを見る。
「お前、最近よく来るな」
「…………」
ゴウマが食べる手を止める。
「そうか?」
「そうだろ」
「そうですね!」
たるとも頷く。
「遊びに来てくれるの嬉しいです!」
「…………」
ゴウマが少し黙る。
「迷惑だったか?」
「なんでそうなるんですか!?」
たるとが立ち上がる。
「全然迷惑じゃないです!」
「そうか」
「むしろ!」
たるとが笑う。
「また遊びに来てください!」
「…………」
ゴウマ。
俺たちを見る。
マルコ。
たると。
セリア。
俺。
それから。
集会場の中。
少しだけ。
黙って。
「ああ」
頷いた。
「また来る」
「はい!」
たるとが笑う。
…………。
ゴウマ。
次はいつ来るんだろう。
まあ。
その時はまた一緒に遊べばいいか。
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