第41話 第二回大型アップデート
《ネクサス・クリエイト》。
会議室。
「それでは」
大型モニターの前。
一人の男性社員が資料を操作する。
「第二回大型アップデートについて、最終確認を行います」
画面が切り替わる。
《ファンタズマ・ゲイト》
発売から一ヶ月過ぎた。
第一回大型アップデートではギルド機能。
第二階層の解放。
第一階層の《階層守護者》。
その他。
複数の要素を追加した。
そして。
一週間後には第二回大型アップデートを予定している。
「まず、すでに告知済みの内容から確認します」
画面に項目が並ぶ。
第二階層への新規クエスト追加。
ギルド機能《拠点建築》。
裁縫。
鍛冶。
錬金。
その他の生活系コンテンツ。
魔物の強さ。
出現率。
行動パターンの調整。
「こちらについては?」
「予定通りです」
別の社員が答える。
「現在、最終調整を行っています。大きな問題がなければそのまま実装可能です」
「分かりました」
資料が切り替わる。
「続いて」
一人の社員が口を開く。
「《ELPIS》についてです」
会議室の視線が集まる。
《ELPIS》。
《ネクサス・クリエイト》が開発した人工知能。
ゲーム内の情報。
プレイヤーの行動。
NPC。
魔物。
その他。
様々な情報を観測。
分析。
そして。
自ら判断する。
「社長」
社員が一人の男を見る。
神代彰人。
《ネクサス・クリエイト》社長。
「本当に今回から導入するんですか?」
「ああ」
神代が答える。
「第二回大型アップデートに合わせて、《ELPIS》の試験運用を開始する」
「…………」
「《ELPIS》は本来」
神代が続ける。
「《ファンタズマ・ゲイト》のサービス開始と同時に導入する予定だった」
「はい」
「だが、安全性を優先して延期した」
開発段階。
何度も試験を行った。
仮想環境。
限定環境。
膨大なデータ。
それらを使い。
何度も。
何度も。
「現時点で重大な問題は確認されていない」
神代が言う。
「だからといって最初から全てを任せるわけではない」
「では?」
「権限を制限した状態から開始する」
「段階的に?」
「ああ」
試験運用。
問題がなければ少しずつ出来ることを増やしていく。
「分かりました」
社員が頷く。
「では予定通り進めます」
「よろしく頼むよ」
「続いて」
資料が切り替わる。
「こちらです」
画面にグラフが表示された。
「PK関連の問い合わせについてです」
「…………」
「第一回大型アップデート以降、急増しています」
PK。
プレイヤーキル。
プレイヤーが他のプレイヤーを倒す。
《ファンタズマ・ゲイト》では正式に認められている行為。
禁止はしていない。
「特にギルド機能実装後、複数人で行われるPKが増えています」
「ギルド単位か」
「はい」
一人を複数人で襲う。
狩場で待ち伏せする。
同じプレイヤーを何度も狙う。
そういった行為。
それに伴い。
問い合わせ。
要望。
クレームが増加している。
「ですが」
別の社員が言う。
「PKはゲームシステムとして実装されています」
「分かっている」
「規約に違反していない以上、PKを行ったという理由だけでアカウントを停止することは出来ません」
「そうですね」
「だからといって放置も出来ない」
別の社員。
「初心者が一方的に狙われるケースも確認されています。このまま増加すれば、プレイヤー離れに繋がる可能性があります」
「…………」
禁止する。
それは簡単。
PKそのものを出来なくする。
だが。
それでは元々用意していた遊び方の一つを消すことになる。
「そこで」
資料が切り替わる。
「一つ、案があります」
「案?」
「はい」
画面に表示されたのは。
《ELPIS》。
「《ELPIS》を利用します」
「PK対策に?」
「正確には」
社員が答える。
「PKだけではありません」
画面が切り替わる。
《PLAYER POINT》
「プレイヤーごとに内部ポイントを設定します」
「ポイント?」
「はい。プレイヤー側からは確認出来ない内部数値です」
「分類は七種類を予定しています」
画面に一つずつ文字が表示される。
《傲慢》
《強欲》
《嫉妬》
《憤怒》
《色欲》
《暴食》
《怠惰》
「…………」
「七つの大罪、か」
「はい」
社員が頷く。
「例えば、必要以上に他プレイヤーを攻撃する。アイテムを奪う。弱いプレイヤーを執拗に狙う。そういった様々な行動を《ELPIS》が分析します」
「単純なPK回数ではない?」
「はい」
「同じ行動でも状況によって加算されるポイントが変わる?」
「その予定です」
《ELPIS》が判断する。
その行動が何に当てはまるのか。
どれほど加算するのか。
「それで?」
神代が聞く。
「ポイントが増えるとどうなる?」
「一定値までは何も起こりません」
画面に七つの項目。
その横に数値が表示される。
「ですが」
一つ。
《強欲》。
その数値が上昇する。
そして。
《MAX》。
「いずれかのポイントが最大値に到達した場合」
社員が資料を進める。
「そのプレイヤーを対象とした、討伐用NPCを出現させます」
「討伐用?」
「はい」
会議室が少しざわつく。
「PKを行ったプレイヤーをNPCがPKするということですか?」
「簡単に言えば」
社員が頷く。
「そうなります」
「…………」
「対象はポイントが最大値に到達したプレイヤーのみに限定します。通常のプレイヤーには攻撃を行わないよう設定します」
「NPCは一体?」
「いいえ」
資料が切り替わる。
七つ。
人型のシルエット。
「それぞれのポイントに対応させます」
《傲慢》
一体。
《強欲》
一体。
《嫉妬》
一体。
《憤怒》
一体。
《色欲》
一体。
《暴食》
一体。
《怠惰》
一体。
「全部で七体です」
「戦闘能力は?」
「高く設定します」
「どの程度だ?」
「中途半端では抑止になりません」
社員が答える。
「対象が逃げ続けるだけでも意味がありません」
「…………」
「そのため」
画面に《ELPIS》の文字。
「個体の作成そのものを《ELPIS》に行わせる予定です」
「AIに?」
「はい」
「外見も?」
「はい」
「性格も?」
「基本設定はこちらで指定しますが、詳細は《ELPIS》に任せます」
「戦闘能力もか?」
「はい」
会議室が静かになる。
「《ELPIS》が対象プレイヤーを確実に倒すために必要だと判断した能力を持たせます」
「強すぎないか?」
「強くなければ意味がありません」
「だが、プレイヤーが倒す可能性は?」
「もちろん残します」
社員が答える。
「絶対に倒せないNPCにはしません」
「ただし」
続ける。
「一人で簡単に倒せる程度では、抑止にはならないかと」
「…………」
神代が資料を見てしばらく考える。
「面白い」
「社長?」
「PKを禁止する必要はない」
神代が言う。
「PKも遊び方の一つだ」
「はい」
「だが、やりすぎれば」
画面に七人のシルエット。
「ゲームの世界そのものから狙われる」
「そういうことです」
「面白いかもね」
神代が頷く。
「試してみよう」
「分かりました」
「ただし」
「はい」
「通常のプレイヤーを攻撃しないという制限は徹底してくれ」
「もちろんです」
資料に名称が追加される。
《ELPIS PLAYER CONTROL SYSTEM》
その下。
《七つの大罪》。
「では、こちらも今回のアップデートから?」
「はい」
「《ELPIS》の試験運用と同時に開始します」
「分かった」
「そして」
社員が言う。
「《ELPIS》関連でもう一つあります」
「まだあるのか?」
「はい」
資料が切り替わる。
《SKILL SYSTEM》
「スキルシステムの拡張です」
「スキル?」
「現在のスキルとは別枠になります」
画面。
三つの項目。
《Rare Skill》
《Arc Skill》
《Extra Skill》
「新たに」
社員が説明する。
「《レアスキル》《アークスキル》《エクストラスキル》を追加します」
「違いは?」
「まず《レアスキル》」
画面が切り替わる。
「通常とは異なる特殊な条件によって取得するスキルです」
「特殊条件?」
「はい。既存のスキルより取得難易度は高くなります」
「なるほど」
「次に」
《Arc Skill》。
「《アークスキル》」
社員が言う。
「こちらは、《ELPIS》を使用します」
プレイヤー。
一人。
一人。
全員違う。
使う武器。
戦い方。
遊び方。
行動。
好み。
「《ELPIS》にプレイヤーの行動を観測させます」
画面に様々なプレイヤーの映像。
剣を振るう者。
魔法を使う者。
物を作る者。
仲間を助ける者。
一人で戦う者。
「戦闘だけではありません」
社員が続ける。
「そのプレイヤーが何をしてきたのか」
映像が変わる。
「何を好んでいるのか」
変わる。
「どんな行動を繰り返しているのか」
変わる。
「何を目指しているのか」
「…………」
「それらを《ELPIS》が分析します」
「その結果は?」
「条件を満たしたプレイヤーに」
画面。
《Arc Skill》。
「そのプレイヤーに適したスキルを取得させます」
「一人一人違うスキルを?」
「その可能性があります」
「可能性?」
「似た行動をしていれば似た能力になる可能性もあります。ただ」
社員が答える。
「基本的にはそのプレイヤー自身の行動によって決まります」
「面白いな」
神代が言う。
「自分で選ぶのではなく」
「はい」
「自分がやってきたことがスキルになる」
「その認識で問題ありません」
「取得条件は公開するのか?」
「しません」
即答。
「公開すれば、スキルを得るためだけに行動するプレイヤーが出ます」
「確かにな」
「本人が好きに遊んだ結果として」
社員が言う。
「その人に合った能力を得る。それが理想です」
「いいな」
神代が頷く。
「それで」
一人の社員が画面を見る。
「《エクストラスキル》は?」
《Extra Skill》。
「こちらは」
説明していた社員が少し間を置く。
「現時点では試験枠です」
「試験枠?」
「はい」
「《ELPIS》が既存のスキル体系では対応出来ないと判断した場合」
画面。
《Extra Skill》。
「通常の枠を超えた能力を生成出来るよう、拡張領域を用意します」
「プレイヤーにも取得させるのか?」
「可能性はあります」
「…………」
「ただし」
社員が続ける。
「《レアスキル》《アークスキル》以上に厳しい条件を設定します」
「なるほど」
「そして」
社員が資料を戻す。
《七つの大罪》。
「先ほどの七体についても、この《エクストラスキル》を利用する予定です」
「七体全員?」
「はい」
「対象プレイヤーを確実に追跡、討伐するという特殊な役割があります」
「…………」
「通常のNPC用スキルだけでは、想定外の状況に対応出来ない可能性があります」
神代が七人のシルエットを見る。
「だから、専用の能力を持たせるってことだな」
「はい」
「能力の内容は?」
「《ELPIS》に任せます」
「…………」
静かになる。
少しして神代が笑った。
「随分と《ELPIS》に仕事をさせるな」
「そのための試験運用でもありますから」
「そうだな」
神代が椅子にもたれる。
画面を見る。
《ELPIS》。
《Rare Skill》。
《Arc Skill》。
《Extra Skill》。
《七つの大罪》。
「分かった」
神代が言う。
「進めてくれ」
「はい」
「ただし、全て試験段階だ」
「分かっています」
「問題が確認された場合はすぐに停止する」
「はい」
「プレイヤーに楽しんでもらうための機能だ」
神代が言う。
「そこだけは忘れないように」
「もちろんです」
一週間後。
第二回大型アップデート。
新しいクエスト。
新しい生活。
新しい遊び方。
そして。
《ELPIS》。
プレイヤー、一人一人の行動を見つめる。
新しいシステム。
その中には七人のNPCを生み出す計画もあった。
その名前は《七つの大罪》。
まだまだ会議は続くのだった。
大事なことが色々と……。
はい、ここテストに出まーす!
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