第40話 お泊まり
「買った!」
「買いましたね!」
「買いすぎじゃない?」
午後四時。
《始まりの街》。
朝から始めた買い出しもようやく終わった。
「じゃあ帰るか!」
ハヤテが言う。
「そうだね」
俺たちは荷物を持って門へ向かう。
街の外へ。
門を抜けようとしたところで。
「あれ?」
ハヤテが足を止めた。
「あいつは……」
前から。
一人の大男が歩いてくる。
でかい。
見覚えがある。
向こうも俺たちに気付いた。
「ん?」
足を止める。
「お前らは……」
「ゴウマ!」
ハヤテが声を上げた。
ゴウマ。
前に湖の近くで会ったプレイヤー。
木を殴っていた人。
「久しぶりだな!」
「ああ」
ゴウマが俺たちを見る。
「久しぶりだ」
「久しぶり」
「お久しぶりです!」
「久しぶりね」
「お久しぶりです~」
「お久しぶりです」
久しぶり。
そして。
ゴウマの視線がマルコで止まった。
「…………」
「なんだ?」
「知らない顔だ」
「ああ?」
「マルコさんです!」
たるとが言う。
「今一緒に活動してるんです!」
「マルコだ」
「ゴウマだ」
短い。
ゴウマが俺たちの荷物を見る。
「買い出しか?」
「おう!」
ハヤテが答える。
そして。
なぜか胸を張る。
「俺たち今、北にある村を拠点に活動してるんだ!」
自慢げ。
「村?」
「ああ! 結構いいところだぞ!」
「そうか」
「海もあるしな!」
「畑もあります!」
たるとも加わった。
「村の皆さんも良い人たちですよ!」
「飯もうまいぞ!」
「それは村関係ある?」
「あるだろ!」
あるのかな。
「ゴウマは?」
ハヤテが聞く。
「何してんだ?」
「クエストの報告に来た」
「クエスト?」
「ああ」
ゴウマが街の方を見る。
「少し遠い場所まで行っていた」
「一人で?」
「ああ」
相変わらずらしい。
「そっか!」
ハヤテが笑う。
前に会った時。
ゴウマを一緒に行こうと誘ったが断られた。
だからなのか、今回は誘わなかった。
代わりに。
「じゃあさ!」
「ん?」
「北側に来ることあったら村に遊びに来てくれ!」
ゴウマが少しだけ目を見開く。
「…………」
「歓迎するぞ!」
「…………そうか」
少し間を置いて。
「ああ」
「おう!」
ハヤテが笑う。
「じゃあまたな!」
「ああ。またな」
ゴウマは街へ。
俺たちは門の外へ。
久しぶりにゴウマと会った。
「よし!」
ハヤテが前を向く。
「帰るか!」
「うん」
「村まで半日ですね!」
「そうだな!」
「…………」
「…………」
「…………」
歩き出そうとする。
「待って」
俺は止まった。
「ん?」
「今何時?」
「四時!」
「村まで?」
「半日!」
「…………」
「…………」
「…………」
「着くの何時?」
「…………」
ハヤテが考える。
「夜!」
「雑」
「帰れなくはないだろ!」
「大量の荷物あるけど」
「…………」
全員。
自分たちの荷物を見る。
多い。
かなり多い。
「途中で魔物も出ますね」
シズク。
「暗くなるわね」
リンファ。
「お腹も空くね~」
セリア。
「…………」
たるとが街を見る。
俺たちも見る。
「泊まります?」
「泊まるか」
決まった。
「じゃあ宿探そうぜ!」
「おう!」
さっき出た門を戻る。
「何してんだお前ら」
マルコが呆れていた。
◇
宿屋。
街の中心から少し離れた場所。
大きくはない。
でも綺麗。
「いらっしゃいませ」
受付の女性NPCが笑う。
「七名様でしょうか?」
「はい!」
たるとが答える。
「今夜泊まりたいです!」
「かしこまりました。お部屋はいかがなさいますか?」
「二部屋でいいんじゃね?」
ハヤテが言う。
「男二人と女五人で!」
「ハヤテ?」
「ん?」
俺はハヤテを見る。
ハヤテ。
マルコ。
男二人。
たると。
リンファ。
セリア。
シズク。
俺。
女五人。
「…………」
「どうしたガウ?」
「なんでもない」
もういいや。
「では二部屋ご用意いたします」
鍵を受け取る。
男部屋。
女部屋。
「じゃあまた後でな!」
「はい!」
ハヤテとマルコが自分たちの部屋へ向かう。
俺も。
「ガウ?」
たるとに呼ばれた。
「そっちじゃないですよ?」
「…………」
「こっちです!」
「……はい」
俺は諦めた。
◇
部屋に入る。
ベッドが五つ。
テーブル。
椅子。
窓。
普通の部屋。
「結構広いですね!」
たるとがベッドへ座る。
「そうね」
リンファが荷物を置いた。
「疲れた~」
セリアも座る。
「かなり歩きましたからね」
シズク。
俺も荷物を置く。
「じゃあ少し休んだらログアウトする?」
「何言ってるの?」
リンファ。
「え?」
笑っている。
嫌な予感がする。
リンファが買ってきた布とは別の荷物を取り出した。
「ちょうどいいものがあるのよ」
「…………」
「なんですか?」
たるとが近付く。
「作ってきたの」
服を取り出す。
いや。
「パジャマ?」
「正解」
「わあ!」
たるとの目が輝く。
「可愛いです!」
「人数分あるわよ」
「いつ作ったの?」
「少しずつね」
リンファ。
何してるの。
「せっかくだから」
パジャマを並べる。
「今日はこれを着て、パジャマパーティーしましょう」
「パジャマパーティー!」
たるとが食いついた。
「楽しそう~」
セリアも。
「……まあ、せっかくですし」
シズクまで。
「俺はログアウトする」
「ガウ」
「嫌」
「まだ何も言ってないわよ?」
「分かる」
リンファが一着持ち上げた。
「これ、ガウの」
「…………」
見る。
「…………」
もう一度見る。
「なんで俺のだけ違うの?」
「気のせいよ」
「絶対違う」
ふわふわ。
もこもこ。
柔らかそうな生地。
少し大きめの袖。
フード付き。
しかも。
「耳出す穴まである……」
「もちろん」
「尻尾も?」
「もちろん」
なんでそんなところまで。
「ガウ専用よ」
「嫌!」
「せっかく作ったのに……」
「…………」
リンファがパジャマを見る。
「結構時間かかったのよ?」
「…………」
「…………」
「…………着る」
「ありがとう」
負けた。
俺は押しに弱い。
ちくしょう。
「じゃあ着替えましょう!」
「おー!」
元気だな。
少しして。
「…………」
着替えた。
鏡を見る。
茶色い髪。
狼耳。
尻尾。
そして。
ふわふわのパジャマ。
耳はフードから出ている。
袖が少し長い。
「…………」
「ガウ!」
たるとが俺を見る。
「可愛いです!!」
「うるさい」
「すごく似合ってます!」
「嬉しくない」
「可愛い~」
セリアが近付く。
「触っていい~?」
「嫌」
「ガウ」
リンファ。
「何?」
「想像以上ね」
「何が?」
「似合ってる」
「脱いでいい?」
「駄目」
「なんで?」
シズクを見る。
「…………」
目が合う。
「シズク」
「はい」
「変だよね?」
「…………」
「ね?」
「とても似合っていると思います」
「シズクまで……」
味方がいない。
ちなみに。
たるとは可愛い虎柄。
セリアはゆったりしたパジャマ。
シズクは落ち着いたシンプルなもの。
リンファは少し大人っぽい。
みんな普通。
「なんで俺だけこれなの?」
「作りたかったから」
即答。
「…………」
絶対楽しんでる。
「では!」
たるとがテーブルへ。
「パジャマパーティーです!」
「何するの?」
「お菓子を食べます!」
買ってきた袋を出した。
「それ村の人に買ったやつじゃないの?」
「こっちは私たち用です!」
「いつ分けたの?」
知らなかった。
飲み物。
お菓子。
果物。
テーブルに並ぶ。
「乾杯しましょう!」
「何に?」
「パジャマパーティーに!」
「意味分からない」
「かんぱーい!」
「かんぱ~い」
「乾杯」
「乾杯」
「…………乾杯」
パジャマパーティーが始まった。
◇
「それでね!」
たるとが話す。
「その時に先生が――」
「それは怒られますよ」
シズクが言う。
「でも私だけじゃないですよ!」
「一緒にやった人も怒られたんでしょ?」
「はい!」
「じゃあ同じです」
何の話してるんだろう。
最初はゲームの話だった。
次のアップデート。
拠点。
裁縫。
魔法。
そのうち。
現実の話。
学校。
仕事。
バイト。
好きな食べ物。
嫌いな食べ物。
どうでもいい話。
どんどん変わる。
「ガウは?」
リンファが聞く。
「何?」
「聞いてた?」
「聞いてた」
「今何の話してた?」
「…………」
何だっけ。
「聞いてないじゃない」
「聞いてた」
多分。
「ガウさん、眠いんですか?」
たるとが覗き込む。
「眠くない」
「目が半分閉じてますよ?」
「閉じてない」
「耳も下がってるわね」
リンファ。
「下がってない」
「下がってるよ~」
「…………」
眠い。
現実時間を見る。
午後11時。
今日は朝からずっとゲームしている。
「ログアウトしますか?」
シズクが聞く。
「…………まだいい」
「でも眠そうですよ?」
「眠くない」
「さっき眠いって顔してましたよ~」
「顔では言わない」
セリアが笑う。
「ガウ~」
「…………なに」
「可愛い~」
「…………うるさい」
かなり眠い。
「ガウ」
リンファ。
「もうログアウトしたら?」
「…………」
「明日も歩くんでしょ?」
「…………うん」
「なら寝た方がいいわよ」
「…………やだ」
「え?」
静かになった。
「…………」
何?
四人が俺を見ている。
「ガウ?」
たると。
「…………なに」
「今、やだって」
「…………言った?」
「言いました」
そうだっけ。
「どうしてですか?」
「…………」
考える。
眠い。
考えたくない。
「…………まだ」
「まだ?」
「…………みんなといる」
「…………」
静か。
「ガウ~」
セリアが笑っている。
「なに」
「なんでもない~」
変なの。
「ガウ」
たるとが隣に座る。
「眠いですか?」
「…………うん」
「素直になったわね」
リンファの声。
「…………眠い」
「ログアウトします?」
「…………まだ」
「そうですか」
「…………」
眠い。
隣。
たると。
近い。
「…………たると」
「はい?」
「…………」
「ガウ?」
少し寄る。
頭を預ける。
柔らかい。
「…………!?」
たるとの体が固まった。
「…………眠い」
「は、はい」
「…………」
目を閉じる。
「ガウ~?」
「…………なに」
「たるとに甘えてる~」
セリア。
「…………甘えてない」
「思いっきり甘えてるわよ」
リンファ。
「…………違う」
「では離れますか?」
シズク。
「…………」
離れる。
「…………やだ」
「…………」
また静かになった。
なんで静かになるの。
「ガ、ガウ」
たるとの声。
「…………なに」
「頭……撫でてもいいですか?」
「…………」
考える。
面倒。
「…………うん」
「!」
頭に手。
撫でられる。
「…………」
悪くない。
「ガウ可愛い~」
「…………うん」
「私も撫でていい?」
リンファ。
「…………やだ」
「あら」
「…………たるとがいい」
「…………っ!?」
たるとの肩が跳ねた。
「おやおや」
リンファが笑っている。
「これは~」
セリアも。
「…………」
シズクは何も言わない。
「何?」
「なんでもないわ」
「…………?」
眠い。
もう。
限界。
「…………ログアウトする」
「はい!」
たるとの声が少し高い。
俺は体を起こす。
「…………」
「ガウ?」
「…………寝る」
メニュー。
ログアウト。
「…………おやすみ」
「はい!」
「また明日ね」
「おやすみ~」
「おやすみなさい」
視界が暗くなる。
ログアウトした。
◇
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
ガウの姿が消えた。
四人。
しばらく誰も喋らない。
最初に口を開いたのはリンファだった。
「…………何、今の?」
「分かりません!」
たるとの顔が赤い。
「ガウ可愛かったね~」
「…………そうですね」
シズクが頷く。
「いつもと全然違ったわね」
「眠かったからでしょうか?」
「多分ね」
「たると~」
「なんですか?」
「よかったね~」
「何がですか!?」
「たるとがいい」
「セリアさん!」
「私が言ったんじゃないよ~」
「うぅ……」
たるとが顔を覆う。
リンファが笑う。
「明日覚えてるかしら?」
「…………」
四人が顔を見合わせる。
「覚えてないんじゃない~?」
「どうでしょう」
「…………」
たるとが小さく笑った。
「覚えてなくても」
「ん?」
「いいです」
「だって」
少しだけ嬉しそうに。
「可愛かったので!」
「それはそうね」
「うん~」
「はい」
意見が一致した。
その頃。
隣の部屋では。
「じゃあ俺落ちるわ!」
「おう」
「また明日な!」
「ああ」
ハヤテがログアウトする。
マルコもメニューを開く。
「…………」
何も知らない。
そのままログアウトした。
眠たいと……甘えたくなりますよね……?
なりますよね???
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