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第39話 買い出し

「それで!」


たるとが俺たちを見る。


「明日は何しますか!」


「急だな」


ギルドを作った。


《王虎の牙》。


ギルドマスターはマルコ。


副ギルドマスターはたると。


目的だった拠点建築は来週のアップデートから。


つまり。


「…………」


「やることないね」


「なんでギルド作ったんだよ!」


マルコが言う。


「建築するためです!」


「来週だろ!」


「はい!」


元気。


「じゃあ明日は第二階層行くか!」


ハヤテが言う。


「それはアップデート後にするってさっき決めたでしょ」


「そうだった!」


忘れるの早い。


「それなら」


リンファが口を開く。


「そろそろ買い出しに行かない?」


「買い出し?」


「色々減ってきてるでしょ。食材とか消耗品とか」


確かに。


この村を拠点にするようになってからしばらく経つ。


たまり場にしているこの家にも色々置くようになった。


「調味料も欲しいです!」


たると。


「糸も欲しいわね」


リンファ。


「魔法の素材も見たいな~」


セリア。


「回復薬なども補充しておいた方がいいと思います」


シズク。


「武器屋!」


ハヤテ。


「買い出しだよ」


「見るだけ!」


絶対長い。


「ガウは?」


たるとが俺を見る。


「クナイほしい」


「それだけですか?」


「減ったから」


《朧》を手に入れても。


クナイは使う。


何本か投げたまま回収出来なかった。


補充しておきたい。


「じゃあ決まりですね!」


たるとが笑う。


「明日は買い出しです!」


「どこ行く?」


ハヤテが聞く。


「隣村?」


「この前行ったばっかりじゃない?」


「なら」


少し考える。


「《始まりの街》?」


「おっ!」


ハヤテが反応した。


「いいじゃん!」


《始まりの街》。


ゲームを始めて最初に行った街。


そういえば、あれから一度も戻っていない。


「じゃあ今から行こうぜ!」


「嫌」


「早い!」


「今何時?」


「…………」


ハヤテが時計を見る。


「午後九時」


「半日かかるよ」


「…………」


「着く頃には朝だね」


「…………」


「明日にするか!」


「そうして」


前にもこんな会話した気がする。


「じゃあ明日の朝ですね!」


「おう!」


「私は大丈夫よ」


「私も~」


「問題ありません」


話が決まる。


「マルコさんも一緒に行きましょう!」


たるとが言う。


「俺は残る」


即答。


「えっ?」


「村を空けるわけにはいかねえだろ」


「でも最近平和ですよ?」


「だからって何も起きねえとは限らねえ」


「…………」


たるとが少し残念そうな顔をする。


「まあ、買い出しならお前らだけでも大丈夫だろ」


「そうですけど……」


マルコは村を守っている。


無理に連れていくことでもない。


「じゃあ明日の朝!」


たるとが立ち上がる。


「出発しましょう!」


「おう!」


「寝坊しないでよ」


「誰に言ってんだ!」


「ハヤテ」


「俺かよ!」


俺たちは明日の予定を決めてログアウトした。



翌日。


土曜日の朝。


ログインすると村はいつも通りだった。


畑へ向かう人。


家の前を掃除している人。


走り回っている子供たち。


「狼のお姉ちゃん!」


「おはよう」


手を振る。


今日は久しぶりに《始まりの街》へ行く。


広場にはすでにみんなが揃っていた。


「おはようございます!」


「おう」


「マルコも来るの?」


「見送りだ」


やっぱり残るらしい。


「それじゃあ行きましょう!」


たるとが言う。


その時。


「ほっほっほ」


声。


ロウガが歩いてきた。


「皆、今日は出掛けるのかの?」


「はい!」


たるとが答える。


「《始まりの街》まで買い出しに行ってきます!」


「ほう。それは遠出じゃな」


「夕方くらいには着くと思います!」


半日。


やっぱり遠い。


「マルコは?」


ロウガが聞く。


「俺は残るよ」


「ほう?」


「こいつらだけで大丈夫だろ。俺は村にいる」


「…………」


ロウガがマルコを見る。


「行ってきなされ」


「あ?」


「マルコもじゃ」


「いや、俺は」


「最近は村も平和じゃ」


「でも何があるか分からねえだろ」


「その時はわしらで何とかするわい」


「…………」


「わしらとていつまでも守られているだけではないぞ」


ロウガが笑う。


「それに」


「ん?」


「たまには友人たちと遊んできなされ」


「…………」


マルコが黙った。


「遊びじゃねえよ」


「ほっほっほ」


「買い出しだ」


「そういうことにしておこうかの」


「…………」


勝てないらしい。


「じゃあ!」


たるとが笑う。


「マルコさんも一緒ですね!」


「…………仕方ねえな」


「やった!」


「買い出しだからな!」


「はい!」


「遊びじゃねえぞ!」


「はい!」


絶対聞いてない。


「では、行ってきます!」


「気を付けて行ってきなされ」


ロウガに見送られて俺たちは村を出た。



森。


草原。


岩山。


来た時とは反対。


南へ進む。


「なんか懐かしいな!」


ハヤテが言う。


「そんなに前じゃないでしょ」


「でも色々あっただろ!」


「まあね」


マルコと会って。


村へ来て。


特訓して。


隣村へ行って。


武器を作ってもらって。


そして。


ギルドを作った。


確かに色々あった。


「マルコさん!」


「なんだ?」


「みんなで出掛けるの初めてですね!」


「そういやそうだな」


「楽しいですね!」


「まだ歩いてるだけだろ」


「それでもです!」


たるとが笑う。


マルコは何も言わなかった。


でも。


少しだけ笑っているように見える。


俺たちは進む。


途中で魔物と戦って。


少し休憩して。


また歩く。


長い。


やっぱり半日は長い。


そして。


しばらく歩くと見覚えのある景色が見えてきた。


広い草原。


その向こうに大きな街。


《始まりの街》。


「おお!」


ハヤテが声を上げる。


「着いた!」


「まだ少しあるよ」


「見えたら着いたようなもんだ!」


違うと思う。


街へ近付くにつれて。


プレイヤーの姿が増えていく。


魔物と戦っている人。


素材を集めている人。


街へ戻る人。


これから出掛ける人。


「人多いですね!」


たるとが周りを見る。


「村と全然違うね~」


「そりゃそうだろ」


マルコが言う。


草原の脇。


何人かのプレイヤーが座っていた。


休憩しているらしい。


その横を通る。


「お前の弓いいよな」


声が聞こえた。


「だろ?」


男が背中の弓を見せている。


「レアドロップだし、棒に変形するんだぜ?」


「ずるい!」


「いいだろ!」


「俺なんて普通の剣だぞ!」


「日頃の行いだな」


「関係ねえだろ!」


楽しそう。


「棒に変形する弓だって!」


ハヤテが反応する。


「珍しいね」


「ちょっと見てえな!」


「買い出し行くよ」


「分かってるって!」


振り返ってる。


「ハヤテさん!」


たるとが呼ぶ。


「置いていきますよ!」


「待てって!」


ハヤテが走ってくる。


俺も前を見る。


俺たちはそのまま街へ向かった。



《始まりの街》。


門を抜ける。


「久しぶりだな」


思わず声が出た。


「懐かしいよな!」


ハヤテが横に立つ。


「村にずっと居たからね」


「まあな!」


「そんな事より……まず飯だ!」


「買い出しでしょ」


「なんか食いたい気分!」


すっかりたるとに毒されてる。


「ハヤテ、武器屋は後よ」


「まだ何も言ってねえ!」


「顔に書いてあります」


「シズクまで!?」


騒がしい。


「ガウ!」


たるとが振り返る。


「早く行きましょう!」


「うん」


一人じゃない。


まあ。


今の方がいい。


「それで!」


たるとが両手を上げる。


「何から買いますか!」


「飯!」


「却下」


「なんでだよ!」


買い出しが始まった。



最初は食料品。


「これ美味しそうです!」


「買います?」


「買いましょう!」


「こっちも!」


「買いましょう!」


「それも!」


「買いましょう!」


「…………」


たるとの籠がどんどん増える。


「買いすぎじゃない?」


「大丈夫です!」


何が?


「村の皆さんにも持って帰りましょう!」


「それならいいけど」


「これも!」


増えた。


次。


雑貨屋。


食器。


調味料。


生活用品。


「これ可愛いです!」


たるとが何か持っている。


小さな置物。


「何に使うの?」


「飾ります!」


「どこに?」


「拠点です!」


「まだないよ」


「来週作ります!」


「それまでどこに置くの?」


「…………」


止まった。


「たまり場に置きましょう!」


「狭くなるよ」


「一個くらい大丈夫です!」


多分。


一個では終わらない。


「ガウ」


リンファが呼ぶ。


振り返る。


糸。


布。


大量。


「…………」


「何?」


「買いすぎじゃない?」


「来週、裁縫の大型アップデートがあるのよ?」


「だから?」


「色々試せるじゃない」


笑っている。


嫌な予感。


「楽しみにしててね」


「嫌」


「まだ何も言ってないわよ?」


「分かる」


絶対服。


次。


魔法用品店。


「これ何に使うのかな~?」


セリアが素材を持っている。


「分からないなら買わなくていいんじゃない?」


「でも~」


見る。


「面白そう~」


買った。


「これも~」


買った。


「それも~」


買った。


何に使うんだろう。


シズクは。


回復薬。


状態異常用の薬。


予備の魔法石。


必要な物を順番に選んでいる。


「シズクだけ安心する」


「何がですか?」


「なんでもない」


そして。


武器屋。


「来た!」


ハヤテ。


「買わないよ」


「見るだけだって!」


店へ入る。


剣。


槍。


斧。


弓。


杖。


色々並んでいる。


ハヤテが片っ端から見ている。


「これいいな!」


「《白夜》と《黒曜》は?」


「最高だ!」


「じゃあいらないでしょ」


「見るのは別だろ!」


分からない。


「マルコは何か買わないの?」


俺が聞く。


「俺か?」


マルコは店の端。


道具を見ていた。


「村で使えそうなもんをな」


工具。


予備の武器。


消耗品。


「色々必要だからな」


「ギルマスっぽい」


「関係ねえよ!」


「でも面倒見いいね」


「うるせえ!」


「ガウさん!」


たると。


「クナイありましたよ!」


「ほんと?」


見る。


普通のクナイ。


前に買ったものと同じ。


「これでいい」


必要な分を買う。


「それだけですか?」


「うん」


「他にも見ましょう!」


「いらない」


「せっかく来たんですよ!」


クナイが置いてある隣の棚を見てみる。


「まきびしに火薬玉……いいかも」


「買いますか?」


「買う」


クナイと一緒に購入した。


なんだかどんどん忍者になってるような……。


「じゃあ!」


たるとが笑う。


「次のお店に行きましょう!」


「まだ行くの?」


「もちろんです!」


長くなりそう。


「その前に飯!」


ハヤテが叫ぶ。


「さっきからそればっかりですね!」


「腹減ったんだよ!」


「私もお腹空いたかも~」


「セリア!」


味方が増えた。


「仕方ないわね」


リンファが笑う。


「一度休憩しましょうか」


「賛成です」


シズク。


「よっしゃ!」


ハヤテが一番喜んでいる。


俺たちは荷物を持って店を探す。


ギルドを作って最初にやったこと。


それは。


攻略でも。


強い魔物を倒すことでもなく。


ただの買い出しだった。

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