第19話 新たな仲間
俺はアイスに視線を向けた。
「こっちはモルフォを集落へ連れて帰る。」
アイス頷く。
「モリファの事、よろしく頼む。」
サイオンが空中でくるりと一回転する。
「今度は遊びに行くッス!」
「今度こそ決着を付けるッスよ、バレットさん!」
「望むところだ。」
バレットが小さく笑う。
「次は負けないッス!」
「俺もだ。」
二人は笑い合った。
アイスが俺へ向き直る。
「ガウ。」
「近いうちに、正式に挨拶へ行く。」
「今回は偶然の出会いだった。」
「次は、ギルド《白銀戦線》として《王虎の牙》を訪問させてもらう。」
俺は笑って頷く。
「待ってる。」
短い言葉だった。
それだけで十分だった。
互いに信頼が生まれている。
アイスも小さく頷き返す。
「では、また。」
白銀戦線のメンバーは森の奥へ歩き出した。
その背中を見送りながら、俺たちも集落への帰路につく。
◇
「緊張します……。」
森の中を歩きながら、モルフォが小さく呟く。
「大丈夫だ。」
バレットが肩を叩く。
「たるとは細かいこと気にしない。」
「そうそう。」
俺も笑う。
「たるとなら、きっと喜んで迎えてくれる。」
「……そうだといいんですけど。」
モルフォはまだ不安そうだった。
それでも、その表情は少しずつ明るくなっていた。
やがて木々が開ける。
見慣れた城壁。
畑。
水路。
そして、小さな集落。
「ただいまー!」
俺が声を上げる。
「おかえりなさい!」
元気な声と共に、たるとが駆け寄ってきた。
その後ろにはハヤテ、ゴウマ、リンファ、シズク、セリアも集まってくる。
「無事だったか。」
ゴウマが安堵したように笑う。
「ちょっと色々あったけどね。」
ハヤテがモルフォを見る。
「その人は?」
「うん。」
俺は頷いた。
「みんな、集会所で話そう。」
◇
集会所。
王虎の牙の全員が席に着く。
俺は今日起きた出来事を最初から順番に話した。
白銀戦線との決闘。
巨大な虫が現れ、白銀戦線と共闘した事。
モルフォとの出会い。
そして、《百虫の王》のこと。
最後まで聞き終えたあと、部屋は静まり返った。
モルフォは立ち上がり、深々と頭を下げる。
「ガウさんとバレットさんを巻き込んでしまい本当に申し訳ありませんでした。」
「全部、僕の未熟さが招いたことです。」
震える声だった。
たるとはモルフォをじっと見つめる。
しばらくして。
ふわりと笑った。
「ようこそ!」
モルフォが顔を上げる。
たるとは満面の笑みで続けた。
「王虎の牙へ!」
「好きなだけここにいてください!」
「え……?」
モルフォは呆然と立ち尽くす。
「たると。」
シズクが思わず声を掛ける。
「大丈夫です!」
たるとは元気よく頷いた。
「ガウが連れてきた人なら、悪い人じゃありません!」
「それに!」
モルフォへ笑顔を向ける。
「一緒に頑張りましょう!」
その言葉を聞いた瞬間。
モルフォの目から、一筋の涙が零れ落ちた。
翌朝。
「それじゃあ、研究所を建てる場所を探すか。」
ゴウマの一言で、一日の予定が決まった。
集まったのは俺、ゴウマ、バレット、そしてモルフォの四人。
「研究所は集落から少し離した方がいいだろ。」
ゴウマが地図を広げながら言う。
「万が一があっても住民を巻き込まない場所が理想だ。」
「はい。」
モルフォも真剣な表情で頷く。
「僕も、その方が安心です。」
「よし。」
「行くか。」
◇
集落から歩くこと三十分ほど。
森を抜け、岩場の多い場所へやって来た。
「この辺は誰もほとんど来ないな。」
バレットが周囲を見回す。
「研究には向いてそうだ。」
俺も頷く。
「でも、雨風をしのげる場所も欲しいよね。」
その時だった。
「あっ!」
先頭を歩いていたモルフォが足を止める。
「皆さん!」
「こっちです!」
慌てて駆け寄ると、岩壁の一角に自然にできた大きな空洞があった。
奥行きも広い。
入口も十分な大きさがある。
雨も防げそうだ。
モルフォは目を輝かせる。
「ここ……!」
「すごくいいです!」
「虫の飼育スペースも作れます!」
「研究設備も置けます!」
「岩壁だから温度も安定します!」
一気に早口になる。
「……。」
俺は一歩後ろへ下がった。
「ガウ。」
バレットが苦笑する。
「安心しろ。」
「まだ虫はいない。」
「今はね!」
思わず本音が漏れる。
ゴウマが豪快に笑った。
「はっはっはっ!」
「場所は決まりだな。」
「ここなら研究所を建てるにも都合がいい。」
「ありがとうございます!」
モルフォは嬉しそうに頭を下げた。
◇
その日の午後。
集落から大工仕事が得意なNPC達にも手伝いを頼み、研究所作りが始まった。
「柱を運ぶぞー!」
「了解!」
木材が運ばれ。
床が張られ。
入口には丈夫な扉が取り付けられていく。
ゴウマは柱を固定し、バレットは木材を切り揃える。
俺は資材を運びながら、周囲の安全を確認していた。
一方のモルフォはというと――。
「ここに机を置いて……。」
「棚はこっちですね。」
「標本棚も欲しいなぁ……。」
完成前なのに、すでに頭の中では研究所の配置を考えている。
「楽しそうだな。」
俺が声を掛けると、モルフォは少し照れくさそうに笑った。
「はい。」
「こんな場所を用意してもらえるなんて思っていませんでした。」
その表情は昨日までとは別人のようだった。
「よかったな。」
バレットも静かに笑う。
「今度こそ失敗するなよ。」
「はい!」
モルフォは力強く頷く。
「今度は絶対に、皆さんへ迷惑は掛けません!」
その言葉を聞きながら、俺は建ち始めた小さな研究所を見上げる。
ここから。
王虎の牙に、新しい仲間の居場所がまた一つ生まれようとしていた。
まだ正式に王虎の牙に加入した訳ではありません!
今度、どのようなご近所付き合いをしていくのか!




