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第36話 試し斬り

翌日の月曜日。


午後九時。


「ガウ!」


「何?」


ログインして早々。


村の広場でハヤテに声を掛けられた。


「《始まりの街》に行こうぜ!」


「嫌」


「早くない!?」


即答。


「なんでだよ!」


「遠いから」


「クエスト受けに行こうぜ!」


「今から?」


「おう!」


「明日仕事でしょ?」


「…………」


止まった。


「俺もだけど」


「…………」


「《始まりの街》まで半日くらいかかるよ?」


「…………」


「帰ってくる頃には朝だよ?」


「…………」


「仕事は?」


「…………近場にするか!」


「うん」


諦めた。


「じゃあ魔物狩り行こうぜ!」


「それならいいよ」


「新しい武器も試せるしな!」


ハヤテの腰。


昨日手に入れた二本の刀。


《白夜》。


《黒曜》。


そして。


俺の腰にも。


《朧》。


俺もまだ実戦では使っていない。


「ガウも試したいだろ?」


「まあね」


「だろ!」


ハヤテが笑う。


「じゃあ行こうぜ!」


「どこに?」


「近く!」


「適当だね」


「魔物がいればどこでもいい!」


本当に試し斬りがしたいだけらしい。


まあ。


俺も人のこと言えないけど。


俺たちは村を出た。



夜。


村の近くにある森。


昼間とは違って暗い。


木々の隙間から月明かりが差し込んでいる。


「この辺でいいか?」


「いいんじゃない?」


特に目的があるわけでもない。


クエストを受けたわけでもない。


ただ魔物を探して。


新しい武器を使う。


それだけ。


「来た!」


ハヤテが声を上げる。


茂み。


ガサッ!


姿を現した。


ウルフ。


三匹。


「よし!」


ハヤテが嬉しそうに二本の刀を抜く。


右手。


《白夜》。


左手。


《黒曜》。


俺も《朧》を抜く。


スッ――。


黒い刀身。


「どっちが多く倒せるか勝負な!」


「いつ決まったの?」


「今!」


「やらないよ」


「なんで!?」


話している間にウルフが地面を蹴った。


一匹が俺へ。


速い。


でも見える。


横へ一歩。


躱す。


そのまま《朧》を振る。


ザシュッ!


「…………」


当たった。


ウルフが地面へ着地する。


体勢を崩す。


もう一歩。


踏み込む。


ザンッ!


ウルフが光の粒になって消えた。


「…………」


《朧》を見る。


軽い。


短刀より長い。


なのに振った時の重さはほとんど気にならない。


今までならもう一歩近づかないと届かない距離。


そこに届く。


「いいな」


「だろ!?」


「なんでハヤテが答えるの?」


「俺のもいいぞ!」


聞いてない。


残り二匹。


ハヤテへ向かう。


「よし!」


一匹が飛びかかる。


爪。


ハヤテは左手の《黒曜》で受ける。


ガキンッ!


「おっ!」


そのまま。


押し返すんじゃない。


横へ流す。


ウルフの体勢が崩れた。


そこへ。


右手の《白夜》。


ザシュッ!


「おお!」


ハヤテが自分で驚いている。


「今の見たか!?」


「見てた」


「めちゃくちゃ二刀流っぽくなかった!?」


「二刀流でしょ」


「そういう意味じゃねえ!」


もう一匹。


背後から飛びかかる。


「後ろ」


「分かってる!」


振り返る。


《黒曜》。


ガキンッ!


爪を受ける。


そして。


《白夜》。


ザンッ!


二匹目も消えた。


「…………」


ハヤテが二本の刀を見る。


「すげえ」


「何が?」


「全然違う」


右手の《白夜》を振る。


ヒュッ!


「こっちは軽い」


次。


左手。


《黒曜》。


「こっちはちょっと重い」


「昨日ダグラスが言ってたね」


「そうなんだけどさ」


ハヤテが構える。


「実際使うと分かるな」


「うん」


今まで。


ハヤテが使っていたのは同じ剣が二本。


マルコから言われていた。


――二本あるから出来ることを考えろ。


そして。


ダグラスからも。


――二本あるなら二本の役割を考えろ。


「こういうことか!」


ハヤテが笑う。


「多分」


「《黒曜》で受けて!」


左。


「《白夜》で斬る!」


右。


「逆でもいい!」


「楽しそうだね」


「楽しい!」


即答。


まあ。


分かる。


俺も。


《朧》を見る。


まだ二回振っただけ。


でも。


もう少し使いたい。


「次探そう」


「おっ!」


ハヤテが俺を見る。


「ガウもやる気になったな?」


「せっかく来たから」


「素直じゃねえな!」


「何が?」


「絶対《朧》使いたいだけだろ!」


「…………」


「図星だな!」


うるさい。



それから森を歩いた。


ゴブリン。


四匹。


「俺右!」


「じゃあ左」


走る。


ゴブリンが棍棒を振る。


避ける。


《朧》。


ザシュッ!


やっぱり使いやすい。


次。


棍棒。


身体をずらす。


避ける。


踏み込む。


斬る。


ザンッ!


「二匹!」


ハヤテの声。


見る。


ちょうど。


《黒曜》で棍棒を受け流して。


《白夜》でゴブリンを斬っていた。


「こっちも二匹」


「引き分けか!」


「勝負してないけど」


「次だ!」


さらに進む。


ウルフ。


五匹。


倒す。


ゴブリン。


三匹。


倒す。


またウルフ。


倒す。


「次!」


「まだやるの?」


「まだ十時前だぞ!」


「明日仕事」


「十一時まで!」


「絶対延長するじゃん」


「しねえよ!」


怪しい。


さらに森の奥へ。


「お」


ハヤテが止まる。


前。


木々の間。


何かいる。


大きい。


普通のウルフより一回り大きな身体。


灰色の毛。


《グレイウルフ》


レベルは6。


今までの魔物より高い。


「ちょうどいいな!」


「何が?」


「試し斬り!」


ハヤテが前へ出る。


《グレイウルフ》が唸る。


グルルルル……。


「ガウ!」


「うん」


《朧》を握る。


ハヤテは正面。


俺は少し横へ。


いつもの形。


特に決めたわけじゃない。


でも。


自然とそうなる。


《グレイウルフ》が動いた。


速い。


狙いはハヤテ。


前脚。


爪。


「よっ!」


《黒曜》。


ガキンッ!


受ける。


でも。


普通のウルフより重い。


ハヤテの腕が押される。


「重っ!」


それでも。


《黒曜》を傾ける。


爪を横へ流す。


《グレイウルフ》の身体が少し崩れる。


ハヤテが《白夜》を振る。


ザシュッ!


「よし!」


浅い。


《グレイウルフ》が吠える。


「ガウ!」


もう動いている。


横。


《朧》を振る。


ザンッ!


「…………」


入った。


でも。


まだ倒れない。


《グレイウルフ》が俺を見る。


次はこっち。


爪。


受けない。


後ろへ避ける。


もう一度。


爪。


横へ避ける。


「速いな!」


ハヤテの声。


「ウルフだからね」


「そうじゃなくてガウ!」


そっち?


《グレイウルフ》が俺を追う。


一歩。


二歩。


避ける。


その間にハヤテが背後へ回る。


「こっちだ!」


《白夜》。


ザシュッ!


《グレイウルフ》が振り返る。


その瞬間。


今度は俺。


踏み込む。


《朧》。


ザンッ!


交互。


俺を見れば。


ハヤテ。


ハヤテを見れば。


俺。


最初に会った時から何度も一緒に戦ってきた。


だからなんとなく分かる。


「ガウ!」


ハヤテが《黒曜》を構える。


《グレイウルフ》が飛びかかる。


ガキンッ!


受ける。


流す。


身体が横を向く。


懐が空いた。


俺は地面を蹴る。


速く。


もっと速く。


《朧》を握る。


今までの短刀ならあと一歩、必要だった。


だが、今は届く。


「っ!」


振り抜く。


ザシュッ!


《グレイウルフ》の身体が止まった。


そして。


光の粒になって消える。


「よっしゃ!」


ハヤテが笑う。


「やっぱいいな!」


「何が?」


「新しい武器!」


二本を眺める。


《白夜》。


《黒曜》。


嬉しそう。


「ガウは?」


「何が?」


「《朧》!」


「使いやすい」


「それだけかよ!」


「軽いし」


「他は!?」


「長さもちょうどいい」


「もっとこう!」


「何?」


「最高とか!」


「…………」


《朧》を見る。


「気に入った」


「おお!」


ハヤテが笑う。


「だろ!」


だから。


なんでハヤテが喜ぶんだろう。


「よし!」


ハヤテが二本の刀を構える。


「次行こうぜ!」


「帰るよ」


「え!?」


「もう十時半過ぎてる」


「まだ三十分もある!」


「十一時までって言ったのハヤテでしょ」


「そうだけど!」


「明日仕事」


「…………」


効いた。


「じゃあ」


ハヤテが考える。


「あと一匹!」


「帰る」


「一匹だけ!」


「帰る」


「ラスト一匹!」


「そのラスト絶対ラストじゃないでしょ」


「ラストだって!」


「本当に?」


「本当!」


「…………」


仕方ない。


「一匹だけね」


「よし!」


それから。


一匹。


二匹。


三匹。


「…………」


「ガウ!」


「何?」


「次でラスト!」


「何回目?」


「今度こそ!」


やっぱり帰ればよかったと後悔するのだった。

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