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第33話 隣村へのお使い

数日後。


今日は土曜日の昼。


俺たちはいつものように村で過ごしていた。


特に何かをするわけでもなく。


たるとは村の人たちを手伝い。


ハヤテはマルコと特訓。


リンファは集めた素材を使って何かを作っている。


セリアは魔法の練習。


シズクはその隣で本を読んでいた。


そして俺は。


「…………暇だな」


何もしていなかった。


いや。


やることがないわけじゃない。


レベル上げ。


素材集め。


クエスト。


探索。


探せばいくらでもある。


ただ。


今日はなんとなく何もする気にならなかった。


俺は村の広場に置かれた椅子に座り、ぼんやり空を眺める。


青い空。


流れる雲。


遠くから聞こえてくる。


ガキンッ!


「左右の刀を一緒に振ってどうする!」


「ちくしょー!」


いつもの声。


…………平和だ。


そんなことを考えていた。


その時。


ピロン。


「ん?」


聞き慣れない音。


目の前に半透明のウィンドウが表示された。


《SYSTEM ANNOUNCEMENT》


「…………?」


システムから?


俺が内容を確認する。


《第一階層・階層守護者が討伐されました》


「…………え?」


続けて。


新しい文字が表示される。


《第二階層への進行条件が達成されました》


《第二階層が解放されました》


「…………」


第二階層。


解放。


…………。


「え?」


もう一度。


表示を見る。


《第二階層が解放されました》


見間違いじゃない。


「マジか」


立ち上がる。


そして。


「ガウー!」


向こうからハヤテが走ってきた。


両手には剣。


その後ろからマルコも歩いてくる。


「見たか!?」


「見た」


「《階層守護者》倒されたぞ!」


「みたいだね」


そこへ。


「ガウ!」


たるとも走ってくる。


リンファ。


セリア。


シズクも集まってきた。


「第二階層が解放されたみたいですね!」


「そうみたい」


「ついにか!」


ハヤテが楽しそうに笑う。


その隣でリンファが少し考える。


「…………そういえば」


「何?」


「私たちって」


リンファが俺たちを見る。


「《階層守護者》を探すために北へ来たんじゃなかった?」


「…………」


「…………」


「…………」


沈黙。


そうだった。


大型アップデート。


第一階層に実装された《階層守護者》。


それを探すため。


俺たちは今まであまり探索していなかった北へ向かった。


そして。


マルコと出会って。


この村へ来て。


それから。


…………。


「忘れてた」


「忘れてたね~」


「忘れてましたね……」


「完全に忘れてた!」


全員。


忘れていた。


マルコが呆れた顔で俺たちを見る。


「お前ら何しにここへ来たんだよ」


「《階層守護者》探し」


「忘れてただろ」


「うん」


「堂々と言うな」


仕方ない。


色々あった。


特訓したり。


素材を集めたり。


服を着せられたり。


子供たちと遊んだり。


海へ行ったり。


魔法を作ろうとしたり。


…………。


本当に何してたんだろ俺たち。


「まあいいじゃねえか!」


ハヤテが笑う。


「誰かが倒してくれたんだし!」


「他人任せだな」


「倒されたもんは仕方ねえだろ?」


「それはそうだけど」


ハヤテがシステムウィンドウを見る。


そして。


ニッと笑った。


「第二階層か」


嫌な予感がする。


「行ってみようぜ!」


やっぱり。


「新しい場所だぞ!」


「そうですね!」


たるとも目を輝かせる。


「どんなところなんでしょう!」


「新しい素材もありそうね」


リンファ。


「新しい魔法もあるかな~」


セリア。


「第一階層より敵も強くなっているでしょうし、準備は必要だと思います」


シズク。


みんな興味はあるらしい。


俺も興味がないわけじゃない。


新しい階層。


新しい敵。


新しい場所。


少し前の俺ならすぐに向かっていたかもしれない。


「じゃあ――」


ハヤテが言いかけた。


その時。


「おお、ちょうどよかった」


聞き覚えのある声。


振り返る。


「ロウガさん?」


村長のロウガがこちらへ歩いてきていた。


手には小さな木箱を抱えている。


「どうしたんですか?」


たるとが駆け寄る。


「いやいや。少し頼みたいことがありましてのう」


「頼み?」


「うむ」


ロウガが木箱を見る。


「実はこれを届けてもらいたいんじゃ」


「届ける?」


俺たちは顔を見合わせる。


「どこに?」


「ここから少し離れたところに、もう一つ村がありましてな」


「村?」


初耳だ。


「隣村ってこと?」


「そうじゃのう。この村よりは少し大きな村じゃ」


へえ。


この辺まだ全然探索してないから知らなかった。


「そこに古い知り合いがおりましての」


ロウガが木箱を軽く叩く。


「これを届けてほしいんじゃ」


「何が入ってるんですか?」


「ちょっとした食べ物と手紙じゃよ」


なるほど。


普通のお使いだ。


「わしが行ければいいんじゃが、畑の方が少々忙しくてのう」


ロウガが申し訳なさそうに笑う。


「もし皆さんに時間があるようでしたら、お願い出来んかと思いましてな」


「もちろんです!」


たると。


即答。


「早いな」


「困ってるんですよ?」


「いや、断るつもりはないけど」


たるとはロウガから木箱を受け取る。


「私たちに任せてください!」


「ほっほっほ。助かりますのう」


ハヤテが頭を掻く。


「第二階層は?」


「別に逃げないでしょ?」


リンファが言う。


「それもそうだな!」


軽いな。


「私も行く~」


セリアが手を上げる。


「新しい村、見てみたい~」


「私もご一緒します」


シズクも頷く。


「じゃあ決まりですね!」


たるとが嬉しそうに笑う。


…………。


第二階層がたった今、解放された。


おそらく。


第一階層にいる多くのプレイヤーが第二階層へ向かおうとしているだろう。


そんな中。


俺たちはNPCのおじいちゃんのお使いで隣村へ行くことになった。


…………。


まあ。


俺たちらしいか。


「マルコさんも行きますか?」


たるとが聞く。


「俺は行かねえ」


即答。


「村の周り見てくる」


「そうですか」


「お前らだけで十分だろ」


「まあね」


六人いる。


隣村へ行くだけなら十分すぎるくらいだ。


ハヤテが二本の剣を腰へ戻す。


「よし! じゃあ行こうぜ!」


「お使いに六人必要?」


俺が聞く。


「ついでに探索すりゃいいだろ!」


「私は素材も探したいわね」


「お散歩~」


「周辺の地形も確認しておいた方がいいと思います」


「みんなで行った方が楽しいです!」


最後。


完全に理由になってない。


「じゃあ行こうか」


俺たちは隣村へ向かうことになった。


ロウガに教えてもらった道を進む。


森の中。


細い道。


時々。


魔物も現れた。


だが。


六人で戦えばそれほど苦戦する相手でもない。


「《ファイア》~!」


ボッ!


炎が飛ぶ。


魔物に直撃する。


「…………」


セリアが首を傾げた。


「どうしたの?」


「形変わらないな~って」


「まだやってたの?」


「やってるよ~」


諦めてなかったらしい。


「ガウ~」


「何?」


「今のちょっと大きくなかった~?」


「同じ」


「む~」


「戦闘中に実験しないで」


「は~い」


本当に分かってるのか?


そんなことをしながらしばらく歩くと森が開けた。


「あっ!」


たるとが声を上げる。


その先には木造の建物がいくつも並んでいた。


「着いたみたいですね!」


ロウガの村より少し大きい。


家の数も多い。


人の姿もそれなりにある。


畑。


井戸。


店らしき建物。


「へえ」


ハヤテが周囲を見る。


「こんな村あったんだな」


「知らなかった」


「まだ第一階層でも行ってない場所いっぱいありそうね」


リンファの言葉に俺は頷く。


第二階層。


その先。


まだ知らない場所。


新しい世界。


それももちろん気になる。


でも。


第一階層にだって俺たちが知らない場所はまだまだある。


「ロウガさんのお知り合いってどこにいるんでしょう?」


たるとが木箱を見る。


「確か――」


ロウガから聞いた話を思い出す。


村の奥。


大きな煙突のある建物。


そこにいるらしい。


「奥だって」


「じゃあ行きましょう!」


村の中を歩く。


その途中。


カァン!


「ん?」


音。


カァン!


カァン!


一定の間隔で金属を叩くような音が聞こえてくる。


「なんだ?」


ハヤテが音の方向を見る。


村の奥。


一本の煙突。


そこから白い煙が上がっている。


「あそこみたいですね」


俺たちは建物へ向かう。


近づくにつれ。


カァン!


カァン!


音が大きくなる。


暑い。


建物の中から熱気が漏れている。


「鍛冶屋?」


リンファが看板を見る。


そこには金床と槌の絵。


「みたいだね」


「ここにロウガさんのお知り合いがいるんですね!」


たるとが中を覗く。


「すみませーん!」


返事はない。


カァン!


カァン!


金属音だけが響く。


「聞こえてないんじゃない?」


「すみませーん!」


カァン!


「…………」


「入ってみる?」


「そうですね」


俺たちは鍛冶場の中へ入る。


一気に熱気が強くなる。


「暑っ」


炉。


赤く燃える炎。


壁には剣。


斧。


槍。


盾。


様々な武器が並んでいる。


そして。


奥に一人の男がいた。


大柄な男。


NPC。


額に汗を浮かべ。


真っ赤に熱された鉄を。


何度も。


何度も。


槌で叩いている。


カァン!


カァン!


「すみませーん!」


たるとがもう一度呼ぶ。


カァン!


男の手が止まる。


「…………あ?」


ゆっくりとこちらを見る。


鋭い目。


太い腕。


いかにも。


鍛冶職人。


そんな見た目だった。


「なんだ、お前ら」


「ロウガさんからお届け物です!」


「ロウガ?」


男の眉が動く。


「爺さんからか?」


「はい!」


たるとが木箱を差し出す。


男はそれを受け取った。


「…………ったく」


そう言いながら。


少しだけ表情が緩む。


「わざわざ届けさせやがって」


「ありがとうございます!」


「礼を言うのは俺の方だろ」


「そうでした!」


たるとが笑う。


その時。


男の視線が俺たちへ向く。


正確には俺の腰にある短刀。


そして。


クナイ。


次にハヤテの腰にある二本の剣。


さらに。


リンファの手甲。


男の眉間に皺が寄る。


「…………」


なんだろう?


男が俺とハヤテを交互に見る。


そして。


口を開いた。


「お前ら」


「何?」


「なんだ?」


男が俺たちの武器を指差す。


「随分と酷え武器使ってんな」


「…………」


「…………」


ハヤテの眉が動く。


「喧嘩売ってんのか?」


第二階層が解放された日。


俺たちは第二階層へ向かうことはなかった。


そして。


隣村の鍛冶屋で武器を馬鹿にされていた。

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