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第32話 私だけの魔法

昨日。


たるとと海で遊んだ次の日。


仕事を終えた俺はいつものように《ファンタズマ・ゲイト》へログインしていた。


現在地。


北の森にある小さな村。


最近ではすっかり見慣れた場所だ。


メニューを開き、フレンド一覧を確認する。


現在オンラインなのは。


たると。


ハヤテ。


セリア。


リンファとシズクは今日はログインしていないらしい。


さて。


今日は何をしようか。


特に予定は決めていない。


とりあえず村の中を歩いていると。


「待ってくださーい!」


「たるとお姉ちゃん! こっち!」


「今行きます!」


広場から聞き覚えのある声がする。


たるとが村の子供たちと走り回っていた。


「たるとお姉ちゃん! 早く!」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


昨日。


自分で運動音痴だと言っていたが。


…………。


まあ。


頑張って。


俺は静かに視線を逸らした。


そのまま歩いていると。


今度は別の方向から。


ガキンッ!


金属同士がぶつかる音。


「遅い!」


「うおっ!?」


「右が止まってるぞ!」


「分かってるって!」


ハヤテとマルコだ。


今日も特訓しているらしい。


ハヤテは両手に一本ずつ剣を持ち、マルコの杖を必死に捌いている。


ガキンッ!


「だから右!」


「うおおおお!?」


元気だな。


今日も平和だ。


俺はその場を離れる。


たるとは子供たち。


ハヤテとマルコは特訓。


となると。


「…………セリアは?」


オンラインにはなっている。


だが。


姿を見ていない。


数日前に風邪を引いたと言っていた。


『風邪引いた~』


『お大事に』


『ありがと~』


そんなやり取りをしたのを思い出す。


まだ治ってないのか?


少し気になって広場へ戻る。


「たると」


「あっ、ガウ!」


子供たちに囲まれていたたるとがこちらを見る。


昨日から俺のことガウと呼ぶようになった。


まだ少しだけ変な感じがする。


「セリア知らない?」


「セリアさんですか?」


「うん。オンラインだけど見かけないから」


「それなら家にいますよ!」


「家?」


俺たちが使わせてもらっている空き家。


最近では集まったり。


話したり。


休憩したり。


すっかり俺たちの溜まり場みたいになっている。


「まだ具合悪いの?」


「もう大丈夫みたいですよ。ただ、今日はゆっくりするって言ってました」


「そっか」


なら少し様子を見に行くか。


「ありがとうございます!」


「何が?」


「セリアさんのお見舞いです!」


「いや、別にお見舞いってわけじゃ――」


「たるとお姉ちゃん!」


「はーい!」


行ってしまった。


…………まあいいか。


俺は家へ向かった。


少し歩いて。


見慣れた木造の家に到着する。


コンコン。


扉を叩く。


「セリア?」


「いるよ~」


いつもの声。


少なくとも声を聞く限り元気そうだ。


扉を開ける。


「入るよ」


「どうぞ~」


中へ入る。


そして。


「…………何してんの?」


「ゆっくりしてる~」


「見れば分かる」


セリアは椅子に深く座り。


完全に脱力していた。


「風邪は?」


「もう大丈夫だよ~」


「本当に?」


「うん~」


セリアが笑う。


「昨日いっぱい寝たから~」


「ならいいけど」


顔色。


というものがゲーム内でどこまで再現されているのかは知らないが。


普段と変わらないようには見える。


「ガウ~」


「何?」


「心配してくれた~?」


「まあ、少し」


「優しいね~」


「普通でしょ」


「ふふ~」


なんだ。


その笑い方。


俺は近くの椅子に座る。


「今日は何もしないの?」


「今日はのんびりする~」


「ゲームにログインしてまで?」


「ゲームだからだよ~」


「…………なるほど?」


分かるような。


分からないような。


セリアがこちらを見る。


「ガウは~?」


「俺?」


「今日は何するの~?」


「特に決めてない」


「じゃあ一緒だね~」


「一緒なの?」


「暇人仲間~」


「嫌な仲間だな」


セリアが笑う。


しばらく。


何をするでもなく。


二人で座っていた。


外からは子供たちの声。


遠くからは金属音。


時々。


マルコの怒鳴り声。


…………。


本当に何もしてないな。


でも。


こういうのも悪くない。


「そういえば」


俺はセリアを見る。


「昨日、バイトは?」


「休んだよ~」


「休めたんだ」


「うん~。代わってもらった~」


「何のバイトしてるの?」


バイトをしていることは聞いていたが何をしているのかまでは知らない。


「カフェだよ~」


「カフェ?」


「うん~」


うん。


似合うかも。


「いらっしゃいませ~って?」


「そんな感じ~」


「その喋り方で?」


「ちゃんと働いてるよ~?」


「本当に?」


「失礼だな~」


全然怒っているように聞こえない。


「大学も行ってるんだっけ?」


「行ってるよ~」


「大学行って、バイトして、ゲームして」


「うん~」


「結構忙しくない?」


「そうかな~?」


セリアは首を傾げる。


「楽しいから大丈夫~」


「へえ」


「ガウは働いてたよね~?」


「うん」


「何歳なの~?」


「十九」


「十九歳~?」


「そうだけど」


セリアが少し驚いた顔をする。


「若いね~」


「一歳しか違わないでしょ」


「うん~」


「じゃあ私がお姉さんだね~」


「…………」


「ガウ~?」


「何?」


「お姉さんって呼んでもいいよ~?」


「絶対呼ばない」


「え~」


何が楽しいんだろ。


セリアは笑っている。


それから。


また少し。


くだらない話をした。


大学のこと。


バイトのこと。


ゲームのこと。


本当にどうでもいい話。


その途中。


「そうだ~」


セリアが突然声を上げた。


「何?」


「ガウ~」


「うん」


「魔法って作れないのかな~?」


「…………何?」


突然。


話が飛んだ。


「魔法~」


「それは分かるけど」


セリアがメニューを開く。


何かを操作して。


「昨日ね~」


「うん」


「寝る前に魔法のこと考えてたの~」


「風邪引いてるなら寝なよ」


「ちゃんと寝たよ~」


「ならいいけど」


「それでね~」


セリアが手を前に出す。


「《ファイア》」


ボッ。


小さな炎が現れる。


「《サンダー》」


バチッ。


今度は小さな雷。


初級魔法だ。


「これが?」


「うん~」


セリアは自分の手を見る。


「《ファイア》って使ったら炎が出て~」


「うん」


「《サンダー》って使ったら雷が出る~」


「そうだね」


「でも~」


セリアが首を傾げた。


「それだけなんだよね~」


「…………?」


それ以外に何があるんだ。


「魔法なんだから、それでいいんじゃない?」


「そうなんだけど~」


セリアは少し考える。


そして。


「自分で作れたらもっと面白くない~?」


「魔法を?」


「うん~」


「…………作れるの?」


「分かんない~」


「分かんないの?」


「うん~」


「じゃあ無理なんじゃない?」


「やってみないと分かんないよ~」


「いや、ゲームだからね?」


現実ならまだ分かる。


試して。


失敗して。


そこから何かを作る。


でも。


これはゲームだ。


魔法はスキルとして用意されている。


決められた魔法を習得して。


決められた効果を発動する。


そういうものだと思う。


「スキル一覧にないなら無理じゃない?」


「そうかな~」


「多分」


「じゃあ試してみよ~」


「話聞いてた?」


セリアが立ち上がる。


さっきまであれだけ脱力していたのに。


「外行こ~」


「今から?」


「うん~」


「ゆっくりするんじゃなかったの?」


「気が変わった~」


自由だな。


セリアは先に外へ出ていく。


俺も仕方なく後を追った。


村から少し離れた場所。


周囲に人がいないことを確認する。


「ここならいいかな~」


「何するの?」


「まず~」


セリアが手を前に出す。


「《ファイア》」


ボッ!


炎が飛ぶ。


地面へ当たり。


消える。


いつも通り。


「これを~」


セリアが考える。


「丸くしてみる~」


「今のも丸くなかった?」


「もっと丸く~」


「どうやって?」


「気合い~?」


「知らないよ」


もう一度。


「《ファイア》」


ボッ!


飛ぶ。


消える。


「…………」


「どう?」


「同じだね~」


「だろうね」


「じゃあ次~」


まだやるらしい。


「小さくしてみる~」


《ファイア》。


ボッ!


「変わった?」


「変わってない」


「じゃあ大きく~」


ボッ!


「同じ」


「手元に残す~」


ボッ!


「飛んだ」


「二つ出す~」


ボッ!


「一個」


「む~」


セリアが頬を膨らませる。


やっぱり。


スキルとして設定されている以上。


自由に変えることは出来ないらしい。


「無理なんじゃない?」


「ん~」


セリアが手を見る。


「出来ないね~」


「うん」


「じゃあ、出来る方法探そ~」


「諦めないの?」


「なんで~?」


不思議そうに聞かれた。


「出来なかったから」


「今はね~」


「今は?」


「うん~」


セリアが笑う。


「今出来ないなら、出来るようになる方法を探せばいいんだよ~」


「…………」


なんか。


シズクとは全然違う。


ハヤテとも。


リンファとも。


もちろん。


俺とも違う。


出来ないなら。


普通は諦めるか。


別の方法を探す。


でも。


セリアは出来ないものそのものを出来るようにしようとしている。


「なんでそんなに作りたいの?」


俺が聞くとセリアは少し考えた。


「ん~」


しばらく考えて。


「楽しそうだから~」


「それだけ?」


「うん~」


即答だった。


「だって~」


セリアが両手を広げる。


「誰かが用意した魔法を使うのも楽しいけど~」


そして。


笑った。


「誰も見たことない魔法を自分で作れたらもっと楽しいでしょ~?」


「…………」


なるほど。


セリアらしい。


理由なんてそれだけでいいのかもしれない。


「ガウは~?」


「何?」


「ガウはこのゲームでやりたいことないの~?」


「俺?」


「うん~」


昨日。


似たようなことを考えた。


俺がこのゲームでやりたいこと。


もう答えは出ている。


「…………あるよ」


「なに~?」


「言わない」


「え~」


「言わない」


「教えてよ~」


「嫌だ」


恥ずかしくて本人たちに言えるわけがない。


セリアが頬を膨らませる。


「ケチ~」


「じゃあ~」


セリアが再び手を前に出す。


「私が魔法作れたら教えて~」


「なんでそうなるの?」


「約束~」


「してない」


「じゃあ作ろ~」


「話聞いてる?」


セリアは笑う。


そして。


「《ファイア》」


ボッ!


また。


同じ炎が飛んでいく。


何も変わらない。


「もう一回~」


「まだやるの?」


「もちろん~」


「今日はゆっくりするんじゃなかったの?」


「これが終わったら~」


「いつ終わるの?」


「出来るまで~?」


「終わらないじゃん」


「ふふ~」


ボッ!


また炎が飛ぶ。


俺はそれを眺める。


「…………セリア」


「なに~?」


「さっきより少し右に飛んでない?」


「え~?」


「いや。気のせいかもしれないけど」


「じゃあ、もう一回やってみよ~」


「うん」


…………。


あれ?


なんで俺まで少し楽しくなってるんだ?


「《ファイア》」


ボッ!


「今のは?」


「さっきと同じ」


「む~」


「もう一回」


「うん~!」


いつか。


セリアが本当に誰も見たことのない魔法を作れるのか今の俺には分からない。


そんな機能があるのかすら知らない。


でも。


出来ないことを楽しそうに試し続けるセリアを見ていると。


もしかしたら。


なんて。


少しだけ思ってしまう。


「ガウ~!」


「何?」


「次は《サンダー》でやってみよ~!」


「まだやるの?」


「やる~!」


「…………分かったよ」


結局。


俺たちはしばらく何の意味があるのかも分からない魔法の実験を続けた。


昨日。


俺が見つけた。


このゲームでやりたいこと。


たるとたちと一緒にくだらない日々を過ごす。


…………。


早速。


叶っている気がした。

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