第29話 手甲
土曜日の昼。
村の外。
森から少し離れた開けた場所。
「ガウ! 下がるな!」
「下がってない」
「下がってる!」
「避けてるだけ」
「同じだ!」
「ハヤテ! 左を振るな!」
「今のは使うところだろ!」
「違う!」
「なんでだよ!」
「…………」
マルコ。
今日も大変そう。
「ガウ!」
「何?」
「他人事みたいな顔すんな!」
「してない」
「してる!」
俺とハヤテはマルコに特訓をつけてもらっていた。
「もう一回だ!」
「おう!」
「…………」
ハヤテは今日も元気だ。
二本の剣を構える。
俺も短刀を構える。
左手にクナイ。
マルコは杖。
「来い」
「行くぞ!」
ハヤテが飛び出す。
右。
剣を振る。
ガンッ!
杖に止められる。
ハヤテが左の剣を動かす。
「左を振るな!」
「まだ振ってない!」
「振ろうとしただろ!」
「なんで分かるんだよ!」
「見りゃ分かる!」
その隙に俺も走る。
マルコの横へ。
クナイを投げる。
ヒュッ!
「…………」
マルコが身体をずらす。
クナイが通り過ぎる。
そのまま踏み込む。
短刀を振る。
ガンッ!
杖で止められた。
「遅い」
「…………」
足を払われる。
「わっ」
身体が浮く。
そのまま地面へ。
ドサッ。
「痛っ」
「ガウ!」
ハヤテが来る。
マルコが杖を振る。
「うおっ!」
吹き飛ぶ。
ドサッ。
俺の隣。
「…………」
「…………」
二人で空を見る。
青い。
「もう一回!」
ハヤテが起きる。
「元気だね」
「ガウも立て!」
「今立つ」
身体を起こす。
「お前らな」
マルコが杖を肩に乗せる。
「攻撃することばっかり考えんな」
「でも攻撃しないと倒せないだろ?」
「そういう話じゃねえ」
「じゃあどういう話だ?」
「…………」
マルコが頭を押さえる。
「ハヤテ」
「おう!」
「お前は二本あるからって毎回両方振ろうとするな」
「分かってる!」
「分かってねえから言ってんだ!」
「…………」
『二刀流の極意を掴んだ!』
あの時もこんな感じだったのかな。
「ガウ」
「何?」
「お前は避けることばっかり考えんな」
「当たらなければいいって」
「それは攻撃出来る奴が言う台詞だ」
「攻撃してる」
「クナイ投げただけだろ」
「短刀も振った」
「全部止められただろ」
「…………」
確かに。
「速く動けるようになったからって、逃げ回るだけじゃ意味ねえぞ」
「逃げてない」
「避けてる?」
「うん」
「…………」
マルコがため息を吐く。
「頑固だな、お前」
「そう?」
「自覚ねえのか」
「うん」
「…………」
その時。
「何してるの?」
声。
振り返るとリンファが立っていた。
「特訓」
「見れば分かるわ」
「…………」
じゃあなんで聞いたんだろ。
リンファが近づいてくる。
今日ログインしているのは。
俺。
ハヤテ。
リンファ。
たると。
マルコの五人。
シズクは専門学校の課題が忙しいらしい。
セリアはアルバイト。
今日はログイン出来ないと言っていた。
たるとは村の中。
ロウガたちの手伝いをしている。
何を手伝っているのかは知らない。
畑かな。
「二人とも随分楽しそうね」
「楽しいぞ!」
「疲れる」
「ガウも楽しいって言え!」
「疲れる」
「なんでだよ!」
リンファが笑う。
「マルコに教えてもらってるの?」
「ああ!」
「二刀流?」
「おう!」
ハヤテが二本の剣を持ち上げる。
「少しずつ分かってきたぞ!」
「一本の方が強いけどな」
「言うな!」
「…………」
本当に?
「ガウは?」
「俺も特訓」
「何の?」
「短刀とクナイ」
「そう」
リンファが少し考える。
「…………」
腰にある短刀に手をかける。
「私も混ざっていいかしら?」
「いいんじゃない?」
マルコを見る。
「別に構わねえぞ」
「じゃあ、お願いするわね」
「おう!」
「なんでハヤテが返事するの?」
「いいだろ!」
「まあいいけど」
リンファが短刀を抜く。
「まず俺とやるか」
「分かったわ」
俺とハヤテが少し離れる。
マルコとリンファ。
二人が向かい合う。
「好きに攻撃してこい」
「いいの?」
「ああ」
「じゃあ遠慮なく」
リンファが構える。
リンファが腰を落とす。
「…………」
マルコが杖を構える。
「来い」
「ええ」
リンファが踏み込む。
速い。
短刀。
横。
ガンッ!
マルコが杖で受ける。
リンファが引く。
すぐに横へ。
また踏み込む。
突き。
マルコが身体をずらす。
杖。
リンファの肩へ。
「…………!」
リンファが足を動かす。
身体を捻る。
避ける。
そのままマルコの横へ。
短刀を振る。
ガンッ!
また止められる。
「…………」
「…………」
マルコがリンファを見る。
リンファは距離を取る。
また踏み込む。
右。
左。
前。
一度下がる。
すぐに角度を変える。
短刀。
マルコが受ける。
ガンッ!
「…………」
マルコの目がリンファの足を見る。
「リンファ」
「何?」
「止まれ」
「…………?」
リンファが止まる。
「どうしたの?」
「お前」
マルコが杖を下ろす。
「何かやってたか?」
「何か?」
「ああ」
「何の話?」
「その足さばきだ」
「…………」
リンファが自分の足を見る。
「足?」
「ああ」
「…………」
少し考える。
「ああ」
何か思い出したように頷く。
「学生の頃に中国拳法を少しね」
「中国拳法?」
ハヤテが反応する。
「ええ」
「すげえ!」
「かじった程度よ」
「どれくらいやってたんだ?」
マルコが聞く。
「そんなに長くないわ」
「今は?」
「やってないわね」
「そうか」
マルコがリンファを見る。
足。
腰。
短刀。
「…………」
「何?」
「リンファ」
「ええ」
「短刀しまえ」
「…………?」
リンファが短刀を見る。
「どうして?」
「いいから」
「…………」
リンファが短刀を鞘へ戻す。
「これでいい?」
「ああ」
マルコがメニューを開く。
アイテム。
何かを選ぶ。
光。
その手に装備が現れた。
「…………」
手甲。
両手に装備するタイプ。
金属で出来たシンプルなもの。
マルコがリンファへ差し出す。
「これ使ってみろ」
「手甲……かしら?」
「ああ」
リンファが受け取る。
「…………」
少し眺める。
「これ、もらっていいの?」
「ああ」
「でも」
「余ってたドロップ品だ」
「…………」
「使わないから持ってても意味ない」
マルコが言う。
「遠慮なく受け取れ」
「…………そう」
リンファが少し笑う。
「ありがとう」
「ああ」
「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうわ」
装備を変更する。
両手に手甲。
リンファが拳を握る。
開く。
また握る。
「…………」
その場で軽く動く。
右足。
左足。
腰。
拳。
「どうだ?」
「悪くないわね」
「構えてみろ」
「ええ」
リンファが構える。
「…………」
さっきと違う。
短刀を持っていた時より自然に見える。
「リンファ」
「何?」
「そっちの方が似合ってる」
「そう?」
「うん」
「俺もそう思うぞ!」
「ハヤテは黙ってろ」
「なんでだよ!」
リンファが笑う。
「私も」
手甲を見る。
「こっちの方がしっくりくるかもしれないわ」
「やってみろ」
マルコが杖を構える。
「ええ」
リンファが構える。
さっきより低い。
「行くわよ」
「ああ」
踏み込む。
「…………!」
速い。
拳。
マルコの杖。
ガンッ!
受けられる。
リンファは止まらない。
身体を捻る。
掌。
マルコが下がる。
さらに。
足。
蹴り。
マルコが杖で受ける。
ガンッ!
リンファが踏み込む。
拳。
避けられる。
すぐに引く。
「…………」
動きが違う。
短刀の時よりずっと滑らか。
マルコが杖を振る。
リンファ。
一歩。
横。
避ける。
距離を詰める。
掌底。
「…………!」
マルコが杖を挟む。
ガンッ!
止まる。
「そこまで」
「…………」
リンファが止まる。
「どう?」
「やっぱりな」
「何が?」
「短刀がお前の動きを邪魔してた」
「邪魔?」
「ああ」
マルコが杖を肩へ。
「短刀を使おうとして、身体の動きを武器に合わせてたんだろ」
「…………」
「今の方が自然に動けてるように見える」
リンファが手甲を見て、拳を握る。
「そうね」
「…………」
「確かに」
もう一度。
構える。
「身体が動かしやすいわ」
「昔やってた動きが残ってんだろ」
「かもしれないわね」
「いいな!」
ハヤテが近づいてくる。
「拳法!」
「そんなに凄いものじゃないわよ」
「でもかっこいいだろ!」
「…………」
リンファが俺を見る。
「ハヤテは何でもかっこいいで決めるの?」
「そうかも」
「おい!」
「二刀流もかっこいいからだし」
「かっこいいだろ!」
「うん」
「ならいいじゃねえか!」
「…………」
今日も単純だった。
俺もリンファの手甲を見る。
「俺も素手やってみようかな」
「やめとけ」
即答。
マルコ。
「なんで?」
「お前はまず短刀とクナイをまともに使え」
「使えてる」
「まだだ」
「…………」
「それに」
マルコが俺を見る。
「お前、耐久にポイント振ってねえんだろ?」
「うん」
「殴り合いに向いてない」
「…………」
確かに。
「でも避ければ――」
「殴り合いの話をしてんだ!」
「…………」
怒られた。
「リンファ」
「何?」
「もう一回やるぞ」
「ええ」
リンファが構える。
手甲。
拳。
「もう少し、これでやってみようかしら」
「その方がいい」
「マルコが言うならそうしてみるわ」
「自分で決めろ」
「ふふ」
リンファが笑う。
「分かってるわよ」
「ならいい」
マルコも杖を構える。
「来い」
「ええ」
リンファが踏み込む。
拳。
掌。
蹴り。
俺たちの特訓はまだまだ続くのだった。
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