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第28話 私のやりたいこと

『ガウお姉ちゃん!』


『こっち!』


『次は鬼ごっこ!』


『また?』


『早く!』


『…………分かったよ』


走る。


追いかける。


逃げられる。


捕まえる。


『ガウお姉ちゃん速い!』


『もう一回!』


『…………』


もう一回。


それから。


鬼ごっこ。


かくれんぼ。


また鬼ごっこ。


『ガウお姉ちゃん!』


『なに?』


『明日も遊ぼ!』


『…………うん』


――そんな感じで。


昨日に続いて。


今日も子供たちと遊んでいた。


「…………」


疲れた。


子供の体力。


凄い。


辺りはもう暗くなっている。


子供たちもそれぞれの家へ帰っていった。


「…………」


俺も戻ろう。


今日ログインしているのは。


俺。


マルコ。


シズク。


三人だけ。


マルコは少し前に森へ向かった。


『ちょっと見回ってくる』


そう言って、一人で森の中へ。


村の周りをパトロールするらしい。


最近は何も起きていない。


それでも定期的に見回っているみたいだ。


「…………」


真面目だな。


俺は村の中を歩く。


俺たちが使わせてもらっている家。


明かりがついていた。


シズクがいるはず。


扉の前まで行く。


開ける。


ガチャ。


「ただいま」


「…………」


返事がない。


「…………?」


中を見る。


シズクがいた。


椅子に座っている。


目の前にはメニュー画面。


腕を組んでじっと見ている。


「…………」


「…………」


真剣。


俺が入ってきたことにも気づいていない。


「シズク?」


「…………」


「シズク」


「……はい?」


やっと気づいた。


「おかえりなさい」


「真剣な顔してどうしたの?」


「考えています」


「何を?」


「スキルポイントの割り振りです」


「…………」


スキルポイント。


レベルが上がった時などに獲得出来るポイント。


割り振ることで。


能力を上げたり。


スキルを強化したり出来る。


「ずっと考えてたの?」


「はい」


「どれくらい?」


「一時間ほどです」


「…………」


結構長いな。


「決まらないの?」


「決まりません」


シズクがメニューを見る。


「攻撃系に割り振るべきか」


指を動かす。


「防御系を伸ばすべきか」


また動かす。


「補助系も便利そうですし……」


「…………」


悩んでる。


「ガウならどうしますか?」


「わた……俺?」


「はい」


「…………」


そういえば俺もポイントが残ってた気がする。


メニューを開く。


ステータス。


スキルポイント。


「…………」


やっぱり残っていた。


「ガウも割り振っていなかったのですか?」


「忘れてた」


「忘れていたのですか……」


「うん」


さて。


どうするか。


「…………」


スピード。


技量。


半分ずつ。


決定。


「終わった」


「…………」


シズクが俺を見る。


「何?」


「早くないですか?」


「そう?」


「何に割り振ったのですか?」


「スピードと技量」


「それだけですか?」


「うん」


「攻撃力は?」


「今後、少し上げる予定」


「耐久力は?」


「いらないかな」


「…………」


シズクが黙る。


「大丈夫なのですか?」


「何が?」


「攻撃を受けた時です」


「受けなければいいじゃん」


「…………」


「避ければいいし」


「…………」


何とも言えない顔をされた。


「極端ですね」


「そう?」


「はい」


「でも、最初からこれにするつもりだったし」


「迷わなかったのですか?」


「うん」


「…………」


シズクが自分のメニューを見る。


そして。


俺を見る。


「どうしてですか?」


「何が?」


「どうして、そんなに迷わず決められるのですか?」


「…………」


なんでだろ。


「やりたいことが決まってるから?」


「やりたいこと……」


「速く動きたいし」


「はい」


「色々出来た方が面白そうだし」


クナイ。


短刀。


これから他の武器も使うかもしれない。


速く動けて。


色々扱える。


その方がいい。


「強さは考えないのですか?」


「考えてるよ」


「そうなのですか?」


「…………」


なんだと思われてるんだろ。


「でも」


「はい」


「ゲームなんだから、好きなのでいいんじゃない?」


「好きなもの……」


「うん」


「…………」


シズクがメニューを見る。


攻撃。


防御。


補助。


何度も見比べる。


「分かりません」


「何が?」


「私が何をしたいのかです」


「…………」


シズクが小さく息を吐く。


「攻撃魔法が使えれば、敵を倒すことが出来ます」


「うん」


「防御魔法なら攻撃を防ぐことが出来ます」


「うん」


「補助系なら戦闘を有利に出来ます」


「うん」


「どれも必要に思えてしまいます」


「全部取れば?」


「ポイントが足りません」


「それもそっか」


「はい」


「…………」


難しい。


俺なら好きなのを取る。


それだけ。


でも。


シズクはそれが分からないらしい。


「シズクって」


「はい」


「現実だと学生だったよね?」


「そうですね」


「大学?」


「いえ」


シズクが首を横に振る。


「看護師の専門学校に通っています」


「看護師」


「はい」


「何年?」


「一年生です」


「じゃあ十八?」


「はい。今年で十九歳になります」


「へえ」


「…………」


「…………」


「何ですか?」


「シズクっぽい」


「どういう意味ですか?」


「なんとなく」


「なんとなく……」


シズクが少し困った顔をする。


「看護師になりたいんだ?」


「はい」


「昔から?」


「そうですね」


シズクが少し考える。


「昔から……というほどではありませんが」


「うん」


「進路を考えるようになった頃には、看護師になろうと決めていました」


「なんで?」


「…………」


シズクが黙る。


少しだけ考えてから口を開く。


「誰かが困っている時に」


「うん」


「何も出来ないのが嫌……だからです」


「…………」


「体調が悪そうな人がいても、どうすればいいのか分からない」


「うん」


「怪我をしている人がいても、何をすればいいのか分からない」


シズクが自分の手を見る。


「そういう時に」


「…………」


「何か出来る人になりたいと思いました」


「だから看護師?」


「はい」


「…………」


なるほど。


「まだ一年生ですので勉強することばかりです」


「大変?」


「大変ですね」


「ゲームする暇あるの?」


「毎日は無理です」


「やっぱり」


「課題もありますので」


「大変だ」


「ですが」


シズクが少し笑う。


「遊べる時は遊びたいです」


「うん」


それは分かる。


仕事が終わった後。


ゲームをする。


休みの日。


ゲームをする。


遊べる時に遊ぶ。


「…………」


「ガウ?」


「ん?」


「どうしました?」


「いや」


シズクのメニューを見る。


防御系。


《シールド》。


今まで何度か助けられた。


俺やハヤテが前で戦っている時。


危ない攻撃を防いでくれた。


「シズク」


「はい」


「《シールド》使ってる時ってどう?」


「どう、とは?」


「楽しい?」


「…………」


シズクが考える。


「楽しいかどうかは……」


「じゃあ」


少し考える。


「嬉しい?」


「嬉しい……?」


「うん」


「…………」


シズクが黙る。


しばらくして。


「そうですね」


小さく頷いた。


「攻撃を防げた時は」


「うん」


「安心します」


「安心?」


「はい」


「…………」


「ガウやハヤテが前で戦っている時も」


シズクが続ける。


「攻撃が来ると危ないと思います」


「うん」


「ですが、それを《シールド》で防げた時は」


「…………」


「良かったと思います」


「そっか」


「はい」


「じゃあ、それじゃない?」


「…………?」


シズクが俺を見る。


「何がですか?」


「シズクのやりたいこと」


「私の……」


「うん」


「やりたいこと……」


シズクがメニューを見る。


「…………」


攻撃。


防御。


補助。


その中の。


防御。


《シールド》。


「現実とゲームは違うと思っていました」


「違うんじゃない?」


「そうですね」


「うん」


「ですが」


シズクが少し笑う。


「私自身は、あまり変わらないみたいです」


「そう?」


「はい」


「…………」


シズクが指を動かす。


防御系の項目を開く。


《シールド》。


その強化項目。


「決めました」


「決まった?」


「はい」


「何にするの?」


「防御系を伸ばします」


「そっか」


「はい」


シズクがポイントを割り振る。


決定。


「…………」


メニューを閉じた。


さっきまで。


一時間も悩んでいたのに。


今は迷わなかった。


「ありがとうございます」


「俺?」


「はい」


「何かした?」


「しました」


「そう?」


「はい」


「…………」


何したんだろ。


ガチャ。


「戻ったぞ」


扉が開く。


マルコ。


「おかえり」


「おかえりなさい」


「ああ」


マルコが中へ入る。


「森は?」


「異常なし」


「そっか」


「何してたんだ?」


「スキルポイントの割り振りです」


「決まったのか?」


「はい」


「そうか」


「…………」


それだけ。


マルコは椅子に座る。


「ガウは?」


「俺も振った」


「何に?」


「スピードと技量」


「…………」


マルコが俺を見る。


「何?」


「極端だな」


「シズクにも言われた」


「耐久は?」


「いらない」


「攻撃は?」


「少し上げる予定」


「…………」


「当たらなければいい」


「そう簡単にいくか?」


「避ける」


「…………」


マルコがため息を吐く。


「好きにしろ」


「そうする」


「もうしてるだろ」


「うん」


「…………」


シズクが小さく笑った。


「何?」


「いえ」


「…………」


まあ。


いいか。


ゲームなんだから。


好きなように。


自分がやりたいように遊べばいい。


俺は改めてそう思った。

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