第26話 二刀流
村の外れ。
森の近くにある開けた場所。
「よし!」
ハヤテが二本の剣を抜く。
右手に一本。
左手に一本。
「今日こそ二刀流をものにする!」
「無理だ」
「なんで!?」
正面。
マルコが杖を肩に担いでいる。
「一日で出来ると思うな」
「やってみないと分からないだろ!」
「分かる」
「なんでだよ!」
マルコはため息をつく。
「とりあえず」
杖を構える。
「好きに攻めてこい」
「おう!」
ハヤテが地面を蹴る。
一気に距離を詰める。
右。
振る。
ガンッ!
マルコの杖に止められる。
すぐに左。
ギィン!
これも止められる。
右。
左。
右。
左。
二本の剣を次々と振るう。
ガン!
ギン!
ガッ!
「おらぁ!」
右の剣を振り下ろす。
マルコが杖で受ける。
左。
横から斬る。
マルコは身体を引いてかわす。
「まだまだ!」
さらに踏み込む。
右。
マルコが受ける。
左。
受ける。
右。
受ける。
「…………」
マルコの目が細くなる。
ハヤテが左の剣を振った。
その瞬間。
杖が動く。
ガッ!
「うおっ!?」
剣を弾かれて身体が開く。
「隙だらけだ」
ドンッ!
杖が腹に当たる。
「ぐっ!」
ハヤテが後ろへ吹き飛ぶ。
地面を転がる。
「いってぇ……」
「立て」
「分かってる!」
すぐに起き上がる。
二本の剣を構える。
「もう一回!」
「来い」
走る。
右。
左。
右。
左。
ガン!
ギィン!
ガッ!
また。
杖に止められる。
「くそっ!」
さらに速く。
右。
左。
右。
左。
マルコはほとんどその場から動かない。
杖一本。
それだけで全部防がれる。
そして。
ガッ!
「うおっ!?」
ドンッ!
また吹き飛ばされた。
「…………」
立ち上がる。
「もう一回!」
「来い」
再び。
だが。
結果は同じ。
「ぐあっ!」
吹き飛ぶ。
地面を転がる。
止まる。
「…………」
ハヤテが空を見る。
「強ぇ……」
「お前が雑なんだ」
「なんだと!?」
勢いよく起き上がる。
「もう一回!」
「待て」
「なんだ?」
マルコがハヤテを見る。
「…………」
「どうした?」
「ハヤテ」
「ん?」
「一本でやってみろ」
「…………」
ハヤテが二本の剣を見る。
マルコを見る。
「一本?」
「ああ」
「二刀流の特訓だぞ?」
「分かってる」
「なのに一本?」
「一本だ」
「…………」
意味が分からない。
だが。
言われた通りに左手の剣を鞘へ戻す。
右手に一本。
「これでいいのか?」
「ああ」
マルコが杖を構える。
「来い」
「おう!」
ハヤテが踏み込む。
剣を振る。
ガンッ!!
「…………!」
マルコの杖が止める。
さっきまでとは違う。
重い。
ハヤテはそのまま踏み込む。
「おらっ!」
剣を引く。
斬る。
ギィン!
受けられる。
すぐに身体を動かす。
マルコの横へ。
剣を振る。
マルコが杖を合わせる。
ガッ!
「…………」
ハヤテが踏み込む。
斬る。
受けられる。
離れる。
また踏み込む。
「おらぁ!」
ガン!
ギン!
ガッ!
さっきまでより速い。
そして無駄がない。
足が動く。
身体が動く。
剣が動く。
考えるより先に身体が勝手に動いている。
マルコが杖を振る。
ハヤテは身体を逸らす。
目の前を杖が通り過ぎる。
すぐに踏み込む。
「そこ!」
剣を振る。
「っ!」
マルコが杖を戻す。
ガンッ!
剣と杖がぶつかる。
「おらっ!」
もう一撃。
マルコが受ける。
さらに。
もう一撃。
ガン!
ギィン!
ガッ!
「…………」
マルコの表情が変わる。
さっきまではほとんど動かなかった。
今は違う。
ハヤテの攻撃に合わせて足を動かしている。
一歩。
二歩。
後ろへ。
「おお!」
ハヤテが笑う。
「いける!」
さらに踏み込む。
「止まれ」
「おう!」
ピタッ。
ハヤテが止まる。
「…………」
マルコが杖を下ろす。
「どうした?」
「…………」
「マルコ?」
「お前」
「うん?」
「一本の方が強いぞ」
「…………」
「…………」
風が吹く。
「え?」
「圧倒的にな」
「…………」
ハヤテが自分の剣を見る。
左腰。
もう一本を見る。
マルコを見る。
「いやいやいや!」
「なんだ」
「俺は二刀流をやりたいんだぞ!」
「知ってる」
「じゃあなんで一本の方が強いんだよ!?」
「俺に聞くな」
「教えてくれよ!」
「だから今から教えるんだろうが」
「…………」
マルコが杖でハヤテの剣を指す。
「お前、剣を習ってたのか?」
「剣道ならやってたぞ」
「なるほどな」
マルコが頷く。
「だからか」
「何が?」
「一本の時は動きに無駄が少ない」
「おお!」
褒められた。
「でも二本持った瞬間、全部崩れる」
「…………」
褒められてなかった。
「なんでだよ」
「お前」
マルコがハヤテを見る。
「二本持ったら、二本とも使わなきゃいけないと思ってるだろ」
「当たり前だろ」
「それだ」
「どれだ?」
「それが駄目なんだよ」
「なんで!?」
「二刀流だからって、二本とも振り回す必要はない」
「…………」
ハヤテが二本目の剣を抜く。
両手。
「でも」
右を見る。
左を見る。
「二本あるぞ?」
「見れば分かる」
「二本あるなら二本使うだろ」
「だから使い方の話をしてんだ」
マルコが頭を掻く。
「いいか」
杖を構える。
「右だけで斬れ」
「おう」
「左は動かすな」
「二刀流なのに?」
「いいからやれ」
「分かった!」
ハヤテが踏み込む。
右。
斬る。
ガンッ!
マルコが受ける。
もう一度。
右。
ギンッ!
さらに。
右。
ガッ!
「止まれ」
ハヤテが止まる。
「今のだ」
「何が?」
「今のは悪くなかった」
「おお!」
ハヤテが左手を見る。
「じゃあ左も――」
「動かすな」
「なんで!?」
「動かした途端に崩れるからだ!」
「まだ動かしてないだろ!」
「どうせ動かす!」
「分からないだろ!」
「分かる!」
「なんでだよ!」
マルコがため息をつく。
「次」
杖を構える。
「俺が攻撃する」
「おう!」
「左で受けろ」
「左?」
「ああ」
マルコが踏み込む。
杖を振る。
ハヤテが左の剣を出す。
ガンッ!
受ける。
「おっ」
「右!」
「おう!」
右の剣を振る。
マルコが後ろへ下がる。
「もう一回!」
「来い!」
マルコが攻撃。
左。
受ける。
右。
斬る。
ガン!
左。
受ける。
右。
斬る。
ギィン!
何度も繰り返す。
「…………」
ハヤテの動きが少しずつ変わる。
左で受ける。
右で攻撃。
右で受ける。
左で攻撃。
片方を振っている時。
もう片方を無理に振らない。
「なるほど!」
「やっと分かったか」
「二本で攻撃するんじゃないんだな!」
「攻撃してもいい」
「どっちだよ!」
「必要なら二本とも使え。必要ないなら使うな」
「…………」
マルコが杖を肩に担ぐ。
「二本あるから出来ることを考えろ」
「二本あるから出来ること……」
「攻撃するだけが二刀流じゃない」
受ける。
逸らす。
押さえる。
相手の武器を邪魔する。
片方を使って。
もう片方を通す。
「…………」
ハヤテが二本の剣を見る。
「面白いな!」
「…………」
マルコが少し笑う。
「もう一回やるぞ」
「おう!」
二人が構える。
「今度は好きに来い」
「分かった!」
ハヤテが走る。
右。
斬る。
マルコが杖で受ける。
ガンッ!
いつもなら。
ここで左を振る。
でも。
振らない。
「…………」
見る。
マルコの杖。
右の剣を受けている。
左。
剣を動かす。
斬らない。
杖に当てる。
ガッ!
「っ!」
押す。
マルコの杖が僅かに逸れる。
「今だ!」
右。
剣を振る。
マルコが身体を引く。
剣先が服の前を通り過ぎる。
「くそっ!」
外した。
だが。
「…………」
マルコが距離を取る。
ハヤテを見る。
「どうだ!」
「…………」
「マルコ!」
「悪くない」
「だろ!?」
ハヤテが笑う。
「分かってきた!」
「ああ」
マルコが頷く。
「一本の時の方がまだ強いけどな」
「言うな!」
「事実だ」
「これから強くなるんだよ!」
「そうか」
「そうだ!」
マルコが少し考える。
「ハヤテ」
「なんだ?」
「一本で戦う気は?」
「ない!」
「即答か」
「二刀流の方がかっこいいだろ!」
「…………」
「な?」
「知らん」
「絶対二刀流の方がかっこいいって!」
「好きにしろ」
「だから教えてくれ!」
「教えてるだろ」
「そうだった!」
それから。
何度も。
何度も。
ハヤテはマルコへ挑んだ。
右。
左。
受ける。
攻める。
失敗する。
吹き飛ばされる。
立ち上がる。
また挑む。
そして。
しばらくして。
「…………」
ハヤテは地面に大の字になっていた。
「疲れた……」
「そりゃあれだけ振り回せばな」
マルコが隣に立つ。
「でも」
ハヤテが空を見る。
「なんとなく分かった!」
「なんとなくか」
「明日も頼む!」
「嫌だ」
「なんで!?」
「疲れる」
「俺の方が動いてただろ!」
「教える方も疲れるんだよ」
「じゃあ明後日!」
「そういう話じゃねえ」
ハヤテが起き上がる。
「頼む!」
「…………」
「二刀流をものにしたい!」
「お前」
マルコがため息をつく。
「一本で戦え」
「嫌だ!」
「そっちの方が強い」
「二刀流がいい!」
「面倒くせえな、お前」
「かっこいいだろ!」
「知らん」
「明日も頼む!」
「話を聞け!」
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