第25話 着せ替え人形
「まだ始まったばかりよ」
「…………」
帰りたい。
リンファから服を受け取る。
さっきとは違う服。
「これも《蜘蛛糸》?」
「ええ。一部に使ってるわ」
「へえ」
見る。
さっきより動きやすそう。
「じゃあ着替えてくる」
「お願い」
奥へ行く。
装備を変更。
着替える。
「…………」
今度は普通。
冒険者が着ていそうな軽装。
これなら。
戻る。
「どう?」
「うん」
リンファが俺を見る。
「腕を上げてみて」
「こう?」
両腕を上げる。
「きつくない?」
「大丈夫」
「少し動いて」
「分かった」
腕を回す。
しゃがむ。
立つ。
軽く跳ぶ。
「…………」
悪くない。
「どう?」
「動きやすい」
「あら?」
リンファが笑う。
「気に入った?」
「うん」
「可愛い?」
「動きやすい」
「そこなのね」
「服でしょ?」
「服よ」
「じゃあ大事じゃない?」
「まあ、そうなんだけど」
リンファが俺の後ろに回る。
「尻尾も動かしてみて」
「尻尾?」
「獣人用の服も作ってみたかったのよ」
「なるほど」
尻尾を動かす。
右。
左。
上。
下。
「…………」
普通に動く。
「どう?」
「引っかからない」
「なら大丈夫ね」
リンファが尻尾の付け根辺りを見る。
「ここはもう少し調整してもよさそうだけど」
「そうなの?」
「動いてる時に布が擦れそうなのよね」
「へえ」
ちゃんと考えてる。
裁縫。
本当に好きなんだな。
「じゃあ次」
「…………」
早い。
「もう?」
「まだ確認したいものがあるのよ」
「分かった」
リンファから次の服を受け取ろうとする。
「待ってください!」
たると。
「何?」
「次はこれがいいです!」
服を持ってる。
「…………」
「なんでたるとが選んでるの?」
「似合いそうなので!」
「裁縫の練習は?」
「これもリンファさんが作った服です!」
「そういうことじゃなくて」
「私はこっちがいいと思う~」
セリアまで服を持っている。
「セリア?」
「絶対似合うよ~」
「…………」
シズクを見る。
「私は」
少し考える。
リンファの後ろにある服を見る。
一着取った。
「こちらがよいかと」
「シズク?」
「何でしょう?」
「いつから選ぶ側になったの?」
「先ほどからです」
「そうじゃなくて」
味方がいない。
「じゃあ」
リンファ。
「まず、たるとのからいきましょうか」
「はい!」
「決定なの?」
「決定です!」
たるとから服を渡される。
ワンピース。
「…………」
「これ?」
「はい!」
「俺が?」
「はい!」
「…………」
着るの?
「早く着てきてください!」
「……分かった」
諦める。
奥へ。
着替える。
戻る。
「…………」
「可愛いです!」
たると。
「似合ってるわね」
リンファ。
「可愛い~」
セリア。
「よく似合っています」
シズク。
「…………」
「それしか言わないね」
「だって可愛いですから!」
「そう?」
自分を見る。
ワンピース。
「…………」
まだ慣れない。
「回ってください!」
「なんで?」
「お願いします!」
「…………」
さっきの?
仕方ない。
くるん。
ふわっ。
「おお」
やっぱり広がる。
「可愛いです!」
「可愛い~!」
「うん。いいわね」
「よく似合っています」
「…………」
やっぱり同じ。
「じゃあ次は私のね~」
セリア。
「まだ着るの?」
「もちろん~」
「…………」
渡される。
次。
着替える。
戻る。
また。
「可愛い!」
次。
着替える。
戻る。
「似合ってるわ」
次。
着替える。
戻る。
「とてもよいと思います」
次。
着替える。
戻る。
「…………」
「あと何着?」
「まだあるわよ」
リンファ。
「何着?」
「…………」
「リンファ?」
「次いきましょう」
「答えて」
リンファが服を探す。
無視された。
「…………」
本当に。
裁縫の練習?
「じゃあ」
リンファが一着を取り出す。
「次はこれね」
俺を見る。
服を見る。
また俺を見る。
「…………」
なんか嫌な予感がする。
「何?」
「これ」
「嫌」
「まだ見せてないわよ」
「顔で分かる」
「何が?」
「絶対変なの選んだ」
「失礼ね」
リンファが服を広げる。
「…………」
フリル。
リボン。
スカート。
いっぱい付いてる。
「嫌」
「即答?」
「これは着ない」
「どうして?」
「恥ずかしい」
「さっきもスカート履いたじゃない」
「あれとは違う」
「何が違うの?」
「全部」
たるとが服を見る。
目が輝く。
「可愛いです!」
「ほら」
「ほらじゃない」
セリアも近づく。
「これ絶対似合うよ~」
「着ない」
シズクを見る。
「…………」
今度こそ。
「私は」
シズクが服を見る。
「試作品である以上、着用時の確認は必要かと」
「シズク」
「はい」
「楽しんでない?」
「…………」
沈黙。
「否定して」
「難しいですね」
「…………」
駄目だった。
「一回だけです!」
たると。
「さっきも聞いた気がする」
「お願いします!」
「…………」
四人を見る。
全員が期待してる。
「はぁ……」
分かった。
「一回だけ」
「はい!」
なんでたるとが一番喜ぶの?
服を受け取る。
奥へ。
着替える。
「…………」
フリル。
リボン。
スカート。
鏡を見る。
狼の耳。
赤い目。
茶色い髪。
「…………」
誰これ。
戻る。
「着たよ」
「…………」
また静かになった。
「何?」
たるとが立ち上がる。
「ガウさん!」
「うん」
「すっごく可愛いです!」
「そう?」
「はい!」
リンファが俺の周りを見る。
「思った以上ね」
「何が?」
「似合ってる」
「そう?」
セリアも頷く。
「可愛いよ~」
シズク。
「非常によく似合っています」
「…………」
自分を見る。
フリル。
リボン。
スカート。
「俺こんな感じだっけ?」
「そうですよ!」
たると。
「普段こんな服着てないけど」
「でもガウさんです!」
「…………」
鏡を見る。
「まあ」
もう一度。
「似合ってる……のかな」
「似合ってます!」
「似合ってるわ」
「似合ってるよ~」
「似合っています」
なんで全員一斉に言うの?
「でも」
スカートを見る。
「俺、男なんだけど」
「ガウさん!」
突然。
たると。
「何?」
俺の前に立つ。
「ガウさんはこの世界だと女の子なんです!」
「…………」
何を言い出したの?
「ですので……」
「うん?」
たるとが俺を指差す。
「『俺』は禁止です!」
「…………」
「…………」
「なんで?」
「女の子だからです!」
「アバターがね」
「今はガウさんの体です!」
「そうだけど」
「だから『俺』は禁止です!」
「意味が分からない」
リンファが笑う。
「いいんじゃない?」
「よくない」
「『私』の方が合うと思うわ」
「合わせなくていい」
「私も聞いてみたい~」
セリア。
「聞かなくていい」
シズクを見る。
「…………」
「確かに」
「シズク?」
「現在のガウの外見であれば、『私』の方が自然ではあります」
「自然さを求めてないんだけど」
「ガウさん!」
たると。
「一回!」
「嫌」
「一回だけ言ってみてください!」
「嫌」
「お願いします!」
「嫌」
「ガウさん!」
「…………」
近い。
たるとの顔。
期待してる。
後ろ。
リンファ。
セリア。
シズク。
全員こっち見てる。
「…………」
なんでこんなことになってるんだろう。
「一回だけ?」
「はい!」
「…………」
一つ分かったことがある。
俺は押しに弱い。
「…………私」
「はい!」
たるとが笑う。
「…………」
違和感。
「どうですか?」
「無理」
「ええ!?」
「違和感しかない」
「そのうち慣れます!」
「慣れる予定ないんだけど」
「これから『私』です!」
「嫌」
「『俺』は禁止です!」
「俺は俺」
「あっ!」
「何?」
「今言いました!」
「言うよ」
「禁止です!」
「嫌」
たるとが頬を膨らませる。
「…………」
もう知らない。
リンファ達が笑ってる。
「何?」
「仲いいわね」
「そう?」
「はい!」
たるとが答えた。
「…………」
まあ。
そうなのかな。
「それより」
リンファ。
「服だけだと少し寂しいわね」
「…………」
嫌な言葉が聞こえた。
「何が?」
「髪」
「変えない」
「まだ何も言ってないわよ」
「変えない」
「ショートだから大きくは変えられないわね」
「聞いてる?」
リンファが何かを取り出す。
髪飾り。
「…………」
「これくらいなら」
「いらない」
「いいから」
「いらない」
近づいてくる。
「ちょっとじっとして」
「嫌」
「動かない」
「嫌」
付けられた。
「…………」
狼耳の近くに小さな髪飾り。
耳を動かす。
ぴくっ。
「耳につけないで」
「耳にはつけてないわよ」
「近い」
「可愛いからいいじゃない」
「よくない」
「ガウさん!」
たると。
「すごく似合ってます!」
「…………」
もういい。
外すのも面倒。
その時。
外から足音。
近づいてくる。
「…………」
誰?
そして。
「おーい!」
聞き慣れた声。
「…………」
最悪。
扉が開く。
「来たぞ――」
ハヤテが止まった。
「…………」
「…………」
俺と目が合う。
ハヤテが俺を見る。
フリル。
リボン。
スカート。
髪飾り。
狼耳。
尻尾。
「…………」
長い。
「ガウ?」
「違う」
「いやガウだろ」
「違う」
「耳と尻尾あるし」
「帰って」
「なんでだよ!」
ハヤテが中へ入ってくる。
もう一度。
俺を見る。
「何してんだ?」
「聞かないで」
「女子会です!」
たると。
「女子会?」
ハヤテが俺を見る。
「ガウいるじゃん」
「俺もそう言った」
「あっ!」
たると。
「ガウさん!」
「…………」
「『俺』は禁止です!」
「まだやってるの?」
ハヤテが首を傾げる。
「何の話だ?」
「ガウさんはこの世界では女の子なので、『俺』は禁止なんです!」
「なるほど」
「納得しないで」
ハヤテが俺を見る。
「じゃあなんて言うのか?」
「言わない」
「言ってみろよ」
「帰れ」
「なんでだよ!」
笑われるかと思った。
でも。
ハヤテは笑わなかった。
俺を見る。
「でも」
「何?」
「普通に似合ってるぞ」
「…………」
「何だよ?」
「笑わないの?」
「なんで?」
「…………」
それはそれで困る。
「そういやガウ」
「何?」
「こういう格好初めてか?」
「当たり前」
「へえ」
また見る。
「何?」
「いや」
ハヤテが頷く。
「似合ってるなって」
「…………」
「帰って」
「だからなんでだよ!」
たるとがハヤテに近づく。
「ハヤテさん!」
「おう?」
「どれが一番ガウさんに似合うと思いますか?」
「聞かなくていい」
ハヤテがリンファの服を見る。
「そうだな――」
「考えなくていい」
「これじゃね?」
一着取った。
「…………」
「ハヤテ」
「なんだ?」
「お前も敵だ」
「何の話だ?」
もうここには味方はいなかったのだ。
「それいいわね」
リンファ。
「絶対似合います!」
たると。
「着てみて~」
セリア。
「私も賛成です」
シズク。
「…………」
五人。
対。
俺一人。
味方は一人もいない。
リンファから服を渡される。
「はい」
「…………」
受け取る。
「次はこれね」
「…………」
見る。
「帰っていい?」
「駄目です!」
たるとが即答した。
「…………」
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