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第24話 女子会

村に滞在することになって三日後。


平日。


午後八時二十分。


「…………」


疲れた。


仕事を終えて。


家に帰って。


飯を食べて。


風呂に入った。


あとは寝るだけ。


でも。


その前に俺はベッドに横になる。


ヘッドセットを装着した。


視界が暗くなる。


そして光に包まれた。


◇◇◇


午後八時半。


視界が戻る。


狼の耳。


尻尾。


いつもの体。


「…………」


ログイン完了。


今日は平日。


ハヤテはまだ仕事。


俺も少し前まで仕事だった。


たると達は――


フレンドリストを確認する。


たると。


《オンライン》。


リンファ。


《オンライン》。


セリア。


《オンライン》。


シズク。


《オンライン》。


ハヤテ。


《オフライン》。


「女子組はいるんだ」


とりあえず村へ向かう。


この三日間はこの村を活動の拠点にしていた。


マルコと訓練したり。


森を探索したり。


それぞれ好きなことをしている。


そして。


集まる時に使っているのがロウガから使っていいと言われた空き家。


村の中を歩く。


夜。


家々から明かりが漏れている。


村人とすれ違う。


「こんばんは」


声をかける。


「ああ、ガウ殿」


返事が返ってきた。


最初に来た時より。


少しだけ警戒されなくなった気がする。


歩く。


空き家が見えてきた。


明かりがついている。


近づいてみる。


「――それでですね!」


たるとの声。


「ふふっ」


リンファ。


「いいね~」


セリア。


「そうでしょうか?」


シズク。


「…………」


楽しそう。


何してるんだろう。


扉を開ける。


「こんばんは」


「あ!」


たるとがこっちを見る。


「ガウさん!」


「こんばんは」


「こんばんは~」


「こんばんは、ガウ」


「こんばんは」


リンファ。


セリア。


シズク。


四人ともいる。


テーブルには飲み物。


お菓子。


椅子に座ったり。


床に座ったり。


完全にくつろいでる。


「何してるの?」


「女子会です!」


たると。


「…………」


女子会。


「ガウさんも一緒にしましょう!」


「俺、男なんだけど」


「…………」


リンファが止まった。


セリアも止まった。


シズクも止まった。


たるとだけ普通。


「…………」


「…………」


「…………」


三人が俺を見る。


「え?」


リンファ。


「男?」


「うん」


「ガウさん男の人なの~!?」


セリア。


「うん」


シズクが俺を見る。


「…………男性?」


「そうだけど」


「…………」


三人が俺を見る。


頭。


顔。


体。


脚。


そして。


尻尾。


「…………」


なんで尻尾まで見るの?


リンファが口を開く。


「本当に?」


「本当」


「でも」


俺を見る。


「女の子よ?」


「アバターがね」


「ええ~!」


セリアが俺に近づく。


顔を見る。


「ずっと女の子だと思ってた~」


「俺も最初はこの声に驚いた」


「声も女の子だもんね~」


「そうなんだよね」


シズクがたるとを見る。


「たるとさんは知っていたのですか?」


「はい!」


即答。


「最初から知ってます!」


「最初から?」


「はい!」


リンファが俺を見る。


「じゃあ、ハヤテも?」


「知ってるよ」


「…………」


リンファが額に手を当てた。


「知らなかったの私達だけじゃない」


「言う機会なかったから」


「普通に女の子だと思ってたわ」


「見た目はそうだからね」


「言われてみれば言動は男っぽいわね」


「……それで」


リンファ。


「どうして女の子のアバターなの?」


「…………」


やっぱり聞かれるんだ。


少しだけ話す。


キャラクターを作った時のこと。


狼獣人を選んだこと。


その結果。


今の姿になったこと。


「なるほどね」


リンファが頷く。


「そういうこともあるのね」


「あるみたい」


「面白いね~」


セリア。


「ガウさんはガウさんですし!」


たると。


「そうですね」


シズクも頷く。


「性別が分かったところで、特に何かが変わるわけではありません」


「まあね」


俺もそう思う。


リンファも頷く。


「そうね」


そして。


たると。


「じゃあガウさんも女子会しましょう!」


「なんで?」


「え?」


「俺、今男って言ったよね?」


「でも今は女の子です!」


「アバターがね」


「だから大丈夫です!」


「何が大丈夫なの?」


分からない。


「いいんじゃない?」


リンファ。


「リンファ?」


「見た目は女の子なんだし」


「そういう基準なの?」


「私もいいと思う~」


「セリア?」


シズクを見る。


「…………」


最後の希望。


「ゲーム内での外見だけを基準にするのであれば、問題ないかと」


「シズクまで?」


味方はいなかった。


「ほら!」


たるとが自分の隣を叩く。


「ガウさんも座ってください!」


「…………」


まあ。


いいか。


座る。


お菓子を一つ取る。


食べる。


甘い。


「美味しい」


「ですよね!」


たると。


しばらく。


四人と話す。


何をしていたのか。


今日何をしていたのか。


村のこと。


ゲームのこと。


リンファは今日も森で素材を集めていたらしい。


セリアは新しい魔法を試していた。


シズクは村の周辺を見て回っていた。


たるとは。


「畑を手伝いました!」


「畑?」


「はい!」


「何してたの?」


「野菜を収穫しました!」


楽しそう。


「ロウガさんに褒められました!」


「よかったね」


「はい!」


たるとは本当にこの村を気に入ったみたい。


お菓子をもう一つ取る。


その時。


「…………」


視線。


リンファが俺を見てる。


「何?」


「…………」


まだ見てる。


「リンファ?」


「そういえば」


「うん」


リンファが笑った。


「私、言ったわよね?」


「何を?」


「裁縫の練習台が欲しかったのよ、って」


「…………」


言ってた。


初めて探索に行った時にそんなことを言ってた気がする。


「覚えてる?」


「覚えてる」


「ちょうどいいわ」


「何が?」


「練習台」


「…………」


リンファが俺を見る。


嫌な予感。


「俺?」


「ええ」


「なんで?」


「だって」


リンファが俺の体を見る。


「ちょうどいいじゃない」


「何がちょうどいいの?」


「女の子のアバター」


「中身は男」


「今さっき分かったわ」


「じゃあやめよう」


「どうして?」


「どうしてって」


リンファがメニューを操作する。


インベントリ。


そこから何かを取り出す。


布。


いや。


服。


「…………」


一着じゃない。


何着かある。


「何それ?」


「試作品」


リンファが一着を持ち上げる。


「この前集めた《蜘蛛糸》を使ってるのよ」


「あれ?」


「ええ」


蜘蛛を倒して集めた素材。


ちゃんと使ったんだ。


「裁縫の練習を始めたの」


リンファが服を見る。


「まだ上手く作れないけどね」


縫い目。


形。


細かいところまで作られている。


「十分上手く見えるけど」


「まだまだよ」


リンファが笑う。


嬉しそう。


本当に裁縫が好きなんだ。


「それで」


服を俺に向ける。


「着てみて」


「…………」


「俺が?」


「ええ」


「なんで?」


「練習台」


「…………」


そうだった。


「サイズとか、動いた時の感じとか、実際に誰かに着てもらわないと分からないのよ」


「なるほど」


それなら。


分からなくもない。


「たるとじゃ駄目なの?」


「ガウさん!?」


たるとが驚く。


「同じ獣人だし」


「そうね」


リンファ。


「たるとでもいいわ」


「えっ」


たるとが固まる。


「…………」


俺を見る。


「ガウさんの方が似合うと思います!」


「逃げた」


「逃げてません!」


「じゃあ一緒に着る?」


「…………」


目を逸らした。


「逃げた」


「逃げてません!」


逃げてる。


セリアが服を見る。


「可愛いね~」


「でしょう?」


「ガウ似合いそう~」


「そう?」


「はい!」


たるとも頷く。


「絶対似合います!」


「…………」


シズクを見る。


「私は」


少し考える。


「裁縫の検証であれば、協力してもよいのではないでしょうか」


「…………」


逃げ道がない。


リンファを見る。


「一着だけ?」


「まずはね」


まずは。


嫌な言葉。


でも。


裁縫の練習。


『別にいいけど』


言ってしまったからには仕方ない。


「分かった」


「本当?」


「うん」


「じゃあこれ」


渡された服を見る。


上。


下。


「…………」


下。


スカート。


「これ?」


「ええ」


「スカート?」


「そうよ」


「…………」


履いたことない。


もちろん現実でも。


「着替えてきて」


「……分かった」


奥へ行く。


装備を変更。


上着。


そして。


スカート。


「…………」


変な感じ。


とりあえず戻る。


「着たよ」


「…………」


全員が黙った。


「何?」


「ガウさん!」


たるとが立ち上がる。


「可愛いです!」


「そう?」


「はい!」


「似合ってるわね」


リンファ。


「可愛い~」


セリア。


「よく似合っています」


シズク。


「…………」


全員同じこと言う。


自分を見る。


スカート。


脚。


「…………」


少し動く。


「スースーする……」


「感想そこ?」


リンファ。


「だってスースーする」


脚の周りに布がない。


落ち着かない。


「スカートってこんな感じなんだ」


裾を見る。


少し腰を動かす。


ふわっ。


「…………」


揺れた。


もう一回。


少し大きく。


くるん。


スカートが広がる。


「おお」


面白い。


もう一回。


くるん。


ふわっ。


「…………?」


首を傾げる。


狼の耳も傾いた。


「…………」


四人が静かになった。


「何?」


たると。


リンファ。


セリア。


シズク。


四人が俺を見ている。


「…………」


何?


「ガウさん」


たると。


「うん」


「今の」


「うん」


「もう一回お願いします!」


「なんで?」


「いいから!」


リンファまで。


「もう一回」


「何が?」


「今の」


「回るの?」


「そう」


「…………」


なんで?


セリアが笑ってる。


「可愛かったよ~」


「そう?」


シズクも頷く。


「非常に」


「…………」


そうなの?


リンファが俺を見る。


じっと。


「…………」


「リンファ?」


「ガウ」


「何?」


リンファが笑った。


すごく。


楽しそうに。


「次、これ着て」


別の服。


「…………」


「次?」


「ええ」


「一着だけじゃないの?」


「誰が一着だけって言ったの?」


「…………」


言ってない。


リンファの後ろにはまだ服がある。


たるとも見ている。


セリアも見ている。


シズクまで見ている。


「…………」


俺。


「次はこれがいいです!」


たるとが服を選ぶ。


「何でたるとが選んでるの?」


「似合いそうなので!」


「こっちもいいと思う~」


「セリアまで?」


シズク。


「私はこちらがよいかと」


「シズク?」


「何でしょう?」


「…………」


女子会。


だったはず。


裁縫の練習。


だったはず。


なのに。


何か違うものが始まった気がする。


リンファが服を渡してくる。


「はい」


「…………」


受け取る。


「あと何着?」


「まだ始まったばかりよ」


「…………」


帰りたい。

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