第22話 小さな村
森の中。
俺達はマルコの後ろを歩いていた。
「なあ!」
ハヤテ。
「さっきの身体強化ってどのくらい強くなるんだ?」
「今の俺なら結構上がるぞ!」
「結構ってどのくらいだ?」
「結構だ!」
「なるほど!」
「…………」
何も分かってないと思う。
「もっと鍛えればさらに強くなる!」
「マジか!」
「おう!」
「すげえな!」
「はははは!」
「…………」
仲良くなってる。
「ガウさん」
たるとが隣を歩く。
「あの二人、仲良くなりましたね」
「うん」
「男の友情ってやつかしら」
リンファ。
「戦ったから~?」
セリア。
「理解できません」
シズク。
同感。
「お!」
マルコが前を指す。
「もうすぐだぞ!」
「村ですか?」
たると。
「ああ!」
木々の間。
光。
森の出口。
俺達はマルコについて歩く。
そして。
森を抜けた。
「…………」
開けた場所。
そこに小さな村があった。
木で作られた家。
畑。
井戸。
小さな広場。
村の周囲には簡単な木の柵。
大きな建物はない。
店とかあるのかな。
「着いたぞ!」
マルコが振り返る。
「ここが俺の守ってる村だ!」
「おお!」
ハヤテ。
「本当にあった!」
「あるって言っただろ!」
「小さな村ですね」
たると。
「ああ」
マルコ。
「住んでるのは三十三人だけだからな」
「三十三人」
俺。
少ない。
《始まりの街》とは全然違う。
というより。
街と呼ぶには小さすぎる。
村。
そのままだ。
「…………」
村の中へ入る。
「マルコ!」
畑にいた獣人がこっちを見る。
「戻ったのか!」
「ああ!」
別の家。
女性。
子供。
こっちを見る。
「…………」
俺達を見ると表情が変わる。
「…………」
警戒。
子供を家の中へ入れる。
畑にいた男も農具を持ったまま俺達を見る。
広場。
話していた獣人達も会話を止めた。
「…………」
たるとは周囲を見る。
「本当に……」
小さく呟く。
「襲われてたんですね」
「ああ」
マルコ。
さっきまでとは違う。
静かな声。
「悪いな」
「最近は知らないプレイヤーを見ると、みんな警戒する」
「…………」
村人。
NPC。
俺達を見てる。
プレイヤー。
それだけで警戒されてる。
「先にロウガに話す」
マルコ。
「ロウガ?」
ハヤテ。
「村長だ!」
「村長!」
「こっちだ」
マルコについていく。
村の中央に他より少しだけ大きな家。
でも。
それほど変わらない。
マルコが扉の前で叫ぶ。
「ロウガ!」
大きな声。
「いるか!」
「そんなに大きな声を出さんでも聞こえておるわい」
中から声。
扉が開く。
「お」
一人の男。
いや。
おじいさん。
小柄で丸い耳。
ふさふさした尻尾。
狸……かな。
「おお、マルコか」
おじいさん。
「戻ったのじゃな」
「ああ!」
「それは見れば分かるわい」
「そうか!」
「…………」
マルコ。
声が大きい。
おじいさんは俺達を見る。
「それで」
「そちらの方々は?」
「それなんだが!」
マルコが俺達を見る。
「略奪者じゃなかった!」
「…………」
説明。
そこから?
おじいさんが少し目を丸くする。
「略奪者ではなかった?」
「ああ!」
「俺が勘違いして戦った!」
「…………」
おじいさん。
目を閉じる。
「マルコよ」
「なんだ?」
「また先に手を出したのか?」
「村を守ろうとしたんだ!」
「それは分かっておる」
おじいさん。
ため息。
「じゃが、まずは相手の話を聞かんとな」
「…………」
マルコが俺達を見る。
「さっきも言われた」
「でしょうね」
シズク。
即答。
「ほっほっほ」
おじいさんが笑う。
「それは災難じゃったな」
「いえ」
俺。
「大丈夫です」
「ガウさん、さっき痛いって言ってましたよね?」
たると。
「…………」
言ってた。
「すまん!」
マルコ。
「もういいよ」
何回謝るんだろう。
「それで」
おじいさん。
「どういうことじゃ?」
「こいつらはエリアボスを探してたらしい!」
「エリアボス?」
「ああ!」
マルコ。
「大型アップデートで追加されたらしいぞ!」
「ほう」
「それでここまで来たら、俺と会った!」
「なるほどのう」
おじいさん。
顎に手。
俺達を見る。
「それでマルコが勘違いした、と」
「そうだ!」
「胸を張ることではないぞ」
「そうか!」
「…………」
この二人。
普段からこんな感じなのかな。
「申し遅れましたな」
おじいさん。
俺達へ向き直る。
「わしはロウガ」
軽く頭を下げる。
「この村の村長をしておる」
「村長さん!」
たるとが前へ。
「私はたるとです!」
「ほう」
ロウガ。
たるとの耳を見る。
「虎の獣人か」
「はい!」
「俺はガウ」
「俺はハヤテ!」
「リンファよ」
「セリアです~」
「シズクと申します」
一人ずつ名前を伝える。
ロウガがゆっくり頷く。
「たると殿」
「ガウ殿」
「ハヤテ殿」
「リンファ殿」
「セリア殿」
「シズク殿」
「よくこんな辺境まで来なさった」
「辺境?」
俺。
「そうじゃ」
ロウガが笑う。
「第一階層でも、ここまで来る者はそう多くないのでな」
「確かに」
リンファ。
「随分歩いたものね」
「岩山も越えたしな!」
ハヤテ。
「草原も走りました!」
たると。
「走る必要はなかったけど」
「楽しかったですよ!」
「それならいいけど」
「ほっほっほ」
ロウガが笑う。
「随分と賑やかな方々じゃ」
「そうなんです!」
たると。
「…………」
嬉しそう。
「立ち話もなんじゃ」
ロウガ。
村を見る。
「せっかくここまで来なさったのじゃ」
「村を案内しよう」
「いいんですか!?」
たると。
「もちろんじゃ」
ロウガ。
「何もない小さな村じゃがの」
◇
「ここが畑じゃ」
「おお!」
たると。
「野菜がいっぱいです!」
村の端。
小さな畑。
何人かの村人が作業している。
「ここで村の食料の多くを作っておる」
ロウガ。
「わしも手が空いている時は手伝っておるよ」
「村長さんも?」
「身体を動かさんと鈍ってしまうからのう」
「へえ~」
セリアが畑を覗く。
「色んな野菜がある~」
「勝手に取るなよ?」
マルコ。
「取らないよ~」
「リンファにも言った!」
「私も取らないわよ」
リンファ。
「見るだけ」
「本当か?」
「素材と野菜は別よ」
「そうなのか?」
「そうよ」
「…………」
多分。
「こっちが井戸じゃ」
ロウガ。
村の中央。
井戸。
「水はここから汲んでおる」
「普通の村だな!」
ハヤテ。
「普通で悪かったのう」
「いや!」
ハヤテ。
「こういうの好きだぞ!」
「ほっほっほ」
歩く。
家。
家。
畑。
小さな倉庫。
広場。
本当に小さな村。
「…………」
その途中。
柵。
一部。
色が違う。
新しい木。
「これ」
俺が立ち止まる。
「直した跡?」
「…………」
ロウガ。
「ああ」
マルコが答える。
「魔物に壊された」
「こっちもだ」
別の家。
壁が補修されてる。
「…………」
たるとも見る。
「この前の襲撃でな」
マルコ。
「今は直ってる」
「そう……ですか」
たると。
少し表情が曇る。
ロウガがそんなたるとを見て話す。
「心配せんでもよい」
「え?」
「こうしてマルコが守ってくれておる」
「ロウガ!」
マルコ。
「任せろ!」
「ほっほっほ」
「頼りにしておるよ」
「おう!」
「…………」
村人達。
さっきより。
少しだけ俺達を見なくなった。
マルコ。
ロウガ。
二人と一緒にいるからかな。
「さて」
ロウガ。
「一通り見たかの」
「はい!」
たると。
「ありがとうございます!」
「なに」
「大したものはなかったじゃろう?」
「そんなことないです!」
即答。
「畑もありました!」
「井戸もありました!」
「広場も!」
「…………」
ロウガが嬉しそうに笑う。
「そうかそうか」
「では」
ロウガ。
「少し休んでいくとよい」
「いいんですか?」
「もちろんじゃ」
ロウガが一軒の家を指す。
「ちょうど空いている家がある」
「空き家?」
俺。
「ああ」
「以前住んでいた者が別の土地へ移っての」
「今は誰も使っておらん」
ロウガが扉を開ける。
「狭いが、立ち話よりはよかろう」
「お邪魔します!」
たるとが一番に入る。
俺達も続く。
中。
「…………」
小さい。
テーブル。
椅子。
棚。
最低限。
そして。
「椅子」
シズク。
「足りませんね」
「…………」
俺達。
六人。
マルコ。
ロウガ。
八人。
椅子。
四つ。
「俺は立ってるぞ!」
ハヤテ。
「俺もだ!」
マルコ。
「私も立ちますよ!」
たると。
「たるとは座って」
「でも!」
「座って」
「はい!」
素直。
リンファが笑ってる。
「じゃあ、私は壁を借りるわ」
「私も~」
セリア。
「では私も」
シズク。
「…………」
結局。
自由。
ロウガが椅子に座る。
たるとも座る。
俺も座る。
残り一つ。
「ハヤテ」
「俺はいい!」
「マルコ」
「俺もいい!」
「…………」
空いた。
「ほっほっほ」
ロウガ。
楽しそうに笑う。
「随分と賑やかになったものじゃ」
「普段は静かなんですか?」
たると。
「そうじゃな」
ロウガ。
部屋を見る。
「三十三人しかおらんからのう」
「…………」
三十三人。
小さな村。
森の奥。
第一階層の北。
俺達は《階層守護者》を探していただけ。
それなのに。
気づけば知らない村の空き家に座っている。
村長とさっきまで戦っていた魔法使いも一緒にいる。
「さて」
ロウガ。
俺達を見る。
「何から話そうかのう」
「…………」
俺達はこの小さな村で少しだけ話をすることになった。
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