第17話 虫嫌いと研究者
Gが顔面に向かって飛んでこられてから虫嫌いになりました。
巨大な虫型モンスターを倒した俺たちは、そのまま洞窟の奥へと歩みを進めていた。
洞窟の中は薄暗い。
岩肌には苔が生え、天井からは一定の間隔で水滴が落ちている。
ぽたっ。
ぽたっ。
静かな音だけが響いていた。
「この先に何かあるはずだ。」
アイスが先頭を歩く。
その後ろに白銀戦線のメンバー。
さらに俺とバレット、サイオンが続く。
「気配は?」
バレットが小声で尋ねる。
「……さっきの巨大な虫以外は感じない。」
俺は周囲へ目を向けながら答えた。
だが。
何かがおかしい。
巨大な虫がいたにしては静かすぎる。
もっと魔物がいてもおかしくないはずなのに、その気配がまるでない。
その時だった。
カサ……
小さな音が聞こえた。
「……。」
視線を向ける。
岩陰を、小さな黒い虫が一匹歩いていた。
「…………。」
俺の動きが止まる。
さらに。
カサ。
カサカサ。
壁にも。
床にも。
天井にも。
小さな虫が何匹も這い回っていた。
「…………。」
俺は何も言わない。
いや。
言えなかった。
じり……
じり……
誰にも気付かれないように、一歩ずつ後ろへ下がる。
そして。
スッ。
何事もなかったように、バレットの後ろへ隠れた。
狼耳はぺたんと寝ている。
ふさふさの尻尾も、くるんと丸まっていた。
「……。」
バレットがゆっくり振り返る。
「ガウ。」
「……。」
「ガウさんや。」
「……。」
口元を押さえながら尋ねる。
「もしかして……虫、苦手?」
俺は視線を逸らした。
「ニガテジャナイヨ。」
見事な棒読みだった。
「いや、苦手じゃねぇか!」
バレットが思わずツッコむ。
「さっき、あんなでかい虫倒しただろ!」
「それは別!」
俺は即座に反論する。
「大きいとモンスターにしか見えないからギリセーフなの!」
「でも!」
壁を這う小さな虫を指差す。
「ああいうのは無理!」
「ゾワッとする!」
「基準が全然分かんねぇよ……。」
バレットが呆れたように頭を掻く。
その横で、サイオンが肩を震わせる。
「耐えられないッス!」
「はははははっ!!」
ついに腹を抱えて笑い出した。
白銀戦線の槍使いも苦笑する。
「意外すぎる……。」
弓使いの少女も頬を緩めた。
「ちょっと可愛いですね。」
「可愛くない!」
俺は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「虫だけは苦手なの!」
洞窟が一瞬静まり返る。
「……。」
「……。」
「……。」
「悪かったわね!」
俺はぷいっと顔を背けた。
完全に拗ねた。
「そこ開き直るところじゃねぇ!」
バレットが笑いながらツッコむ。
サイオンは涙を浮かべて笑う。
「ガウさん、完全に拗ねたッス!」
その瞬間だった。
一匹の小さな虫が、ふわりと俺の目の前を横切る。
「ひゃあっ!」
反射的にバレットの背中へ飛び乗る。
狼耳は完全に寝ている。
尻尾も丸まりきっていた。
「だから苦手なんだってぇぇ!!」
――その時だった。
「す、すみません!!」
洞窟の奥から、慌てた青年の声が聞こえた。
全員の表情が一瞬で引き締まる。
暗闇の奥から現れたのは、細身の青年だった。
緑色の髪。
白衣のような上着。
そして。
肩や腕には、小さな虫たちが何匹も当たり前のように止まっている。
「…………。」
俺は固まる。
青年は申し訳なさそうに頭を下げた。
「その子たち……驚かせてしまいましたよね。本当にすみません。」
その肩では、一匹の虫が羽を震わせていた。
「む、虫ぃぃぃぃぃ!!」
俺は悲鳴を上げながら、再びバレットの背中へ隠れた。
バレットは小さくため息を吐きながらも、一歩前へ出る。
「悪い。こいつ、虫だけは本当にダメなんだ。」
その一言に、洞窟の空気が少しだけ和らいだ。
「えっ?」
緑髪の青年は目を丸くした。
「そ、そうだったんですか……。」
肩に止まっていた虫へ視線を落とす。
「ごめんね。」
青年が優しく呟くと、小さな虫たちは一斉に羽ばたき、彼の肩から離れていく。
洞窟の奥へ飛び去っていく虫たち。
それを確認してから、ようやく俺はバレットの後ろから顔を出した。
「……もう、いない?」
「大丈夫ッス。」
サイオンが苦笑する。
「全部飛んでいったッス。」
「……ふぅ。」
胸を撫で下ろす。
狼耳もゆっくり起き上がり、丸まっていた尻尾も少しずつ元に戻っていった。
その様子を見て、青年は困ったように頭を下げる。
「本当にすみません。」
「僕、虫を連れて歩くのが普通になってしまっていて……。」
「普通ではない。」
アイスが即座にツッコむ。
「え?」
青年は首を傾げた。
「普通じゃ……ないんですか?」
「普通じゃねぇよ。」
今度はバレットまで苦笑する。
「肩に虫を乗せて歩く奴なんて初めて見た。」
「そう……ですか。」
青年は少しだけ落ち込んだように俯く。
「やっぱり変ですよね。昔からよく言われます。」
その姿を見て、俺は少しだけ警戒を解いた。
少なくとも、悪い人には見えない。
アイスが静かに前へ出る。
「一つ聞きたい。」
青年は姿勢を正した。
「はい。」
「外にいた巨大な虫型モンスター。君と関係があるのか?」
その瞬間。
青年の表情が曇る。
「……あります。」
静かな声だった。
白銀戦線の槍使いが武器を握り直す。
空気が少しだけ張り詰める。
青年は慌てて首を横に振った。
「で、でも!」
「僕が襲わせたわけじゃありません!」
「本当です!」
「落ち着け。」
アイスが短く言う。
「順番に説明してくれ。」
青年は何度も頷いた。
「はい。」
「まず……。」
小さく深呼吸する。
「僕の名前はモルフォです。」
「研究者をしています。」
「研究者?」
バレットが眉をひそめる。
「何を研究してるんだ?」
モルフォは少し迷うように俯いた。
そして。
「……虫です。」
一瞬、洞窟が静まり返る。
「…………。」
俺はゆっくりバレットを見る。
「…………。」
バレットも俺を見る。
「…………。」
「ガウ。」
「なに?」
「逃げるなよ。」
「まだ何もしてないもん!」
そう言い返した、その時だった。
モルフォの袖口から、小さな虫が一匹ひょこっと顔を出す。
「ひっ!」
俺は反射的にバレットの後ろへ隠れた。
「だから何で出てくるのぉぉぉ!!」
洞窟に再び笑い声が響いた。
子供の頃は夏はカブトムシやクワガタなど捕まえに良く出かけてました。
でも大人になると虫は苦手な方に…。
G・カメムシ・ムカデみたいな虫は本当に苦手です。
好きな人は少ないと思いますが…w
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