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第17話 大型アップデート

土曜日の昼。


「ごちそうさまでした」


昼飯を食べ終え、食器を片付ける。


「…………」


今日は夜からゲーム。


ハヤテ。


たると。


リンファ。


セリア。


シズク。


みんなで遊ぶ約束をしている。


ただ。


昼間は全員予定あり。


俺も特にやることはない。


「…………」


そういえば……。


PCを見る。


机の上にヘッドホン。


長いこと使っている。


最近少し音がおかしい。


右側だけ聞こえなくなることがある。


コードを動かすと直る。


また聞こえなくなる。


「買い替えるか」


どうせ暇だし。


外に出よう。



家電量販店。


土曜日だからか人が多い。


家族連れ。


カップル。


一人で来てる人。


「…………」


俺も一人。


別にいいけど。


目的はPC用のヘッドホン。


店内案内を見る。


《パソコン・周辺機器》


「あっちか」


歩く。


冷蔵庫。


洗濯機。


掃除機。


炊飯器。


色々な家電が並んでいる。


「…………」


テレビ。


大きなテレビが何台も並んでいる。


サイズ。


メーカー。


値段。


画質。


特に買う予定はない。


そのまま通り過ぎようとする。


『――《ファンタズマ・ゲイト》をお楽しみの皆様へ!』


「…………」


足が止まった。


聞き覚えのある名前。


テレビを見る。


何台もの画面。


同じ映像。


草原。


街。


森。


プレイヤー。


「…………」


ファンタズマ・ゲイト。


『サービス開始から大好評のVRMMORPG、《ファンタズマ・ゲイト》!』


「…………」


CMか。


そういえば。


ゲームのCMをちゃんと見るのは初めてかもしれない。


画面が切り替わる。


大きな文字。


『そして――』


ドンッ!


《明日!》


「明日?」


『《ファンタズマ・ゲイト》初の大型アップデート実施!』


「大型アップデート……」


知らなかった。


ゲーム内のお知らせをちゃんと見てなかった。


画面が切り替わる。


『まずはこちら!』


複数のプレイヤーが集まっている映像。


その中央に。


《ギルド》


の文字。


『新機能!』


《ギルド機能追加!》


「ギルド?」


『これまでのパーティー機能に加え、新たに《ギルド機能》を追加!』


画面にいくつものプレイヤー名。


その上に同じ名前が表示されている。


『仲間を集めてギルドを結成!』


『気の合う仲間たちと、新たなコミュニティを作ろう!』


「…………」


ギルド。


オンラインゲームでは珍しくない。


ファンタズマ・ゲイトには今までなかったらしい。


「へえ」


画面が切り替わる。


『さらに!』


暗転。


次の瞬間。


見たことのない景色が映し出された。


「…………」


知らない場所。


第一階層じゃない。


『冒険の舞台はさらにその先へ!』


大きな文字。


《第二階層》


「お」


『待望の《第二階層》を追加!』


映像が次々に流れる。


知らない景色。


知らない魔物。


知らない場所。


ほんの一瞬。


次々と切り替わっていく。


「第二階層……」


今までは第一階層しかなかった。


始まりの街。


草原。


森。


岩場。


湖。


まだ第一階層すら全部見てない。


なのに。


その先。


「…………」


行ってみたい。


『しかし!』


「ん?」


画面が暗くなる。


低い音。


ドン。


ドン。


ドン。


何か巨大なもの。


姿はよく見えない。


『第二階層への道を阻む、新たな強敵!』


巨大な影。


「…………」


大きい。


『第一階層に――』


文字。


《階層守護者》


その下。


《エリアボス》


「エリアボス……」


『《階層守護者》を打ち倒し――』


巨大な魔物へ向かって走るプレイヤーたち。


剣。


魔法。


弓。


様々な攻撃。


『第二階層への道を切り開け!』


画面が光に包まれる。


そして。


《大型アップデート》


《明日実施!》


「…………」


終わった。


別のCMに切り替わる。


「…………」


ギルド。


第二階層。


階層守護者。


「…………」


面白そう。


第二階層に行ってみたい。


エリアボス。


どれくらい強いんだろう。


ハヤテ。


「…………」


絶対戦いたがるだろうな。


たるとも新しい場所なら行きたがりそう。


リンファ。


新しい素材がって言いそう。


セリアとシズク。


「…………」


明日か。


『――《ファンタズマ・ゲイト》をお楽しみの皆様へ!』


「ん?」


また始まった。


さっきと同じCM。


「…………」


もう一回見るか。


『サービス開始から大好評のVRMMORPG――』


「…………」


『《ファンタズマ・ゲイト》!』


「…………」


『そして――』


「…………」


『明日!』


「…………」


『初の大型アップデート実施!』


「…………」


ギルド。


『新機能! 《ギルド機能》追加!』


「…………」


第二階層。


『待望の《第二階層》を追加!』


「…………」


エリアボス。


『第一階層に新たな強敵――』


「…………」


『《階層守護者》!』


「…………」


やっぱり面白そう。


「お客様」


「…………」


後ろから声。


振り返る。


店員が笑顔で立っていた。


「テレビ、気になりますか?」


「…………」


テレビ。


見る。


店員。


見る。


テレビ。


「…………」


違う。


テレビが欲しくて見てたわけじゃない。


「大丈夫です」


「そうですか」


「はい」


「何かございましたら、いつでもお声がけください」


「ありがとうございます」


「…………」


そそくさと離れる。


「…………」


ゲームのCMを見てただけです。


とは。


なんとなく言いづらかった。


歩く。


「…………」


そうだ。


ヘッドホン。


危うく目的を忘れるところだった。



《パソコン・周辺機器》


ヘッドホン。


いっぱいある。


「…………」


多いな。


有線。


無線。


ゲーミング。


音楽用。


マイク付き。


マイクなし。


値段。


安い。


高い。


「…………」


分からん。


今使っているものと似たタイプを見る。


試着。


「…………」


悪くない。


値段。


「一万円ぐらいか……」


まあ。


これでいいか。


箱を持つ。


レジで会計を済ませる。


目的達成。



帰宅。


「ただいま」


誰もいない部屋。


買ってきた袋を机に置く。


箱を開ける。


新しいヘッドホン。


「…………」


PCに繋ぐ。


動画を流す。


ヘッドホンを装着。


音。


右。


左。


ちゃんと聞こえる。


「お」


前のよりいい。


「結構いいな」


満足。


ヘッドホンを外す。


椅子にもたれる。


「…………」


ふと。


思い出す。


テレビ。


《ギルド機能》


《第二階層》


《階層守護者》


明日。


大型アップデート。


「…………」


今日の夜。


みんなに話してみよう。


「ハヤテ絶対騒ぐだろうな」


想像できる。


たぶん。


エリアボス。


その言葉を聞いた瞬間。


行こう。


とか。


戦おう。


とか。


言う。


「…………」


まあ。


俺も。


少し戦ってみたいけど。


時計を見る。


まだ夜までは時間がある。


「…………」


それまで何しよう。


新しいヘッドホンを手に取る。


「…………」


溜めてたアニメでも観るか。


俺は再びヘッドホンを装着した。

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