第17話 大型アップデート
土曜日の昼。
「ごちそうさまでした」
昼飯を食べ終え、食器を片付ける。
「…………」
今日は夜からゲーム。
ハヤテ。
たると。
リンファ。
セリア。
シズク。
みんなで遊ぶ約束をしている。
ただ。
昼間は全員予定あり。
俺も特にやることはない。
「…………」
そういえば……。
PCを見る。
机の上にヘッドホン。
長いこと使っている。
最近少し音がおかしい。
右側だけ聞こえなくなることがある。
コードを動かすと直る。
また聞こえなくなる。
「買い替えるか」
どうせ暇だし。
外に出よう。
◇
家電量販店。
土曜日だからか人が多い。
家族連れ。
カップル。
一人で来てる人。
「…………」
俺も一人。
別にいいけど。
目的はPC用のヘッドホン。
店内案内を見る。
《パソコン・周辺機器》
「あっちか」
歩く。
冷蔵庫。
洗濯機。
掃除機。
炊飯器。
色々な家電が並んでいる。
「…………」
テレビ。
大きなテレビが何台も並んでいる。
サイズ。
メーカー。
値段。
画質。
特に買う予定はない。
そのまま通り過ぎようとする。
『――《ファンタズマ・ゲイト》をお楽しみの皆様へ!』
「…………」
足が止まった。
聞き覚えのある名前。
テレビを見る。
何台もの画面。
同じ映像。
草原。
街。
森。
プレイヤー。
「…………」
ファンタズマ・ゲイト。
『サービス開始から大好評のVRMMORPG、《ファンタズマ・ゲイト》!』
「…………」
CMか。
そういえば。
ゲームのCMをちゃんと見るのは初めてかもしれない。
画面が切り替わる。
大きな文字。
『そして――』
ドンッ!
《明日!》
「明日?」
『《ファンタズマ・ゲイト》初の大型アップデート実施!』
「大型アップデート……」
知らなかった。
ゲーム内のお知らせをちゃんと見てなかった。
画面が切り替わる。
『まずはこちら!』
複数のプレイヤーが集まっている映像。
その中央に。
《ギルド》
の文字。
『新機能!』
《ギルド機能追加!》
「ギルド?」
『これまでのパーティー機能に加え、新たに《ギルド機能》を追加!』
画面にいくつものプレイヤー名。
その上に同じ名前が表示されている。
『仲間を集めてギルドを結成!』
『気の合う仲間たちと、新たなコミュニティを作ろう!』
「…………」
ギルド。
オンラインゲームでは珍しくない。
ファンタズマ・ゲイトには今までなかったらしい。
「へえ」
画面が切り替わる。
『さらに!』
暗転。
次の瞬間。
見たことのない景色が映し出された。
「…………」
知らない場所。
第一階層じゃない。
『冒険の舞台はさらにその先へ!』
大きな文字。
《第二階層》
「お」
『待望の《第二階層》を追加!』
映像が次々に流れる。
知らない景色。
知らない魔物。
知らない場所。
ほんの一瞬。
次々と切り替わっていく。
「第二階層……」
今までは第一階層しかなかった。
始まりの街。
草原。
森。
岩場。
湖。
まだ第一階層すら全部見てない。
なのに。
その先。
「…………」
行ってみたい。
『しかし!』
「ん?」
画面が暗くなる。
低い音。
ドン。
ドン。
ドン。
何か巨大なもの。
姿はよく見えない。
『第二階層への道を阻む、新たな強敵!』
巨大な影。
「…………」
大きい。
『第一階層に――』
文字。
《階層守護者》
その下。
《エリアボス》
「エリアボス……」
『《階層守護者》を打ち倒し――』
巨大な魔物へ向かって走るプレイヤーたち。
剣。
魔法。
弓。
様々な攻撃。
『第二階層への道を切り開け!』
画面が光に包まれる。
そして。
《大型アップデート》
《明日実施!》
「…………」
終わった。
別のCMに切り替わる。
「…………」
ギルド。
第二階層。
階層守護者。
「…………」
面白そう。
第二階層に行ってみたい。
エリアボス。
どれくらい強いんだろう。
ハヤテ。
「…………」
絶対戦いたがるだろうな。
たるとも新しい場所なら行きたがりそう。
リンファ。
新しい素材がって言いそう。
セリアとシズク。
「…………」
明日か。
『――《ファンタズマ・ゲイト》をお楽しみの皆様へ!』
「ん?」
また始まった。
さっきと同じCM。
「…………」
もう一回見るか。
『サービス開始から大好評のVRMMORPG――』
「…………」
『《ファンタズマ・ゲイト》!』
「…………」
『そして――』
「…………」
『明日!』
「…………」
『初の大型アップデート実施!』
「…………」
ギルド。
『新機能! 《ギルド機能》追加!』
「…………」
第二階層。
『待望の《第二階層》を追加!』
「…………」
エリアボス。
『第一階層に新たな強敵――』
「…………」
『《階層守護者》!』
「…………」
やっぱり面白そう。
「お客様」
「…………」
後ろから声。
振り返る。
店員が笑顔で立っていた。
「テレビ、気になりますか?」
「…………」
テレビ。
見る。
店員。
見る。
テレビ。
「…………」
違う。
テレビが欲しくて見てたわけじゃない。
「大丈夫です」
「そうですか」
「はい」
「何かございましたら、いつでもお声がけください」
「ありがとうございます」
「…………」
そそくさと離れる。
「…………」
ゲームのCMを見てただけです。
とは。
なんとなく言いづらかった。
歩く。
「…………」
そうだ。
ヘッドホン。
危うく目的を忘れるところだった。
◇
《パソコン・周辺機器》
ヘッドホン。
いっぱいある。
「…………」
多いな。
有線。
無線。
ゲーミング。
音楽用。
マイク付き。
マイクなし。
値段。
安い。
高い。
「…………」
分からん。
今使っているものと似たタイプを見る。
試着。
「…………」
悪くない。
値段。
「一万円ぐらいか……」
まあ。
これでいいか。
箱を持つ。
レジで会計を済ませる。
目的達成。
◇
帰宅。
「ただいま」
誰もいない部屋。
買ってきた袋を机に置く。
箱を開ける。
新しいヘッドホン。
「…………」
PCに繋ぐ。
動画を流す。
ヘッドホンを装着。
音。
右。
左。
ちゃんと聞こえる。
「お」
前のよりいい。
「結構いいな」
満足。
ヘッドホンを外す。
椅子にもたれる。
「…………」
ふと。
思い出す。
テレビ。
《ギルド機能》
《第二階層》
《階層守護者》
明日。
大型アップデート。
「…………」
今日の夜。
みんなに話してみよう。
「ハヤテ絶対騒ぐだろうな」
想像できる。
たぶん。
エリアボス。
その言葉を聞いた瞬間。
行こう。
とか。
戦おう。
とか。
言う。
「…………」
まあ。
俺も。
少し戦ってみたいけど。
時計を見る。
まだ夜までは時間がある。
「…………」
それまで何しよう。
新しいヘッドホンを手に取る。
「…………」
溜めてたアニメでも観るか。
俺は再びヘッドホンを装着した。
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