第15話 大男
「何してんだ?」
ハヤテが聞いた。
「…………」
大男。
俺達を見る。
そして。
自分の目の前にある木を見る。
「見て分からんか?」
低い声。
「木を殴ってる!」
「分かってるじゃん」
俺が言う。
「いや、そうじゃなくて!」
ハヤテが大男を見る。
「なんで木殴ってんだ?」
「鍛錬だ」
「鍛錬?」
「ああ」
大男がもう一度木を見る。
拳を握る。
「ふん!」
ドンッ!
太い幹が揺れた。
葉が何枚も落ちてくる。
「おお!」
ハヤテの目がさらに輝く。
「すげえ!」
「…………」
何がすごいんだろ。
いや。
普通に木が揺れてるからすごいのか。
「手、痛くないんですか?」
たるとが聞く。
「痛くはない」
「本当ですか?」
「ああ」
「木は痛そうですけど……」
「…………」
大男が木を見る。
「ゲームだぞ?」
「でも……」
たるとが木を見る。
「可哀想です」
「…………」
大男。
「…………」
俺達。
「…………」
ハヤテ。
「たるとらしいな!」
「何がですか!」
「木の心配するとこ!」
「しますよ!」
「そうか?」
「します!」
「…………」
大男が少しだけ笑った。
「面白い奴らだな」
「だろ!」
なぜかハヤテが胸を張る。
「ハヤテが言うこと?」
俺が聞く。
「俺達のことだからな!」
「…………」
まあ。
間違ってはいない。
リンファが大男を見る。
「それで」
「ん?」
「鍛錬って、何のため?」
「そのままだ」
「強くなるため?」
「ああ」
「木を殴って?」
「ああ」
「…………」
リンファが俺を見る。
「分からないわ」
「俺も」
「聞こえてるぞ」
「ごめん」
別に隠してない。
セリアが木へ近づく。
「硬そうだね~」
コンコン。
杖の先で軽く幹を叩く。
「これを素手で殴ってるんだ~」
「そうだ」
「何回くらい~?」
「数えてない」
「ずっと?」
「しばらくな」
「へぇ~」
セリアは普通に感心してる。
シズクが少し考える。
「武器は使わないんですか?」
「武器は考えてない」
「素手で戦うんですか?」
「今は色々試している」
「試している?」
「ああ」
大男が自分の拳を見る。
「この世界でどこまで身体を使って戦えるのか」
「…………」
「殴る」
「受ける」
「避ける」
「踏み込む」
「そういう動きを試している」
「なるほど」
シズクが頷く。
「だから木を?」
「そうだ」
「…………」
俺も少し納得した。
ゲームを始めたばかり。
戦い方が決まってない。
色々試す。
俺がゴブリン相手に動きを見てたのと似てるのかもしれない。
「でも木なんだ」
「動かんからな」
「なるほど」
確かに。
「おお!」
ハヤテが大男へ近づく。
「じゃあ素手で魔物とも戦うのか!?」
「戦う」
「すげえ!」
「そうか?」
「俺は剣二本!」
ハヤテが腰の二本を見せる。
「二刀流!」
「見れば分かる」
「お!」
ハヤテが俺を見る。
「ガウと同じこと言った!」
「仲良くなれそうだね」
「だな!」
「なぜそうなる」
大男が眉を寄せる。
「ははは!」
ハヤテが笑う。
「なあ!」
「なんだ」
「俺達、今探索してんだ!」
「そうか」
「一緒に来るか?」
「…………」
大男が止まる。
俺達も見る。
「湖も見つけた!」
ハヤテが後ろを指差す。
「まだこの辺全然探索してないんだ!」
「…………」
「七人ならもっと色々行けるだろ!」
「…………」
大男が少し考える。
そして。
「いや」
「…………」
ハヤテが止まった。
「行かん」
「…………」
たると。
リンファ。
セリア。
シズク。
俺。
そして。
ハヤテ。
「え?」
「行かん」
「なんで!?」
「まだここでやることがある」
大男が木を見る。
「鍛錬の途中だ」
「探索も楽しいぞ!」
「そうか」
「湖綺麗だぞ!」
「そうか」
「まだ知らない場所いっぱいあるぞ!」
「そうか」
「…………」
ハヤテが俺を見る。
「断られた!」
「見てたよ」
「どうする?」
「どうもしないよ」
「え!?」
「本人が行かないって言ってるんだから」
「…………」
ハヤテが大男を見る。
「本当に来ない?」
「ああ」
「…………」
少し残念そう。
珍しい。
「仕方ないですね」
たるとが言う。
「まだやることがあるなら」
「そうですね」
シズクも頷く。
「無理に誘うものでもありません」
「そうね」
リンファ。
「本人が決めることだもの」
「私はどっちでもいいよ~」
セリア。
「…………」
ハヤテが大男を見る。
「そっか!」
切り替え早い。
「じゃあ仕方ないな!」
「…………」
大男が少しだけ目を細める。
「もっと食い下がると思った」
「行きたくないなら仕方ないだろ!」
「…………」
「でも!」
ハヤテが笑う。
「気が変わったら来いよ!」
「場所分からないでしょ」
俺が言う。
「…………」
ハヤテ。
「確かに!」
「今気付いたの?」
「細かいことはいいんだ!」
「よくないと思います」
シズク。
「ははは!」
「…………」
大男がまた少し笑った。
「本当に変な奴らだな」
「褒めてる?」
俺が聞く。
「さあな」
「…………」
褒めてない気がする。
「じゃあ」
リンファが湖を見る。
「そろそろ行きましょうか」
「そうだね」
「まだ探索したいです!」
たると。
「次はどこ行く?」
「向こう~?」
セリアが森の奥を指差す。
「マップを確認してからにしましょう」
シズク。
「よし!」
ハヤテが先頭へ行こうとする。
そして。
止まった。
「…………」
振り返る。
大男。
「ん?」
「あ!」
「何?」
俺が聞く。
「名前!」
「…………」
「聞いてなかった!」
「また?」
「またって何だよ!」
「この前も名前聞く前にパーティー組もうとしてたじゃん」
「…………」
ハヤテが考える。
「あったな!」
「忘れてたの?」
「今思い出した!」
「…………」
シズクが小さくため息をつく。
「本当に自由ですね」
「だろ!」
「褒めていません」
「え!?」
セリアが笑う。
「ふふっ」
ハヤテは大男を見る。
「なあ!」
「なんだ」
「名前!」
「…………」
大男が俺達を見る。
「聞いてどうする」
「また会った時呼べるだろ!」
「…………」
即答。
大男が少し黙る。
そして。
「ゴウマ」
「ゴウマ?」
「ああ」
「俺はハヤテ!」
「さっき聞いた」
「言ったっけ!?」
「二刀流だと言ってた」
「名前も言った!」
「そうだったな」
「覚えてんじゃん!」
「…………」
今度は俺達。
「ガウ」
「たるとです!」
「リンファ」
「セリアだよ~」
「シズクです」
一気に名乗る。
「…………」
ゴウマが俺達を見る。
「多いな」
「六人ですからね!」
たるとが胸を張る。
「覚えられる?」
俺が聞く。
「多分な」
「多分!?」
たると。
「ちゃんと覚えてください!」
「努力する」
「絶対ですよ!」
「なぜそこまで言われる」
「名前は大事です!」
「そうか」
「そうです!」
「…………」
ゴウマが頷く。
「分かった」
「はい!」
満足そう。
「じゃあ!」
ハヤテが大きく手を上げる。
「俺達は行く!」
「ああ」
「またな、ゴウマ!」
「…………」
少し間。
「ああ」
ゴウマも軽く手を上げた。
「またな」
「また会いましょう!」
たると。
「じゃあね」
リンファ。
「またね~」
セリア。
「失礼します」
シズク。
俺も。
「じゃあ」
「ああ」
名前を聞いただけ。
俺達はゴウマへ背を向ける。
「よし!」
ハヤテが前へ。
「次行こうぜ!」
「今度は方向間違えないでよ」
「分かってる!」
「本当ですか?」
シズク。
「分かってるって!」
「マップ見てる?」
俺が聞く。
「…………」
ハヤテが止まる。
「今見る!」
「見てなかったんじゃない」
「ははは!」
六人で歩き出す。
少し離れて。
ドンッ!
「…………」
振り返る。
ゴウマがまた木を殴っている。
ドンッ!
「…………」
本当に続けるんだ。
「ガウ!」
前からハヤテ。
「置いてくぞ!」
「はいはい」
俺は前を見る。
「変な人だったね」
「面白いやつだった!」
ハヤテ。
「まだほとんど話してないでしょ」
「十分だろ!」
「何が?」
「分かんね!」
「…………」
ゲームの中。
たまたま知らない場所へ行って。
たまたま湖を見つけて。
たまたま木を殴っている大男に会った。
名前を聞いた。
それだけ。
また会うかもしれない。
「ガウさん!」
たるとが振り返る。
「早く行きましょう!」
「うん」
俺は六人のところへ走る。
後ろからもう一度。
ドンッ!
木を殴る音が聞こえた。
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