第12話 解散
リンファと一緒に素材集めから三日後。
土曜日。
◇
「…………」
午前十時過ぎ。
俺はベッドに寝転がりながらスマホを見る。
三人のメッセージ。
昨日の夜からやり取りしていた内容をもう一度確認する。
《たると》
『今週は実家の用事があるので、土日はできません!』
《ハヤテ》
『マジか!』
《たると》
『すみません!』
《ガウ》
『別に謝らなくていいよ』
《ハヤテ》
『そうそう!また来週遊ぼうぜ!』
《たると》
『はい!』
そして。
リンファ。
《リンファ》
『土曜日は友達と買い物に行くから昼間は無理』
《リンファ》
『夜ならできるかも』
《ハヤテ》
『じゃあ夜集合!』
《リンファ》
『予定が合えばね』
《ハヤテ》
『集合な!』
《リンファ》
『話聞いてる?』
「…………」
聞いてないな。
そして今朝。
《ハヤテ》
『ガウ!』
《ハヤテ》
『今日どうする?』
《ガウ》
『昼?』
《ハヤテ》
『おう!』
《ガウ》
『ログインしてから決めればいいんじゃない?』
《ハヤテ》
『そうだな!』
「…………」
何も決まってない。
たるとは土日いない。
リンファも昼間はいない。
つまり。
昼は俺とハヤテの二人。
「まあいいか」
何かクエストでもやればいい。
夜になったらリンファも来るかもしれないし。
俺はスマホを置く。
ヘッドセットを手に取り、ベッドへ横になる。
目を閉じる。
意識が現実から離れていく。
◇◇◇
「…………」
目を開ける。
《始まりの街》。
いつもの場所。
「さて」
メニュー。
フレンド。
《ハヤテ オンライン》
《たると オフライン》
《リンファ オフライン》
「ハヤテいるな」
メッセージ。
《ログインした》
送信。
数秒。
ピコン。
《ハヤテ》
『ギルド前!』
「…………」
最近ずっとそこにいる気がする。
俺は冒険者ギルドへ向かった。
◇
「ガウー!」
冒険者ギルド前でハヤテが大きく手を振っている。
「こっち!」
「見えてるよ」
俺はハヤテのところへ。
「おはよう」
「おはよ!」
「今日は二人だね」
「だな!」
ハヤテが笑う。
「たるとは実家!」
「うん」
「リンファは買い物!」
「うん」
「つまり!」
ハヤテが俺を指差す。
「今日は俺とガウの二人!」
「そうだね」
「男二人!」
「…………」
俺は自分を見る。
女性。
狼獣人。
「見た目は女だけど」
「細かいことは気にするな!」
「細かいか?」
性別。
かなり大きいと思うけど。
「それより!」
ハヤテが冒険者ギルドを見る。
「何する!」
「決めてないの?」
「決めてない!」
「昨日から何も変わってないじゃん」
「ログインしてから決めるって言ったのガウだろ!」
「そうだけど」
「だから決めようぜ!」
「じゃあクエスト見る?」
「よし!」
早い。
「面白そうなの探そうぜ!」
「うん」
俺達は冒険者ギルドへ入った。
◇
「リーダーの指示に従えないのか!」
「…………」
入った瞬間。
大きな声。
「ん?」
ハヤテも足を止める。
冒険者ギルドはいつも通り。
少し離れた場所で数人のプレイヤーが言い争っていた。
「喧嘩?」
ハヤテが小声で言う。
「みたいだね」
俺達だけじゃない。
周囲のプレイヤーも何人かそちらを見ている。
中心にいるのは男性プレイヤー。
装備を見る限り前衛。
その男が向かいにいる二人の女性プレイヤーへ声を荒らげている。
「俺はちゃんと指示しただろ!」
一人。
女性プレイヤー。
魔法使いらしい装備。
杖を持っている。
「でも~」
女性が少し困ったように首を傾げる。
「大雑把すぎる~」
「何がだよ!」
もう一人。
こちらも魔法使い。
小さな杖を持っている。
ただ。
一人目とは違ってかなりハッキリした口調だ。
「もう少し詳しく指示してくれないと、こちらも動けません!」
「前衛を援護しろって言っただろ!」
「だから~」
一人目の女性が杖を持ったまま首を傾げる。
「誰を~?」
「は?」
「前衛って三人いたよね~?」
「…………」
「誰をどの魔法で援護すればいいのか分からなかったよ~」
「それくらい自分で考えろよ!」
「でしたら指示ではないですよね?」
二人目。
「はぁ!?」
「『前衛を援護しろ』『何とかしろ』だけでは、こちらもどう動けばいいのか分かりません!」
「…………」
俺はハヤテを見る。
「リーダーが悪くないか?」
「俺もそう思う」
小声。
少なくとも俺だったらあの指示では困る。
というか。
「ハヤテの『そっち三体!』の方がまだ分かりやすい」
「だろ」
「褒めてないよ」
「なんで!?」
喧嘩は続く。
「魔法使いなら状況見て勝手に動けよ!」
「動いたら怒ったじゃない~」
「…………」
「『勝手なことするな!』って~」
「…………」
それは駄目じゃない?
「そうです!」
もう一人の女性も続く。
「自分で考えろと言ったり、指示に従えと言ったり!どちらなんですか!」
「うるさいな!」
男の声がさらに大きくなる。
「俺がリーダーなんだぞ!」
「だから何~?」
「…………」
強い。
「リーダーならもう少し皆が動きやすいように指示を出すべきです!」
「そうだよ~」
「こっちはちゃんと戦ってるんです!」
「私も~」
「うるさい!」
男が叫ぶ。
「もういい!」
男がメニューを開く。
「そんなに俺の指示が気に入らないなら――」
何かを操作する。
「パーティー解散だ!」
ピッ。
二人の女性の前にも何か表示されたらしい。
一人目。
「…………」
二人目。
「…………」
男。
「…………」
そして。
一人目の女性が。
「解散するの~?」
「そうだよ!」
「そっか~」
「…………」
軽い。
そして二人目。
「そうですね」
頷く。
「では、さようなら!」
「…………え?」
男が止まった。
「…………」
俺も。
「…………」
ハヤテも。
「じゃあ行こっか~」
「はい!」
二人の女性が男へ背中を向ける。
「ちょ、待てよ!」
「何~?」
「本当に行くのか!?」
「解散って言ったのそっちだよ~?」
「…………」
正論。
「私達もあなたとは合わないと思っていましたので!」
「…………」
「今までありがとうございました!」
ぺこっ。
頭まで下げた。
「じゃあね~」
二人。
そのまま歩き出す。
残された男。
「…………」
他のパーティーメンバー。
「…………」
周囲。
「…………」
そして。
俺達。
「…………」
「…………」
ハヤテが俺を見る。
「本当に解散した」
「したね」
「めちゃくちゃあっさり」
「うん」
「…………」
ハヤテが二人を見る。
魔法使い。
二人。
そのまま冒険者ギルドの隅へ。
「…………」
嫌な予感。
「ハヤテ」
「ん?」
「もしかして」
「おう!」
まだ何も言ってない。
「声かける!」
「やっぱり」
ハヤテが歩き出す。
「ちょっと待って!」
俺も追いかける。
◇
「なあ!」
「ん~?」
「はい?」
二人が振り返る。
近くで見る。
一人目。
魔法使い。
少しふわっとした雰囲気。
話し方もゆっくり。
もう一人。
同じく魔法使い。
こっちはしっかりしてそう。
「…………」
二人ともパーティー解散したばかりなんだけど……。
ハヤテは何も気にしてなさそうだ。
「パーティー解散したんだろ?」
「そうだよ~」
「しましたね」
「じゃあさ!」
ハヤテが笑う。
「俺達と一緒に遊ばね?」
「…………」
一人目。
「…………」
二人目。
「…………」
俺。
「…………」
ハヤテ。
「どう?」
「ナンパかよ!」
思わず言った。
「いいじゃん!」
「今パーティー解散したばっかりだよ?」
「だからだろ!」
「どういう理屈?」
「パーティーなくなった!」
「うん」
「俺達は二人!」
「うん」
「二人と二人!」
「…………」
「四人!」
「計算の話?」
「違う!」
女性二人が俺達を見る。
そして。
「ふふっ」
一人目が笑った。
「面白い人だね~」
「そう?」
「褒められた!」
「多分褒めてないよ」
「えぇ!?」
もう一人の女性は。
「…………」
少し警戒している。
当然だと思う。
「失礼ですが」
「ん?」
ハヤテ。
「私達、初対面ですよね?」
「そうだな!」
「…………」
「…………」
「それでいきなり、一緒に遊ばないかと?」
「おう!」
即答。
「…………」
女性が困ったように俺を見る。
「いつもこうなんですか?」
「大体こんな感じ」
「ガウ!?」
「違う?」
「…………」
ハヤテが考える。
「大体こんな感じ!」
「でしょ」
「認めるんですね……」
女性が少しだけ笑った。
「でも~」
もう一人。
「私はいいよ~」
「え?」
隣の女性が見る。
「どうせパーティーなくなっちゃったし~」
「それはそうですが……」
「暇になったし~」
「…………」
「それに」
俺とハヤテを見る。
「なんか面白そう~」
「だろ!?」
ハヤテの目が輝く。
「絶対楽しいぞ!」
「何するの~?」
「…………」
ハヤテが止まる。
「…………」
「…………」
俺を見るな。
「決めてない」
俺が答える。
「何も?」
「何も」
「…………」
二人の女性が顔を見合わせる。
「本当に誘っただけなんですね」
「うん」
「おう!」
「…………」
呆れられてる。
「でも」
しっかりした方の女性が少し考える。
「今日はもう予定もありませんし……」
「お!」
「一度くらいなら」
「よっしゃ!」
ハヤテが拳を握る。
「決まり!」
「まだ最後まで言ってません!」
「でも遊ぶんだろ?」
「…………遊びますけど」
「決まり!」
「強引ですね……」
「そうなんだよ」
俺が言う。
「ガウはどっちの味方!?」
「俺」
「自分!?」
「ふふっ」
「面白いね~」
二人とも笑っている。
「じゃあ!」
ハヤテがメニューを開く。
「パーティー組もうぜ!」
「ちょっと待って」
「今度は何!?」
「名前」
「…………」
ハヤテ。
「…………」
俺。
「…………」
女性二人。
「…………あ」
気付いた。
「名前聞いてなかった!」
「今聞く?」
「忘れてた!」
「…………」
本当に自由だ。
ハヤテが自分を指差す。
「じゃあ改めて!」
笑う。
「俺はハヤテ!」
腰に二本の剣。
「二刀流!」
「それ名前じゃないよ」
「大事な情報だろ!」
「そうかな」
「ガウも!」
「俺?」
「自己紹介!」
「…………」
俺も自分を指差す。
「ガウ」
頭。
狼耳。
「狼獣人」
「ガウはそれだけ!?」
「他に何言うの?」
「好きな食べ物とか!」
「いらないでしょ」
「…………」
二人の女性が笑っている。
「じゃあ~」
ふわっとした方の女性が杖を持ち上げる。
「私はセリアだよ~」
「セリア!」
ハヤテがすぐに名前を呼ぶ。
「よろしく!」
「よろしくね~」
そして。
もう一人。
姿勢を正す。
「私はシズクです」
丁寧に頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「シズク!」
「よろしく!」
「はい」
セリアとシズク。
二人の魔法使い。
「よし!」
ハヤテがメニューを操作する。
ピッ。
目の前。
『ハヤテからパーティーへの招待が届きました』
「…………」
俺。
もうパーティーに入ること確定してるんだけど。
YES。
ポチッ。
続いて。
セリア。
シズク。
二人も参加。
《ハヤテ》
《ガウ》
《セリア》
《シズク》
四人。
「おぉ!」
ハヤテが嬉しそうに表示を見る。
「四人パーティー!」
「四人だね~」
「そうですね」
「…………」
今日はたるとはいない。
リンファも昼間はいない。
だから。
ハヤテと二人で適当にクエストでもやる。
その予定だった。
それが。
冒険者ギルドへ入って。
喧嘩を見つけて。
パーティーが解散して。
ハヤテが声をかけて。
気付けば。
「じゃあ改めて!」
ハヤテが笑う。
「四人で何かやろうぜ!」
「いいよ~」
「よろしくお願いします」
二人が答える。
「…………」
また増えた。
俺は四人のパーティー表示を眺める。
《ハヤテ》
《ガウ》
《セリア》
《シズク》
「ガウ!」
「ん?」
「クエスト見ようぜ!」
「うん」
「どんな依頼がありますかね」
「面白いのがいいな~」
四人が掲示板へ向かう。
俺もその後を追う。
本当にオンラインゲームって何が起こるか分からない。
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