第11話 フレンド
《満腹亭》でリンファと出会ってから。
数日後。
◇
「疲れた……」
仕事を終え。
家に帰って。
風呂に入って。
晩飯を食べて。
現在。
夜九時過ぎ。
「…………」
俺はベッドに寝転がりながらスマホを見る。
明日も仕事。
当然。
夜更かしはできない。
「十一時くらいまでかな」
二時間。
十分遊べる。
俺はスマホを置く。
ヘッドセットを手に取って被る。
目を閉じる。
意識が現実から離れていく。
◇◇◇
「…………」
目を開ける。
《始まりの街》。
いつもの場所。
「さて」
今日は何しよう。
いつもならハヤテかたると。
二人のどちらかに連絡するところだけど。
「…………」
俺はメニューを開く。
ピッ。
フレンド。
《ハヤテ オフライン》
《たると オフライン》
「二人ともいないか」
まあ平日だし。
ハヤテは仕事。
たるとは大学。
毎日同じ時間にログインできるわけじゃない。
「一人で何かするか」
クエスト。
探索。
レベル上げ。
何でもいい。
そう思って。
フレンドリストを閉じようとする。
「…………ん?」
一人。
《リンファ オンライン》
「…………」
いた。
数日前。
《満腹亭》で相席したプレイヤー。
「リンファいるんだ」
でも。
「…………」
どうしよう。
連絡する?
いや。
別に約束してないし。
リンファも何かしてるかもしれない。
「まあいいか」
俺はフレンドリストを閉じようとする。
その時。
ピコン。
「ん?」
『リンファからメッセージが届きました』
「…………」
タイミング。
開く。
《暇?》
「…………」
短っ。
俺は少し笑う。
音声入力。
《暇》
送信。
数秒。
ピコン。
《素材集め手伝って》
「…………」
また短い。
《どこ?》
送信。
ピコン。
《冒険者ギルド前》
「近いな」
俺はメニューを閉じる。
「行くか」
◇
冒険者ギルド前。
「来たわね」
リンファ。
《満腹亭》で別れた時と同じ姿。
「こんばんは」
「こんばんは」
俺はリンファの前まで歩く。
「素材集め?」
「ええ」
「何集めるの?」
「糸」
「糸?」
「そう」
リンファがマップを開く。
《始まりの街》から少し離れた森に指を差す。
「この辺に《シルクスパイダー》って魔物が出るらしいの」
「蜘蛛?」
「蜘蛛」
「…………」
嫌だな。
「苦手?」
「大きい?」
「え?そこ?」
「うん」
「魔物だからそれなりに大きいわよ」
「……」
現実で部屋に出たら嫌だけど。
ゲームなら。
たぶん。
「分かった」
「そいつ倒せばいいの?」
「ええ。《蜘蛛糸》って素材を落とすらしいわ」
「なるほど」
リンファが俺を見る。
「一人でも行けると思うんだけど……せっかくフレンドになったしね」
「…………」
フレンド。
「まあ、暇だったからいいよ」
「助かるわ」
リンファがパーティー申請を送ってくる。
ピッ。
『リンファからパーティーへの招待が届きました』
YES。
ポチッ。
《リンファ》
《ガウ》
二人。
「じゃあ行きましょうか」
「うん」
俺達は《始まりの街》の門へ向かった。
◇
草原。
夜。
「…………」
昼とは全然違う。
空には月。
星。
草原を吹く風。
遠くには街の明かり。
「夜も綺麗だな」
「ね」
リンファが空を見る。
「私、結構夜の景色好きよ」
「へぇ」
「昼と同じ場所でも全然違って見えるし」
「確かに」
俺達は並んで歩く。
「…………」
静か。
「…………」
めちゃくちゃ静か。
「…………」
普段。
ハヤテがずっと喋る。
たるともよく喋る。
二人がいると何もしなくても会話が続く。
でも今日は。
俺のリンファの二人。
「…………」
「…………」
少し気まずい。
「静かね」
リンファが言った。
「だね」
「いつもあの二人といるの?」
「いつもではないけど……結構遊んでるかも」
「そうなのね」
リンファが笑う。
「あの二人はいつもあんな感じなの?」
「いつもあんな感じ」
「この前はずっと喋ってたものね」
「主にハヤテが」
「たるともでしょ?」
「まあね」
「ガウも結構喋ってたじゃない」
「俺はツッコんでただけ」
「それを喋ってたって言うのよ」
「…………」
そうなの?
「ふふっ」
リンファが笑う。
「でも」
「ん?」
「こういうのも悪くないわね」
夜の草原に二人。
目的地まで歩くだけ。
「そうだね」
やっぱり。
オープンワールドって変なゲームだ。
◇
森に入る。
「この辺ね」
リンファがマップを閉じる。
周囲を見る。
結構暗い。
月明かりも木々に遮られている。
「見えにくいな」
「ランタン買ってくればよかったわね」
「持ってないの?」
「持ってない」
「俺も」
「…………」
「…………」
準備不足。
「まあ」
狼耳がぴくっと動く。
「音は聞こえるから」
「便利ね、それ」
「結構ね」
耳を澄ます。
葉。
風。
虫。
そして。
カサカサ。
「…………」
「いた?」
「たぶん」
右。
「こっち」
俺が歩き出す。
リンファもついてくる。
茂みを抜ける。
そこに。
「うわ」
いた。
でかい。
普通の蜘蛛をそのまま何十倍にもしたような魔物。
八本の脚。
黒い身体。
《シルクスパイダー Lv.3》
「…………」
俺は少し止まる。
「何?」
リンファ。
「思ったより蜘蛛だった」
「蜘蛛なんだから当たり前でしょ」
「もうちょっとファンタジーっぽいと思ってた」
「十分ファンタジーでしょ。こんな大きい蜘蛛」
「それもそうだけど……」
シルクスパイダーがこちらに気付く。
「キシャアア!」
「来るわよ」
「うん」
俺は腰の短刀を抜く。
リンファも。
「…………ん?」
武器。
短剣。
一本。
「リンファも近接?」
「今はね」
「今は?」
「まだ色々試してるところなの」
「なるほど」
発売されてまだ一ヶ月。
俺達も始めて二週間。
戦い方なんて決まってなくて当然か。
「キシャア!」
蜘蛛が走る。
「速っ」
見た目の割に速い。
八本の脚で地面を走る。
俺は横へ。
リンファは反対側。
シルクスパイダーの攻撃が空を切る。
「よっ」
俺が踏み込む。
短刀。
ザシュッ!
「キシャッ!」
反対側から。
リンファ。
ザシュッ!
「お」
二人で挟む。
蜘蛛が俺を見る。
次にリンファ。
「キシャア!」
リンファへ。
「そっち行った!」
「分かってる!」
リンファが横へ避ける。
その瞬間。
俺が背後から斬る。
ザシュッ!
蜘蛛が振り返る。
今度はリンファ。
ザシュッ!
「…………」
やりやすい。
「いい感じね」
「だね」
初めて一緒に戦った。
でも特に問題ない。
俺が攻撃されたらリンファ。
リンファが狙われたら俺。
自然と交互。
そして。
ザシュッ!
「キシャ……」
シルクスパイダーのHPがなくなる。
光の粒子へ。
消える。
ポトッ。
地面にアイテムが落ちた。
「お」
リンファが拾う。
『蜘蛛糸』
「出たわ」
「これ?」
「そう」
リンファが嬉しそうに素材を見る。
「…………」
さっきまでよりちょっとテンション高い。
「そんなに欲しかったの?」
「欲しかったわよ」
「何に使うの?」
「服」
「…………服?」
「ええ」
リンファが蜘蛛糸をアイテム欄へ収納する。
「裁縫」
「裁縫?」
「このゲーム、服を作れるのよ」
「防具じゃなくて?」
「防具も作れるわ。でも普通の服も作れる」
「へぇ」
知らなかった。
「自分で?」
「素材を集めて、生産用の設備を借りて作るの」
「そんなことできるんだ」
「できるわよ」
リンファが俺を見る。
「知らなかったの?」
「知らない」
「チュートリアルは?」
「飛ばした」
「…………」
リンファが止まる。
「飛ばしたの?」
「うん」
「全部?」
「全部」
「…………」
呆れた顔。
「よくそれで遊べてるわね」
「メニュー開くのに苦戦した」
「でしょうね」
「でももう覚えたから」
「自慢するところじゃないわよ」
「…………」
言われた。
「それより」
俺は聞く。
「リンファは裁縫好きなの?」
「好きよ」
即答。
「現実でも?」
「ええ。趣味でね」
「へぇ」
「だからゲームでもできるって知って試してるの」
リンファが少し楽しそうに話す。
「素材によって生地の性能が変わるみたいだし、色も変えられる。デザインもかなり自由なのよ」
「結構細かいんだ」
「そうなの」
「…………」
すごい。
戦う。
探索する。
クエスト。
それだけじゃない。
服を作る。
そういう遊び方もある。
「ゲームでまで裁縫するんだ」
「好きなんだからいいでしょ?」
「悪いとは言ってないよ」
「ガウは?」
「俺?」
「好きなこと」
「…………」
考える。
ゲーム。
攻略。
RTA。
強い敵。
戦闘。
「戦うことかな」
「でしょうね」
「なんで分かるの」
「動き見れば分かるわよ」
「そう?」
「蜘蛛の動きずっと見てたでしょ?」
「…………」
見てた。
「攻撃する前の動きとか、避けた後の隙とか」
「癖かな」
「変な癖ね」
「ゲームでは役立つよ」
「それは分かるけど」
リンファが笑う。
「じゃあ」
「ん?」
俺の服を見る。
今着ている軽装。
二週間で買い替えたもの。
性能だけ見て選んだ。
「ガウの服、私が作ってあげようか?」
「え?」
「そのうち」
「いいの?」
「練習台が欲しかったのよ」
「練習台……」
「嫌?」
「別にいいけど」
「じゃあ決まりね」
「…………」
なんか。
勝手に決まった。
「変なの作らないでよ」
「さあ?」
「おい」
リンファが笑う。
「冗談よ」
「…………」
本当に?
◇
それから。
シルクスパイダーを三体倒す。
《蜘蛛糸》は二個回収。
「全然落とさないわね」
「何個いるの?」
「最低でも十個くらい欲しい」
「今何個持ってるの?」
「四個」
「…………」
遠い。
「物欲センサー」
「やめて」
「欲しいって思うほど出ないやつ」
「言わないで」
「次も出なかったりして」
「ガウ」
「はい」
怒られそうなのでやめる。
その時。
ピコン。
「ん?」
メッセージを開いてみる。
《たると》
『こんばんは!』
「たると来た」
「ログインしたの?」
「みたい」
返信。
《こんばんは》
送信。
直後。
ピコン。
《ハヤテ》
『ガウ!』
「…………」
こっちも来た。
《なに?》
送信してすぐに。
《ハヤテ》
『どこ!?』
「…………」
なんでいきなり場所聞くんだ。
「ハヤテも?」
リンファ。
「うん」
「二人とも同じくらいに来たのね」
「みたい」
ピコン。
たると。
《今日は何してるんですか?》
俺は。
《リンファと素材集め》
送信。
ハヤテにも。
《リンファと素材集め》
送信。
「これでよし」
「…………」
リンファが俺を見る。
「何?」
「多分来ると思う」
「…………」
「…………」
俺達が黙る。
ピコン!
《ハヤテ》
『リンファいるの!?』
続いて。
《ハヤテ》
『俺も行く!』
「…………」
やっぱり。
ピコン。
《たると》
『リンファさんもいるんですか!?』
続けて。
《たると》
『私も行きます!》
「…………」
俺はリンファを見る。
リンファも俺を見る。
「来るって」
「本当に来るのね」
「場所を送ってあげて」
「うん」
マップを開き、現在地を共有。
「これで来る」
「…………」
リンファが少し笑う。
「賑やかになりそうね」
「だね」
◇
しばらくして。
「おーい!」
「…………」
遠くから声。
「来た」
「早いわね」
木々の向こうから走ってくる人影。
「ガウー!」
ハヤテ。
その後ろ。
「待ってくださいー!」
たると。
「ハヤテさん速いです!」
「早く行こうぜ!」
「置いていかないでください!」
「…………」
来る前から賑やか。
俺とリンファはその場で待つ。
そして。
「到着!」
ハヤテが俺達の前で止まる。
「リンファ!」
「こんばんは」
「こんばんは!」
たるとも少し遅れて到着。
「リンファさん! また会えました!」
「数日ぶりね」
「はい!」
たるとの虎耳が嬉しそうに動く。
「何してるんですか?」
「素材集め」
「何の素材です?」
「蜘蛛糸」
「蜘蛛!?」
たるとの虎耳が止まる。
「…………苦手?」
リンファが聞く。
「ちょっとだけ……」
「大丈夫だ!」
ハヤテが二本の剣へ手を置く。
「俺が全部倒す!」
「お」
「任せろ!」
「素材集めだからね?」
俺が言う。
「分かってる!」
「本当に?」
「敵倒せば素材落ちるんだろ?」
「そうだけど」
「なら同じ!」
「…………」
まあ。
間違ってはいない。
「じゃあ」
リンファがメニューを開く。
「パーティー組み直しましょうか」
「おう!」
「はい!」
俺とリンファの二人パーティー。
そこに。
ハヤテ。
たると。
二人を追加。
《ガウ》
《リンファ》
《ハヤテ》
《たると》
四人。
「おぉ!」
ハヤテが表示を見る。
「四人になった!」
「ですね!」
たるとも嬉しそう。
「よし!」
ハヤテが剣を抜く。
「蜘蛛狩りだ!」
「目的は素材集めよ」
リンファ。
「蜘蛛狩り!」
「聞いてる?」
「蜘蛛はどこですか!?」
たるとが周囲を見る。
「苦手なんじゃなかったの?」
「遠くからなら大丈夫です!」
「どうやって戦うの?」
「…………」
たるとが止まる。
「…………」
俺。
「…………」
リンファ。
「…………」
ハヤテ。
「…………応援します!」
「戦わないの!?」
ハヤテが叫ぶ。
「頑張ってください!」
「たるとも戦えー!」
「蜘蛛はちょっと!」
「さっき大丈夫って言ったじゃん!」
「遠くからならです!」
「…………」
リンファが笑う。
「ふふっ」
「…………」
俺も笑う。
「やっぱり」
「ん?」
リンファが俺を見る。
「賑やかになったわね」
「言ったでしょ」
「ええ」
その時。
カサカサ。
狼耳。
ピクッ。
「来た」
「どこ!?」
ハヤテが剣を構える。
茂み。
ガサッ!
《シルクスパイダー Lv.3》
「蜘蛛ー!」
たるとが俺の後ろへ。
「俺を盾にしないで」
「ちょっとだけです!」
「よっしゃ!」
ハヤテが走る。
「素材!」
リンファも続く。
「目的逆になってない?」
俺も短刀を抜く。
そして。
地面を蹴る。
◇
「出た!」
リンファが蜘蛛糸を拾う。
「これで十個!」
「終わり?」
「ええ」
「よっしゃ!」
ハヤテが剣を掲げる。
「蜘蛛狩り終了!」
「だから素材集め」
「同じだろ!」
「違うわよ」
「細かいこと気にするなって!」
「ハヤテが適当すぎるのよ」
「…………」
普通に話してる。
数日前。
《満腹亭》で相席しただけなのに。
「終わりました?」
木の後ろ。
たるとが顔を出す。
「終わったよ」
「本当ですか?」
「本当」
「もう蜘蛛いません?」
「たぶん」
「たぶん!?」
「嘘。いない」
「もう!」
たるとが木の後ろから出てくる。
「じゃあ街に戻りましょう!」
「だな!」
「ええ」
四人。
森を歩き始める。
夜。
木々の間から月が見える。
ハヤテが喋る。
たるとが返す。
リンファが笑う。
俺がツッコむ。
「…………」
リンファは飯屋でたまたま相席した人だった。
それだけ。
でも。
フレンド登録して。
メッセージが来て。
一緒に素材を集めて。
ハヤテとたるともやって来て。
今は四人で歩いている。
やっぱり。
オープンワールドって変なゲームだ。
よろしければ感想や評価、ブックマークで応援していただけると励みになります!




