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第10話 相席

「着きましたー!」


たるとの声が響く。


俺達の目の前には一軒の建物があった。


木造の二階建て。


入口の上には大きな看板。


《満腹亭》


「…………」


俺は看板を見る。


その隣。


ハヤテも見る。


そして。


「満腹亭!」


「見れば分かるよ」


「ついに着いたな!」


「ですね!」


たるとの虎耳がぴんっと立っている。


《始まりの街》を出て。


草原を歩いて。


森を抜けて。


川を渡って。


途中で魔物に何度か遭遇して。


ようやく辿り着いた小さな村。


その中にある。


目的地。


《満腹亭》。


「長かった……」


俺は小さく息を吐く。


「飯食いに来る距離じゃないだろ」


「でも着きました!」


「冒険だったな!」


ハヤテは楽しそう。


「ゴブリンも倒せたし!」


「目的忘れてない?」


「忘れてない!」


ハヤテが《満腹亭》を指差す。


「飯!」


「それならいいけど」


「早く入りましょう!」


たるとが入口へ向かう。


「お腹空きました!」


「ゲームで?」


「気分です!」


「…………」


まあ。


分からなくはない。


俺もなんとなく腹が減ってきた気がする。


目の前から美味そうな匂いまで漂ってきている。


「…………」


狼耳がぴくっと動く。


肉。


焼いた肉。


何か甘辛い匂い。


「うわ」


普通に美味そう。


「ガウ!」


先に入口まで行ったハヤテが振り返る。


「早く!」


「はいはい」


俺も《満腹亭》へ向かった。



カランカラン。


扉を開ける。


「いらっしゃいませー!」


大きな声。


店内。


「おぉ……」


結構広い。


木製のテーブル。


椅子。


奥には厨房。


料理を運ぶNPC。


食事をしているNPC。


そしてプレイヤーもいる。


「混んでますね」


たるとが店内を見回す。


ほとんどの席が埋まっている。


「人気店っていうのは本当みたいだ」


「期待できる!」


ハヤテが笑う。


すると。


店員が俺達のところへ。


「三名様ですか?」


「はい!」


たるとが答える。


「申し訳ありません。ただいま大変混み合っておりまして」


「あ……」


店員が店内を見る。


「三名様でまとまって座れるお席が空いていないんです」


「…………」


「マジ?」


ハヤテも同じことを考えたらしい。


「待てば空きますか?」


俺が聞く。


「そうですね……」


店員が困ったように店内を見る。


「少々お時間がかかるかもしれません」


「えぇ……」


たるとの虎耳がしゅんっと下がる。


「せっかく来たのに……」


「…………」


これは待つしかないか。


そう思った時。


「三人なら」


声。


「ん?」


俺達が振り向く。


店の奥。


四人用のテーブル。


そこに一人の女性が座っていた。


長い黒髪。


俺達より少し年上に見える。


軽装。


そしてその女性がこちらを見ている。


「ここ、空いてるわよ」


「え?」


たるとが首を傾げる。


女性が自分の向かい側と隣の椅子を見る。


「私一人だから」


「…………」


四人席で一人。


つまり。


三席空いている。


「相席でいいならだけど」


「あ!」


たるとの虎耳がぴんっと立つ。


「いいんですか!?」


「私は別にいいわよ」


「ありがとうございます!」


早い。


もう行く気だ。


「じゃあ決まり!」


ハヤテも。


「…………」


俺の意見は?


「ガウさん!」


「ガウ!」


二人が呼ぶ。


「はいはい」


俺達は女性のいるテーブルへ向かった。



「ありがとうございます!」


たるとが頭を下げる。


「本当に助かりました!」


女性が笑う。


「席が空いてただけよ」


「いやー、ここまで来て飯食えないかと思った!」


ハヤテも座る。


「人気なんだなこの店!」


「みたいだね」


俺も空いている席へ。


「相席、ありがとうございます」


「気にしないで」


女性は特に気にしていないようだ。


「私も一人で四人席使ってるの、ちょっと気まずかっただけなのよ」


「一人で来たんですか?」


たるとが聞く。


「ええ」


「この村まで?」


「うん」


「すごいですね!」


「そう?」


女性が首を傾げる。


「普通に探索してたら見つけただけだけど」


「探索!」


たるとの目が輝く。


「私も探索好きです!」


「へぇ」


「この前も森を探索してたんですよ!」


「それで魔物に囲まれてたけどな!」


ハヤテ。


「それは言わなくていいです!」


「事実だろ!」


「もう!」


女性が。


「ふふっ」


笑った。


「楽しそうね、あなた達」


「そうですか?」


たるとが首を傾げる。


「ええ」


女性が俺達を見る。


「三人パーティー?」


「おう!」


「うん」


俺とハヤテの声が重なる。


「…………」


「…………」


ハヤテを見る。


「何?」


「別に」


女性がまた笑う。


「仲いいのね」


「まだ知り合って二週間くらいだけどね」


俺が答える。


「二週間?」


「俺達、このゲームで知り合ったんだ!」


ハヤテが言う。


「森で!」


「へぇ」


「私が魔物に囲まれてたところを助けてもらったんです!」


「それ言うんだ」


「いいじゃないですか!」


「ハヤテに言われるのは嫌なのに?」


「それとこれは別です!」


「なんで!?」


「…………」


女性が俺達を見る。


少し笑っている。


「本当に楽しそう」


「…………」


まあ。


否定はしない。


「そういえば!」


たるとが女性を見る。


「お名前聞いてもいいですか?」


女性が答える。


「リンファ」


「リンファさん!」


「さんはいらないわよ」


「じゃあリンファ!」


切り替え早い。


「私はたるとです!」


「俺はハヤテ!」


二人。


そして。


視線。


俺。


「ガウ」


「ガウね」


リンファが頷く。


「よろしく」


「よろしく」



「お待たせしました!」


ドンッ!


「…………」


テーブルに置かれた料理。


肉がでかい。


「うおおおお!」


ハヤテの目が輝く。


「肉!」


「見れば分かるよ」


「すごいです!」


たるとも。


俺も。


「…………」


思ったよりすごい。


厚切りの肉。


表面には焼き目。


その上からソース。


付け合わせの野菜。


パン。


スープ。


そして匂い。


「…………美味そう」


めちゃくちゃ美味そう。


「これが《満腹亭》名物、《満腹ステーキ定食》です!」


「満腹ステーキ!」


ハヤテ。


「名前そのまんまだな」


「いいじゃん!」


「それではごゆっくり!」


店員が離れていく。


四人が料理を見る。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


ハヤテが。


「食おう!」


「はい!」


「いただきます」


俺も。


「いただきます」


リンファもナイフとフォークを手に取る。


俺も肉を切る。


「…………」


ちゃんと切れる。


当たり前だけど。


肉を一口サイズに。


フォークで刺す。


口へ。


「…………」


噛む。


「…………え?」


肉。


柔らかい。


肉汁。


ソース。


甘い。


少し濃い味。


「美味っ!」


声が出た。


「美味しいです!」


たると。


「うっま!」


ハヤテ。


「でしょ?」


リンファが笑う。


「リンファはもう食べたことあるの?」


「何回か来てるわよ」


「知ってたんだ」


「常連になってるわ」


「へぇ」


俺はもう一口。


「…………」


美味い。


いや。


待て。


これ。


「ゲームなんだよな?」


「何言ってんだ?」


ハヤテが肉を頬張りながら見る。


「分かってるよ」


「ガウさん、どうしたんですか?」


「いや」


俺は肉を見る。


味。


匂い。


食感。


温度。


全部ある。


「普通に飯食ってる感じだなって」


「あぁ!」


ハヤテが頷く。


「確かに!」


「すごいですよね!」


たるとがパンを食べる。


「これならいくら食べても太りません!」


「そこなんだ」


「重要です!」


「さっきハヤテも同じこと言ってたよ」


「ほら!」


ハヤテが嬉しそうにする。


「俺の考え正しかった!」


「仲間にしないでください!」


「なんで!?」


「…………」


リンファが笑う。


「あなた達、ずっとこんな感じなの?」


「大体」


俺が答える。


「ガウ!」


「違う?」


「…………」


ハヤテが考える。


「大体こんな感じ!」


「でしょ」


「認めるんですね」


たるとも笑う。


俺はステーキを食べる。


「…………」


美味い。


ゲームを始めて二週間。


戦闘。


探索。


クエスト。


素材集め。


色々やった。


でも。


今日はただ飯を食いに来た。


そのために三人で何十分も歩いた。


そして。


知らないプレイヤーと相席して四人で飯を食ってる。


「…………」


オンラインゲーム。


やっぱり変な感じ。



「食ったー!」


ハヤテが椅子の背もたれへ身体を預ける。


「美味しかったです!」


たるとも満足そう。


「…………」


俺も普通に満足。


「満腹感まであるんだな」


「満腹亭ですから!」


たると。


「関係ある?」


「あります!」


「絶対ないだろ」


リンファも食べ終わっている。


「美味しかったわ」


「また来たいです!」


「今度はもっと近い店にしようよ」


「ガウさん!」


「だって遠いし」


「冒険もできたからいいだろ!」


ハヤテ。


「それはそうだけど」


「次は違う料理も食べたいですね!」


「全種類制覇しようぜ!」


「いいですね!」


「…………」


また来る気だ。


まあ。


美味しかったからいいけど。


俺達は会計を済ませる。



俺達は店を出た。


「んー!」


たるとが大きく伸びをする。


「美味しかったです!」


「来た甲斐あったな!」


ハヤテも満足そう。


「俺は帰り道が面倒だけど」


「そこは頑張りましょう!」


「ワープとかできないのかな」


「ありそうだな!」


俺達が話していると。


「じゃあ」


リンファ。


「私はこっちだから」


「え?」


たるとがリンファを見る。


「帰らないんですか?」


「まだ少しこの辺探索するつもりなの」


「一人でですか?」


「ええ」


「…………」


たるとの顔。


なんか言いそう。


「たると」


「はい?」


「本人が一人で行くって言ってるんだから」


「…………はい」


分かりやすい。


リンファも気付いたらしい。


「大丈夫よ」


笑う。


「危なくなったら逃げるから」


「絶対ですよ!」


「分かったわ」


「約束です!」


「分かったわ」


「あ!」


ハヤテが突然声を上げる。


「何?」


俺。


「どうしました?」


たると。


リンファもハヤテを見る。


「そういえばリンファ!」


「なに?」


「フレンド登録しようぜ!」


「…………」


リンファが止まる。


俺も。


たるとも。


「…………急ね」


「いいじゃん!」


ハヤテが笑う。


「一緒に飯食った仲だろ!」


「それだけで!?」


「ふふっ」


リンファが笑う。


「何その基準」


「大事だろ!」


「何が?」


「飯!」


「…………」


意味が分からない。


すると。


「いいですね!」


たると。


「私もお願いします!」


「たるとも?」


「はい!」


「…………」


リンファが二人を見る。


そして。


俺。


「…………」


俺は肩をすくめる。


「二人とも距離近いんだよ」


「ガウも登録するだろ?」


「するけど」


「するんじゃない」


リンファが笑う。


「まあ、いいわよ」


「よっしゃ!」


「やった!」


ハヤテとたると。


早速メニューを開く。


ピッ。


俺の前にも。


『リンファからフレンド申請が届きました』


「…………」


YES。


ポチッ。


『リンファとフレンドになりました』


フレンドリスト。


ハヤテ。


たると。


そして。


リンファ。


一人増えた。


「これでまた遊べるな!」


ハヤテが笑う。


「今度一緒にクエストやろうぜ!」


「予定が合ったらね」


「絶対だぞ!」


「予定が合ったらって言ってるでしょ」


「じゃあメッセージ送る!」


「好きにしなさい」


「私も送ります!」


「あなたも?」


「はい!」


リンファが笑う。


「分かったわ」


そして俺を見る。


「ガウも」


「ん?」


「またね」


「うん」


俺も。


「またね、リンファ」


「ええ」


リンファが手を上げる。


「じゃあ」


「また遊びましょう!」


たるとが大きく手を振る。


「今度なー!」


ハヤテも。


「気を付けて」


俺も軽く手を上げる。


リンファはそのまま、俺達とは違う方向へ歩いていく。


「…………」


その背中が少しずつ遠くなる。


そして。


「よし!」


ハヤテが振り返る。


「俺達も帰るか!」


「はい!」


「遠いけどね」


「ガウ、まだ言ってんのか!」


「だって遠いじゃん」


「帰りも冒険です!」


「前向きだなぁ」


三人で歩き出す。


今日、たまたま相席して。


たまたま一人のプレイヤーと知り合った。


リンファ。


一緒に飯を食べただけ。


少し話しただけ。


そして、フレンドになった。


「ガウー!」


「ガウさん!」


前を見る。


ハヤテ。


たると。


二人が待っている。


「早く!」


「置いていきますよー!」


「はいはい」


俺は二人のところへ走る。

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