第8話 三人で
「…………」
目を開ける。
見慣れた天井。
カーテンの隙間から光が差し込んでいる。
朝。
いや。
「…………」
俺は枕元に置いていたスマホへ手を伸ばす。
画面を見る。
《11:08》
「昼じゃん」
寝たな。
昨日。
いや。
今日か。
日付が変わってから寝たから。
「…………」
まあいい。
休日だし。
土曜日。
仕事は休み。
予定もない。
好きな時間に起きて、好きなことをする。
最高。
俺はベッドから起き上がる。
「腹減った」
まず飯。
◇
顔を洗って。
適当に着替えて。
冷蔵庫を開ける。
「…………」
何もない。
昨日も見た。
当然、一晩で食べ物が増えるわけもない。
「買いに行くか」
財布とスマホを持つ。
近所のコンビニへ。
おにぎり。
パン。
飲み物。
ついでに夜の弁当。
「これでいいか」
休日に料理する気はない。
そもそも普段からほとんどしない。
家へ戻る。
「…………」
テレビを眺めながら。
もぐもぐ。
食べ終わる。
片付ける。
そして。
「…………」
俺の視線が向いた。
ゲーム機。
昨日買ったばかりの《ファンタズマ・ゲイト》。
「…………」
初日からあんなに遊ぶとは思わなかった。
「ハヤテとたると……」
昨日会った二人。
今日も一緒に遊ぶ約束をした。
「…………」
もういるかな。
俺はヘッドセットを手に取る。
ベッドに横になる。
「さて」
ヘッドセットを被る。
電源。
起動。
目を閉じる。
意識が現実から離れていく。
◇◇◇
「…………」
風。
声。
足音。
ゆっくり目を開ける。
《始まりの街》。
昨日ログアウトした場所。
「おぉ」
戻ってきた。
自分の身体を見る。
小柄。
女性。
茶髪。
狼獣人。
白いTシャツ。
半ズボン。
腰には短刀。
「…………」
昨日と同じ。
俺は頭へ手を伸ばす。
ふさっ。
狼耳。
「ある」
後ろ。
尻尾。
ふりふり。
「…………」
なんか安心する。
現実に戻った時、狼耳と尻尾がなくなったことに少し違和感があった。
今は逆。
こっちの身体に戻ってきた感じがする。
「VRって怖いな」
一日しかやってないのに。
慣れるの早すぎだろ。
「さて」
俺は左手首へ右手を近付ける。
ピッ。
メニュー。
昨日苦戦したメニュー画面。
今日は一発。
「完璧」
もう初心者じゃない。
いや。
初心者だけど。
フレンド。
ポチッ。
《フレンドリスト》
そこに。
二人。
《ハヤテ オンライン》
《たると オンライン》
「お」
二人ともいる。
「…………」
なんか。
ちょっと面白い。
「連絡するか」
フレンドリスト。
ハヤテを選択。
いくつか項目が表示される。
《詳細》
《メッセージ》
《パーティー招待》
《フレンド解除》
「メッセージ」
これだな。
ポチッ。
『メッセージを入力してください』
「…………」
入力。
どうやるんだ?
「…………」
俺はウィンドウを見る。
文字入力。
キーボード。
音声入力。
「音声でいいか」
選択。
『音声入力を開始します』
「今ログインした。どこにいる?」
ピッ。
文字へ変換される。
《今ログインした。どこにいる?》
「おぉ」
便利。
送信。
『ハヤテへメッセージを送信しました』
続いて。
たると。
同じ内容。
送信。
「よし」
今日はフレンドにメッセージを送っている。
成長を感じる。
「…………」
成長って言っていいのか?
その時。
ピコン。
「ん?」
『ハヤテからメッセージが届きました』
早い。
開く。
《冒険者ギルド前!》
「近っ」
ここからすぐじゃん。
続いて。
ピコン。
『たるとからメッセージが届きました』
《私も冒険者ギルドの前にいます!》
「…………」
一緒にいるじゃん。
なら。
「行くか」
俺はメニューを閉じる。
冒険者ギルドへ向かって歩き出した。
◇
「遅い!」
冒険者ギルド前。
到着して最初に言われた言葉がそれだった。
「…………」
ハヤテ。
昨日と同じ軽装。
腰には二本の剣。
その隣。
「おはようございます!」
たると。
虎耳。
笑顔。
「おはよう」
俺は二人の前まで歩く。
そしてハヤテを見る。
「遅いって何が?」
「ログイン!」
「時間決めてないだろ」
「…………」
ハヤテが止まる。
「…………確かに!」
「でしょ」
「でも俺達の方が先にいた!」
「知らないよ」
「ガウさん」
たるとが笑う。
「私達もそんなに待ってませんよ」
「ほら」
「たると!」
「本当のことです!」
「…………」
朝から元気だな。
いや。
もう昼だけど。
「二人はいつからいたの?」
「俺は十一時くらい!」
ハヤテ。
「私は十五分くらい前です!」
たると。
「…………」
本当に大して待ってない。
「じゃあいいじゃん」
「まあな!」
「それより!」
ハヤテが冒険者ギルドを指差す。
「昨日の続き!」
「昨日の?」
「クエスト!」
「あぁ」
そうだった。
昨日約束したんだった。
「今日は時間あるだろ?」
「あるよ」
「私も大丈夫です!」
「よっしゃ!」
ハヤテが笑う。
「じゃあ三人で遊ぼうぜ!」
「うん」
俺達は冒険者ギルドへ入った。
◇
掲示板。
「討伐!」
ハヤテ。
「採取!」
たると。
「…………」
俺。
「討伐だろ!」
「採取です!」
「なんで!?」
「昨日ずっと戦ってたじゃないですか!」
「ゲームなんだから戦おうぜ!」
「ゲームなんだから色んなことしましょうよ!」
「戦闘が一番楽しい!」
「採取も楽しいです!」
「…………」
始まった。
俺は二人を放置して掲示板を見る。
《ゴブリン討伐》
《ウルフ討伐》
《薬草採取》
《鉱石採掘》
《街道護衛》
《森の調査》
色々。
昨日よりちゃんと見ると。
結構な種類がある。
「ガウ!」
ハヤテ。
「ガウさん!」
たると。
二人が同時に俺を見る。
「どっち!?」
「どっちですか!?」
「…………」
なんで俺に振る。
「どっちでもいい」
「一番困るやつ!」
「選んでください!」
「えぇ……」
俺は掲示板を見る。
討伐。
採取。
「…………」
別に。
どっちでもいいんだけど。
「ん?」
一つ。
目に留まった。
『クエスト《森の薬草採取》』
『推奨レベル:1』
『採取対象:ヒール草』
『採取数:10本』
『報酬:300G』
『《始まりの街》東側の森に生えるヒール草を10本採取してください』
「…………」
これ。
採取。
でも。
東側の森。
昨日行った場所。
ゴブリンもウルフもいる。
「これでいいじゃん」
「どれ?」
「どれですか?」
二人が覗き込む。
俺は依頼を指差す。
「薬草採取」
「採取!」
たるとの虎耳がぴんっと立つ。
「えぇー」
ハヤテ。
「最後まで見て」
「ん?」
「東側の森」
「…………」
ハヤテが説明を見る。
そして。
「あ!」
気付いた。
「昨日ウルフいたところじゃん!」
「そう」
「戦える!」
「たぶん」
「よし! これだ!」
「いいんですか!?」
たるとがハヤテを見る。
「採取ですよ?」
「森に行けば敵いるだろ!」
「なるほど!」
「…………」
二人とも単純。
でも。
「じゃあこれにする?」
「おう!」
「はい!」
俺はクエストを選択する。
ピッ。
『クエスト《森の薬草採取》』
『パーティーメンバーとクエストを共有しますか?』
YES。
NO。
「お」
こんなのもあるのか。
「共有でいい?」
「もちろん!」
「お願いします!」
YES。
ポチッ。
『クエスト《森の薬草採取》をパーティーメンバーと共有しました』
ハヤテとたるとの前にもウィンドウが現れる。
「おぉ!」
「共有できました!」
初めて三人で受けたクエスト。
「よっしゃ!」
ハヤテが拳を握る。
「行こうぜ!」
「はい!」
たるとも元気よく返事をする。
「…………」
俺も二人について歩き出す。
◇
冒険者ギルドを俺達が出る。
すると大きな声が聞こえてきた。
ふと視線を向けてみる。
大きな体。
頭には熊の耳が付いてる。
そしてーー
「はっはっはっ!」
大きな笑い声。
たるとが笑いながら話す。
「すごく楽しそうな人ですね」
「うるさそうけどね」
「置いていくぞー!」
ハヤテが門の前で待っている。
「行きましょう!」
「うん」
俺とたるとは門に走り出した。
◇
門を抜ける。
草原。
青空。
風。
草の匂い。
そして。
俺の前を歩く二人。
「ハヤテさん!」
「ん?」
「ちゃんと薬草も探してくださいね!」
「敵倒した後な!」
「絶対忘れるじゃないですか!」
「忘れないって!」
「昨日報酬のことしか考えてなかった人が言っても信用できません!」
「それはもういいだろ!」
「…………」
賑やか。
俺は二人の後ろを歩く。
「ガウー!」
ハヤテが振り返る。
「早く行こうぜ!」
「ガウさん!」
たるとも手を振る。
「はいはい」
俺は少し歩く速度を上げたのだった。
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