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第6話 即席パーティー

たると。


虎獣人の少女。


そして。


二本の剣を使う青年。


ハヤテ。


ゲームを始めて。


初めてのクエストを受けて。


ゴブリンを倒して。


ちょっと森を探索するつもりだった。


それが。


気付けば二人のプレイヤーと知り合っている。


オンラインゲームってこういう感じなのか。


「…………」


俺は改めて周囲を見る。


たるとの後ろ。


そこには獣人たちがいる。


さっきまでゴブリンとウルフに囲まれていた人達。


そして。


たるとだけがプレイヤー。


他はNPC。


「…………ん?」


待て。


なんで?


「そういえば」


「はい?」


たるとが俺を見る。


虎耳がぴくっと動く。


「たるとはなんでこんな森の奥にいたんだ?」


「あ、それ!」


ハヤテも声を上げる。


「俺も気になってた!」


「え?」


たるとが首を傾げる。


「この人達NPCなんだろ?」


「はい」


「なんで一人だけ混ざってたんだ?」


「一人だけ混ざってたって言い方やめてください!」


「だって本当に混ざってただろ」


「そうだけど!」


たるとの虎耳がピクピク動く。


「それで?」


俺は聞く。


「何してたの?」


「えっとですね」


たるとが獣人たちを見る。


「私、森を探検してたんです」


「探検?」


「はい!」


元気よく頷く。


「せっかくオープンワールドなんですから、色んな場所を見てみたいじゃないですか!」


「あぁ」


分かる。


俺もそれで森に入った。


「それで森の中を歩いてたらこの人達を見つけたんです」


「私達は森を抜けて、《始まりの街》へ向かおうとしていたのです」


獣人の一人が話す。


「しかし、森の中で道が分からなくなってしまいまして……」


「なるほど」


迷子。


それで。


「話を聞いたら《始まりの街》に行きたいって言うので」


たるとが笑う。


「じゃあ私が案内します!って!」


「…………」


「…………」


俺とハヤテが黙る。


たるとが首を傾げる。


「どうしました?」


ハヤテが口を開く。


「クエストは?」


「え?」


「クエスト」


「ありませんよ?」


「…………」


ハヤテが固まった。


「なかったの?」


「はい」


「イベントも?」


「たぶん違います」


「…………」


ハヤテが膝から崩れ落ちた。


「イベントじゃなかった……!」


「そこまで!?」


たるとが驚く。


俺は思わず笑う。


「だって!」


ハヤテが顔を上げる。


「森の奥!魔物に囲まれたNPC!助けを求める声!どう考えても突発イベントだろ!」


「言われてみれば……」


「だろ!?」


「でも違いますよ?」


「うぐっ!」


トドメ。


ハヤテが項垂れる。


「報酬……」


「まだ言ってる」


「別に報酬目当てだけで助けたわけじゃないからな!」


「さっき『何か貰えるかもしれない』って言ってたじゃん」


「それはそれ!」


「はいはい」


なんか。


こいつと話してると疲れる。


でも。


面白い。


「それで」


俺はたるとを見る。


「街まで案内してる途中に囲まれた?」


「はい!」


「ゴブリン三体とウルフ二体に?」


「はい!」


「…………」


元気よく返事することじゃないと思う。


ハヤテも立ち上がる。


「俺達が来なかったらヤバかったんじゃないか?」


「…………」


たるとが止まる。


「…………」


俺。


「…………」


ハヤテ。


「…………」


たると。


「…………えへへ」


笑った。


「笑って誤魔化した!」


「だ、大丈夫です! たぶん!」


「たぶんって言ったぞ!」


「でも皆さんを置いて逃げるわけにもいかないじゃないですか!」


「…………」


その言葉に俺とハヤテが黙る。


たるとは後ろにいる獣人たちを見る。


「困ってましたから」


「…………」


クエストでもない。


報酬もない。


ただ。


困っていた。


だから街まで案内することにした。


「…………そっか」


「はい!」


たるとが笑う。


なんというか。


変な子。


でも嫌な感じはしない。


「たると様には本当に感謝しております」


獣人の一人が頭を下げる。


「森で途方に暮れていた私達へ声をかけてくださって……」


「様はやめてください!」


たるとが慌てる。


「たるとでいいです!」


「しかし……」


「いいんです!」


「…………」


NPC相手にも普通だな。


というか。


NPCだからって気にしてないのか。


「ところで」


俺は獣人たちを見る。


「《始まりの街》に行くんだよな?」


「はい」


「じゃあ、行こう」


「え?」


たるとが俺を見る。


「ここにずっといても仕方ないだろ」


俺は左手首へ指を近付ける。


ピッ。


メニュー。


マップ。


《始まりの街》。


「方向は分かる」


さっき来た道だ。


それに。


「俺もクエスト報告しに戻るところだったし」


「じゃあ一緒に戻りましょう!」


「うん」


「俺も行く!」


ハヤテが手を上げる。


「ハヤテも?」


「せっかくここまで来たんだぞ?最後まで見届ける!」


「イベントじゃないけど?」


「それはもういい!」


立ち直った。


「じゃあ」


たるとが獣人たちを見る。


「みんなで街まで行きましょう!」


「はい!」


こうして。


俺達は《始まりの街》へ戻ることになった。



森。


木々の間を歩く。


先頭は俺。


マップで方向を確認しながら進む。


真ん中に獣人たち。


その近くにたると。


後ろにはハヤテ。


「…………」


なんだこの集団。


ゲームを始めた時には想像もしてなかった。


俺は一人でゲームを始めた。


別に誰かと遊ぶ予定もなかった。


適当に探索して。


戦って。


気に入ったら続ける。


それくらいなのに。


「ガウー!」


後ろから声。


「ん?」


振り返る。


ハヤテ。


「そっちで合ってるのか?」


「合ってる。たぶん」


「たぶん!?」


「マップでは」


「なら大丈夫か!」


軽いな。


「ガウさん!」


今度はたると。


「なに?」


「私もマップ見ます!」


「大丈夫。道分かるから」


「でも一人だけに任せるのも悪いですし!」


「…………」


真面目。


「じゃあお願い」


「はい!」


たるとがメニューを開く。


歩きながらマップを確認する。


その横で。


「おぉ!」


ハヤテが声を上げた。


「何?」


「たると、歩きながらメニュー操作できるのか!」


「できますよ?」


「俺さっき木にぶつかった!」


「何してるんですか!?」


「メニュー見てたら目の前に木があって」


「前見て歩いてください!」


「…………」


賑やか。


さっき会ったばかりなのにずっとこんな感じ。


しばらく進むと木々の間から光が見えてきた。


「出口だ」


森を抜ける。


視界が一気に開ける。


草原。


遠くには《始まりの街》。


「あ!」


たるとが指差す。


「見えました!」


「本当だ!」


獣人たちから安堵の声が上がる。


「良かった……」


「これで街へ行ける」


「ありがとうございます」


もう大丈夫そうだ。


俺達は草原を歩く。



「そういえばさ」


ハヤテが口を開いた。


「二人はいつから始めたんだ?」


「俺?」


「うん」


「今日」


「マジ?」


「仕事帰りにゲーム屋で買ってきた」


「今日買ったの!?」


「そう」


「じゃあ本当に初心者じゃん!」


「初心者だよ」


何を言ってるんだ。


「いや、動きが初心者じゃなかったから」


「そう?」


「ゴブリン三体任せて普通に返事しただろ」


「あれくらいならいけそうだったし」


「それが初心者っぽくないんだって!」


そう言われても。


死にゲーならもっと酷い状況なんていくらでもあった。


初見殺し。


複数戦。


狭い足場。


背後から敵。


「慣れてるだけ」


「何に!?」


「ゲーム」


「雑!」


ハヤテが笑う。


「たるとは?」


「私ですか?」


「いつから?」


たるとが答える。


「二日前からです」


「二人は何する予定なんですか?」


「何って?」


「このゲームで!」


「…………」


考えてなかった。


まだ始めたばかり。


何ができるのかすらほとんど知らない。


「俺は特に決めてないかな」


「俺は二刀流!」


ハヤテが即答。


「それ目標なの?」


「もちろん!」


腰にある二本の剣を指差す。


「剣道してたんだけど、やっぱ一本より二本だろ!」


「…………」


子供みたいだな。


「いいじゃないですか!」


たるとは目を輝かせている。


「だろ!?」


「はい!」


意気投合してる。


「ガウは?」


「だから特にないって」


「じゃあ一緒に探そうぜ!」


「何を?」


「やりたいこと!」


「…………」


ハヤテが笑っている。


たるとも。


「そうですよ! 色んな場所に行けば、きっと何か見つかります!」


「…………」


森に入ったのもただ気になったから。


色んな場所か。


「まあ」


俺は前を見る。


《始まりの街》。


少しずつ近付いている。


「のんびり探せばいいか」


「だな!」


「はい!」



《始まりの街》。


門を潜る。


「着いたー!」


たるとが両手を上げる。


「無事到着!」


ハヤテも真似する。


「なんでハヤテまで」


「ノリ!」


「…………」


獣人たちも街へ入る。


すると。


一人が俺達の前へ。


深く頭を下げた。


「本当にありがとうございました」


続いて。


他の獣人たちも頭を下げる。


「皆様がいなければ、私達はあの森から出られなかったでしょう」


「俺達は途中からだけど」


「でも助けてくれました!」


たるとが笑う。


「皆さんが無事で良かったです!」


「たると様……」


「だから様はいりませんって!」


またやってる。


「…………」


横を見る。


ハヤテ。


何かを待っている。


「…………」


「…………」


「…………」


「何?」


「いや」


ハヤテが周囲を見る。


「…………報酬」


「まだ諦めてなかったの?」


「もしかしたら街に着いた瞬間にイベントクリアって出るかもしれないだろ!」


「出てないじゃん」


「…………」


ハヤテが項垂れる。


「残念でしたね!」


たるとが笑う。


「たるとまで!」


獣人たちも笑っている。


NPC。


やっぱり普通の人と変わらない。


「それでは」


獣人たちがもう一度頭を下げる。


「本当にありがとうございました」


「うん。気を付けて」


「またね!」


「今度は魔物に囲まれるなよー!」


「ハヤテが言うと軽いな……」


獣人たちは街の奥へ歩いていく。


俺達はその背中を見送る。


そして。


「…………」


残ったのは三人。


俺。


ハヤテ。


たると。


「さて」


俺は冒険者ギルドの方向を見る。


「俺はクエスト報告してくる」


「じゃあ俺も行く!」


「ハヤテ、クエスト受けてたの?」


「受けてない!」


「じゃあなんで」


「暇だから!」


「…………」


本当に自由だな。


「私も行きます!」


たるとも手を上げる。


「たるとも?」


「はい!」


「…………」


まあいいか。


三人で歩き出す。


その時。


「あ!」


ハヤテが突然止まった。


「今度は何?」


「忘れてた!」


「何をですか?」


ハヤテが俺とたるとを見る。


そして。


ニッと笑った。


「せっかくだしさ」


左手首へ指を近付ける。


ピッ。


メニュー画面。


「三人でパーティー組まない?」


「パーティー?」


たるとの虎耳がぴんっと立つ。


「そう!」


ハヤテが俺達を見る。


「一人で遊ぶより、三人の方が楽しそうじゃん!」


「私はいいですよ!」


即答。


早い。


そして二人の視線が俺へ。


「…………」


今日。


このゲームを買った。


一人で始めた。


別に。


誰かと遊ぼうと思ってたわけじゃない。


でも。


森を歩いて。


一緒に戦って。


一緒に街まで帰って。


まだ知り合って。


ほんの少ししか経ってない。


なのに。


「…………まあ」


悪くない。


「俺もいいよ」


「よっしゃ!」


「やった!」


ハヤテとたるとが喜ぶ。


直後。


目の前に。


ピッ。


ウィンドウが表示された。


『ハヤテからパーティーへの招待が届きました』


YES。


NO。


「…………」


俺はYESを押した。

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