第5話 共闘
「ギャアアッ!」
ゴブリンが棍棒を振り上げる。
俺は地面を蹴った。
同時に。
二本の剣を持った青年も走り出す。
「そっち三体!」
「分かってる!」
俺の方へ向かってくるのはゴブリン二体。
そして。
ウルフ一体。
《ゴブリン Lv.1》
《ゴブリン Lv.1》
《ウルフ Lv.2》
ゴブリンはもういい。
動きは分かってる。
問題は。
「グルルル……!」
ウルフ。
初めて見る敵。
ゴブリンよりレベルも一つ高い。
「ギャアッ!」
まずゴブリン。
棍棒を振り下ろす。
「それは見た」
横へ。
避ける。
踏み込む。
ザシュッ!
「ギャッ!?」
一撃。
すぐに離れる。
もう一体。
横薙ぎ。
身体を沈める。
ブンッ!
頭上を棍棒が通過。
「よっ」
立ち上がりながら短刀を振る。
ザシュッ!
「ギャアッ!」
まだ倒れない。
一撃じゃ倒せないのは分かってる。
一度距離を――。
「グルッ!」
「!」
ウルフが動いた。
速い。
ゴブリンとは全然違う。
一気に距離を詰めてくる。
「おっと!」
横へ跳ぶ。
直後。
ウルフがさっきまで俺がいた場所を駆け抜けた。
「速いな」
着地。
すぐに振り返る。
ウルフもこちらを向く。
低い姿勢。
牙を剥き出しにしている。
「グルルル……」
ゴブリンとは違う。
こいつはちょっと楽しめそう。
「ギャアッ!」
「っと」
後ろからゴブリン。
狼耳が足音を拾う。
振り向かずに前へ跳ぶ。
ブンッ!
背後で棍棒が空を切る。
着地。
振り返る。
「先にお前らだな」
動きが分かってる方から一体ずつ。
ゴブリンが走ってくる。
振り下ろし。
避ける。
斬る。
横薙ぎ。
下がる。
踏み込む。
斬る。
「ギャ……」
一体目が光の粒子になる。
残り。
ゴブリン一体。
ウルフ一体。
「グルッ!」
ウルフが走る。
速い。
でも。
「…………」
真っ直ぐ。
飛び掛かる直前、少し身体が沈む。
「そこか」
ウルフが地面を蹴った。
「ガウッ!」
飛び掛かってくる。
俺は横へ。
ザッ!
牙が目の前を通り過ぎる。
「なるほど」
速いけど。
分かりやすい。
着地したウルフがすぐに振り返る。
ゴブリンも近付いてくる。
「さて」
二体。
どうするか。
その時。
「うおおおっ!」
声。
青年。
ちらっと見る。
「ギャッ!?」
右手の剣。
ゴブリンの棍棒を受ける。
左手の剣。
そのままゴブリンへ振る。
ザシュッ!
「おぉ」
二刀流。
ちゃんと使えてる。
ただ二本持ってるだけじゃない。
ゴブリンの攻撃を片方で防いで、もう片方で攻撃。
「グルッ!」
青年の横からウルフが飛び掛かる。
「うおっ! 速っ!」
青年が慌てて身体を捻る。
ガブッ!
牙が空を噛む。
「危なっ!」
そう言いながら笑ってる。
「…………」
あいつ。
結構動けるな。
「ギャアッ!」
「っと」
こっちも戦闘中だった。
ゴブリンの棍棒を避ける。
短刀。
ザシュッ!
「ギャ……」
光の粒子。
残るはウルフ。
「グルルル……!」
ウルフが走る。
俺も走る。
距離が縮まる。
ウルフの身体が沈む。
来る。
「ガウッ!」
跳んだ。
俺は身体を横へ。
避ける。
その瞬間。
「ここ」
横を通り過ぎるウルフへ短刀を振る。
ザシュッ!
「キャウンッ!」
赤いエフェクト。
HPが減る。
「やっぱゴブリンより硬い」
一撃では全然足りない。
ウルフが着地。
すぐに振り返る。
「グルルル……!」
また走る。
「同じ?」
身体が沈む。
跳ぶ。
「同じだな」
横へ。
避ける。
斬る。
ザシュッ!
「キャウン!」
もう一度。
走る。
飛び掛かる。
避ける。
斬る。
「ガウッ!」
さらにもう一度。
「よっ」
ザシュッ!
ウルフのHPがなくなる。
身体が光の粒子へ。
消えた。
「よし」
こっちは終わり。
俺は青年を見る。
ちょうど。
「これで!」
青年が右手の剣を振る。
ザシュッ!
「ギャッ!」
ゴブリンが消える。
残りはウルフ。
「グルルル!」
「来い!」
青年が二本の剣を構える。
ウルフが走る。
身体を沈める。
飛び掛かる。
「うおっ!」
青年は右へ避ける。
でも。
少し遅い。
「危な――」
俺が声を出そうとした瞬間。
青年は左手の剣を前へ。
ガキンッ!
「おぉ!?」
ウルフの牙を剣で受けた。
そのまま。
右手。
「そりゃ!」
ザシュッ!
ウルフの身体に赤いエフェクト。
「そういうのもありか」
回避だけじゃない。
武器で受けることもできるのか。
青年はウルフと距離を取る。
「へへっ」
楽しそう。
ウルフがもう一度飛び掛かる。
今度は青年が避ける。
そして。
右。
左。
ザシュッ!
ザシュッ!
二本の剣を続けて振る。
「ガウッ!」
ウルフのHPがなくなる。
光の粒子。
そして消えた。
「よっしゃ!」
青年が二本の剣を掲げる。
「勝った!」
「…………」
なんか元気だな。
ゴブリン三体。
ウルフ二体。
全滅。
俺は短刀を鞘へ戻す。
青年も二本の剣を腰へ戻した。
「いやー! 楽しいな!このゲーム!」
「イベント報酬目当てじゃなかったの?」
「それはそれ! これはこれ!」
「…………」
やっぱ変なやつ。
「あ」
そうじゃない。
俺は獣人たちを見る。
「大丈夫?」
獣人たちはまだ木の近くに固まっていた。
怪我は見た感じなさそう。
良かった。
「もう大丈夫」
俺は獣人たちへ歩み寄る。
青年も隣へ来る。
「いやー、間に合って良かったな!」
「うん」
イベントかどうかはともかく。
助けられたなら、それでいい。
すると。
獣人たちの中から。
一人。
小柄な少女が前へ出てきた。
「…………ん?」
頭には。
耳。
丸みのある獣耳。
そして。
腰から伸びる尻尾。
模様。
「虎……?」
虎獣人。
少女は俺達の前まで来る。
そして。
勢いよく頭を下げた。
「ありがとうございました!」
「お、おぉ……」
元気。
少女が顔を上げる。
かなり若い。
俺よりも。
いや。
今の見た目の俺と比べても若く見える。
少女は笑顔だった。
「本当に助かりました!」
「怪我はない?」
「はい! 大丈夫です!」
良かった。
「他の人達も?」
「大丈夫です!」
後ろを見る。
獣人たちも頷いている。
「そう」
なら問題ない。
「いやー、良かった良かった!」
青年が腕を組んで頷く。
そして。
少し待つ。
「…………」
待つ。
「…………」
さらに待つ。
「…………?」
虎耳の少女が首を傾げる。
「どうしました?」
「…………」
青年も首を傾げる。
「報酬は?」
「…………は?」
思わず声が出た。
「いや、イベントなんだろ? 助けたらアイテムとか貰えるんじゃないの?」
「知らないよ」
「え?」
「俺に聞かれても」
「…………」
青年が虎耳の少女を見る。
虎耳の少女も青年を見る。
「…………?」
「…………」
「…………?」
「もしかして……何もない?」
「何の話ですか?」
「…………」
青年の顔から笑顔が消えた。
「イベントじゃないの!?」
「だから知らないって」
思わず笑いそうになる。
あれだけ勢いよく飛び込んできたのに。
「まあ、助けられたんだからいいじゃん」
「いや、そうだけどさ!」
青年が頭を掻く。
虎耳の少女は俺達を交互に見る。
「…………」
それにしても。
本当に自然だな。
さっきの街のNPCもそうだったけど。
表情。
声。
仕草。
全部。
人間みたい。
虎耳の少女なんて。
「…………」
どこからどう見ても普通の女の子だ。
NPC……だよな?
俺がそんなことを考えていると。
虎耳の少女が。
左手首へ右手を近付けた。
ピッ。
「…………」
半透明のウィンドウ。
メニュー画面。
「…………え?」
俺は固まる。
青年も。
「…………」
虎耳の少女はウィンドウを操作している。
普通に。
当たり前のように。
「…………」
待て。
NPCって。
メニュー使うのか?
いや。
使わないよな?
たぶん。
ということは。
「…………プレイヤー?」
俺が呟く。
少女がこちらを見る。
「はい?」
「プレイヤーなの!?」
「はい!」
即答。
「…………」
俺は後ろを見る。
獣人たち。
もう一度、少女を見る。
「NPCだと思ってた……」
「ええっ!?」
少女が驚く。
隣で。
「マジかよ!」
青年も驚く。
「俺もNPCだと思ってた!」
「ひどいです!」
「いや、だって周りの人達と一緒にいたから!」
「だからってNPCだと思います!?」
「思った!」
「即答しないでください!」
「…………」
なんだこれ。
さっきまで魔物に囲まれてたのに。
もう普通に言い合ってる。
俺は思わず笑った。
「ははっ」
「あ! 笑いましたね!」
少女がこっちを見る。
「ごめんごめん」
「もう!」
虎耳がピクピク動いている。
本当に感情に合わせて動くんだな。
「そういえば」
青年が口を開く。
「名前聞いてなかったな」
「あ」
そうだった。
初対面なのに。
一緒に戦って。
普通に話して。
名前すら知らなかった。
青年が自分を指差す。
「俺はハヤテ!」
ハヤテ。
「二刀流だ! やっぱ二本の方がかっこいいからな!」
「理由それなんだ」
「大事だろ!」
「まあ、分からなくもないけど」
「だろ?」
ハヤテが笑う。
そして。
「そっちは?」
俺。
「俺はガウ」
「ガウか!」
ハヤテが笑う。
「よろしく!」
「うん。よろしく」
そして。
二人で虎耳の少女を見る。
「…………」
少女が自分を指差す。
「私ですか?」
「うん」
「名前!」
「あ、はい!」
少女は姿勢を正す。
虎耳がぴんっと立つ。
そして。
笑顔で。
「私は、たるとです!」
「たると?」
「はい!」
元気だな。
たると。
ハヤテ。
そして。
ガウ。
この時の俺はまだ知らなかった。
森の奥で偶然出会った二人と一緒に過ごすことになるなんて。
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