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第2話 始まりの大地

『キャラクター《ガウ》を作成しました』


目の前に表示されていたウィンドウが消えていく。


そして。


『第一階層《始まりの大地》へ転送します』


「お」


いよいよか。


真っ白だった空間が、さらに強い光に包まれる。


眩しさに思わず目を閉じる。


そして――。


「…………」


風。


最初に感じたのは、それだった。


頬を撫でるような風。


ゆっくりと目を開ける。


「…………おぉ」


青空。


どこまでも広がる草原。


遠くには巨大な山が見える。


反対側には森。


さらに遠くには、建物らしきものも見えた。


俺が立っている場所の周りには、大勢のプレイヤー。


人間。


獣人。


エルフらしき長い耳を持つプレイヤー。


ドワーフらしき小柄なプレイヤー。


発売されてから一週間。


売上ランキング一位というだけあって、新しく始めるプレイヤーも多いらしい。


「すげぇ……」


「…………ん?」


俺は首を傾げる。


今。


なんか。


「…………」


もう一度。


「あー……」


「…………」


高い。


いや。


高いっていうか。


「うお」


完全に女の声じゃん。


思わず笑ってしまう。


キャラクリで性別を女性にしたから、当然と言えば当然なのかもしれない。


でも。


自分が喋っているのに自分じゃない声が出る。


変な感じだ。


「あー、あー」


何度か声を出してみる。


やっぱり女性の声。


「へぇ……声まで変わるのか」


すごいな。


俺は自分の身体を見る。


白いTシャツ。


半ズボン。


以上。


「…………」


防具は?


ない。


どうやらこれが初期装備らしい。


「初期装備しょぼ」


まあ、最初なんだからこんなものか。


腰を見る。


そこには一本の短刀があった。


「これが初期武器か」


鞘から抜いてみる。


シャッ。


短い刃。


特別な装飾もない。


見るからに初期装備。


「うん。弱そう」


一度鞘へ戻す。


武器は後でどうにかすればいい。


それより。


「…………」


俺はもう一度、自分の身体を見る。


現実の俺とはまるで違う。


身長も違う。


体格も違う。


性別すら違う。


頭には狼の耳。


腰には尻尾。


なのに。


「変な感じしないな……」


試しに手を握る。


開く。


もう一度握る。


指を一本ずつ動かす。


親指。


人差し指。


中指。


薬指。


小指。


全部。


思った通りに動く。


「おぉ……」


腕を回す。


肩を回す。


屈伸。


「よっ」


ジャンプ。


着地。


普通。


いや。


普通なのがおかしい。


現実よりも明らかに身体が小さい。


腕の長さも。


足の長さも。


重心も違うはずだ。


それなのに。


「ちょっと走ってみるか」


俺は草原を走る。


タッ。


タッ。


タッ。


「おおっ!」


速い。


現実の身体より明らかに軽い。


少し速度を上げる。


走る。


さらに走る。


「速っ!」


これが狼獣人のステータスか。


楽しい。


俺はそのまま急停止する。


ザッ!


「…………おぉ」


転ばない。


今度は右へ。


左へ。


細かく方向を変える。


問題ない。


走って。


跳ぶ。


着地。


そのまま走る。


「すげぇな……」


まるで。


ずっと前から、この身体を使っていたみたいだ。


現実では男。


こっちでは女。


身長も違えば体格も違う。


それどころか、人間には存在しない狼耳と尻尾まで生えている。


普通ならまともに歩くことすら難しいんじゃないか?


でも。


違和感がない。


自分の身体を動かすのと同じ感覚。


「ゲーム側で補正されてるのか?」


プレイヤーの感覚と、アバターの身体。


その差をゲーム側が自動で補正している。


そうじゃないと説明できない。


「最新のVRすげぇな……」


俺は頭へ手を伸ばす。


ふさっ。


「お」


耳。


狼耳に触れる。


感触がある。


指で軽く摘まむ。


「うわ……ちゃんと触ってる感じする」


手を離す。


すると。


ピクッ。


「…………」


今。


動いた?


「耳……動け」


ピクッ。


「動いた」


どうやって動かしてるんだ、俺。


現実には狼耳なんてない。


当然、動かした経験もない。


なのに。


動かそうと思えば動く。


右。


ピクッ。


左。


ピクッ。


「面白っ」


次。


俺は後ろを見る。


尻尾。


茶色い尻尾が腰から伸びている。


「…………」


これも?


動け。


ふわっ。


「動くじゃん」


左右。


ふりふり。


止める。


上。


下。


「なんで動かせるんだよ……」


自分でやっておいて意味が分からない。


尻尾を手で掴んでみる。


「おぉ……」


ちゃんと感触がある。


触っている手にも。


触られている尻尾にも。


両方に感覚がある。


「…………」


すげぇ。


これ。


本当にゲーム?


そんなことを考えていると。


ふわっ。


また風が吹いた。


草原の草が揺れる。


茶色い髪が風になびく。


狼耳がピクッと動いた。


「…………ん?」


俺は鼻を動かす。


今。


何か。


「…………」


息を吸う。


すぅ。


「…………草?」


もう一度。


すぅぅ。


青臭い草の匂い。


土の匂い。


それだけじゃない。


遠くに見える森からだろうか。


木々の匂いまで、微かに風へ混ざっている。


「匂いまであんのかよ……」


俺はその場にしゃがむ。


草へ手を伸ばす。


触れる。


柔らかい。


指先で撫でる。


一本摘まんでみる。


「…………」


本物の草みたいだ。


鼻へ近付ける。


すん。


「……草だ」


当たり前だけど草だ。


俺は草を離す。


立ち上がる。


もう一度、周囲を見る。


青い空。


広大な草原。


風に揺れる草。


遠くに見える森。


山。


歩き回るプレイヤー達。


風。


匂い。


音。


感触。


「…………」


ゲームをしている。


分かっている。


今の俺はベッドに横になっている。


ヘッドセットを被っているだけ。


それなのに。


まるで。


本当に別の世界へ来たみたいだ。


「こりゃ売上一位になるわ……」


ゲームショップの店員が言っていた。


景色とか、本当にそこにいるみたいで。


なるほど。


確かに。


これはすごい。


しばらく景色を眺める。


でも。


いつまでも突っ立っているわけにもいかない。


「さて」


ゲームを始めよう。


まずは。


「とりあえずメニュー見るか」


ステータス。


装備。


マップ。


その辺を確認したい。


「…………」


俺は待つ。


「…………」


何も起こらない。


「…………どうやって開くんだ?」


メニューってどうやって出すんだ?


普通のゲームならボタンを押せばいい。


でも今。


コントローラーなんて持ってない。


「メニュー」


…………。


何も起きない。


「ステータス」


…………。


何も起きない。


「オープン!」


…………。


何も起きない。


「…………」


違うらしい。


俺は手を前へ出す。


横へ振る。


何も起きない。


上。


下。


何も起きない。


人差し指で空中をスライド。


何も起きない。


手のひらを前へ。


「…………」


何も起きない。


「なんだこれ」


周りを見る。


少し離れた場所。


一人のプレイヤーが半透明のウィンドウを普通に操作している。


反対側にも。


その向こうにも。


みんな普通に開いてる。


「…………」


なんで?


俺だけ?


いや。


待て。


俺はログインする前のことを思い出す。


『チュートリアルを聞きますか?』


YES。


NO。


「いらない」


NO。


ポチッ。


「…………」


あ。


「やっちまった」


ゲームを始めて数分。


早くもチュートリアルを飛ばしたことを後悔した。


いや。


でも。


「これくらい自力で分かるだろ」


チュートリアルを見直すほどじゃない。


たかがメニュー画面。


俺はもう一度、手を動かす。


右。


左。


上。


下。


指を鳴らしてみる。


パチン。


何も起きない。


「違う」


手首を捻る。


何も起きない。


「これでもない」


腕を組む。


何も起きない。


「…………」


周囲を見る。


さっきのプレイヤー。


どうやって開いた?


じっと観察する。


一度ウィンドウを閉じる。


そして。


左手首へ右手を近付けた。


ピッ。


半透明のウィンドウが開く。


「…………」


なるほど。


俺も左手首を見る。


右手の人差し指を近付ける。


すると。


ピッ。


目の前に半透明のウィンドウが表示された。


「出た!」


思わず声が出る。


メニュー。


ステータス。


装備。


アイテム。


スキル。


マップ。


様々な項目が並んでいる。


「…………」


俺はしばらくウィンドウを眺める。


そして。


「ゲーム開始して最初に苦戦したのがメニュー画面ってどうなんだ……」


チュートリアル。


次からはちゃんと聞こう。


…………たぶん。

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