第1話 ファンタズマ・ゲイト
ログアウトができなくなる――三ヶ月前。
「……なんか面白いゲームないかな」
仕事を終えた俺は、駅前にあるゲームショップへ立ち寄っていた。
時刻は夜。
明日からは土日。
つまり二連休だ。
予定?
そんな野暮なことを聞くなよ。
こういう日はゲームをするに限る。
店内を歩きながら、新作ゲームが並ぶ棚を眺めていく。
アクション。
シューティング。
RPG。
シミュレーション。
色々ある。
「さすがにもうフロムゲーは飽きたな」
最近ずっとやっていた死にゲー。
最初は死にまくった。
ボスに何十回も殺されて、攻撃パターンを覚えて、回避のタイミングを覚えて。
気が付けば普通にクリアできるようになっていた。
そこから縛りプレイを始めて。
最終的にはRTAに手を出した。
「RTAも世界一位まであとちょっとだし……ここはジャンルが違うゲームでもするか」
ずっと同じゲームばかりやっていると、さすがに飽きる。
俺は棚から離れ、店内を歩く。
すると。
『今週の売上ランキング!』
大きなポップが目に入った。
「お」
俺は足を止める。
一位。
二位。
三位。
様々なゲームが並んでいる。
その中で、一番上。
売上ランキング第一位。
「……《ファンタズマ・ゲイト》?」
パッケージを手に取る。
巨大な城。
広大な草原。
剣を持った騎士。
杖を構えた魔法使い。
その後ろにはドラゴンらしき巨大な魔物まで描かれている。
「お? ちょうど先週発売したばかりの《ファンタズマ・ゲイト》……」
裏返す。
「ジャンルは……オープンワールド系……」
広大な世界を自由に冒険。
剣。
魔法。
生産。
探索。
ダンジョン攻略。
プレイヤー同士でパーティーやギルドを作ることも可能。
「へぇ……」
面白そうではある。
でも。
「オープンワールドかぁ……」
俺はパッケージを見つめる。
こういうゲーム、あんまりやったことないんだよな。
「お客さん!」
「うおっ!?」
突然、横から声をかけられた。
振り向く。
店員さんが立っていた。
「《ファンタズマ・ゲイト》気になりますー?」
めちゃくちゃ笑顔だ。
「あ、まあ……ちょっと」
俺は持っているパッケージを見せる。
「死にゲーに飽きたんで違うゲーム探してるんだけど……これ面白いです?」
「めちゃくちゃおもろいですよ!」
即答。
「お、おぉ……」
圧がすごい。
「自分も発売日に買ったんですけど、自由度がすごいんですよ! 戦ってもいいし、探索してもいいし、生産だけやってもいいし!」
「へぇ」
「VRの没入感もすごいですよ! 景色とか、本当にそこにいるみたいで!」
店員さんが熱弁する。
相当ハマってるらしい。
俺はもう一度パッケージを見る。
「…………うーん」
オープンワールド。
今までやってきたゲームとは、だいぶ違う。
まあ。
だからこそ、いいか。
せっかく違うジャンルのゲームを探してるんだし。
それに明日から二連休。
合わなかったら別のゲームを買えばいい。
「買うので会計お願いします」
「ありがとうございます!」
こうして。
俺は《ファンタズマ・ゲイト》を買った。
◇
「ただいまー」
誰もいない部屋に声をかける。
当然、返事はない。
靴を脱ぐ。
買ってきた《ファンタズマ・ゲイト》をテーブルの上に置いた。
「さて」
まずは。
風呂。
仕事終わりのままゲームをする気にはならない。
さっさと服を脱ぎ、風呂へ。
身体を洗って。
湯船に浸かって。
「ふぃー……」
疲れた。
今週もよく働いた。
風呂から上がり、部屋着に着替える。
冷蔵庫を開ける。
「…………」
何もない。
いや。
知ってた。
料理なんてほとんどしないからな。
帰りに買ってきたコンビニ弁当を電子レンジに入れる。
ピッ。
しばらく待つ。
チーン。
「よし」
弁当を取り出す。
テレビを適当につけながら食べる。
「…………」
食べ終わった弁当の容器を片付ける。
スマホを見る。
金曜日。
明日は土曜日。
明後日は日曜日。
仕事はない。
予定もない。
「…………ふふ」
思わず笑う。
最高じゃん。
日曜日まで好きなだけゲームできる。
夜更かししてもいい。
昼まで寝てもいい。
飯なんて適当でいい。
「よし!」
俺はテーブルに置いていたゲームへ手を伸ばす。
ビニールを剥がし、パッケージを開ける。
新品のゲーム。
この瞬間、結構好きなんだよな。
ゲームのカセットを取り出す。
ゲーム機へセット。
起動。
ヘッドセットを手に取り、ベッドへ移動する。
横になる。
「さてさて」
ヘッドセットを被る。
電源を入れ、目を閉じる。
「どんなゲームかなっと」
次の瞬間。
意識が。
現実から――離れていった。
◇◇◇
真っ白な空間。
「おぉ……」
俺は自分の手を見る。
動く。
指も一本一本動かせる。
足を動かす。
身体も普通に動く。
「すげぇなVR」
こんなに自然なのか。
『ようこそ《ファンタズマ・ゲイト》へ』
突然、声が響いた。
女性の声。
機械的ではあるがかなり自然だ。
目の前に半透明のウィンドウが現れる。
『初めてプレイされる方へ、基本操作及びゲームシステムのチュートリアルをご用意しております』
ほう。
『チュートリアルを聞きますか?』
YES。
NO。
「いらない」
NO。
ポチッ。
『チュートリアルをスキップします』
ゲームなんてやりながら覚えればいい。
分からなかったらその時に調べればいいし。
『それでは、キャラクタークリエイトを開始します』
「来た」
俺は少しテンションが上がる。
キャラクリ。
ゲームによっては本編より時間がかかるやつ。
目の前に新しいウィンドウが表示された。
『種族を選択してください』
「結構種族あるんだな」
一覧を見る。
人間。
獣人。
亜人。
魚人。
「…………」
俺の視線が止まる。
「魚人!?」
思わず声が出た。
いや、人間と獣人と亜人は分かる。
ファンタジーだし。
魚人!?
「どんな性能なんだよ……」
気になったので説明欄を開く。
『魚人』
『技量に優れた種族。水中での行動に大きな補正を持ち、水中を高速で移動することが可能』
「技量寄りのステータスに……水中高速移動に……」
なるほど。
「魚人は無しだな」
序盤から水中メインになるとは思えない。
そもそも俺、魚になりたいわけじゃない。
次。
人間。
『人間』
『全ステータスが平均的な種族。大きな長所を持たない代わりに、目立った短所も存在しない』
「一番シンプルだな」
初心者向けって感じか。
悪くはない。
でも。
せっかくファンタジーゲームやるのに人間っていうのもな。
現実で人間やってるし。
次。
亜人。
説明を開く。
「亜人にも種族があるんだな」
ドワーフ。
エルフ。
フェアリー。
他にもいくつか並んでいる。
「ドワーフにエルフにフェアリー……ファンタジーって感じだな」
ちょっと惹かれる。
特にエルフ。
でも。
「うーん……」
他も見てから決めよう。
最後。
獣人。
説明欄を開く。
「獣人にも種族があるのか」
熊獣人。
猫獣人。
犬獣人。
兎獣人。
狼獣人。
他にも色々。
「…………」
楽しい。
キャラクリ楽しい!
まだゲーム始まってないのに。
こういうの見てるだけで時間溶ける。
「熊獣人ならパワータイプのステータス……」
筋力と耐久力が高い。
代わりに素早さは低め。
完全に重量級。
「猫獣人は……器用さと素早さか」
悪くない。
「兎獣人……こっちも素早さ高いな」
色々と説明を見ていく。
そして。
「ん? 狼獣人……」
説明欄を開く。
『狼獣人』
『素早さに優れた獣人種。敏捷性が高く、素早い移動や連続攻撃を得意とする』
「スピードタイプのステータス……」
俺は少し考える。
速い。
いいな。
死にゲーでも基本的に重装備より軽装備派だった。
攻撃を受けるより避けたい。
一撃の威力より手数。
そっちの方が俺には合ってる。
「これだな」
狼獣人。
選択。
ポチッ。
目の前に人型のモデルが表示された。
頭には狼の耳。
腰から尻尾。
基本的な身体は人間に近い。
「おぉ……こうなるのか」
次の項目。
身長。
体格。
年齢。
髪型。
髪色。
目。
顔。
耳。
尻尾。
「細かっ」
かなり弄れる。
しかも。
「ん?」
身長の項目に説明がある。
身長を高くすると、僅かにリーチへ補正。
低くすると、僅かに素早さへ補正。
「マジ?」
なら。
低くする。
スライダーを左へ。
モデルの身長が小さくなる。
「…………」
さらに左。
「…………」
最低。
「いや、小さすぎるな」
さすがに戻す。
性能は大事。
でも見た目も大事。
ちょうどいいところで止める。
「このくらいか」
次。
体格。
細め。
普通。
がっしり。
「スピードタイプなら細めでいいだろ」
次。
年齢。
「若めで」
次。
髪。
「長いと邪魔そうだな」
実際に邪魔になるかは知らない。
でも、なんとなく。
短め。
色は。
「茶色でいいか」
茶髪。
目。
「ここまで種類あるのかよ……」
少し悩む。
顔。
さらに悩む。
狼耳。
「耳まで弄れるのか」
大きくしたり。
小さくしたり。
角度を変えたり。
「…………」
ちょっと面白い。
尻尾。
長さ。
太さ。
毛並み。
「尻尾まで細かいな!?」
気付けば。
俺はキャラクリに夢中になっていた。
「これキャラクリだけで一時間終わるやつだな……」
でも。
楽しいからいい。
どうせ明日は休みだ。
いくらでも時間はある。
そして。
最後。
『性別を選択してください』
男性。
女性。
「…………」
俺は男性を選ぼうとして。
止まった。
女性。
「…………」
別に男キャラじゃないと駄目な理由もない。
それに。
「俺、声高い方だし……」
女性を選択してみる。
目の前のモデルが女性へ変化した。
「おぉ」
狼耳。
茶髪。
小柄。
尻尾。
「…………」
思ったより普通にありだな。
俺は少し笑った。
「可愛いな」
女性。
決定。
『性別を女性に設定しました』
よし。
これでいこう。
完成したキャラクターを確認する。
小柄な身体。
茶色の髪。
頭には狼の耳。
腰から伸びる尻尾。
女性の狼獣人。
くるっとモデルを回してみる。
「……うん」
悪くない。
いや。
結構いいんじゃないか?
最後に。
『プレイヤーネームを入力してください』
名前。
「名前かぁ……」
少し考える。
狼獣人。
狼。
「…………ガウ」
なんとなく。
それが一番しっくりきた。
入力する。
《ガウ》
『この名前でよろしいですか?』
YES。
NO。
「よし」
YES。
ポチッ。
『キャラクターを最終確認してください』
目の前に。
完成したキャラクターが表示される。
女性。
狼獣人。
小柄。
茶髪。
狼耳。
尻尾。
名前。
《ガウ》。
「…………」
俺はもう一度、上から下まで確認する。
「よし」
問題ない。
決定。
『キャラクター《ガウ》を作成しました』
目の前のウィンドウが消えていく。
俺は笑う。
「さて」
キャラクリだけで結構時間使ったけど。
ここからが本番だ。
どんな世界なんだろう。
どんな敵がいるんだろう。
どんな場所へ行けるんだろう。
何ができるんだろう。
まだ。
何も知らない。
俺はただ。
新しく買ったゲームを楽しみにしていた。
それだけだった。
第1話を読んでいただきありがとうございます!
第5章《王虎の牙》結成編、スタートです!
今回は少し時間を遡り、ログアウトができなくなる三ヶ月前からのお話になります。
まだ《王虎の牙》もなく。
ガウも《ファンタズマ・ゲイト》を始めたばかり。
そんな本当の意味での「始まり」から描いていきます!
そして今回は、今まであまり触れてこなかった《ファンタズマ・ゲイト》というゲームそのものについても、少しずつ掘り下げていく予定です。
ちなみに。
ガウが女性狼獣人になった理由は――
割とノリです!
キャラクリって楽しいですよね!
次回、いよいよ《ファンタズマ・ゲイト》の世界へ!
第2話もよろしくお願いします!




