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第15話 強さの理由

草原を吹き抜ける風が、戦いの熱を少しずつ冷ましていく。


砕けた魔法石は淡い光となって空へ溶け、決闘システムも静かに解除された。


俺は《朧》を鞘へ納める。


向かいではアイスも杖を下ろし、小さく息を吐いていた。


「完敗だ。」


その声に悔しさはあった。


だが、それ以上に清々しさが感じられる。


少し離れた場所では、バレットとサイオンも歩み寄っていた。


サイオンは頭を掻きながら苦笑する。


「いやぁ、負けたッス。最後の矢は読めなかったッス。」


バレットは首を横に振る。


「いや。」


「勝負には勝った。」


「でも――。」


少しだけ苦笑する。


「決闘は俺の負けだ。」


サイオンが目を丸くした。


「え?」


「最後の一矢がなければ、俺は完全に拘束されていた。正直、追い詰められたよ。」


しばらく沈黙が流れる。


やがてサイオンは照れくさそうに笑った。


「そう言われると、負けた気がしないッス。でも負けは負けッス。次は勝つッス。」


「ああ。」


バレットも静かに笑う。


「次は正面から勝つ。」


二人は軽く拳を合わせた。


その様子を見ていたアイスが、小さく口元を緩める。


「サイオン。」


「なんスか?」


「いい経験になったな。」


「悔しいッスけど、その通りッス。」


サイオンは素直に頷いた。


その姿に、俺も思わず笑みを浮かべる。


戦って。


負けて。


認め合う。


嫌いじゃない空気だった。


その時だった。


アイスが俺へ視線を向ける。


「一つ聞いてもいいか。」


「いいよ。」


「君は。」


一拍置いてから続ける。


「なぜ、そこまで強い。」


突然の問いだった。


俺は少しだけ空を見上げる。


視線の先には、森の向こうにある王虎の牙の集落。


畑があって。


子供たちが笑っていて。


NPCとプレイヤーが一緒に暮らしている。


帰る場所。


守りたい場所。


自然と答えは決まっていた。


「守るため。」


短い言葉だった。


ただそれだけだった。


特別な理由なんてない。


でも、それが俺の強さだった。


アイスは静かに目を閉じる。


「……そうか。」


小さく頷く。


その一言だけで十分だった。


やがてアイスは表情を和らげた。


「実は僕たちも、この近くに拠点を構えている。」


「草原を抜けた先だ。」


「なるほど。」


俺は頷く。


「私たちは森の奥。」


「思ったより近所だったんだね。」


「ああ。」


アイスも小さく笑う。


「調査が終わったら、一度そちらへ挨拶に伺おう。」


「その時は歓迎するよ。」


「ありがとう。」


短い約束だった。


だが、それだけで十分だった。


敵として出会った相手が、今では近隣の仲間になろうとしている。


「ところで、その調査って?」


今度はバレットが口を開いた。


アイスの表情が再び真剣なものへ変わる。


「最近、この周辺で虫型モンスターが異常に増えている。」


「しかも、普通では見かけない種類まで確認されている。」


一拍置き、続ける。


「その原因を探るため、僕たちはこの草原まで来ていた。」


アイスの言葉を聞き、しばらく草原は静まり返っていた。


やがて、その沈黙を破ったのは白銀の仲間達だった。


「リーダー。」


槍使いの青年が口を開く。


「まさか、本当に負けるとは思いませんでした。」


「私もです。」


弓使いの少女も苦笑する。


「アイスさんも、サイオンさんも最前線クラスなのに……。」


「王虎の牙って、本当に無名ギルドなんですか?」


斧使いの大男が腕を組む。


「攻略組ではないから名は売れてはないかな。」


俺はそう呟いた。


魔法職の青年も驚いた顔。


「正直、二人とも化け物でした。」


「ガウさんは最後まで傷一つありませんでしたし。バレットさんも、あの状況から勝つなんて普通じゃありません。」


その言葉にバレットは肩をすくめる。


「運が良かっただけだ。」


「いやいや!」


サイオンが首を横に振る。


「運だけであの一矢は撃てないッス!」


「僕だったら絶対無理ッス!」


「そうですよ。」


弓使いの少女も笑う。


「あんな軌道、見たことありません。」


「奥の手は隠しておくものさ。」


バレットは短く答える。


「一回しか通じない手だけどな。」


「十分ッス!」


サイオンは悔しそうに笑った。


「次は絶対引っ掛からないッスよ!」


「その時は別の手を考える。」


「うわぁ……。」


サイオンが苦笑する。


「弓使いって、みんなこんな怖いんスか?」


「いや。」


俺が小さく笑う。


「バレットが変わってるだけ。」


「ひどいな。」


バレットも珍しく笑った。


そのやり取りに、その場のみんなが自然と笑みを浮かべる。


戦う前の張り詰めた空気は、もうどこにもなかった。


そんな中、アイスが森の奥へ視線を向ける。


「……そろそろ調査を再開しよう。」


「はい。」


仲間達も真剣な表情へ戻る。


「原因は、この先にある洞窟だと考えている。」


「洞窟?」


私は首を傾げる。


「ああ。」


アイスは頷く。


「虫型モンスターの目撃情報は、全てあの洞窟周辺に集中している。」


「まだ確証はない。だが、何かがある。」


俺はバレットを見る。


バレットも小さく頷いた。


「放っておくわけにはいかないな。」


その時だった。


――ドォン。


地面が、小さく揺れた。


全員が同時に顔を上げる。


「今のは……。」


サイオンが呟く。


再び。


ドォン。


ドォン。


規則正しい振動。


森の奥から鳥達が一斉に飛び立つ。


木々が激しく揺れ始めた。


「来る!」


アイスが叫ぶ。


次の瞬間だった。


バキバキバキッ!!


木をなぎ倒しながら、巨大な影が草原へ飛び出してきた。


漆黒の外殻。


真っ赤な複眼。


鋭い大顎。


馬車ほどもある巨大な虫型モンスター。


「なんだ、あれ……!」


白銀のギルドメンバーが息を呑む。


「報告にあった個体より、遥かに大きい!」


アイスの表情が険しくなる。


ガウは静かに《朧》へ手を掛けた。


バレットも弓を構える。


サイオンの周囲には銀色の液体金属が浮かび上がる。


敵味方として戦った者たちが、今度は同じ敵へ向き直る。


巨大な虫が耳をつんざく咆哮を上げた。


新たな戦いが、幕を開けようとしていた。

次回、共闘!

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