第39話 背負うもの
「まだゼノスの言う通りに私たちが殺し合うの?」
「…………」
ヨミの言葉。
誰も答えなかった。
風。
フェリシアの旗が揺れる。
「…………」
アレン。
ダリオ。
ヨミ。
そして。
その前に立つたると。
背中にはさっき斬られた傷。
「…………」
被害者たちも黙っていた。
全員。
《深淵の剣》に何かを奪われた人たち。
仲間。
家族。
装備。
金。
居場所。
自由。
何を奪われたのか俺には分からない。
でも。
「……ふざけるな」
一人。
男が呟いた。
「…………」
ヨミが見る。
「ふざけるなよ……!」
声が大きくなる。
「殺し合うな!?」
「過去に囚われるなって言いたいのか!?」
「……違う」
ヨミが首を振る。
「じゃあ何だ!」
「俺の仲間は殺されたんだぞ!」
「…………」
「《深淵の剣》に!」
男がアレンを指差す。
「こいつらの仲間に!」
「目の前で殺された!」
「…………」
アレン。
何も言えない。
「俺だけじゃねぇ!」
男が周囲を見る。
「そうだろ!」
「俺は全部奪われた!」
別の声。
「装備も!」
「金も!」
「何年も集めた素材も!」
「俺の仲間は奴隷商会に売られた!」
「俺はゼノスに呪印を刻まれた!」
「友達を殺された!」
「…………」
次々。
声。
怒り。
悲しみ。
憎しみ。
「それを!」
「好きでやったんじゃない!?」
「命令されただけ!?」
「だからなんだよ!」
「こっちは関係ねぇだろ!」
「殺された奴は戻ってこねぇんだぞ!」
「…………」
ヨミ。
俯く。
「……うん」
「だったら!」
「許せっていうのか!」
「……言ってない」
「同じだろ!」
「違う!」
ツキが叫んだ。
「…………!」
ヨミが振り返る。
「ツキ」
「お姉ちゃんは……!」
ツキ。
小さな身体。
拳を握っている。
「お姉ちゃんだって!」
「…………」
「やめろ」
被害者の男が睨む。
「ガキには関係ねぇ」
「関係ある!」
「ツキ!」
ヨミが止める。
「でも!」
「いいの」
「…………」
ヨミがツキを見る。
「いいから」
「…………」
ツキ。
唇を噛む。
「…………」
一歩。
後ろへ。
ヨミが被害者たちを見る。
「……ごめんなさい」
頭を下げる。
「…………」
「本当にごめんなさい」
「…………」
「謝って済むか!」
「済まない」
「だったら謝るな!」
「…………」
ヨミ。
頭を下げたまま。
「それでも」
「謝ることしかできないから」
「…………」
怒号。
止まらない。
◇
「…………」
俺は黙って聞いていた。
たるとも。
ゴウマ。
ハヤテ。
リンファ。
シズク。
セリア。
アイス。
サイオン。
ノエル。
ガンテツ。
皆。
何も言わない。
言えない。
被害者の人たちが怒るのは当然。
アレンたちを守りたい。
でも。
だからって。
この人たちに怒るなとは言えない。
「…………」
どうしたらいいんだろう。
「ガウ」
「?」
小さな声。
隣にバレット。
「バレット」
「俺は後方にいる」
「…………」
バレットが俺にだけ聞こえる声で続ける。
「いつでも動けるようにしておく」
「動く時は合図をくれ」
「…………」
俺はバレットを見る。
「悪いね」
「構わん」
バレットが人混みから離れる。
ゆっくり。
後方。
少し高い場所。
そして。
《流星》を構える。
矢を番える。
狙いは被害者たち。
「…………」
まだ撃たない。
でも。
誰かが動けばいつでも撃てる。
「念のためだ」
バレットが小さく呟く。
「悪く思うなよ」
「…………」
俺も《朧》には触れない。
できれば使いたくない。
この人たちとは戦いたくない。
◇
「責任取れ!」
「《深淵の剣》を引き渡せ!」
「俺たちの前に出せ!」
「…………」
アレン。
一歩。
「分かりました」
「アレン!?」
ダリオが見る。
「俺は――」
「待ってください!」
声。
後ろ。
「…………?」
振り返る。
人。
歩いてくる。
一人。
二人。
三人。
「…………」
知ってる。
「お前ら……」
ダリオが呟く。
元《深淵の剣》。
フェリシアへ移住した人たち。
全員が集まる。
「なんで……」
アレンが見る。
「…………」
一人がアレンの隣へ立つ。
「俺も《深淵の剣》にいました」
「…………」
もう一人。
「俺もです」
「俺も」
「私も」
「…………」
次々。
前へ。
アレン。
ダリオ。
ヨミ。
その横。
そして。
全員。
被害者たちの前へ並んだ。
「…………」
ざわめき。
「こんなに……」
「全員かよ……」
「やっぱり匿ってやがったのか!」
「…………」
アレンが周囲を見る。
「お前たち下がれ!」
「隊長」
「下がれ!」
「嫌です」
「…………」
「隊長だけに」
一人。
「背負わせるつもりはありません」
「…………」
「俺たちも同じです」
「《深淵の剣》にいた」
「ゼノスに従った」
「人を傷つけた」
「奪った」
「…………」
「だから」
一人が頭を下げる。
「申し訳ありませんでした」
「…………」
次。
「申し訳ありませんでした」
頭を下げる。
「…………」
一人。
また一人。
そして。
全員。
「「「申し訳ありませんでした!」」」
「…………」
深く。
頭を下げる。
「…………」
アレンの手が震えている。
ダリオも。
ヨミも。
「…………」
その時。
「私も」
「?」
たると。
前へ。
「たるとさん?」
アレンが見る。
「…………」
たるとが元《深淵の剣》の人たちの横に並ぶ。
「私は」
被害者たちを見る。
「この国の代表です」
「…………」
「この人たちをフェリシアに受け入れたのは私たちです」
「…………」
「だから」
たると。
頭を下げる。
「勝手に受け入れて」
「皆さんを傷つけてしまったことについては謝ります」
「…………」
「申し訳ありませんでした」
「たると!」
ハヤテが声を上げる。
でも。
たるとは頭を上げない。
「…………」
男が睨む。
「だったら」
「…………」
「引き渡せ」
「…………」
たるとの虎耳が動く。
「それは」
顔を上げる。
「できません」
「…………」
「なんだと?」
「できません」
もう一度。
「…………」
「私は」
たるとがアレンたちを見る。
「この人たちが昔したことを知っています」
「全部ではありません」
「知らないこともたくさんあります」
「…………」
「皆さんがどれだけ苦しんだのかも」
「私には全部分かりません」
「…………」
「だから」
被害者たちを見る。
「許してくださいとは言いません」
「…………」
「でも」
一拍。
「今のアレンさんたちは……」
「フェリシアの仲間です」
「…………」
「だから引き渡すことはできません」
「ふざけるな!」
男が叫ぶ。
「結局!」
「身内を庇ってるだけじゃねぇか!」
「…………」
何も言えない。
「仲間だからなんだ!」
「こっちだって仲間を殺されてんだぞ!」
「そんな奴らが!」
アレンたちを指差す。
「今は楽しく暮らしてますってか!?」
「ふざけんな!」
「俺たちは今でも苦しんでるんだぞ!」
「…………」
「許さねぇ!」
「絶対に許さねぇ!」
「…………」
武器を握る。
「…………」
後方。
バレット。
弦。
僅かに引く。
「…………」
俺も見る。
まだ動かない。
「出せ!」
「そいつらを引き渡せ!」
「…………」
その時。
「待て」
「…………?」
声。
フェリシア側。
「…………」
振り返る。
男。
見覚えがある。
フェリシアの住民。
元奴隷プレイヤー。
「…………」
その後ろには何人もいる。
「なんだ?」
被害者の男が睨む。
「関係ない奴は引っ込んでろ!」
「関係ある」
「は?」
男が歩いてくる。
「俺はフェリシアの住民だ」
「…………」
アレンたちを見る。
そして。
被害者たちを見る。
「それと」
一拍。
「俺もお前たちと同じ被害者だ」
「…………」
空気が変わった。
「被害者?」
「ああ」
「《深淵の剣》に捕まった」
「…………」
「奴隷にされた」
「…………」
「仲間も失った」
「…………」
後ろには同じ元奴隷プレイヤーたち。
「俺もだ」
「私も」
「俺も捕まってた」
「仲間を殺された」
「…………」
被害者たちが黙る。
「だったら!」
男が叫ぶ。
「だったらなんでだ!」
「…………」
「なんで!」
アレンたちを指差す。
「こいつらと同じ国で暮らせる!」
「…………」
フェリシアの住民。
アレンを見る。
「許したのか!?」
「…………」
少し。
沈黙。
「許してない」
「…………」
アレンの目が見開いた。
「今も」
男が続ける。
「許してない」
「…………」
「俺の仲間が死んだことも」
「捕まったことも」
「奪われたことも」
「…………」
「忘れてない」
「…………」
アレンが俯く。
「ほら見ろ!」
被害者の男が叫ぶ。
「だったら!」
「最後まで聞け!」
「…………!」
声。
大きい。
「許してない」
もう一度。
「忘れてもいない」
「…………」
「だけど」
アレンを見る。
「こいつらがフェリシアに来てから何をしてきたのか俺たちは見てきた」
「…………」
アレンが顔を上げる。
「毎日」
「街を巡回して」
「…………」
「朝から正門に立って」
「夜も見回って」
「…………」
「何かあれば一番に走ってきて」
「魔物が出れば住民を守って」
「喧嘩があれば止めて」
「子どもが迷子になれば一緒に探して」
「…………」
「ずっと」
男が言う。
「誠意を見せてきた」
「…………」
アレンの唇が震える。
「もちろん」
男は被害者たちを見る。
「あんたらには見えてない」
「…………」
「俺たちがフェリシアで見てきた話だ」
「だから」
「お前らも許せなんて言わない」
「…………」
「許せるわけない奴がいるのも分かる」
「…………」
「俺だって」
少し。
声が震える。
「今でも……」
「死んだ友人に会いたい」
「…………」
「もう一回」
「くだらない話して」
「一緒に飯食って」
「一緒に攻略して」
「…………」
拳を握る。
「会いてぇよ……!」
「…………」
誰も何も言わない。
「でも!」
顔を上げる。
「戻ってこない!」
「…………」
「どれだけ憎んでも!」
「どれだけ怒っても!」
「失ったものは戻らない!」
「…………」
「だったら!」
アレンたちを見る。
「これからを見たっていいだろ!」
「…………」
「過去を忘れろって言ってるんじゃない!」
「…………」
「許せって言ってるんでもない!」
「…………」
「でも!」
胸を叩く。
「いつまでも!」
「ゼノスに壊されたあの日に!」
「俺たちまで囚われ続ける必要はないだろ!」
「…………」
アレンの頬。
何か。
落ちる。
「…………」
涙。
「アレン?」
ダリオが見る。
「…………」
もう一つ。
「…………っ」
アレンが俯く。
「俺たちは」
フェリシアの住民が続ける。
「フェリシアでやり直した」
「…………」
「こいつらも」
アレンたちを見る。
「同じだ」
「…………」
「やったことは消えない」
「背負っていくしかない」
「…………」
「だけど」
一歩。
アレンの前へ。
「今のこいつらまで」
「昔と同じ《深淵の剣》だって言われるのは違う」
「…………」
被害者の男が睨む。
「だからなんだ!」
「今が良ければ全部いいっていうのか!」
「言ってねぇだろ!」
「…………!」
「許さないなら許さなくていい!」
「憎いなら憎んでていい!」
「…………」
「だけど」
男。
一歩。
前へ。
「アレンを斬るっていうなら」
「…………」
アレンの前に立つ。
「俺たちは」
被害者たちを見る。
「お前らを止める」
「…………」
ざわっ。
「お前……」
「本気か?」
「ああ」
「…………」
「こいつに何されたか分かってんのか!」
「分かってる!」
「だったら!」
「それでもだ!」
「…………」
男が振り返る。
アレンを見る。
「アレン」
「…………」
返事がない。
「警備隊は」
周囲を見る。
「フェリシアに必要な人材だ」
「…………」
「そうだろ?」
声。
後ろ。
元奴隷プレイヤーたちを見る。
「お前ら!」
「…………」
一瞬。
そして。
一人。
前へ。
「……ああ」
「…………」
アレンの前に並ぶ。
「俺も止める」
もう一人。
「私も」
一人。
また。
一人。
「こいつらには借りがある」
「俺も助けてもらった」
「警備隊には世話になってる」
「…………」
次々。
前へ。
アレン。
ダリオ。
元《深淵の剣》の人たち。
その前へ。
かつて。
《深淵の剣》に捕まっていた人たちが立つ。
「…………」
盾みたいに。
「お前ら……」
ダリオ。
声が震えている。
「何してんだよ……」
「…………」
一人が振り返る。
「見れば分かるだろ」
「…………」
「守ってんだよ」
「…………!」
ダリオの顔が歪む。
「なんで……」
「…………」
「なんで」
声。
震える。
「俺たちなんか……」
「…………」
「守るんだよ……」
涙。
一つ。
「…………っ」
頬。
落ちる。
「俺たちは……」
ダリオ。
俯く。
「お前らを……」
「…………」
「俺たちは……!」
「知ってる」
「…………」
「知ってるよ」
元奴隷プレイヤー。
「だから」
「許してねぇって言っただろ」
「…………」
「でも」
少し笑う。
「今のお前らも知ってる」
「…………」
ダリオ。
何も言えない。
「…………っ」
泣く。
「くそ……」
手。
顔を覆う。
「くそ……!」
「…………」
その横。
元《深淵の剣》の人たち。
「…………」
一人。
肩が震えてる。
「…………っ」
一人。
顔を覆う。
「…………」
一人。
膝をつく。
「ごめんなさい……」
「…………」
「ごめんなさい……!」
次々。
泣く。
「すみません……」
「…………」
「すみません……!」
「本当に……!」
「…………」
「ごめんなさい……!」
「…………」
そして。
アレン。
「…………」
俯いたまま。
涙が止まらない。
「…………すみません」
「…………」
「すみません……」
「…………」
声。
小さい。
「すみません……」
「…………」
◇
俺は思い出す。
モートス。
俺が殺した兵士。
泣きながら。
剣を握って。
何度も。
謝っていた。
「すみません」
「すみません」
「すみません」
「…………」
あの時と。
同じ言葉。
でも。
今はーー
◇
「すみません……!」
アレンが膝をつく。
「本当に……!」
「…………」
「すみません……!」
「…………」
元奴隷プレイヤーの男が振り返る。
「アレン」
「…………」
「もういい」
「…………」
「でも……」
「謝る相手が違うだろ」
「…………?」
アレンが顔を上げる。
涙。
ぐしゃぐしゃ。
「俺たちに」
男が言う。
「謝り続けるんじゃなくて」
「…………」
フェリシア。
街。
見る。
「これからも街を守ってくれ」
「…………」
「それがお前の仕事だろ」
「…………」
一拍。
「警備隊長」
「…………!」
アレンの目。
見開く。
「…………」
《深淵の剣》。
じゃない。
「…………っ」
アレン。
涙。
また。
溢れる。
「……はい」
「…………」
「はい……!」
立とうとする。
でも。
脚が震える。
「必ず……」
「…………」
「必ず……!」
拳を握る。
「この街を……!」
「…………」
「皆さんを……!」
「…………」
「守ります……!」
「…………」
声。
震えてる。
「何があっても……!」
「…………」
「必ず……!」
「…………」
ダリオも。
横。
顔をぐしゃぐしゃにしながら。
「俺も……」
「…………」
「俺も守る……!」
「…………」
「もう二度と……!」
拳。
「誰かに言われて……!」
「誰かを傷つけるんじゃなくて……!」
「…………」
「今度は……!」
フェリシアを見る。
「俺が……!」
「…………」
「俺たちが……!」
「守るから……!」
「…………」
後ろ。
元《深淵の剣》。
今はフェリシアの住民。
「俺もです……!」
「私も……!」
「必ず……!」
「…………」
泣いてる。
全員。
「…………」
たると。
「うぅ……」
「…………」
泣いてる。
「たると」
「泣いてません……!」
「泣いてる」
「泣いてません!」
「涙出てる」
「これは……!」
ごしごし。
「違います!」
何が違うんだろう。
「ガウちゃん~」
セリア。
「なに?」
「シズクちゃんも泣いてるよ~」
「泣いていません」
「…………」
泣いてる。
「セリアは?」
「泣いてるよ~」
普通に認めた。
「…………」
ゴウマ。
顔を背けてる。
「ゴウマ」
「見るな」
「泣いてる?」
「見るな!」
「ガンテツは?」
「泣いてねぇ!」
「…………」
号泣。
「泣いてる」
「泣いてねぇぇぇぇ!!」
すごい泣いてる。
「…………」
ハヤテも少しだけ目元を拭いてる。
リンファも。
ノエルも。
モルフォも。
ヨミも。
ツキも。
「…………」
アイス。
「ガウ」
「なに?」
「僕を見るな」
「…………」
見た。
「見るなと言っただろ」
目が赤い。
「…………」
サイオンはじたばたしながら空中に浮いている。
俺は後ろを見る。
バレット。
弓。
もう下ろしてる。
「…………」
目が合う。
「バレット」
「なんだ」
「泣いてる?」
「撃つぞ」
うん。
これ以上はやめておこう。
◇
「…………」
被害者たちは黙っていた。
武器はまだ持ってる。
許したわけじゃない。
怒りが消えたわけでもない。
当然だと思う。
「…………」
最初に叫んでいた男。
剣を握ったままアレンを見る。
「…………」
アレンも見る。
逃げない。
「…………」
長い。
沈黙。
「……許さねぇからな」
男が言った。
「…………」
アレンが頷く。
「はい」
「俺は」
男。
声。
震える。
「《深淵の剣》を絶対に許さねぇ」
「…………」
「はい」
「死んだ仲間のことも」
「忘れねぇ」
「…………」
「はい」
「お前らが何したかも」
「…………」
「忘れねぇからな」
「…………」
アレン。
頭を下げる。
「はい」
「…………」
男。
剣を見る。
「…………」
そして。
鞘。
カチン。
「…………」
収めた。
「…………!」
たるとの虎耳が立つ。
「今日は帰る」
「…………」
「でも」
男がアレンを見る。
「許したわけじゃない」
「はい」
「…………」
「次に来た時」
フェリシアを見る。
「本当に」
「この国を守ってるのか」
「…………」
「俺が見る」
「…………」
アレン。
涙。
まだ残ってる。
でも。
今度は。
真っ直ぐ。
「はい」
「…………」
「必ず」
男が背を向ける。
「行くぞ」
「…………」
被害者たちはすぐには動かない。
アレンを見る人。
元奴隷プレイヤーを見る人。
たるとを見る人。
ヨミを見る人。
「…………」
一人。
また一人。
武器を収める。
「…………」
そして。
歩き出す。
◇
五十人。
遠ざかっていく。
誰も笑ってない。
何も解決してない。
許されたわけでもない。
「…………」
争いはなかった。
「…………」
俺はそれだけでよかったと思う。
「…………」
アレン。
まだ立ってる。
「アレン」
「…………」
俺が呼ぶ。
「はい」
「大丈夫?」
「…………」
少し考える。
「分かりません」
「そう」
「はい」
「…………」
「でも」
アレンがフェリシアを見る。
街。
住民。
警備隊。
仲間。
「…………」
「ここにいていいんでしょうか」
「…………」
俺は首を傾げる。
「なんで?」
「…………」
「いや」
「なんでって……」
「警備隊長でしょ?」
「…………」
「仕事あるよ」
「…………」
アレン。
目。
また潤む。
「ガウさん」
「なに?」
「もう」
「…………」
「泣かせないでください……」
「私何もしてない」
「してます……!」
「…………」
後ろ。
たるとが笑った。
泣きながら。
「そうですよ!」
「アレンさん!」
「…………」
「まだまだ!」
虎耳。
立つ。
「いっぱい働いてもらいますからね!」
「…………」
「警備隊」
「百十人になったんですよ!?」
「隊長がいなくなったら困ります!」
「…………」
アレン。
顔を拭う。
「はい」
「…………」
少しだけ笑った。
「お任せください」
「…………」
俺は空を見る。
青い空。
風。
旗。
揺れている。
ゼノスは死んだ。
《深淵の剣》もなくなった。
でも。
残したものは消えない。
傷も。
罪も。
失ったものも。
なかったことにはできない。
「…………」
たぶん。
忘れなくていい。
許せなくてもいい。
それでも。
前には進める。
背負ったまま。
一緒に。
「…………」
《深淵の剣》。
その名前に縛られていた人たちが。
ようやく。
少しだけ。
前へ進めた気がした。
第39話を読んでいただき、ありがとうございます!
第2章から続いていた《深淵の剣》という存在に、ようやく一つの区切りをつけることができました。
《深淵の剣》に奴隷にされていた人たちが、今のアレンたちを守るために前へ出る場面。
ここはずっと書きたかった場面でした。
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