第38話 呪い
《深淵の剣》壊滅する一週間前。
第二階層。
国家。
「…………」
高台。
その先に巨大な城壁。
街。
城。
人。
遠くからでも分かる。
そこを何十人ものプレイヤーが見下ろしていた。
「この先に」
男が言う。
黒い装備。
冷たい目。
《深淵の剣》。
ギルドマスター。
ゼノス。
「国家がある」
「…………」
周囲。
《深淵の剣》の構成員たち。
武器を握る。
笑っている者。
興奮している者。
不安そうな者。
表情は様々。
だが。
誰一人。
その場を離れない。
いや。
離れられない者もいた。
「目的は単純だ」
ゼノスがモートスを見る。
「金」
「装備」
「素材」
「食料」
「使える人間」
「…………」
一拍。
「全部奪え!」
「「「「「うおおおおおおおおっ!!」」」」」
歓声。
武器が掲げられる。
「祭りだ祭り!」
巨大な大剣を肩に担ぎ。
ヴァルガが笑う。
「国一つだろ?」
「どんだけ楽しめるんだろうなぁ!」
「命令に従うだけだ」
バルド。
「油断するな」
ミレイアが静かに言う。
「国家を名乗る以上、それなりの戦力はいる」
「つまらないこと言わないでよ」
リリアが笑う。
手には刃。
「せっかくなんだから」
モートスを見る。
「どんな悲鳴が聞けるのか」
口元。
笑み。
「楽しみましょう?」
「はっ!」
ヴァルガが笑う。
「話が分かるじゃねぇか!」
「…………」
ゼノスが四人を見る。
《深淵の剣》四天王。
「行け」
一言。
それだけ。
次の瞬間。
「うおおおおおおおおっ!!」
《深淵の剣》が動いた。
◇
モートス。
正門。
「敵襲!」
鐘。
叫び声。
「東側!」
「多数!」
「ギルド旗を確認!」
「《深淵の剣》です!」
「っ!」
兵士たちが走る。
「門を閉めろ!」
「住民を城内へ!」
「戦闘職は前へ!」
巨大な門。
ゴゴゴゴゴゴッ!!
閉じていく。
「急げ!」
「あと少し――」
ドォンッ!!
「っ!?」
衝撃。
門が揺れた。
外。
「ははははははっ!」
ヴァルガ。
大剣。
「硬ぇな!」
もう一度。
振りかぶる。
「《豪断》!」
ドォォォンッ!!
門に亀裂。
「なっ……!」
兵士たちの顔色が変わる。
「補強しろ!」
「結界!」
「早く!」
魔法陣。
光。
門を覆う。
「ほう」
外。
ヴァルガが笑う。
「面白ぇ」
「退け」
声。
バルド。
前へ。
長槍を構える。
「門を破壊する」
ドォンッ!!
さらに。
リリア。
笑いながら刃を投げる。
「ほら」
無数。
「踊って?」
ザザザザザザッ!!
門の上。
兵士たち。
「ぐっ!」
「くそっ!」
「弓兵!」
「撃て!」
矢。
雨。
「…………」
ミレイア。
地面に影が広がる。
「無駄だ」
矢が影へ飲み込まれる。
「な……」
影が壁を這う。
門の隙間。
内側。
「っ!?」
兵士の足元。
「影が!」
「離れろ!」
「《影縛》」
身体が止まる。
「動けな――」
「今だ」
ヴァルガが笑う。
「ぶっ壊す!」
ドォォォォォンッ!!
轟音。
門。
中央から砕ける。
「…………!」
破片。
煙。
そして。
《深淵の剣》。
「行けぇぇぇぇぇっ!!」
雪崩れ込む。
「モートスを守れ!」
「ここを通すな!」
兵士たちが迎え撃つ。
剣。
槍。
盾。
魔法。
そして。
衝突。
◇
街。
「逃げろ!」
「城へ!」
「子どもを先に!」
「急げ!」
住民たちが走る。
泣き声。
怒号。
爆発。
遠く。
炎。
「お母さん!」
「離れないで!」
「こっち!」
その横。
《深淵の剣》の構成員が店へ入る。
ガシャァンッ!!
棚。
破壊。
「金目の物全部持ってけ!」
「ポーションもだ!」
「装備!」
「素材!」
「倉庫探せ!」
別の場所。
「こいつらは?」
逃げ遅れた住民。
女性。
子ども。
怯えている。
「殺すな」
男が笑う。
「女とガキは金になる」
「奴隷商会に流せ」
「や、やめて!」
「触らないで!」
「うるせえ!」
拘束。
縄。
「暴れんな!」
「あとでまとめて運ぶぞ!」
「…………」
その横。
別の構成員。
倒れたプレイヤーを見る。
まだ生きている。
武器。
鎧。
「こいつ強かったぞ」
「殺すか?」
「待て」
声。
ゼノス。
歩いてくる。
「そいつは使える」
「…………」
倒れたプレイヤーが顔を上げる。
「てめぇ……」
「名前は?」
「誰が……!」
「どうでもいい」
ゼノスが手を向ける。
「抵抗するな」
黒い紋様。
腕。
首。
広がる。
「ぐっ……!」
「なんだ……これ……!」
「今日から」
ゼノスが告げる。
「俺の駒だ」
「ふざ……け……」
声。
弱くなる。
目。
焦点。
消えていく。
「…………」
立ち上がる。
「命令を待て」
「……はい」
「よし」
ゼノスが歩く。
次。
次。
強い者。
使える者。
殺さない。
奪う。
人まで。
「…………」
モートスが少しずつ壊れていく。
◇
広場。
「はぁ……」
呼吸。
「はぁ……はぁ……!」
狐獣人。
少女。
大鎌。
ヨミ。
「…………」
周囲。
瓦礫。
倒れている兵士。
壊れた建物。
血。
炎。
そして。
四人。
「まだ立つか」
バルド。
「しぶてぇなぁ!」
ヴァルガが笑う。
「最高じゃねぇか!」
「…………」
ミレイア。
無言。
周囲を見る。
リリア。
笑う。
「いいわね」
「もっと遊びましょう?」
「…………」
ヨミが大鎌を握る。
手が震えている。
HPはほとんど残っていない。
腕。
脚。
傷だらけ。
「……これ以上」
息。
「……好きに」
大鎌。
構える。
「させない……!」
「ははっ!」
ヴァルガ。
「いい目だ!」
地面を蹴る。
「来い!」
「っ!」
大鎌を振るう。
ガキィィンッ!!
大剣。
大鎌。
衝突。
「ぐっ……!」
ヨミが押される。
「軽い!」
ヴァルガが大剣を振る。
ブォンッ!!
「っ!」
ヨミが後ろに転がる。
「お姉ちゃん!」
小さな声。
「…………!」
ヨミの耳が動く。
物陰。
瓦礫。
小さな狐獣人。
ツキ。
「ツキ!」
「…………」
ミレイアが声がした方を見る。
「…………」
影に消えていく。
「え?」
ツキの背後。
「動くな」
「っ!」
ミレイア。
腕のツキを掴む。
「やっ!」
「離して!」
「ツキ!」
ヨミが立ち上がる。
「……返して!」
「狐獣人」
ミレイアが冷たく言う。
「見ろ」
「…………」
ツキの首元に刃。
「お姉ちゃん!」
「ツキ!」
ヨミの顔色が変わる。
「離して!」
一歩。
「動くな」
ミレイア。
刃が首に近付く。
「っ……」
ヨミが止まる。
「そうだ」
「…………」
リリアが笑う。
「いい顔」
ゆっくりとヨミへ歩み寄る。
「さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」
「…………」
「妹がそんなに大事?」
「黙って……」
「なら」
双剣を振り上げる。
「終わりにしてあげるわ」
「…………!」
ヨミは動けない。
「お姉ちゃん!」
リリアが踏み込む。
刃。
ヨミの首元へ。
「じゃあね」
振り下ろす。
その瞬間。
「殺すな!」
「…………」
ヨミの首、寸前で止まる。
「…………」
リリアが振り返る。
「ゼノス?」
「殺すなと言った」
ゼノスが歩いてくる。
「でも」
「こいつ面白いわよ?」
「だからだ」
「…………」
ゼノスがヨミを見る。
「お前は強い」
「…………」
ヨミが睨む。
「認めよう」
「…………」
「俺の下につけ」
「ふざけないで……」
「拒否するなら」
ゼノスの視線。
ツキ。
「妹を殺す」
「…………!」
ヨミが固まる。
「お姉ちゃん!」
「ツキ……」
「嫌!」
ツキが暴れる。
「お姉ちゃん逃げて!」
「…………」
逃げられない。
四天王。
ゼノス。
ツキ。
「ここで」
ゼノスが続ける。
「俺の支配下となれ」
「そうすれば」
ツキを見る。
「妹は殺さないでやる」
「…………」
ヨミの手が震える。
大鎌を握る。
「…………」
目がツキと合う。
「お姉ちゃん!」
「…………」
勝てない。
逃げられない。
ツキを連れて。
無理。
「…………」
手から力が抜ける。
ガランッ。
大鎌。
地面へ落ちる。
「…………!」
ツキの目が見開く。
「お姉ちゃん……?」
「…………」
ヨミが俯く。
「約束……」
声。
小さい。
「ツキを……」
「殺さないって……」
「約束……して……」
「もちろんだ」
ゼノス。
ただ手を上げる。
「なら」
黒い魔力。
「契約成立だ」
「…………」
ヨミが顔を上げる。
「アークスキル」
「《呪印支配》」
紋様が広がる。
そして。
「《奴隷呪印》」
「っ……!」
ヨミの身体。
黒い紋様。
腕。
首。
胸元。
「ぐ……!」
膝が落ちる。
「お姉ちゃん!」
ツキが叫ぶ。
「お姉ちゃん!!」
「…………」
聞こえる。
でも。
遠い。
頭。
霧。
何も考えられない。
ツキ。
声。
「お姉ちゃん!」
遠い。
「お姉ちゃん!」
もっと。
遠い。
「…………」
命令。
従う。
逆らうな。
ゼノス。
主人。
「…………」
意識。
沈む。
「ヨミ」
ゼノスが呼ぶ。
「………」
顔を上げる。
目。
光。
薄い。
「今日から」
ゼノスが言う。
「お前は俺の駒だ」
「…………」
ツキ。
泣く。
「お姉ちゃん……!」
でも。
その声はヨミには届いていなかった。
◇
別の通り。
「…………」
兵士。
壁。
背中。
血。
脚。
動かない。
剣。
それでも握っている。
「はぁ……」
「はぁ……」
「…………」
目の前。
二人。
《深淵の剣》。
アレンとダリオ。
「《深淵の剣》……」
兵士が睨む。
「くそが……!」
アレンが剣を持つ。
でも動かない。
「モートスを……」
兵士が身体を起こそうとする。
「好きにさせて……たまるか……!」
「もう」
アレンが言う。
「動かないでください」
「…………」
兵士の顔。
怒り。
「ふざけるな!」
「…………」
アレンの肩が揺れる。
「勝手に攻めてきたくせに!」
「偽善者ぶるな!」
「…………」
「お前らが!」
「俺たちの国を!」
「…………」
アレンは何も言えない。
ダリオが横を見る。
「アレン」
「…………」
「殺さないと」
小さい声。
「殺されるのは俺たちだぞ」
「分かってる!」
声が荒くなる。
「分かっている!」
「だけど……!」
「…………」
兵士が笑う。
苦しそうに。
「なんだよ……」
「やっぱり……」
「同じじゃねぇか……」
「…………」
アレンの手が震える。
「…………」
その時。
「あん?」
声。
「…………!」
二人が固まる。
後ろには大剣。
「雑魚ども!」
ヴァルガ。
歩いてくる。
「何やってんだ!」
「…………」
アレンの顔が青ざめる。
「ヴァルガ様……!」
「これは……」
「その……」
「…………」
ダリオ。
一歩。
前。
「すみません!」
頭を下げる。
「ヴァルガ様!」
「今すぐトドメを刺します!」
「…………」
ヴァルガが兵士を見る。
次にアレン。
ダリオ。
「さっさとしろ」
大剣を肩に担ぐ。
「じゃねぇと」
笑う。
「お前らから殺すぞ?」
「…………」
二人の息が止まる。
「…………」
そして。
剣を握る。
「アレン」
小声。
「やれ」
「…………」
「やるんだ」
「…………」
兵士。
アレンを見る。
「来い」
「…………」
「《深淵の剣》」
「…………」
「殺せ」
「…………」
アレン。
一歩。
「…………すみません」
「…………」
一歩。
「すみません」
「…………」
涙。
「すみません……!」
兵士が睨む。
「謝るくらいなら――」
「すみません!」
剣。
振り上げる。
「すみませんすみませんすみませんすみません……!」
突く。
ザクッ。
「ぐっ……!」
兵士。
身体。
揺れる。
「…………」
アレン。
剣を握ったまま。
涙が止まらない。
「すみません……」
「…………」
兵士。
血。
口元。
それでも。
目。
アレン。
「顔は……」
「…………」
「覚えた……」
「からな……」
「…………!」
アレンの目。
見開く。
「お前の……」
「顔……」
「絶対……」
「…………」
声。
弱く。
「忘れねぇ……」
「…………」
ダリオ。
横。
歯。
食いしばる。
「殺らなきゃ……」
剣を握る。
「殺られる……」
一歩。
「俺たちが……」
「殺られる……」
兵士。
もう動けない。
「…………」
ダリオ。
振る。
「ぐっ……!」
「…………」
静かになる。
兵士。
動かない。
「…………」
アレン。
剣。
手。
赤。
「…………」
ヴァルガが笑う。
「なんだ!」
「やればできるじゃねぇか!」
アレン。
ダリオ。
振り返れない。
「次から」
ヴァルガが歩き去る。
「さっさとしろ!」
「俺を待たせんな!」
「はははははっ!」
笑い声が遠ざかる。
「…………」
通り。
二人。
兵士。
「…………」
アレンの膝が落ちる。
「…………」
剣。
手。
離れる。
カラン。
「…………」
ダリオが見る。
「アレン……」
「…………」
「俺たち……」
アレン。
兵士が光となって消える。
「何やってるんだ……」
「…………」
ダリオ。
答えない。
答えられない。
遠く。
悲鳴。
爆発。
笑い声。
国家。
壊れていく。
そして。
二人は。
また立ち上がった。
立ち上がるしかなかった。
◇
現在。
第一階層。
国家。
正門。
「なぜこの国は――」
男が叫ぶ。
「《深淵の剣》を匿っているんだ!」
「…………」
たると。
答えられない。
「…………」
俺も。
何も言わない。
五十人の被害者たち。
怒り。
憎しみ。
悲しみ。
その全部。
嘘じゃない。
「答えろ!」
「説明しろ!」
「そいつらを出せ!」
「…………」
アレンが俯く。
「…………」
ダリオが横を見る。
「アレン」
「…………」
アレンが一歩。
前に進む。
「アレン?」
ダリオが腕を掴もうとする。
「待て!」
「…………」
アレン。
もう一歩。
警備隊の前へ。
被害者たちの前。
「…………」
男が見る。
「なんだ?」
「…………」
顔を上げる。
「俺だ」
「…………」
「アレン!」
ダリオの声。
「俺は」
被害者たちを見る。
「《深淵の剣》だ」
「…………」
空気が凍る。
「元じゃないの?」
俺が小さく呟く。
でも。
アレンは続ける。
「逃げも」
一歩。
「隠れも」
一歩。
「しない」
「…………」
被害者。
男の顔が変わる。
「てめぇ……」
「…………」
「てめぇが……!」
剣を抜く。
ガシャッ!
それをきっかけに周囲も武器を抜く。
剣。
槍。
杖。
弓。
「アレン!」
ダリオ。
前へ。
「馬鹿野郎!」
「下がれ!」
「…………」
アレンは動かない。
「お前!」
「どこで何した!」
「誰を殺した!」
「誰を捕まえた!」
「答えろ!」
「…………」
アレン。
目を閉じる。
モートス。
兵士。
声。
『顔は……覚えた……からな……』
「…………」
目を開く。
「俺は」
声。
震えていない。
「殺した」
「…………」
ざわっ。
「人を殺した」
「…………」
ダリオの顔。
歪む。
「アレン……」
「《深淵の剣》にいた時」
アレンは続ける。
「俺は」
「命令されて人を殺した」
「…………」
被害者。
怒り。
さらに強くなる。
「ほら見ろ!」
「やっぱりじゃねぇか!」
「殺人鬼だ!」
「引き渡せ!」
「…………」
たると。
苦しそう。
「待ってください!」
一歩。
「アレンさんは――」
「たるとさん」
「…………!」
アレン。
たるとを見る。
「いいんです」
「…………」
「でも!」
「いいんです」
「…………」
アレン。
被害者たちへ。
「俺がやったことは」
「消えません」
「…………」
「命令されたから」
「怖かったから」
「殺されたくなかったから」
「…………」
「それで」
「俺が殺した人が帰ってくるわけじゃない」
「…………」
静か。
「だから」
アレン。
一歩。
「逃げません」
「…………」
男が剣を握る。
「じゃあ」
「死ね!」
俺が動くより。
たるとは動いていた。
男が剣を振り上げる。
「待ってください!」
たるとがアレンを庇う。
剣がたるとの背中を切る。
「っ……!」
俺は走り出す。
「たると!」
たるとが膝をつく。
「たると!」
赤いエフェクトを流しながら。
たるとはすぐに立ち上がる。
「ガウ」
「大丈夫です」
「でも……背中が!」
「ガウ!大丈夫です」
「彼らの痛みに……比べたら……!」
俺はこれ以上近づけなかった。
「邪魔をするな!獣人!」
「たるとさん!」
アレンが呆然としている。
「何故……俺なんかのために……」
たるとは笑顔で答える。
「アレンさんが大切な仲間……」
「フェリシアの警備隊隊長だからです!」
その瞬間。
「待ってぇぇぇぇぇぇっ!!」
声。
「…………!」
全員が止まる。
後ろ。
フェリシア。
街側。
「…………」
狐獣人。
大鎌。
ヨミが走ってくる。
「ヨミ?」
俺が見る。
その後ろ。
小さな狐獣人。
ツキ。
「待って!」
ヨミ。
息が荒い。
「その人たちだけじゃない!」
「…………」
被害者。
「誰だお前」
「…………」
ヨミ。
アレンの横に立つ。
「……私も」
「…………」
大鎌を地面に置く。
「《深淵の剣》にいた」
「…………!」
ざわめき。
「ヨミさん!」
たると。
「…………」
ヨミ。
被害者たちを見る。
「私も」
「人を傷つけた」
「…………」
「人を殺したこともある」
「…………」
ツキ。
後ろに隠れてる。
血が滲むぐらい拳を握っている。
「でも」
男が叫ぶ。
「だったらお前も同じだろうが!」
「…………」
ヨミが頷く。
「……うん」
「…………」
「同じ」
「…………」
一拍。
「だから」
ヨミ。
首元に手が触れる。
今はもうない。
黒い紋様。
でも。
覚えている。
「言い訳するつもりはない」
「…………」
「ただ」
「私たちは」
少し。
声が震える。
「好きでやってたわけじゃない」
「…………」
「は?」
男が睨む。
「何言ってんだ」
「ゼノス」
ヨミ。
言う。
「ゼノスのアークスキル」
「《呪印支配》」
「…………」
何人か反応している。
「…………」
「逆らえば」
ヨミは続ける。
「殺された」
「…………」
「家族を人質にされた人もいる」
ツキを見る。
「…………」
「……私も」
声が小さい。
「妹を人質にされた」
「…………」
ツキ。
目を伏せる。
「それで」
「《奴隷呪印》を刻まれた」
「…………」
「意識を」
「考えることを」
「自分で決めることを奪われた」
「…………」
被害者たちが黙る。
「でも!」
一人が叫ぶ。
「だからって!」
「俺の仲間は帰ってこない!」
「…………」
ヨミ。
顔が下がる。
「……はい」
「…………」
「帰ってこない」
「…………」
「だから」
「許してとは言わない」
「…………」
「許されるとも思ってない」
「…………」
アレン。
ヨミを見る。
「ただ」
ヨミ。
顔を上げる。
「殺し合うのを続けたくない」
「…………」
静か。
「ゼノスは死んだ」
「《深淵の剣》もなくなった」
「なのに」
「…………」
ヨミ。
被害者たち。
アレン。
ダリオ。
見る。
「まだ」
「ゼノスの言う通りに私たちが殺し合うの?」
「…………」
その言葉。
誰もすぐには返せなかった。
◇
風。
草。
フェリシアの旗。
揺れる。
「…………」
俺は思い出す。
ゼノス。
《深淵の剣》。
倒した。
終わった。
そう思ってた。
でも。
違った。
ゼノスが死んでも。
《深淵の剣》がなくなっても。
殺された人は戻らない。
傷ついた人も。
忘れられない。
アレンたちがしたことも。
消えない。
ヨミがしたことも。
消えない。
「…………」
これが。
ゼノスの残したもの。
呪印。
じゃない。
もっと。
厄介なもの。
「…………」
呪い。
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