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第37話 傷痕

翌朝。


フェリシア。


城の会議室。


「では!」


たるとが机の上に地図を広げる。


「ヴァレンティアへ誰が行くか決めましょう!」


「…………」


俺は椅子に座っていた。


第四階層。


商業国家ヴァレンティア


昨日、レグルスから招待された。


交易を始める前に、一度ヴァレンティアを見てほしい。


市場。


商業区。


倉庫。


物流。


他国との交易。


それを実際に見た方がいいと。


「まず」


ゴウマが腕を組む。


「全員で行くのはなしだな」


「ですよね……」


たるとの虎耳が少し下がる。


「国を空けるわけにはいかないからな」


ハヤテも頷く。


「警備隊を増やしたとはいえ、《夜葬》のこともある」


「うん」


アイスが続ける。


「戦力はある程度残した方がいい」


「じゃあ」


たるとが皆を見る。


「誰が行きます?」


「私」


「ガウ!」


「なに?」


「早いです!」


「行くって昨日言った」


「そうですけど!」


たるとの虎耳が動く。


「まだ何も決まってません!」


「たるとは?」


「私は行きます!」


「決まってるじゃん」


「私は代表ですから!」


「私も《四牙御免》」


「そういう問題じゃありません!」


「…………」


よく分からない。


「たるとさんが行くなら」


シズクが口を開く。


「私も同行します」


「シズクも?」


「はい」


「《夜葬》の件があります」


「たるとさんとガウを第四階層へ向かわせるのは少々不安です」


「…………」


俺はシズクを見る。


「私も?」


「はい」


「なんで?」


「なんでだと思います?」


「分からない」


「ガウちゃん~」


セリア。


「雪山~」


「…………」


「一人で走っていったよね~」


「必要だったから」


「撃たれたよね~」


「勝った」


「ガウ!」


たるとの虎耳が立った。


「その話は昨日しましたよね!?」


「もう終わった話」


「終わってません!」


「終わった」


「終わってません!」


「…………」


ハヤテがため息を吐く。


「話が進まねえぞ」


「ガウのせいです!」


「私?」


「ガウ以外に誰がいるんですか!」


「まあまあ」


リンファが笑う。


「それなら、たるととガウは一旦候補でいいんじゃない?」


「はい!」


「うん」


「ゴウマとアイスは?」


リンファが二人を見る。


「昨日レグルスさんとの交易の話を止めたのは二人でしょう?」


「そうだな」


ゴウマが頷く。


「実際にヴァレンティアを見られるなら行っておきたい」


「僕も同意見だ」


アイスも続ける。


「フェリシアに何が足りないのか」


「商業国家と比べれば分かることも多いだろうからね」


「じゃあ!」


たるとの虎耳が立つ。


「私!」


「ガウ!」


「ゴウマ!」


「アイスさん!」


指を折る。


「四人!」


「まだ決定じゃないぞ」


「候補です!」


「ハヤテさんは?」


「俺は残る」


即答。


「いいんですか?」


「ああ」


ハヤテが椅子へ背を預ける。


「留守番は本当は嫌なんだけどな」


「こっちはこっちでやることがあるし」


「警備隊の新体制も始まったばかりだ」


「それに」


少し笑う。


「全員出払って何かあったら困るだろ?」


「確かに!」


「リンファは?」


「私は――」


コンコンッ!!


「?」


全員が扉を見る。


「どうぞ!」


たるとが答える。


ガチャッ!


「失礼します!」


警備隊員。


少し慌てている。


「…………」


昨日もこんな感じだった気がする。


「どうされましたか?」


たるとが聞く。


「来訪者ですか?」


「…………」


警備隊員が一瞬言葉に詰まる。


「来訪者……ですが……」


「?」


たるとの虎耳が動く。


「どうしました?」


「それが……」


警備隊員が俺たちを見る。


「《深淵の剣》の被害者たちが」


一拍。


「集団で押し寄せています!」


「…………」


会議室が静まり返った。


「被害者?」


たるとが聞く。


「はい!」


「何人くらい?」


俺が聞く。


「およそ五十名です!」


「五十……」


ゴウマが立ち上がる。


「目的は?」


「…………」


警備隊員が答える。


「フェリシアに《深淵の剣》の構成員がいるという情報を仕入れたようです」


「…………」


空気が変わった。


「現在」


警備隊員が続ける。


「正門でアレン隊長とダリオ副隊長が対応しています!」


「アレンさんとダリオさんが……」


たるとの虎耳が下がる。


二人とも。


元《深淵の剣》。


「行きましょう!」


たるとが立ち上がった。



正門。


近付く前から声が聞こえた。


「説明しろ!」


「ふざけるな!」


「ここにいるんだろ!」


「出せ!」


「…………」


俺たちは足を速める。


正門前。


人。


かなりいる。


五十人くらい。


全員プレイヤー。


剣を持っている人。


杖。


槍。


弓。


装備もバラバラ。


だけど。


「…………」


全員。


怒ってる。


その前には門を塞ぐように警備隊。


中央にアレンとダリオ。


「ここに《深淵の剣》がいるんだろ!」


一人の男が叫ぶ。


「…………」


アレンは逃げない。


「はい」


「だったら!」


男が一歩前へ出る。


「そいつらを引き渡せ!」


「…………」


アレンが黙る。


代わりに。


「それは出来ません」


ダリオが答えた。


「ふざけるな!」


怒号。


「何が出来ないだ!」


「俺たちは被害者だぞ!」


「《深淵の剣》に何をされたと思ってる!」


「仲間を殺された奴だっている!」


「捕まってた奴だっているんだぞ!」


「…………」


アレンとダリオ。


二人とも何も言い返さない。


「それなのに!」


男がフェリシアを指差す。


「なんであいつらが普通に暮らしてる!」


「説明しろ!」


「…………」


アレンが口を開く。


「皆さんのお気持ちは――」


「分かったような口を利くな!」


「…………」


アレンの言葉が止まる。


「お前に何が分かる!」


「…………」


「俺たちは……」


「…………」


「どういう状況ですか!?」


「!」


声。


たると。


俺たちは人の間を進む。


「たるとさん」


アレンが振り返った。


「アレンさん」


たるとが周囲を見る。


「これは……」


「おい」


「?」


被害者たちの中。


さっき叫んでいた男がたるとを見る。


「…………」


「あんたはここの代表か?」


「え?」


たるとが自分を指差す。


「あ、はい!」


虎耳が立つ。


「代表のたるとです!」


「…………」


男がたるとを見る。


そして。


「なら」


一歩。


前へ。


「説明してもらおうか」


「説明ですか?」


「なぜ」


男の声が低くなる。


「あんなクソギルドを匿っている!」


「…………」


たるとの虎耳が止まった。


「はいぃ????」


「とぼけるな!」


「え!?」


「こっちはもう調べてるんだ!」


男が叫ぶ。


「この国にいる!」


「…………」


その指がアレンへ向く。


「《深淵の剣》の連中が!」


「…………」


たるとがアレンを見る。


ダリオを見る。


そして。


もう一度、男を見る。


「匿ってるって……」


「そうだ!」


「そいつらを引き渡せ!」


「俺たちは被害者だ!」


「説明しろ!」


「なんでそいつらを守る!」


次々に声が飛ぶ。


「…………」


俺はアレンを見る。


何も言わない。


ダリオも拳を握っている。


だけど反論しない。


「…………」


確かに二人は《深淵の剣》だった。


ゼノスの下にいた。


だけど。


今は。


フェリシアの警備隊長と副隊長。


毎日。


この街を守ってる。


俺たちにとっては。


もう。


「…………」


たるとも同じなのかもしれない。


虎耳が下がったまま。


本当に分からないという顔で被害者たちを見ていた。


「答えろ!」


男が叫ぶ。


「なぜこの国は――」


一拍。


「《深淵の剣》を匿っているんだ!」


「…………」


その言葉にたるとは答えられなかった。

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