第35話 来訪者
俺は皆を見る。
「ミスティアで分かったことを話すね」
「お願いします!」
たるとが頷く。
さっきまで商業区。
警備隊。
交流会。
そんな話をしていた会議室。
少しだけ空気が変わる。
「まず――」
俺は話し始めた。
◇
魔導国家。
そこで起きたこと。
最初の魔物の襲撃。
百を超える魔物。
それを操っていた魔物使い。
そして。
二度目の襲撃。
「…………」
皆が黙って聞いている。
「その二回目が」
俺はたるとを見る。
「たるとを狙うためだった」
「…………」
空気が止まった。
「たるとを?」
ハヤテの声。
「うん」
「国じゃなく?」
「うん」
「…………」
ハヤテの表情が変わる。
「殺害が目的だったのか?」
「そうみたい」
「…………」
ガンテツの眉が動いた。
「おい」
低い声。
「それ本当か?」
「はい」
たるとが答える。
「捕まえた狙撃手本人から聞きました」
「…………」
ガンテツの手。
ぎゅっ。
拳が握られる。
「誰だ」
「レイヴン」
「そいつは?」
「ミスティアにいる」
「連れて帰ってこなかったのか?」
「ミスティアで保護してもらっています」
シズクが答えた。
「拘束されています」
「…………」
「ならいい」
ガンテツが腕を組む。
よくなさそうな顔。
「それで?」
ゴウマが俺を見る。
「どういう流れだったんだ?」
「最初の襲撃で」
俺は思い出す。
雪原。
魔物。
セリアの魔法。
「ミスティアの戦力を確認したみたい」
「偵察か」
アイスが呟く。
「うん」
「それから二回目」
「わざと少ない数の魔物を出して、戦える人を外に出した」
俺。
シズク。
セリア。
モルフォ。
そして。
「回復役のたるとが後ろに残るようにした」
「…………」
ノエルの表情が険しくなる。
「最初から」
丁寧な声。
「たるとさんを孤立させることが目的だったのですね」
「うん」
「卑怯な奴らだな」
ハヤテが吐き捨てる。
「正面から来いってんだ」
「暗殺者にそれを言っても仕方ないだろう」
アイス。
「分かってる!」
「…………」
バレットは黙っている。
だけど。
目が鋭い。
「それで」
リンファが聞く。
「たるとはどうやって助かったの?」
「偽物だったから」
「…………」
「偽物?」
ガンテツ。
「うん」
「セリアに作ってもらった」
「私が作ったよ~」
セリアが手を上げる。
「見た目も動きもたるとちゃんそっくり~」
「なんでそんなもん用意してたんだ?」
「念のため」
「…………」
俺を見る。
「ガウが?」
「うん」
「狙撃が来ると思ってたのか?」
ゴウマが聞く。
「来るかもって」
「でも」
俺は少し考える。
「私が狙われると思ってた」
「…………」
たるとの虎耳がぴくっと動く。
「ガウ」
「なに?」
「その話、またします?」
「しない」
「結果的には」
シズクが話を戻す。
「ガウの用意していた保険が功を奏しました」
「たるとさんに被害はありません」
「なるほどな……」
ゴウマが息を吐く。
「よく気付いたな」
「うん」
「ガウちゃん~」
セリア。
「なに?」
「褒められて嬉しそう~」
「普通」
「顔に出てるよ~」
「出てない」
「出てます!」
たるとまで。
出てない。
たぶん。
◇
それから。
レイヴンとの戦い。
捕縛。
尋問。
フェリシアへ侵入していた男。
通信宝玉。
あの時の狙撃。
「待ってください」
アレンが反応する。
「では」
「以前フェリシアで起きた件も同じ者が?」
「うん」
「レイヴン」
「…………」
アレンとダリオが顔を見合わせる。
「ガウさんを撃ったわけではなかったのですね」
ダリオが言う。
「…………」
「ガウさん?」
「そうみたい」
「…………」
「何ですか?」
「何でもない」
それ以上突っ込まないで……。
「通信宝玉を回収する予定だった」
俺は続ける。
「でも私が近くまで追いかけてたから」
「回収できなくなって」
「証拠を残さないために撃って壊した」
「なるほど」
アレンが頷く。
「それで宝玉だけが破壊されたと」
「うん」
「ガウちゃんは避けたと思ってたけどね~」
「セリア」
「なに~?」
「黙って」
「は~い」
ガンテツが笑ってる。
「笑わないで」
「笑ってねえ!」
「笑ってる」
「はっはっはっ!」
笑ってる。
◇
そして。
一番大事なこと。
「レイヴンが所属してる組織」
皆を見る。
「《夜葬》」
「ナイト・レクイエム」
「…………」
何人かの表情が変わった。
アイス。
バレット。
ハヤテ。
アレン。
「ヴォルグが予想してた通りだったな」
ハヤテが腕を組む。
「世界指名手配ランキングに載ってる」
「第六位だ」
アイスが続ける。
「暗殺」
「誘拐」
「破壊工作」
「依頼さえ受ければ色々やると言われている組織だ」
「…………」
ガンテツが眉をひそめる。
「そんな連中が」
たるとを見る。
「こいつを狙ってんのか」
「…………」
「はい」
たるとの虎耳が少し下がる。
「でも」
すぐに上がった。
「私は大丈夫です!」
「大丈夫じゃない」
俺が言う。
「ガウ?」
「実際に撃たれてる」
「偽物です!」
「本物だったら危なかった」
「…………」
たるとが黙る。
「ガウの言う通りです」
シズクが言った。
「今回は偶然ではありません」
「明確にたるとさんの殺害を目的として行動しています」
「警戒するべきです」
「…………」
空気が重くなる。
◇
「それで」
ゴウマが聞く。
「依頼主は?」
「分かんない」
「レイヴンも知らないのか?」
「うん」
「知ってるのはボスだけ」
「ボス……」
リンファが呟く。
「《夜葬》のトップね」
「うん」
「名前は?」
「教えてくれなかった」
「場所は?」
「それも」
「組織名は喋ったのに?」
「…………」
俺はリュミエールさんを思い出す。
笑顔。
人体実験。
「色々あって」
「色々?」
「うん」
「ガウちゃん~」
セリアが笑う。
「言わない方がいいと思う~」
「私もそう思う」
たるとが通信宝玉を机へ置く。
青い宝玉。
「レイヴンさんが所持していた通信宝玉から」
「第二階層にある別の宝玉と通信していたことが分かりました」
「第二階層じゃと?」
ドランが眉を上げる。
「はい」
「正確な場所は?」
「分かりませんでした」
シズクが答える。
「階層だけです」
「…………」
ハヤテが椅子へ背を預ける。
「第二階層全部から探せって?」
「広すぎるな」
ゴウマ。
「探せばいいだろ」
ガンテツ。
「どうやって?」
アイス。
「歩いて」
「何日掛けるつもりだ?」
「…………」
ガンテツが黙る。
「確かに広いな!」
「今気付いたのか?」
「うるせえ!」
ガンテツ脳筋。
◇
「それで」
たるとが皆を見る。
「ここからが相談です」
「…………」
会議室。
全員の視線が集まる。
「これから」
たるとは少しだけ真剣な表情になる。
「私たちはどうするべきでしょうか?」
「…………」
沈黙。
最初に口を開いたのはアレンだった。
「まず」
「フェリシアの警備を強化するべきだと思います」
「警備?」
「はい」
アレンが頷く。
「幸い」
「先ほど決まった通り、警備隊は百十名まで増員されます」
「国家警備隊」
「弓兵隊」
「盾兵隊」
「この三部隊を早急に稼働させます」
「…………」
「特に」
アレンが続ける。
「正門での入国確認」
「城周辺の巡回」
「不審者への対応」
「この三点を強化します」
「賛成です」
ノエルが頷く。
「盾兵隊もすぐに住民の避難経路を確認しておきます」
「万が一、街中で襲撃が起きた場合」
「住民の皆さんを安全な場所へ誘導できるようにしておきましょう」
「お願いします!」
たるとが頷く。
「バレットさんは?」
「外だ」
「外?」
「ああ」
バレットが答える。
「相手が暗殺者集団なら」
「街中だけ見ていても意味がない」
「…………」
俺はバレットを見る。
「遠くから?」
「ああ」
「外壁」
「監視塔」
「正門」
「弓兵隊に周囲を監視させる」
「森」
「岩場」
「高所」
「偵察に適した場所を先に洗い出す」
「おお!」
たるとの虎耳が立つ。
「お願いします!」
「分かった」
「エルナもいる」
アイスが言う。
「彼女なら周囲の警戒にも向いている」
「そうだな」
バレットが頷く。
「…………」
ちゃんと見てる。
◇
「で」
ハヤテが机へ腕を置く。
「こっちからは動かないのか?」
「…………」
たるとが見る。
「第二階層へ?」
「ああ」
「相手がいる可能性があるなら」
「先に潰すって手もある」
「僕は反対だ」
アイス。
「理由は?」
「場所が分からない」
「それだけなら探せばいい」
「もう一つ」
アイスが指を立てる。
「レイヴンが捕まったことを相手が知らないと思う?」
「…………」
ハヤテが黙る。
「キルログ」
ゴウマが言った。
「そう」
「同じギルドなら」
アイスが続ける。
「レイヴンが死んでいないことは分かる」
「それなのに帰ってこない」
「捕まったと考えるのが普通だ」
「…………」
「だったら」
リンファが続ける。
「拠点を移してる可能性もあるわね」
「私も」
シズクが口を開く。
「今すぐ第二階層へ向かう必要はないと思います」
「まずはたるとさんの安全です」
「…………」
「相手の目的は分かっています」
たるとの殺害。
「ですが、なぜ狙われているのか」
「依頼主が誰なのか」
「何も分かっていません」
「不用意にこちらから動けば」
「相手の思惑通りになる可能性もあります」
「…………」
たるとの虎耳が少し動く。
「じゃあ」
「しばらくはフェリシアに?」
「それがよいと思います」
「ミスティアとも通信できます」
机の宝玉。
「レイヴンさんから新しい情報が得られる可能性もあります」
「《夜葬》についてミスティア側で分かることがあれば、リュミエールさんから連絡をいただけるでしょう」
「…………」
たるとが考える。
◇
最終的に《夜葬》を追うことはしない。
まずはフェリシアの警戒態勢を整えることが決まった。
国家警備隊。
弓兵隊。
盾兵隊。
三部隊を本格的に動かす。
正門。
外壁。
城。
商業区。
住宅街。
各所の警備を見直す。
そして。
ミスティアからの情報を待つ。
「…………」
たるとが頷く。
「では」
皆を見る。
「一旦、この方針で行きましょう!」
「異議なし」
ゴウマ。
「俺も」
ハヤテ。
「うん」
「そうね」
次々に頷く。
「…………」
俺も。
「分かった」
「ガウ」
「なに?」
「勝手に第二階層へ行っちゃ駄目ですよ?」
「分かってる」
「本当に?」
「うん」
「…………」
じー。
「本当だよ」
「…………」
まだ見てる。
◇
「それでは」
たるとが資料をまとめる。
「今日の会議はこれで――」
コンコンッ!
「?」
扉。
全員が見る。
「失礼します!」
ガチャッ!
警備隊員。
少し慌ててる。
「どうしました?」
たるとが聞く。
「会議中、申し訳ありません!」
「いえ!」
「何かありましたか?」
「はい」
警備隊員がアレンを見る。
「正門に来訪者です」
「来訪者?」
アレンが聞く。
「商人か?」
「いえ」
「冒険者?」
「違います」
「では?」
「…………」
警備隊員が一度息を整える。
「第四階層」
「商業国家からの来訪者です」
「…………」
会議室が静かになる。
「ヴァレンティア?」
たるとの虎耳が動いた。
「はい」
「…………」
俺も顔を上げる。
ヴァレンティア。
知ってる。
国家代表者会議。
そこで会った。
第四階層にある商業国家。
「誰が来たんですか?」
たるとが聞く。
「それが……」
警備隊員が少し言いにくそうにする。
「どうしました?」
「使者ではありません」
「え?」
「本人が来ています」
「本人?」
「はい」
「誰?」
俺が聞く。
警備隊員は答えた。
「レグルス様です」
「…………」
一瞬。
会議室が静まり返った。
レグルス。
国家代表者会議で会った男。
商業国家の代表。
突然の来訪者に俺たちは驚いていた。
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