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第35話 来訪者

俺は皆を見る。


「ミスティアで分かったことを話すね」


「お願いします!」


たるとが頷く。


さっきまで商業区。


警備隊。


交流会。


そんな話をしていた会議室。


少しだけ空気が変わる。


「まず――」


俺は話し始めた。



魔導国家ミスティア


そこで起きたこと。


最初の魔物の襲撃。


百を超える魔物。


それを操っていた魔物使い。


そして。


二度目の襲撃。


「…………」


皆が黙って聞いている。


「その二回目が」


俺はたるとを見る。


「たるとを狙うためだった」


「…………」


空気が止まった。


「たるとを?」


ハヤテの声。


「うん」


「国じゃなく?」


「うん」


「…………」


ハヤテの表情が変わる。


「殺害が目的だったのか?」


「そうみたい」


「…………」


ガンテツの眉が動いた。


「おい」


低い声。


「それ本当か?」


「はい」


たるとが答える。


「捕まえた狙撃手本人から聞きました」


「…………」


ガンテツの手。


ぎゅっ。


拳が握られる。


「誰だ」


「レイヴン」


「そいつは?」


「ミスティアにいる」


「連れて帰ってこなかったのか?」


「ミスティアで保護してもらっています」


シズクが答えた。


「拘束されています」


「…………」


「ならいい」


ガンテツが腕を組む。


よくなさそうな顔。


「それで?」


ゴウマが俺を見る。


「どういう流れだったんだ?」


「最初の襲撃で」


俺は思い出す。


雪原。


魔物。


セリアの魔法。


「ミスティアの戦力を確認したみたい」


「偵察か」


アイスが呟く。


「うん」


「それから二回目」


「わざと少ない数の魔物を出して、戦える人を外に出した」


俺。


シズク。


セリア。


モルフォ。


そして。


「回復役のたるとが後ろに残るようにした」


「…………」


ノエルの表情が険しくなる。


「最初から」


丁寧な声。


「たるとさんを孤立させることが目的だったのですね」


「うん」


「卑怯な奴らだな」


ハヤテが吐き捨てる。


「正面から来いってんだ」


「暗殺者にそれを言っても仕方ないだろう」


アイス。


「分かってる!」


「…………」


バレットは黙っている。


だけど。


目が鋭い。


「それで」


リンファが聞く。


「たるとはどうやって助かったの?」


「偽物だったから」


「…………」


「偽物?」


ガンテツ。


「うん」


「セリアに作ってもらった」


「私が作ったよ~」


セリアが手を上げる。


「見た目も動きもたるとちゃんそっくり~」


「なんでそんなもん用意してたんだ?」


「念のため」


「…………」


俺を見る。


「ガウが?」


「うん」


「狙撃が来ると思ってたのか?」


ゴウマが聞く。


「来るかもって」


「でも」


俺は少し考える。


「私が狙われると思ってた」


「…………」


たるとの虎耳がぴくっと動く。


「ガウ」


「なに?」


「その話、またします?」


「しない」


「結果的には」


シズクが話を戻す。


「ガウの用意していた保険が功を奏しました」


「たるとさんに被害はありません」


「なるほどな……」


ゴウマが息を吐く。


「よく気付いたな」


「うん」


「ガウちゃん~」


セリア。


「なに?」


「褒められて嬉しそう~」


「普通」


「顔に出てるよ~」


「出てない」


「出てます!」


たるとまで。


出てない。


たぶん。



それから。


レイヴンとの戦い。


捕縛。


尋問。


フェリシアへ侵入していた男。


通信宝玉。


あの時の狙撃。


「待ってください」


アレンが反応する。


「では」


「以前フェリシアで起きた件も同じ者が?」


「うん」


「レイヴン」


「…………」


アレンとダリオが顔を見合わせる。


「ガウさんを撃ったわけではなかったのですね」


ダリオが言う。


「…………」


「ガウさん?」


「そうみたい」


「…………」


「何ですか?」


「何でもない」


それ以上突っ込まないで……。


「通信宝玉を回収する予定だった」


俺は続ける。


「でも私が近くまで追いかけてたから」


「回収できなくなって」


「証拠を残さないために撃って壊した」


「なるほど」


アレンが頷く。


「それで宝玉だけが破壊されたと」


「うん」


「ガウちゃんは避けたと思ってたけどね~」


「セリア」


「なに~?」


「黙って」


「は~い」


ガンテツが笑ってる。


「笑わないで」


「笑ってねえ!」


「笑ってる」


「はっはっはっ!」


笑ってる。



そして。


一番大事なこと。


「レイヴンが所属してる組織」


皆を見る。


「《夜葬》」


「ナイト・レクイエム」


「…………」


何人かの表情が変わった。


アイス。


バレット。


ハヤテ。


アレン。


「ヴォルグが予想してた通りだったな」


ハヤテが腕を組む。


「世界指名手配ランキングに載ってる」


「第六位だ」


アイスが続ける。


「暗殺」


「誘拐」


「破壊工作」


「依頼さえ受ければ色々やると言われている組織だ」


「…………」


ガンテツが眉をひそめる。


「そんな連中が」


たるとを見る。


「こいつを狙ってんのか」


「…………」


「はい」


たるとの虎耳が少し下がる。


「でも」


すぐに上がった。


「私は大丈夫です!」


「大丈夫じゃない」


俺が言う。


「ガウ?」


「実際に撃たれてる」


「偽物です!」


「本物だったら危なかった」


「…………」


たるとが黙る。


「ガウの言う通りです」


シズクが言った。


「今回は偶然ではありません」


「明確にたるとさんの殺害を目的として行動しています」


「警戒するべきです」


「…………」


空気が重くなる。



「それで」


ゴウマが聞く。


「依頼主は?」


「分かんない」


「レイヴンも知らないのか?」


「うん」


「知ってるのはボスだけ」


「ボス……」


リンファが呟く。


「《夜葬》のトップね」


「うん」


「名前は?」


「教えてくれなかった」


「場所は?」


「それも」


「組織名は喋ったのに?」


「…………」


俺はリュミエールさんを思い出す。


笑顔。


人体実験。


「色々あって」


「色々?」


「うん」


「ガウちゃん~」


セリアが笑う。


「言わない方がいいと思う~」


「私もそう思う」


たるとが通信宝玉を机へ置く。


青い宝玉。


「レイヴンさんが所持していた通信宝玉から」


「第二階層にある別の宝玉と通信していたことが分かりました」


「第二階層じゃと?」


ドランが眉を上げる。


「はい」


「正確な場所は?」


「分かりませんでした」


シズクが答える。


「階層だけです」


「…………」


ハヤテが椅子へ背を預ける。


「第二階層全部から探せって?」


「広すぎるな」


ゴウマ。


「探せばいいだろ」


ガンテツ。


「どうやって?」


アイス。


「歩いて」


「何日掛けるつもりだ?」


「…………」


ガンテツが黙る。


「確かに広いな!」


「今気付いたのか?」


「うるせえ!」


ガンテツ脳筋。



「それで」


たるとが皆を見る。


「ここからが相談です」


「…………」


会議室。


全員の視線が集まる。


「これから」


たるとは少しだけ真剣な表情になる。


「私たちはどうするべきでしょうか?」


「…………」


沈黙。


最初に口を開いたのはアレンだった。


「まず」


「フェリシアの警備を強化するべきだと思います」


「警備?」


「はい」


アレンが頷く。


「幸い」


「先ほど決まった通り、警備隊は百十名まで増員されます」


「国家警備隊」


「弓兵隊」


「盾兵隊」


「この三部隊を早急に稼働させます」


「…………」


「特に」


アレンが続ける。


「正門での入国確認」


「城周辺の巡回」


「不審者への対応」


「この三点を強化します」


「賛成です」


ノエルが頷く。


「盾兵隊もすぐに住民の避難経路を確認しておきます」


「万が一、街中で襲撃が起きた場合」


「住民の皆さんを安全な場所へ誘導できるようにしておきましょう」


「お願いします!」


たるとが頷く。


「バレットさんは?」


「外だ」


「外?」


「ああ」


バレットが答える。


「相手が暗殺者集団なら」


「街中だけ見ていても意味がない」


「…………」


俺はバレットを見る。


「遠くから?」


「ああ」


「外壁」


「監視塔」


「正門」


「弓兵隊に周囲を監視させる」


「森」


「岩場」


「高所」


「偵察に適した場所を先に洗い出す」


「おお!」


たるとの虎耳が立つ。


「お願いします!」


「分かった」


「エルナもいる」


アイスが言う。


「彼女なら周囲の警戒にも向いている」


「そうだな」


バレットが頷く。


「…………」


ちゃんと見てる。



「で」


ハヤテが机へ腕を置く。


「こっちからは動かないのか?」


「…………」


たるとが見る。


「第二階層へ?」


「ああ」


「相手がいる可能性があるなら」


「先に潰すって手もある」


「僕は反対だ」


アイス。


「理由は?」


「場所が分からない」


「それだけなら探せばいい」


「もう一つ」


アイスが指を立てる。


「レイヴンが捕まったことを相手が知らないと思う?」


「…………」


ハヤテが黙る。


「キルログ」


ゴウマが言った。


「そう」


「同じギルドなら」


アイスが続ける。


「レイヴンが死んでいないことは分かる」


「それなのに帰ってこない」


「捕まったと考えるのが普通だ」


「…………」


「だったら」


リンファが続ける。


「拠点を移してる可能性もあるわね」


「私も」


シズクが口を開く。


「今すぐ第二階層へ向かう必要はないと思います」


「まずはたるとさんの安全です」


「…………」


「相手の目的は分かっています」


たるとの殺害。


「ですが、なぜ狙われているのか」


「依頼主が誰なのか」


「何も分かっていません」


「不用意にこちらから動けば」


「相手の思惑通りになる可能性もあります」


「…………」


たるとの虎耳が少し動く。


「じゃあ」


「しばらくはフェリシアに?」


「それがよいと思います」


「ミスティアとも通信できます」


机の宝玉。


「レイヴンさんから新しい情報が得られる可能性もあります」


「《夜葬》についてミスティア側で分かることがあれば、リュミエールさんから連絡をいただけるでしょう」


「…………」


たるとが考える。



最終的に《夜葬》を追うことはしない。


まずはフェリシアの警戒態勢を整えることが決まった。


国家警備隊。


弓兵隊。


盾兵隊。


三部隊を本格的に動かす。


正門。


外壁。


城。


商業区。


住宅街。


各所の警備を見直す。


そして。


ミスティアからの情報を待つ。


「…………」


たるとが頷く。


「では」


皆を見る。


「一旦、この方針で行きましょう!」


「異議なし」


ゴウマ。


「俺も」


ハヤテ。


「うん」


「そうね」


次々に頷く。


「…………」


俺も。


「分かった」


「ガウ」


「なに?」


「勝手に第二階層へ行っちゃ駄目ですよ?」


「分かってる」


「本当に?」


「うん」


「…………」


じー。


「本当だよ」


「…………」


まだ見てる。



「それでは」


たるとが資料をまとめる。


「今日の会議はこれで――」


コンコンッ!


「?」


扉。


全員が見る。


「失礼します!」


ガチャッ!


警備隊員。


少し慌ててる。


「どうしました?」


たるとが聞く。


「会議中、申し訳ありません!」


「いえ!」


「何かありましたか?」


「はい」


警備隊員がアレンを見る。


「正門に来訪者です」


「来訪者?」


アレンが聞く。


「商人か?」


「いえ」


「冒険者?」


「違います」


「では?」


「…………」


警備隊員が一度息を整える。


「第四階層」


商業国家ヴァレンティアからの来訪者です」


「…………」


会議室が静かになる。


「ヴァレンティア?」


たるとの虎耳が動いた。


「はい」


「…………」


俺も顔を上げる。


ヴァレンティア。


知ってる。


国家代表者会議。


そこで会った。


第四階層にある商業国家。


「誰が来たんですか?」


たるとが聞く。


「それが……」


警備隊員が少し言いにくそうにする。


「どうしました?」


「使者ではありません」


「え?」


「本人が来ています」


「本人?」


「はい」


「誰?」


俺が聞く。


警備隊員は答えた。


「レグルス様です」


「…………」


一瞬。


会議室が静まり返った。


レグルス。


国家代表者会議で会った男。


商業国家ヴァレンティアの代表。


突然の来訪者に俺たちは驚いていた。

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