第34話 新体制
フェリシアへ帰ってきた翌朝。
城の会議室。
「…………」
俺は椅子に座っていた。
眠い。
「ガウ」
「なに?」
隣にたると。
「寝ないでくださいね?」
「寝てないよ」
「まだ始まってません!」
「じゃあ寝てもいい?」
「駄目です!」
虎耳が立つ。
「今日は大事な会議なんです!」
「いつも大事じゃない?」
「そうですけど!」
「じゃあいつも通り」
「寝ていいことにはなりません!」
「…………」
眠い。
「おはよう……」
声。
「?」
入口。
ゴウマ。
その後ろにアイス。
「…………」
二人とも目の下がすごい。
「起きたんだ」
「なんとかな」
ゴウマが頷く。
「昨日ずっと寝てたって聞いた」
「ヴォルグにだいぶしごかれた」
「そうなんだ」
「興味持ってくれ……」
その隣。
アイスが椅子に座る。
「…………」
「アイス」
「なんだい?」
「眠そう」
「眠い」
「大丈夫?」
「正直に言うと寝たい」
「アイスさんまで!?」
たるとの虎耳が立った。
「今日はお二人からも話を聞くんですからね!」
「分かってる」
アイスが欠伸を噛み殺す。
「だから起きてきたんじゃないか」
うん。偉い。
◇
しばらくして全員が揃った。
一番奥にたると。
そして。
《四牙御免》。
俺。
ハヤテ。
ゴウマ。
リンファ。
《虎王近衛》。
シズク。
セリア。
《七彩守護刃》。
バレット。
ガンテツ。
アイス。
サイオン。
モルフォ。
ノエル。
ヨミ。
さらに。
警備隊長アレン。
副隊長ダリオ。
そしてドラン。
「…………」
多い。
会議室が狭く感じる。
そして。
「…………」
入口近くにエリックとユナ。
「…………」
エリックは姿勢がすごくいい。
「…………」
ユナはきょろきょろしてる。
「エリック」
「はい」
「硬いね」
「…………」
エリックが少し困ったように笑った。
「さすがに緊張します」
「そうなの?」
「皆さんが揃う会議に参加するのは初めてですので」
「大丈夫だよ」
「そう言われましても……」
その隣。
「ねえ、ガウちゃん」
ユナが手を上げる。
「なに?」
「私たちなんで呼ばれたの?」
「知らない」
「知らないの!?」
「うん」
「ガウ!」
たるとの声。
「ちゃんと説明しますから!」
「だって」
ユナが笑う。
「朝いきなり『城に来てください』って言われたから……」
「すみません!」
「いやいや、いいんだけどね!」
ユナが周囲を見る。
「思ってたよりすごい人たちばっかりでびっくりしただけ!」
「俺も帰っていいか?」
ガンテツ。
「駄目です!」
「俺、こういうの苦手なんだよ」
「ガンテツさんは《七彩守護刃》なんですから参加してください!」
「面倒な役職になっちまったな!」
「今さらです!」
「はっはっはっ!」
朝からガンテツ元気。
「ふふっ」
リンファが笑う。
「それじゃ、始めましょうか」
「はい!」
たるとが立ち上がった。
◇
「まず最初に」
たるとが皆を見る。
「フェリシアの今後の体制についてです!」
「体制?」
ユナが首を傾げる。
「はい!」
たるとが頷く。
「街道の整備も始まりました」
「フェリシアと階層転移陣まで、行き来しやすくするための宿も建設中です」
昨日見た。
ガンテツ。
ドラン。
サイオン。
たくさんの人が働いていた。
「街道が完成すれば」
アイスが続ける。
「今までより外から人が来るようになるだろう」
「商人」
「冒険者」
「他のギルド」
「他国からの使者も考えられる」
「はい」
たるとが頷く。
「だから、今までみたいに皆で少しずつ管理するだけでは、難しくなってくると思います」
「そうじゃな」
ドランが腕を組む。
「店も増えた」
「物資の出入りも昔とは比べ物にならん」
「食料もですね」
ノエルが丁寧に続ける。
「住民が増えればそれだけ必要な量も増えていきます」
「そこで!」
たるとが二人を見る。
エリック。
ユナ。
「…………」
「…………?」
二人が自分を指差した。
「私たち?」
「はい!」
「エリックさんとユナさんに」
たるとが笑う。
「商業区を任せたいと思っています!」
「…………」
「…………」
沈黙。
「えええええっ!?」
ユナの声が会議室に響いた。
「私たち!?」
「はい!」
「商業区全部!?」
「全部というより」
たるとが慌てて手を振る。
「皆さんの意見を聞いたり!」
「困っているお店があれば相談に乗ったり!」
「物資や食料の流れを確認したり!」
「全体をまとめてもらう感じです!」
「それを全部って言うんじゃない!?」
「…………」
確かに。
「エリックさんはこれまでも物資の管理をしてくださっています」
たるとが続ける。
「ユナさんも食料関係をずっと見てくれています」
「二人なら任せられると思ったんです!」
「…………」
エリックが少し考える。
「自分でよろしいのでしょうか?」
「もちろんです!」
エリックが周囲を見る。
「私は皆さんのように戦闘が得意なわけでもありません」
「街の建築だって木材ばっかり運んでいました」
木材いま関係ある……?
いや。
そういえばエリックは木材担当になっていたような……。
たるとが俺を見る。
「ガウはどう思います?」
「いいと思う」
「…………」
エリックを見る。
「物資ならエリックの方が詳しいし」
「食べ物ならユナの方が詳しい」
「それに」
俺は首を傾げる。
「商業区をまとめるのに戦う必要ある?」
「…………」
エリックが少し目を見開く。
「ないよね?」
「そうですね」
たるとも笑う。
「国って」
皆を見る。
「戦える人だけで作るものじゃありませんから!」
「…………」
エリックとユナ。
顔を見合わせる。
「どうする?」
ユナが聞く。
「私はやってみたいけど!」
「…………」
エリックが少し考える。
そして。
「分かりました」
たるとを見る。
「自分でよろしければ引き受けさせていただきます」
「本当ですか!?」
「はい」
「よかった!」
虎耳が立つ。
「ユナさんも!」
「もちろん!」
ユナが笑う。
「任せて!」
「ありがとうございます!」
「ただし!」
「?」
ユナがたるとを指差す。
「忙しくなったら手伝ってくれたら嬉しいな!」
「もちろんです!」
「ガウも!」
「え?」
「え?じゃない!」
「私も?」
「荷物運びくらいできるでしょ!」
「……」
面倒。
「顔に出てるよ!」
たるとから突っ込まれた。
◇
「では」
たるとが席へ戻る。
「次です!」
アレンが立ち上がった。
「警備隊について報告があります」
「はい!」
「現在」
アレンが資料を見る。
「フェリシア警備隊は二十三名で活動しています」
元《深淵の剣》。
アレン。
ダリオ。
他の人たち。
街作りをしている頃からずっと守ってくれている。
「ですが」
アレンが続ける。
「今回、新たに警備隊への参加希望者を募りました」
「参加希望者?」
たるとが聞く。
「はい」
「元《鉄球戦団》」
ガンテツが見る。
「元《白銀戦線》」
アイスとサイオン。
「そして」
「以前《深淵の剣》に捕らえられていた方々のうち、戦闘職のプレイヤー」
「…………」
「複数の方から参加希望がありました」
「何人くらいですか?」
「全員を加えますと」
アレンが答える。
「合計百十名になります」
「…………」
たるとの虎耳が立った。
「百十!?」
「はい」
「二十三人から!?」
「はい」
「増えすぎじゃないですか!?」
「俺もそう思います」
アレンが苦笑する。
「ですが今のフェリシアには必要だと思います」
ダリオが続ける。
「観光客も増えています」
「港」
「畑」
「研究所」
「商業区」
「さらに街道も整備中です」
「二十三人では限界がありました」
「…………」
たるとが街の方を見る。
「百十人……」
「多い?」
俺が聞く。
「多いです!」
「でも」
ハヤテが口を開く。
「今後を考えれば悪くないな」
「外から人が増えれば当然問題も増える」
「魔物だけ警戒すればいいわけじゃないからな」
「そうね」
リンファも頷く。
「だからといって全員で同じ仕事をしていたら、今度は指示が回らなくなるわね」
「そこだ」
ゴウマが言った。
「?」
たるとが見る。
「グランヴァルで」
ゴウマが腕を組む。
「俺とアイスが見てきたことの一つだ」
「…………」
アイスが頷く。
「人数が増えれば役割を分ける必要がある」
「全員が何でもやる形は小さいうちはいい」
「なるほど……」
たるとの虎耳が動く。
「そこで」
アレンが資料を広げた。
「警備隊を三つの部隊へ分ける案を考えています」
◇
一つ目。
《国家警備隊》。
「五十名」
アレンが説明する。
「隊長は引き続き私が務めます」
「副隊長は?」
「俺です」
ダリオ。
「主な任務は街中の巡回」
「治安維持」
「事件発生時の対応」
「そして」
「正門での入国者の確認です」
「今までの警備隊に一番近いですね」
シズクが言う。
「はい」
「フェリシアの日常を守る部隊です」
「…………」
日常を守る。
いい名前かも。
国家警備隊。
「五十人なら」
たるとが考える。
「交代しながら休むこともできますね!」
「はい」
アレンが頷く。
「これまでは人数不足で、一人当たりの負担も大きかったので……」
「ごめんなさい!」
「たるとさんが謝ることではありません」
「でも!」
「これから改善すればいいんです」
「…………」
たるとが頷く。
「はい!」
◇
二つ目。
《弓兵隊》。
「三十名」
アレンが言う。
そして。
全員が一人を見る。
「…………」
バレット。
「…………」
バレットも周囲を見る。
「なんだ?」
「隊長は」
たるとが笑う。
「バレットさんがお似合いですね!」
「…………」
沈黙。
「嫌そう」
俺が言う。
「面倒だ」
「バレットさん!?」
「やるとは言ってない」
「お願いします!」
「…………」
バレットが大きく息を吐く。
「何をすればいい」
「引き受けてくれた!」
たるとの虎耳が立つ。
「まだ仕事内容を聞いただけだ」
「でも断らないですよね?」
「…………」
「バレットさん?」
「分かった」
「やった!」
押し切った。
「弓兵隊は」
アレンが説明を続ける。
「正門」
「外壁」
「監視塔」
「主に高所からの警戒を担当します」
「有事には遠距離からの迎撃」
「敵の位置確認」
「住民への警告」
「なるほどな」
バレットが頷く。
「それなら弓兵だけで固める意味はある」
「それと」
アイスが口を開く。
「エルナも弓兵隊に入れる」
「エルナ?」
「うん」
「本人から希望があった」
「…………」
バレットを見る。
「彼女を覚えているか?」
「ああ」
「腕は?」
「悪くなかった」
アイスが少し笑う。
「君にそう言われるなら十分だね」
「それとカイルも入れてもいいか?」
「弟子?」
「弟子ではない」
「そうなの?」
「ああ」
「腕前は?」
「未熟だ」
「だが」
バレットが続ける。
「実戦で使えるところまでは来ている」
「…………」
バレットの弟子。
ちゃんと育ててる。
「バレット」
「なんだ」
「先生みたい」
「違う」
「師匠?」
「違う」
「お父さん?」
「違う!」
「ガウ!」
なぜかたるとに怒られた。
◇
三つ目。
《盾兵隊》。
三十名。
「隊長は」
たるとが見る。
ノエル。
「ノエルさんにお願いしたいです!」
「私ですか?」
ノエルが少し驚く。
「はい!」
「主な役割は街の警備」
アレンが説明する。
「そして有事の際」
「魔物」
「敵対プレイヤー」
「その他の脅威から住民を守るため、防衛線を形成します」
「…………」
ノエルが静かに聞く。
「つまり」
「はい」
アレンが頷く。
「皆を守る盾です」
「…………」
ノエルが微笑んだ。
「分かりました」
「!」
たるとの虎耳が立つ。
「いいんですか!?」
「もちろんです」
ノエルが頷く。
「皆さんを守る役目でしたら私が引き受けます」
「ありがとうございます!」
「ただ」
ノエルが少し考える。
「盾を持つだけでは防衛はできません」
「隊列」
「交代」
「撤退時の住民誘導」
「弓兵隊との連携」
「そういった訓練も必要になると思います」
「その通りだな」
ゴウマが頷く。
「そこは俺も手伝う」
「ありがとうございます」
「俺もやるぞ!」
ガンテツが笑う。
「盾の後ろからぶん殴ればいいんだろ?」
「違います」
ノエルが即答した。
「お?」
「ガンテツさんはまず、隊列を崩さない訓練からお願いします」
「お、おう」
怒られてる。
「ふふっ」
ヨミが小さく笑った。
◇
国家警備隊。
五十名。
弓兵隊。
三十名。
盾兵隊。
三十名。
合計。
百十名。
「…………」
たるとが資料を見る。
「すごいですね」
「何が?」
「少し前まで」
たるとが言う。
「警備隊って二十三人だったんですよ?」
「うん」
「それが百十人です」
「増えたね」
「増えました!」
たるとが少し笑う。
「本当に国みたいになってきましたね」
「国だぞ!」
ハヤテが突っ込む。
「分かってます!」
虎耳が立つ。
「なんか……」
たるとが周囲を見る。
「不思議なんです」
「最初は」
「ただ皆で楽しく暮らせればいいなって思ってただけなのに」
「今も同じじゃない?」
「え?」
「皆で楽しく暮らすために」
俺は資料を見る。
「警備するんでしょ?」
「…………」
たるとが瞬きをする。
「そうですね」
そして笑った。
◇
「それで」
たるとが次の資料を見る。
「ゴウマ」
「うん」
「アイスさん」
「なんだ?」
「グランヴァルでのお話を聞かせてもらってもいいですか?」
「やっとか」
ゴウマが椅子へ深く座る。
「昨日は二人とも寝てましたからね!」
「寝かせてくれ」
「一日寝たじゃないですか!」
「それでも足りない」
「何日寝てなかったんですか?」
「聞くな」
「…………」
俺はアイスを見る。
「アイスは?」
「僕に聞かないでくれ」
「そんなに?」
「ヴォルグは」
アイスが遠い目をする。
「休憩という言葉を知らないんじゃないかな」
「知ってはいるだろ」
ゴウマが答える。
「学ぶことが多すぎて大変だった」
なんかかわいそう。
「で」
ハヤテが聞く。
「何があった?」
「色々だ」
ゴウマが答える。
「防衛」
「部隊運用」
「街の警備」
「実際に兵士と一緒に動かされた」
「見学じゃなかったの?」
俺が聞く。
「最初はな」
「途中から普通に訓練に参加した」
「だから寝不足?」
「夜間警備まで参加したんだ」
「…………」
「でも」
アイスが続ける。
「得るものは大きかった」
「今回の警備隊再編も」
「向こうで学んだことがあったから提案できた」
「グランヴァルと同じ形にする必要はない」
「国には」
少し考える。
「その国に合った形があるからね」
「…………」
たるとが頷く。
「フェリシアに合った形」
「そう」
「だからまず三部隊」
「必要になればその時にまた変えていけばいい」
「うん」
俺もそれでいいと思う。
最初から全部決める必要はない。
必要になったら作る。
変える。
俺たちはずっとそうしてきた。
「それと」
ゴウマが言う。
「もう一つ」
「?」
たるとが見る。
「ヴォルグから話があった」
「どんな?」
「交流会だ」
「…………」
たるとの虎耳が動く。
「交流会?」
「ああ」
「グランヴァルだけじゃない」
ゴウマが続ける。
「他の国」
「他のギルド」
「攻略組」
「そういう連中が集まる機会を作ろうって話が出てる」
「…………!」
たるとの虎耳が立った。
「それ!」
身を乗り出す。
「楽しそうです!」
「反応そこ?」
ハヤテが聞く。
「だって交流会ですよ!」
「色んな人と会えるんですよね!?」
「まあな」
「他の国の人とも!?」
「そうなるだろうな」
「行きたいです!」
「まだ何も決まってないぞ」
「でも行きたいです!」
「早いって!」
「ガウも行きたいですよね!?」
「…………」
考える。
「ご飯ある?」
「そこですか!?」
「交流会ならあるんじゃない?」
「アイスさんまで!」
「僕も食事くらいは出ると思うよ」
「じゃあ行く」
「ガウ!」
「ふふっ」
リンファが笑う。
「でもいいんじゃない?」
「フェリシアもこれから外との交流が増えるんでしょう?」
「はい!」
たるとが嬉しそうに頷く。
「行ってみたいです!」
「なら」
ゴウマが言う。
「詳しいことが決まったらまた話す」
「はい!」
「…………」
俺は椅子へ背中を預ける。
商業区。
警備隊。
街道。
交流会。
帰ってきたばかりなのにやることが増えてる。
「では」
たるとが資料を見る。
「今日の会議は――」
「待って」
「?」
俺が言う。
「まだある」
「何がですか?」
「報告」
「…………」
たるとの虎耳が止まる。
シズク。
セリア。
モルフォ。
三人も俺を見る。
ミスティア。
魔物の襲撃。
狙撃。
レイヴン。
そして。
《夜葬》。
「…………」
たるとの表情も変わった。
「あ」
「うん」
「そうでした」
「長くなるよ」
「…………」
たるとが椅子へ座り直す。
「分かりました」
「ガウ、お願いします」
俺は皆を見る。
まだ知らない人もいる。
フェリシアで起きたこと。
ミスティアで起きたこと。
そして。
俺たちを狙っている組織。
「じゃあ」
俺は口を開いた。
「ミスティアで分かったことを話すね」
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