第33話 帰路
たると暗殺事件から翌日。
魔導国家。
中央研究院。
「…………」
俺はこたつに入っていた。
「ガウ」
「なに?」
「そろそろ行きますよ」
「…………」
「ガウ?」
「聞こえてる」
「だったら出てください!」
「あと少し」
「昨日も言ってましたよね!?」
たるとの虎耳が立つ。
「もう出発するんです!」
「分かってる」
「分かってる人はこたつに潜りません!」
「最後だから」
「だからって!」
俺はこたつを見る。
数日間。
お世話になった。
雪。
吹雪。
戦闘。
狙撃。
色々あった。
その全てから俺を暖めてくれた。
「…………」
「ガウ?」
「今までありがとう」
「こたつにお別れしないでください!」
「大事なことだよ」
「大事じゃありません!」
「ガウちゃん~」
後ろからセリア。
「持って帰る~?」
「!」
俺は振り返る。
「持って帰れるの?」
「無理だよ~」
「…………」
「ガウちゃん?」
「期待させないで」
「ごめんね~」
悪びれてない。
「でしたら」
リュミエールが笑う。
「以前お話しした通り、作り方をお教えしますよ」
「本当?」
「ええ」
「セリア」
「なに~?」
「覚えて」
「こたつ~?」
「うん」
「任せて~」
「セリアさん!」
ノアが慌てる。
「もっと他に覚えることがあります!」
「通信宝玉も覚えたよ~?」
「それはそうですけど!」
「じゃあ大丈夫~」
少し離れた場所では、モルフォが大量の紙を抱えている。
「…………」
「師匠」
ミナが見る。
「何でしょう」
「多くないですか?」
「研究資料です」
「持てますか?」
「問題ありません」
さらに一束。
「…………」
ミナが取った。
「持ちます」
「ありがとうございます」
その隣ではシズクとリオ。
「非常に参考になりました」
シズクがリュミエールへ頭を下げる。
「特に結界術式については――」
「シズク様」
「はい?」
「そろそろ出発のお時間です」
「…………」
「続きはまた今度にしましょう」
「はい」
残念そう。
「みんな帰る気ある?」
俺が聞く。
「ガウにだけは言われたくありません!」
「私はもう出てるよ」
ふんっ!
胸を張る。
「今出たばっかりじゃないですか!」
◇
第七階層の転移魔法陣。
俺たちは巨大な魔法陣の中央に立っていた。
ガウ。
たると。
シズク。
セリア。
モルフォ。
ノア。
リオ。
ミナ。
そして。
魔法陣の外にはリュミエール。
ミスティアの研究者たち。
ミスティアからわざわざ転移魔法陣まで送ってもらった。
「本当にありがとうございました!」
たるとが頭を下げる。
「突然お邪魔したのに」
「研究まで手伝っていただいて」
「いえ」
リュミエールが微笑む。
「こちらも非常に興味深いものを見ることができました」
視線。
セリア。
「特に」
「?」
セリアが首を傾げる。
「その場で新しい魔法を構築する魔法使いは初めて見ました」
「楽しかったよ~」
「こちらは驚きましたけどね」
「また来てもいい~?」
「もちろんです」
「やった~」
ノアが少し不安そうな顔をしてる。
「シズクさんも」
「はい」
「また結界術についてお話ししましょう」
「ぜひお願いします」
嬉しそう。
「モルフォさんも」
「はい」
「次回は魔物研究についても」
「是非」
「師匠」
ミナ。
「虫を持ってこようとしないでくださいね」
「まだ何も言っていませんよ」
「顔に書いてあります」
「…………」
そして。
リュミエールがたるとを見る。
「通信宝玉」
「はい!」
たるとが大事そうに取り出す。
青い宝玉。
「持っています!」
「何かありましたらいつでもご連絡ください」
「はい!」
「フェリシアとミスティア」
リュミエールが微笑む。
「これからも良い関係を築いていければと思っています」
「もちろんです!」
たるとの虎耳が立つ。
「私たちもです!」
「…………」
俺は二人を見る。
国と国。
少し前までそんなこと考えたこともなかった。
でもフェリシアができて。
少しずつ繋がる場所が増えてる。
「それでは」
リュミエールが魔法陣へ手を向ける。
「お気をつけて」
「はい!」
魔法陣。
光。
「ガウ」
「なに?」
「最後に何かありませんか?」
「…………」
俺はミスティアを見る。
研究者たち。
リュミエール。
そして。
ここにはない俺の相棒。
「こたつ」
「ガウ!」
光が俺たちを包んだ。
◇
「…………」
暖かい。
最初に思ったのはそれだった。
「…………」
俺は空を見る。
青空。
雪がない。
吹雪もない。
風。
草の匂い。
「暖かい」
「第一声それですか!?」
隣。
たるとの虎耳が立った。
「だって暖かい」
「第一階層ですから!」
「素晴らしい」
「そんなに寒かったんですか!?」
「寒かった」
「ガウちゃん~」
セリアが俺を見る。
「防寒具いっぱい着てたよね~?」
「それでも寒いものは寒いよ」
「…………」
シズクが俺を見る。
「そろそろ脱いだ方がいいのでは?」
「…………」
俺。
厚手のコート。
マフラー。
手袋。
完全防寒。
周り。
草原。
すっかり秋になっている。
「暑くないですか?」
「…………」
暑い。
◇
今回の転移では南側に転移した。
フェリシアまでは遠い。
「ここからどれくらいでしたっけ?」
たるとが聞く。
「三日くらい?」
「そのくらいですね」
シズクが地図を広げながら話す。
「途中で野営が必要になります」
「…………」
野営。
「ガウ」
「なに?」
「嫌そうですね」
「ベッドがいい」
「我慢してください!」
「宿ないかな」
「こんなところにありませんよ」
「…………」
俺たちは歩き始める。
草原。
道らしい道はない。
少しだけ踏み固められた場所。
そこを進む。
「…………」
第一階層。
やっぱり落ち着く。
弱い魔物。
草原。
森。
遠くに山。
「フェリシアに帰ったら何します?」
たるとが聞く。
「寝る」
「それ以外です!」
「こたつ作る」
「まだ言ってるんですか!?」
「重要」
「夏ですよ!?」
「冬に備える」
「まだ先です!」
「今から準備しないと」
「しなくていいです!」
「たるとちゃん~」
セリア。
「なに?」
「私も作ってみたい~」
「セリアさんまで!?」
「温度調整できる魔法陣入れたい~」
「普通のでいいよ」
「自動温度調整~」
「それは欲しい」
「ガウ!」
「便利だよ?」
「フェリシアに帰る話をしてください!」
してる。
フェリシアでこたつを作る話。
「…………」
その時。
「?」
俺は止まった。
「ガウ?」
「なにか聞こえる」
「え?」
耳。
ぴくっ。
遠く。
カンッ!
ドンッ!
ガンッ!
「…………」
「何の音ですか?」
たるとも虎耳を動かす。
「向こう」
俺は指差す。
「行ってみよう」
◇
少し進む。
「…………」
見えてきた。
人がかなりいる。
プレイヤー。
NPC。
荷物。
木材。
石。
そして。
「道?」
俺が見る。
地面が綺麗に整えられている。
草が取り除かれ。
石が敷かれ。
馬車でも通れそうな幅。
それがずっと先まで続いている。
「すごい!」
たるとが走る。
「街道です!」
「そうだね」
「こんなのありましたっけ!?」
「なかった」
少なくとも。
俺たちがミスティアへ行く前には。
「おーい!」
声。
「?」
大きな身体の熊獣人が手を振る。
「ガンテツ?」
「おう!」
ガンテツが手を上げる。
その横。
「帰ってきたようじゃの」
ドラン。
「ただいま」
「ただいまです!」
たるとが走っていく。
「何してるんですか!?」
「見りゃ分かるだろ」
ドランが顎で道を示す。
「街道作りだ」
「街道?」
「ああ」
「フェリシアまで?」
「そうだ」
「…………!」
たるとの虎耳が立った。
その時。
「おかえりッスー!」
「?」
空から声。
「サイオン?」
「うん」
サイオンがゆっくり降りてくる。
「今、上から道を確認してたところッス」
「サイオンまでいるんだ」
「人手が必要だったッスからね」
周囲。
大工。
住民。
ガンテツたち。
かなりの人数。
「いつから?」
俺が聞く。
「少し前からだ」
ガンテツが答える。
「ガルド王に言われただろ?」
「…………」
考える。
アルカディア。
フェリシア。
利便性。
「あ」
「思い出したか?」
「うん」
「フェリシアは転移魔法陣から遠い」
ドランが言う。
「国そのものをどうこうする前に」
足元の道を叩く。
「まず来られなきゃ話にならないからの」
「…………」
確かに。
フェリシアは第一階層の最果て。
静かでプレイヤーが少ない。
だから俺たちも住み始めた。
でも。
今は国。
外から人が来る。
商人。
冒険者。
他国の人。
「転移魔法陣から歩いて二日」
ドランが続ける。
「道もまともにない」
「荷物持って歩くならもっと掛かるのじゃ」
「だから」
ガンテツが笑う。
「作ってんだよ!」
ドンッ!!
巨大な石を持ち上げる。
「道をな!」
「力技」
俺が言う。
「うるせえ!」
「ガンテツ」
「なんだ?」
「それ一人で持つ物?」
「持てるからいいだろ!」
「そういう問題?」
「はっはっはっ!」
なぜ笑う。
◇
街道。
俺たちはそのまま工事中の道を歩く。
「歩きやすい!」
たるとが嬉しそう。
「全然違います!」
「うん」
草。
石。
凸凹。
それがない。
ちゃんと道になってる。
「完成すれば」
サイオンが説明する。
「転移魔法陣からフェリシアまで、かなり移動しやすくなる予定ッス」
「馬車も?」
たるとが聞く。
「その予定ッス」
「おお!」
虎耳。
ぴこぴこ。
「荷物も運びやすくなりますね!」
「そうだね」
「商人さんも来やすくなります!」
「うん」
「他のギルドの人も!」
「うん」
「もっと色んな人がフェリシアに来てくれるかもしれません!」
「…………」
たると。
すごく嬉しそう。
「でも」
俺が言う。
「二日歩くんでしょ?」
「そこなんじゃが」
ドランが答える。
少し先を指差す。
「?」
建物。
いや。
まだ途中。
木材。
柱。
壁。
大工たち。
「何あれ?」
「行けば分かるぞ」
◇
「…………」
大きい。
思ってたより大きい。
二階建て。
まだ骨組みだけの部分もある。
周囲には資材。
「これは?」
たるとが聞く。
「宿じゃ」
ドランが答えた。
「宿!?」
「ふむ」
「ここに?」
「ここだからじゃぞ」
ドランが地面へ図面を広げる。
「転移魔法陣からフェリシアまで約二日」
指。
中間。
「ちょうど一日歩いた辺りなのじゃ」
「…………」
「ここで一泊」
「次の日にフェリシアへ到着」
「なるほど!」
たるとの虎耳が立つ。
「だから宿なんですね!」
「ああ」
「寝るだけじゃねえぞ」
ガンテツが言う。
「飯」
「水」
「簡単な装備の整備」
「荷物置き場」
「馬車を使うようになればそのための場所も作る」
「…………」
結構ちゃんとしてる。
「将来的には」
サイオンが建物を見る。
「小さな補給拠点みたいなる予定ッス!」
「いいですね!」
たるとが建設中の宿を見る。
「フェリシアへ来る途中で疲れても」
「ここで休めるんですね!」
「そういうことだ」
ドランが頷く。
「…………」
たるとが笑う。
「帰る途中に休める場所」
「?」
俺が見る。
「なんか」
たるとが宿を見る。
「いいなって思って」
「うん」
ミスティアも攻略組が帰ってくる場所だった。
ここはフェリシアへ向かう人が休む場所。
「…………」
いいかも。
「ドラン」
「なんだ?」
「一つお願い」
「聞くだけ聞いてやる」
「こたつ置いて」
「いらん」
即答。
「冬」
「まだ秋じゃぞ」
「ガウ!」
たるとが来る。
「宿にまでこたつを広めないでください!」
「いいと思うけど……」
「よくありません!」
「セリア」
「作る~?」
「作らなくていいです!」
◇
その日は。
建設中の宿の近くで休むことになった。
完全には完成していない。
だけど。
一部の部屋は使える。
「…………」
俺はベッドに寝転がる。
「ベッド」
素晴らしい。
「ガウ」
隣の部屋から声。
「なに?」
「まだ寝ないでください!」
「なんで?」
「ご飯です!」
「…………」
ご飯は大事。
外では工事に参加している人たち。
みんなで食事をしている。
焚き火。
笑い声。
「…………」
俺はそれを見る。
少し前まで何もなかった。
思いだしながら風景を眺めていた。
◇
翌朝。
「じゃあな!」
ガンテツが手を上げる。
「気をつけて帰れよ!」
「はい!」
たるとも手を振る。
「皆さんも!」
「完成したら見に来てほしいッス!」
サイオン。
「もちろんです!」
俺たちは再び歩き出す。
◇
街道。
完成している場所。
まだ工事途中の場所。
それを進む。
「…………」
少しずつ。
見慣れた景色。
岩山。
草原。
森。
そして。
「!」
たるとの虎耳が立った。
「見えました!」
「うん」
外壁。
門。
その向こうにある城。
住宅街。
商業区。
遠くには畑。
さらに港。
《フェリシア》。
「…………」
ミスティアと比べたら小さい。
建物も。
人口も。
魔法技術も。
何もかも全然違う。
だけど。
「帰ってきた」
俺が呟く。
「はい!」
たるとが笑う。
「帰ってきました!」
俺たちは歩く。
正門。
見張り台。
「…………!」
警備隊がこちらに気付く。
「たるとさんたちだ!」
「帰ってきたぞ!」
門が開く。
「おかえりなさい!」
「おかえり!」
声。
街の中。
子どもたち。
住民。
「たると王様!」
「王様じゃありません!」
「ガウ姉ちゃんだ!」
「おかえり!」
「ただいま」
「シズクさん!」
「セリアさん!」
「モルフォさん!」
人が集まってくる。
「…………」
賑やか。
いつもの声。
いつもの景色。
「ガウ」
「なに?」
たるとが俺を見る。
「嬉しそうです」
「そう?」
「はい!」
「…………」
俺は街を見る。
ミスティア。
すごい国だった。
魔法も。
研究も。
街も。
何もかも。
でも。
ここは俺たちが作った国。
仲間がいる。
帰ってこられる場所。
「ただいま」
小さく呟く。
◇
ギルド本部。
「そういえば」
たるとが周囲を見る。
「ゴウマとアイスさんは?」
「ああ」
近くにいたアレンが答える。
「お二人なら戻っていますよ」
「本当ですか!?」
たるとの虎耳が立つ。
「はい」
「いつ帰ってきたの?」
俺が聞く。
「少し前です」
「じゃあどこ?」
「…………」
アレンが少し困ったように笑う。
「寝ています」
「寝てる?」
「はい」
「二人とも?」
「二人ともです」
「…………」
たるとが首を傾げる。
「疲れてるんですか?」
「どうやら」
アレンが答える。
「かなり寝不足だったようで」
「…………」
「戻ってきてから」
ギルド本部の奥を見る。
「爆睡しています」
「…………」
俺とたるとは顔を見合わせた。
◇
城にある一室。
「ぐごぉぉぉぉ…………」
ゴウマ。
爆睡。
その隣。
別のベッド。
「…………すぅ」
アイス。
爆睡。
「ぐごぉぉぉぉ…………」
「…………」
アイスの眉が動く。
「…………うるさい」
寝言。
「ぐごぉぉぉぉ…………」
「…………」
それでも起きない。
二人とも完全に夢の中。
フェリシアへ戻ってきた俺たちが二人から話を聞けるのは、もう少し先になりそうだった。
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