↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
142/207

第32話 夜葬

第二階層。


人の気配が消えた荒野。


崩れた建物。


朽ちた道。


そのさらに奥。


森に飲み込まれるようにして一つの城があった。


かつて誰かが住んでいたのか。


今となっては分からない。


崩れた城壁。


割れた窓。


蔦に覆われた石壁。


廃墟。


その上空。


バサァァァァッ!!


巨大な翼。


一匹の飛行型魔物が降りてくる。


ドンッ!


「…………」


その背から男が降りた。


魔物使い。


「ふぅ」


男が首を鳴らす。


「まさかこんなことになるなんてな」


振り返る。


飛行型魔物。


「もういい」


軽く手を振る。


魔物は翼を広げる。


バサァァァッ!!


そのまま空へ。


「…………」


男は一人。


廃墟の城へ入っていった。



城内。


暗い。


壁に取り付けられた魔法灯だけが淡く光っている。


「…………」


男が歩く。


カツ。


カツ。


カツ。


途中。


人影。


一人。


二人。


三人。


壁にもたれている者。


武器を整備している者。


何かを話している者。


男を見る。


「戻ったか」


「ああ」


「レイヴンは?」


「…………」


男は足を止めない。


「いない」


「…………」


そのまま奥へ。


大きな扉。


ギィィィ……。


開ける。


「戻ったぞ」


部屋。


中央には大きな机。


その奥。


椅子に一人の男が座っていた。


「…………」


魔物使いが入る。


「ボス」


「報告しろ」


低い声。


「失敗した」


魔物使いが壁にもたれる。


「たるとの暗殺は失敗」


「理由は?」


「偽物だった」


「…………」


「魔法使いに作らせたんだろうな」


魔物使いが舌打ちする。


「レイヴンは?」


「残った」


「…………」


「ガウに追いつかれた」


ボスの目が僅かに動く。


「追いつかれた?」


「ああ」


「飛行型で逃げが追いつかれた」


「…………」


魔物使いが顔をしかめる。


「化け物みたいな速度で雪山を登ってきた」


「鳥を一撃で落とされた」


「レイヴンが残って足止めした」


「…………」


静かになる。


ボスが何も言わない。


「レイヴンは?」


「分からん」


「俺はそのまま逃げた」


「…………」


ボスが何かを見る。


ギルド情報。


「キルログは?」


「出てない」


「なら」


ボスが静かに言う。


「生きている」


「ああ」


「おそらく捕まった」


「だろうな」


魔物使いが腕を組む。


「どうする?」


「…………」


「助けに行くか?」


少しの沈黙。


「いや」


「…………」


「レイヴンは一旦保留だ」


「保留?」


「ああ」


「ミスティアに捕らえられている可能性が高い」


「今から乗り込むか?」


「こちらの被害が増えるだけだ」


即答。


「…………」


魔物使いが黙る。


「それに」


ボスが続ける。


「レイヴンなら簡単には口を割らん」


「そうだな」


「なら急ぐ必要はない」


「…………」


魔物使いが少し考える。


「まあ」


「死んでないならな」


「ああ」


「レイヴンは一旦置いておく」


「分かった」


「それより」


「?」


ボスの声が変わった。


「依頼主から面白い情報が入った」


「…………」


魔物使いが眉を上げる。


「面白い情報?」


「ああ」


「何だ?」


「フェリシア関係だ」


「…………」


男の表情が変わる。


「フェリシア?」


「詳しくは?」


「まだ話せん」


「なんだよ」


「直接確認する」


ボスが立ち上がった。


「…………?」


そのまま部屋の外へ。


「おい」


魔物使いも追う。


「どこ行くんだ?」


「全員集めろ」


「は?」


「聞こえなかったか?」


ボスが廊下へ出る。


そして。


声を上げた。


「お前ら!」


「…………」


城内にいた人間たちが一斉に見る。


「この拠点を捨てる」


「…………!」


空気が変わった。


「捨てる?」


魔物使いが聞く。


「ああ」


「急だな」


「レイヴンが捕まった」


「…………」


ボスが周囲を見る。


「どこまで情報を抜かれるか分からん」


「だがレイヴンはここの正確な場所までは――」


「第二階層までは知られる可能性がある」


「…………」


「それだけで十分だ」


ボスは迷わない。


「ここを使い続ける理由はない」


「必要な物だけ持て」


「残りは処分しろ」


「痕跡も残すな」


周囲。


《夜葬》の構成員たちが立ち上がる。


「了解」


「分かった」


「いつ出る?」


「すぐだ」


「…………」


魔物使いがボスを見る。


「行き先は?」


「決まっている」


「どこだ?」


「依頼主と直接話す」


「…………」


ボスが歩き出す。


「全員で――」


一拍。


「第四階層に移動する」



魔導国家ミスティア


中央研究院。


「…………」


俺はこたつに入っていた。


暖かい。


「ガウ」


「なに?」


「また入ってますね」


隣。


たると。


「寒かったから」


「ここ暖かいですよ?」


「こたつの方が暖かい」


「…………」


たるとがこたつを見る。


「それは……そうですけど」


「入る?」


「入りません!」


「そう」


俺はさらに潜る。


「ガウ!」


「なに?」


「話を聞くんですよ!」


「聞いてる」


「まだ始まってません!」


「始まったら聞く」


「もう!」


少し離れたところ。


セリア。


シズク。


モルフォ。


ノア。


リオ。


ミナ。


そしてリュミエール。


全員いる。


「ふふっ」


リュミエールが笑う。


「気に入っていただけて何よりです」


「すごく欲しい」


「ガウ」


「フェリシアに持って帰りたい」


「駄目です!」


「なんで?」


「ミスティアの物ですよ!」


「でしたら」


リュミエール。


「作り方をお教えしましょうか?」


「…………!」


俺はこたつから出た。


「お願いします」


「早い!」


たるとの虎耳が立った。


「さっきまで出なかったじゃないですか!」


「重要な話だから」


「絶対こたつの話だからですよね!?」


「さて」


リュミエールが机の上へ一つの物を置いた。


「?」


宝玉。


小さな青い宝玉。


「レイヴンさんから押収した物です」


「…………」


空気が変わる。


俺もこたつへ戻る。


「戻るんですか!?」


「話は聞いてる」


「もう!」


リュミエールが宝玉へ手をかざす。


魔法陣。


青白い光。


「解析の結果」


「一つ分かったことがあります」


「何ですか?」


たるとが聞く。


「この宝玉」


リュミエールが答える。


「第二階層に存在する別の通信宝玉と接続されていた形跡があります」


「…………」


たるとの虎耳が立つ。


「第二階層?」


「はい」


「ということは」


シズクが宝玉を見る。


「《夜葬》の関係者が第二階層に?」


「その可能性は高いでしょう」


「場所は?」


俺が聞く。


「そこまでは分かりません」


「…………」


「階層を特定することはできました」


リュミエールが続ける。


「ですが、正確な座標までは記録されていません」


「また隠してる?」


「おそらく」


「…………」


慎重。


フェリシアで壊された宝玉もそうだった。


「第二階層……」


たるとが呟く。


「モートスがあった階層ですね」


「ええ」


リュミエールが頷く。


「現在は国家として機能していません」


「人の目が届きにくい場所も多いので拠点を隠すには都合がいいでしょう」


「…………」


俺は考える。


第二階層。


《夜葬》。


そこに行けば何か分かる?


「ガウ」


「なに?」


「今、行こうと思いました?」


「…………」


「ガウ?」


「ちょっとだけ」


「駄目です!」


「まだ行くって言ってないよ」


「顔に書いてあります!」


「書いてない」


「一人で行くのは禁止です!」


「分かってる」


「本当に?」


「うん」


「…………」


じー。



「それから」


リュミエールが別の宝玉を机へ置いた。


「今回の解析で」


魔法陣。


いくつもの線。


「皆さんにもお伝えしておいた方がよいと思ったことがあります」


「何ですか?」


「通信用宝玉の基本的な仕組みです」


「…………!」


セリアが反応した。


「教えてくれるの~?」


「ええ」


「やった~!」


さっきまで宝玉の解析をしていた顔。


一瞬で楽しそうになる。


「セリアさん」


ノア。


「分かってるよ~」


「まだ何も言ってません!」


「勝手に分解しない~」


「分かってるじゃないですか!」


「ふふっ」


リュミエールが笑う。


「まず」


宝玉へ手をかざす。


魔法陣。


「通信用宝玉には、接続する相手を指定する術式が必要になります」


「登録式だね~」


「その通りです」


「この部分~?」


セリアが指差す。


「ええ」


「なるほど~」


「…………」


俺には線にしか見えない。


「ガウ」


「なに?」


「分かります?」


たると。


「全然」


「私もです」


仲間がいてよかった。


「そして」


リュミエールが続ける。


「起動時に使用者の魔力を流すことで」


宝玉が光る。


「登録された宝玉との通信が可能になります」


「おお!」


たるとの虎耳が立つ。


「ただし」


リュミエールが説明を続ける。


「距離」


「階層」


「周辺の魔力環境」


「結界」


「これらによって通信が不安定になる場合があります」


「階層を跨ぐと難しくなるんですか?」


「通常は」


「ですが」


リュミエールが微笑む。


「ミスティアでは長距離通信についても研究しています」


「さすが魔導国家ですね!」


「ありがとうございます」


「…………」


セリア。


すごく見てる。


「セリア」


「なに~?」


「欲しい?」


「欲しい~」


即答。


「作りたい~」


「やっぱり」


「フェリシアでも作れるかな~?」


「必要な素材と術式があれば可能でしょう」


「本当~!?」


セリアの目が輝く。


「ノア~」


「はい」


「帰ったら作ろう~」


「その前にちゃんと教えていただきましょう!」


「分かってるよ~」


「あと勝手に改造しないでくださいね!」


「…………」


「セリアさん?」


「善処する~」


「しない人の返事です!」



説明が終わる。


「そして」


リュミエールが一つの宝玉を持ち上げた。


綺麗な青色。


「こちらを」


たるとへ差し出す。


「?」


たるとが受け取る。


「これは?」


「通信用宝玉です」


「え?」


虎耳が立つ。


「いただいていいんですか?」


「もちろんです」


「でも……」


「すでに私が所持している宝玉との接続登録を済ませてあります」


「…………」


たるとが宝玉を見る。


「ということは」


「はい」


リュミエールが頷く。


「フェリシアへ戻られた後でも」


「この宝玉を使用すれば私へ連絡できます」


「…………!」


たるとの表情が明るくなる。


「ありがとうございます!」


「大切に使います!」


「ええ」


「何かありましたら」


リュミエールが微笑む。


「いつでもその宝玉へ」


「はい!」


たるとが大事そうに宝玉を持つ。


「便利だね」


俺も見る。


「ですね!」


「フェリシアからミスティアに話せる」


「はい!」


「こたつ欲しくなったら連絡できる」


「そのためじゃありません!」


「重要だよ」


「重要じゃありません!」


「ガウちゃん~」


セリア。


「なに?」


「宝玉ちょっと見せて~」


「駄目です!」


たるとが即答した。


「まだ何もしてないよ~?」


「分解しようとしてますよね!?」


「しないよ~」


「本当ですか?」


「…………」


「セリアさん?」


「ちょっとだけ~」


「駄目です!」


「見るだけ~」


「駄目です!」


「術式だけ~」


「駄目です!」


「…………」


俺は二人を見る。


平和。


「ガウ」


シズクが俺を見る。


「なんですか?」


「笑っていますよ」


「そう?」


「はい」


「…………」


俺はこたつへ潜る。


「誤魔化しましたね?」


「暖かい」


「ガウ?」


聞こえない。



その頃。


第二階層。


廃墟の城。


「全部終わったか?」


「ああ」


魔物使いが答える。


城内。


人の姿はもうほとんどない。


荷物。


武器。


宝玉。


必要な物は回収された。


残った物は燃やす。


壊す。


消す。


「痕跡は?」


「残してない」


「通信宝玉は?」


「処分した」


「よし」


ボスが廃墟の城を見る。


長く使ってきた拠点。


だが迷いはない。


「行くぞ」


「第四階層か」


「ああ」


魔物使いが笑う。


「で?」


「何だ」


「依頼主から入った面白い情報」


「…………」


「フェリシア関係なんだろ?」


「ああ」


「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」


「必要ない」


「またそれかよ」


「直接聞けばいい」


「…………」


魔物使いが眉を上げる。


「会わせてくれるのか?」


「そのために行く」


「…………」


ボスが歩き出す。


廃墟の城を背に。


「今回の依頼は少し状況が変わった」


「どういう意味だ?」


「…………」


ボスは答えない。


ただ。


「第四階層へ行けば分かる」


そのまま歩いていく。


魔物使いも後を追う。


そして。


《夜葬》の者たちは第二階層から姿を消した。

よろしければ感想や評価、ブックマークで応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。