第30話 弾道支配
雪山。
吹雪。
白い世界。
俺と狙撃手。
二人。
「…………」
「…………」
次の瞬間、俺は地面を蹴った。
バァンッ!!
銃声。
正面から弾丸。
「…………!」
身体を右へ。
弾丸が頬の横を通り抜ける。
避けた。
そのまま距離を詰める。
「…………」
狙撃手は動かない。
バァンッ!!
左。
避ける。
さらに。
バァンッ!!
「遅い!」
身体を沈める。
頭上を弾丸が通過。
一気に前へ。
距離が縮まる。
「…………」
あと少し。
「捕まえ――」
ギュンッ!!
「!?」
後ろから音。
反射的に横に飛ぶ。
弾丸が右肩をかする。
「っ!」
今。
後ろから来た?
「…………」
雪の上を滑って距離が取る。
「何をしたの?」
「…………」
狙撃手は答えない。
長銃を構える。
バァンッ!!
「!」
避ける。
弾丸が横を通過。
その瞬間。
ギュンッ!!
「…………!」
曲がった。
俺を通り過ぎた弾丸が空中で軌道を変える。
戻ってくる。
「《黒煙壁》!」
ドォンッ!!
弾丸が黒煙へ突っ込む。
勢いが落ちる。
そこへ。
《朧》。
ガキンッ!!
弾く。
「…………」
狙撃手を見る。
「弾丸が曲がった」
「ああ」
「そういうスキル?」
「…………」
狙撃手が長銃を構え直す。
「アークスキル」
「《弾道支配》」
「…………」
アークスキル。
「俺が撃った弾丸は」
狙撃手が俺を見る。
「俺の支配下に置かれる」
「避けた程度で安心するな」
バァンッ!!
「!」
右へ。
避ける。
バァンッ!!
二発目。
左へ。
バァンッ!!
三発目。
しゃがむ。
「…………」
全部避ける。
ギュンッ!
一発目。
後ろ。
「っ!」
《朧》。
ガキンッ!!
弾く。
二発目。
右。
身体を捻る。
通過。
三発目。
上。
「《黒煙壁》!」
ドォンッ!!
「…………」
すごく面倒。
「どうした」
「…………」
「避けるんじゃなかったのか?」
「…………」
俺は目を細める。
「避けるよ」
《朧》を構える。
「そうか」
狙撃手が僅かに笑った。
「なら避けてみろ」
「《追牙弾》」
バァンッ!!
バァンッ!!
バァンッ!!
バァンッ!!
四発。
弾が散らばる。
「…………!」
一発目。
避ける。
二発目。
《朧》で弾く。
三発目。
身体を沈める。
四発目。
跳ぶ。
「…………」
そのまま前へ。
距離を詰める。
「《影走》!」
一気に加速。
「…………」
狙撃手が後ろへ跳ぶ。
遅い。
届く。
「《瞬牙》!」
その瞬間。
ギュンッ!!
「っ!」
横から弾丸。
ガキンッ!!
《朧》で防ぐ。
「…………!」
攻撃が止まる。
狙撃手が距離を取る。
さらに。
ギュンッ!
ギュンッ!
後ろからさっき避けた弾丸。
二発。
「《黒煙壁》!」
ドォンッ!!
ドォンッ!!
「…………」
また離された。
狙撃手が言う。
「確かに速い」
「だが」
「近付けなければ意味はないな」
「…………」
バァンッ!!
雪が弾ける。
「っ!」
避ける。
ギュンッ!!
戻ってくる。
「《霞返し》!」
ガキンッ!!
弾丸を受け流す。
さらに。
右。
二発。
左。
一発。
上。
一発。
「…………!」
結構ある。
最初に撃った弾丸もまだ飛んでる。
避けても終わらない。
弾いても完全に壊さない限り。
ギュンッ!!
また戻ってくる。
「《黒煙苦無》!」
ガキンッ!!
弾丸とぶつかる。
軌道が逸れる。
「…………」
狙撃手は長銃を構えてる。
「…………」
そういえば名前聞いてない。
「ねえ!」
「なんだ!」
バァンッ!!
「名前は?」
「…………」
避ける。
ギュンッ!!
「《黒煙苦無》!」
ガキンッ!!
「今聞くことか?」
「呼びにくいから」
「…………」
バァンッ!!
「レイヴンだ」
「そうか……」
弾丸を避ける。
「私はガウ」
「知っている」
「…………」
「なんで?」
「依頼対象の情報くらい把握している」
「…………」
やっぱり俺のことも知ってる。
《朧》を構える。
「もう一度聞くけど」
「なんだ」
一歩。
「ボスは誰?」
「断る」
「そっか」
地面を蹴る。
「なら」
黒煙が周囲へ広がる。
「倒してから聞く」
◇
「《黒霞》!」
白い雪山を黒煙が覆う。
「…………」
レイヴンが長銃を動かす。
視界が黒に染まっている。
「目隠しか!」
バァンッ!!
銃声。
「…………」
俺は黒煙の中を走る。
「そこか!」
バァンッ!!
「!」
足元の雪が弾ける。
「見えてる?」
「音だ」
「…………」
足音。
雪。
確かに消せない。
なら。
「《黒煙分身》」
黒煙。
一つ。
二つ。
三つ。
「…………」
四人。
同時に走る。
ザッ!
ザッ!
ザッ!
ザッ!
「…………」
レイヴンの長銃が動く。
右。
左。
「分身か」
バァンッ!!
一体。
撃ち抜かれる。
パァンッ!
黒煙へ。
「ちっ」
バァンッ!!
二体目。
消える。
「それも違う」
「…………」
三体目。
俺。
「…………」
レイヴンが銃口を向ける。
バァンッ!!
「《黒煙壁》!」
ドォンッ!!
「本物か」
「残念」
俺の身体が崩れる。
「…………!」
レイヴンの目が動く。
「全部偽物?」
「うん」
声。
後ろ。
「…………!」
振り返る。
俺。
《朧》。
「《瞬牙》!」
ザシュッ!!
「っ!」
レイヴンが身体を捻る。
白い外套が切れる。
赤いエフェクトが散る。
だが。
まだ浅い。
「…………」
後ろへ。
バァンッ!!
近距離。
「!」
首を傾ける。
弾丸が横を通過。
「近くても撃てるんだ」
「狙撃だけだと思ったか」
長銃を横薙ぎ。
「!」
《朧》。
ガキンッ!!
銃身と刀。
「…………」
力が強い。
「意外だね」
「何がだ」
「もっと非力だと思ってた」
「余計なお世話だ!」
レイヴンが蹴る。
「っ!」
腕で受ける。
距離が離れた瞬間。
バァンッ!!
「!」
避ける。
だけど。
ギュンッ!!
背後。
「…………!」
しゃがむ。
弾丸が頭上を通過。
さらに。
正面からレイヴンが突っ込んでくる。
「っ!」
銃床。
ドンッ!!
「ぐっ!」
肩に当たる。
身体が揺れる。
「やるね」
「お前に言われたくはない」
「褒めたのに!?」
「そうか」
バァンッ!!
「危なっ!」
◇
距離。
近距離。
中距離。
何度も変わる。
俺が詰める。
レイヴンが離す。
弾丸が増える。
「…………」
ギュンッ!!
右。
避ける。
左。
弾く。
後ろ。
黒煙壁。
前。
新しい弾丸。
「…………」
多い。
十発以上。
いや。
もっと。
雪山を弾丸が飛び回っている。
「避け続けられると思うなよ」
レイヴンが長銃を構える。
バァンッ!!
「《蛇行弾》」
また一発。
今度は不規則に動きながら飛んでくる。
「くっ」
避けるが脇腹から赤いエフェクト。
「…………」
俺は走る。
右。
左。
岩。
蹴る。
上。
弾丸。
追ってくる。
「…………」
レイヴンを見る。
長銃を構えて撃つ。
弾丸が曲がる。
また撃つ。
曲げる。
「…………」
全部。
正確。
だけど。
「…………」
弾丸が増えるほどレイヴンの目が動いてる。
俺。
弾丸。
俺。
別の弾丸。
「…………」
もしかして。
「《黒煙分身》」
黒煙。
俺が増える。
一人。
二人。
三人。
四人。
「…………!」
レイヴンの眉が僅かに動いた。
バァンッ!!
一人。
消える。
バァンッ!!
二人。
「…………」
弾丸。
何発か一瞬だけ軌道が甘くなる。
「…………」
やっぱり。
「どうした?」
「…………」
俺は笑う。
「大変そう」
「何がだ」
「いっぱい操るの」
「…………」
一瞬。
レイヴンが黙った。
「弾丸は操れても」
走る。
「レイヴンは一人だから」
黒煙分身。
さらに二体。
「全部同時に完璧には無理なんでしょ?」
「…………」
レイヴンの目が細くなる。
「気付いたか」
「うん」
「ならどうする?」
「こうする」
黒煙をさらに広げる。
「《黒煙苦無》!」
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
弾丸へ。
ガキンッ!
ガキンッ!
ガキンッ!!
全部壊さなくていい。
ずらす。
邪魔する。
同時に分身。
右。
左。
前。
「…………!」
レイヴンの銃口が動く。
バァンッ!!
分身が一体消える。
「こっち」
右。
「…………!」
バァンッ!!
消える。
「違う」
左。
「っ!」
銃口を向ける。
その瞬間。
「《黒煙縛》」
「!」
足元に黒煙が絡みつく。
「…………!」
レイヴンの動きが止まる。
「捕まえた」
「甘い!」
バァンッ!!
「!」
至近距離。
身体を逸らす。
弾丸が頬を掠める。
「っ!」
血。
「…………」
もう遅い。
踏み込む。
「《朧斬》!」
ザンッ!!
「ぐっ!」
銃身に直撃。
レイヴンの身体が大きく崩れる。
さらに。
「《瞬牙》!」
「っ!」
ザシュッ!!
胸を斜めに切る。
白い外套が裂ける。
「ぐっ……!」
レイヴンが雪の上を転がる。
長銃が手から離れる。
「…………」
俺は止まらない。
《朧》。
レイヴンの首元へ。
「終わり」
「…………」
レイヴンが俺を見る。
その瞬間。
「まだだ」
「?」
指が動く。
「《弾道牢獄》!」
頭上の弾丸が降り注ぐ。
ドドドドドドドド!
俺は横に飛ぶ。
一発が足を貫通。
「ぐっ!」
痛い。
「《死角弾》」
ギュンッ!!
「…………!」
後ろから最後の一発。
近い。
「っ!」
避け――。
脇腹を弾が貫通。
やられた。
バァンッ!!
今度は前から音。
レイヴンの手には小さな銃。
腰から抜いていた。
「二つ目!?」
「終わりだ!」
レイヴンが言う。
「《黒霞》!」
俺は《朧》を握る。
黒煙が一気に溢れる。
ドォンッ!!
「っ!?」
黒煙を通した弾丸の軌道が分かる。
《朧》。
ガキィンッ!!
弾く。
「なっ――」
黒煙の中。
レイヴンが見えた。
「《黒煙穿牙》!」
黒煙が《朧》へ集まる。
踏み込む。
一閃。
ドォンッ!!
「ぐっ!!」
レイヴンの身体が吹き飛ぶ。
雪。
何度も転がる。
長銃。
小銃。
両方を破壊。
「…………」
静かになる。
「…………」
俺は息を吐く。
白い息。
「…………」
レイヴンを見る。
倒れてる。
でも生きてる。
「…………」
近付く。
一歩。
二歩。
レイヴンが僅かに動く。
「……殺さないのか」
「聞きたいことあるから」
「…………」
「それに」
俺は《朧》を向ける。
「なるだけプレイヤーを殺したくない」
「…………」
レイヴンが小さく笑った。
「甘いな」
「よく言われる」
「そうか」
「うん」
「…………」
少しだけ沈黙。
吹雪。
雪。
「じゃあ」
俺はレイヴンを見る。
「教えて」
「…………」
「ボスは誰?」
「断る」
「…………」
「負けたよ?」
「ああ」
「捕まったよ?」
「ああ」
「じゃあ教えてよ」
「関係ない」
「…………」
頑固。
「だったら」
しゃがむ。
「何の組織?」
「…………」
「なんでフェリシアを狙ったの?」
「…………」
「なんでたると?」
「…………」
答えない。
「レイヴン」
「…………」
「依頼って何?」
「…………」
沈黙。
その時。
ザッ。
「!」
後ろから音。
振り返る。
「ガウ!」
「シズク?」
吹雪の向こう。
シズク。
セリア。
モルフォ。
三人。
「やっと追いつきました!」
「遅かったね」
「誰のせいですか!?」
シズクが走ってくる。
「また怪我してる!」
「かすり傷だよ」
「どこがですか!?」
「痛い」
「ガウ!」
「ごめん」
「もう!」
セリアもレイヴンを見る。
「倒したんだ~」
「うん」
「さすがガウちゃん~」
「ちょっと大変だった」
モルフォが俺を見る。
「治療が必要ですね」
「たるとに治してもらう」
「…………」
シズクが俺を見る。
「たるとさんに怒られますね」
「…………」
忘れてた。
無茶しないって言った。
「…………」
「ガウ?」
「帰りたくない!」
「帰ります!」
「こたつに逃げる」
「駄目です!」
「じゃあレイヴンの尋問してから」
「話を逸らさないでください!」
「…………」
レイヴンが俺たちを見る。
「…………」
そして。
小さく笑った。
「何?」
俺が聞く。
「いや」
レイヴンが雪の上で目を閉じる。
「妙な奴だと思っただけだ」
「誰が?」
「お前だ」
「失礼だな」
「褒めている」
「それ褒めてないよ」
「…………」
レイヴンがまた僅かに笑った。
だけど。
俺は忘れてない。
フェリシア。
侵入者。
宝玉。
そして。
たるとを狙った狙撃。
「…………」
レイヴンを見る。
こいつは知ってる。
全部じゃなくても。
何かを。
「連れて帰ろう」
「はい」
シズクが頷く。
「ミスティアで話を聞きましょう」
「うん」
俺は《朧》を鞘へ戻した。
その時。
「ガウ」
レイヴンが呼んだ。
「なに?」
「一つだけ教えてやる」
「…………」
俺たちは止まる。
「何?」
レイヴンが目を開く。
「俺たちが受けた依頼は」
吹雪。
白い雪。
「フェリシアの壊滅じゃない」
「…………」
俺の目が細くなる。
「じゃあ」
「何?」
レイヴンは答えない。
ただ。
「それ以上は」
僅かに笑った。
「ボスに聞け」
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