第29話 狩る者
吹雪。
雪山。
高い崖。
俺はそこを睨む。
遠い。
かなり遠い。
でも間違いない。
発砲した瞬間の光。
弾丸が飛んできた方向。
全部が重なる。
「あそこにいる」
「ガウ?」
シズクが俺を見る。
「何がですか?」
「狙撃手」
「っ!」
シズクの表情が変わった。
セリア。
モルフォも俺が見ている方向を見る。
「どこ~?」
「あの崖」
「…………」
セリアが目を細める。
「遠いね~」
「ええ」
モルフォも眼鏡を上げる。
「この吹雪です」
「通常の移動では到着する前に逃げられるでしょう」
「うん」
俺は《朧》を握る。
「ガウ」
シズクが俺を見る。
「まさか追うつもりですか?」
「うん」
「待ってください!」
「待ってたら逃げられる」
「ですが!」
「シズク」
「はい?」
「お願いがあるんだけど」
「……何ですか?」
俺は前を見る。
「《障壁》」
「《障壁》?」
「うん」
少し考える。
角度。
方向。
距離。
「あっち向きに一枚」
「…………」
シズクが俺を見る。
俺の足。
黒煙。
そして。
遠くの雪山。
「…………」
シズクが小杖《白晶》を握る。
「分かりました」
前へ。
小杖を振る。
「《障壁》!」
キィィンッ!!
俺の少し前。
半透明の巨大な障壁。
地面に対して斜め。
「これでいいですか?」
「うん」
俺は一歩下がる。
二歩。
「ガウちゃん~?」
セリアが俺を見る。
「何するの~?」
「追いかける」
「それは分かってるよ~」
黒煙。
俺の身体を覆っていた黒煙が動く。
腕。
肩。
背中。
周囲。
全部。
下へ。
両脚へ。
「…………」
黒煙が集まる。
濃く。
さらに濃く。
シズクの表情が変わる。
「待ってください」
「なに?」
「止めてもガウは行くのでしょう?」
「うん」
「無事に帰ってきてください」
「後で一緒にたるとさんに怒られましょう」
「いいですね?」
「うん!」
黒煙。
一気に解放。
ドォンッ!!
「っ!?」
爆発。
雪が舞い上がる。
身体が前へ吹き飛ぶ。
いや。
飛び出す。
目の前にある《障壁》を踏む。
そして全力で蹴る。
バァンッ!!
障壁が大きく割れる。
そして。
「――っ!」
速い。
景色が流れる。
雪。
岩。
木。
全部が一瞬で後ろへ。
◇
「…………」
シズクは固まっていた。
目の前。
雪。
大きく抉れている。
ガウはもういない。
「…………」
「…………」
セリアが遠くを見る。
「速~い」
「速いじゃありません!」
モルフォが冷静に答える。
「ガウさんの速度に我々が追従することも不可能です」
シズクが遠くを見る。
もうガウの姿は見えない。
「危ないのに一人で行くなんて……!」
「怒ってたからね~」
セリアが言う。
「…………」
シズクが見る。
「久しぶりにあんなに怒っているガウを見ました」
「うん~」
「怒る理由は私も分かります。私も怒ってますから」
「そうだね~」
「…………」
モルフォが眼鏡を上げる。
「追いますか?」
「もちろんです!」
シズクが即答する。
「追いつけなくても行きます!」
「承知しました」
「私も行くよ~」
三人が雪山を見る。
遠く。
ガウが消えた方向。
「本当に……」
シズクが小杖《白晶》を握る。
◇
雪山。
「っ!」
岩壁。
蹴る。
ドンッ!!
黒煙。
脚へ。
さらに加速。
雪の斜面を駆け上がる。
「…………」
寒い。
雪。
吹雪。
動きにくい。
でもそんなことは今はどうでもいい。
「…………」
狙撃手はたるとを撃った。
偽物だったから無事。
それは頭で理解している。
でもーー
「…………」
岩を蹴る。
ドンッ!!
さらに前へ。
絶対に逃がさない。
◇
「おい」
雪山。
高い崖。
魔物使いが遠くを見る。
「…………」
白い外套。
狙撃手は長銃を持ち上げていた。
「どうした?」
「来る」
「何が?」
「狼獣人だ」
「…………は?」
魔物使いが振り返る。
遠く。
雪原。
その向こう。
「どこだ?」
「もう雪山に入った」
「…………」
魔物使いが黙る。
「冗談だろ?」
「いや」
「ここからミスティアまでどれだけ距離があると思ってる」
「知るか」
狙撃手が長銃を背負う。
「だが来ている」
「…………」
魔物使いが舌打ちする。
「面倒な奴だな」
周囲。
数匹の魔物。
狼。
鳥。
獣。
魔物使いが手を上げる。
「来い!」
バサァァァァッ!!
上空。
巨大な影。
白い翼。
鋭い嘴。
巨大な鳥型の魔物が降りてくる。
ドンッ!
雪が舞う。
「乗れ!」
「ああ」
狙撃手が魔物の背へ。
魔物使いも飛び乗る。
「行け!」
バサァァァァッ!!
巨大な翼。
風。
雪が吹き飛ぶ。
鳥型の魔物が空へ舞い上がる。
「…………」
魔物使いが下を見る。
雪山。
岩。
木。
「さすがにここまでは――」
ドンッ!!
「…………」
音。
「なんだ?」
雪山の斜面。
雪が爆発した。
黒。
「…………は?」
黒い煙。
その中心に狼獣人。
「おい」
魔物使いの顔が引きつる。
「嘘だろ!」
ドンッ!!
もう一度。
岩壁を蹴る。
黒煙が爆発。
一気に上へ。
「来るぞ!」
「見えている」
狙撃手が長銃へ手を掛ける。
だが。
もう遅い。
「…………」
俺は鳥型の魔物を見る。
二人見つけた。
「逃がさない」
岩壁を全力で蹴る。
ドォンッ!!
身体が空へ。
「なっ!?」
魔物使いの声。
《朧》を抜く。
黒煙を刀身へ。
「《黒煙斬》!」
振る。
ザァンッ!!
黒い斬撃。
「ギャアアアアアアッ!!」
鳥型の魔物。
翼。
大きく斬れる。
「っ!」
バランスを崩す。
「おい!」
「落ちるぞ!」
巨大な身体が傾く。
そのまま落下する。
俺も落ちる。
下。
雪山。
「…………」
その時。
狙撃手は落ちながら長銃を構えた。
「!」
銃口。
こっち。
バァンッ!!
身体を捻る。
弾丸が頬の横を通り抜ける。
「っ!」
さらに。
バァンッ!!
「…………!」
《朧》。
ガキンッ!!
弾丸を弾く。
衝撃。
少しだけ身体が逸れる。
その隙。
「行け!」
狙撃手が叫んだ。
「…………!」
魔物使い。
落下しながら手を伸ばす。
「来い!」
上空。
別の影。
小型の飛行魔物。
「お前!」
魔物使いが狙撃手を見る。
「早く乗れ!」
「無理だ」
「は!?」
狙撃手は俺を見る。
「こいつを止めなければ両方やられる」
「…………」
一瞬。
魔物使いが黙る。
「行け」
「…………」
「ボスに報告しろ」
「……分かった」
飛行魔物が魔物使いを掴む。
バサァッ!!
上へ。
「待っ――」
俺は追おうとする。
その瞬間。
バァンッ!!
足元の雪が弾けた。
「…………」
着地。
ズザザザザッ!!
雪の上を滑る。
顔を上げる。
狙撃手。
少し離れた場所へ着地していた。
「…………」
上空では魔物使いが離れていく。
「逃げた」
「追わせん」
狙撃手が長銃を構える。
「…………」
俺は狙撃手を見る。
「邪魔」
「それが目的だ」
「…………」
魔物使いが遠ざかる。
追いたい。
でも。
目の前には銃口が俺へ向いている。
「…………」
◇
吹雪。
雪山。
俺と狙撃手。
「…………」
狙撃手が俺を見る。
白い外套。
長い黒い銃。
「さすがだな」
「…………」
「ゼノスを倒すだけある」
「…………!」
俺は目を細めた。
「ゼノスを知ってるの?」
「当然だ」
「…………」
深淵の剣。
ギルドマスターのゼノス。
俺たちが倒した。
「なぜ」
《朧》を握る。
「たるとを狙った」
「…………」
「なぜフェリシアを狙う」
狙撃手は表情を変えない。
「依頼だからだ」
「依頼?」
「ああ」
「誰の?」
「…………」
「依頼主は誰だ」
「悪いな」
狙撃手が長銃を持ち直す。
「依頼主はボスしか知らん」
「…………」
ボス。
やっぱりこいつらの上に誰かいる。
「だったら」
一歩。
雪を踏む。
「そのボスを教えろ」
「…………」
狙撃手が僅かに笑う。
「そう簡単に教えん」
「…………」
「聞きたければ」
銃口が俺へ。
「力ずくで聞いてみろ」
「分かった」
《朧》を構える。
「…………」
狙撃手の指が引き金へ。
「…………」
俺は腰を落とす。
吹雪。
雪。
白い世界。
黒煙。
銃。
忍者刀。
二人。
「…………」
「…………」
次の瞬間、俺は地面を蹴った。
次回、忍者 vs 狙撃手




