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第28話 罠

バァンッ!!


銃声。


弾丸が――


たるとの胸を貫いた。


「…………」


小さな身体が揺れる。


胸。


ぽっかりと穴が開いている。


「たるとさん!?」


ノアの声。


「っ!」


リオが振り返る。


「たると様!」


ミナも目を見開く。


周囲にいた衛兵たちが一斉に武器を構えた。


「敵襲!?」


「どこからだ!」


「狙撃だ!」


「たると殿を――!」


その時。


「…………」


たるとの身体が揺らいだ。


「え?」


ノアが止まる。


虎耳。


尻尾。


腕。


脚。


輪郭がぼやけていく。


そして。


パァァァァ……。


淡い光。


たるとの身体が魔力の粒子となって崩れていった。


「…………」


ノア。


リオ。


ミナ。


衛兵。


全員が固まる。


「…………え?」


そこには何も残っていなかった。



雪山。


高い崖。


吹雪。


白い外套の男はスコープを覗き続けていた。


「…………」


その隣。


魔物たちに囲まれた男が笑う。


「やったな」


「…………」


返事がない。


「おい」


「…………」


「どうした?」


白い外套の男が僅かに眉を動かす。


「違う」


「何が?」


「…………」


スコープの先。


正門。


撃ち抜いた虎獣人。


その姿が消えていく。


「偽物だ」


「…………は?」


男の笑みが消えた。


「どういう意味だ?」


「そのままの意味だ」


「…………」


「俺が撃ったのは」


白い外套の男が低く告げる。


「ターゲットじゃない」



雪原。


――バァンッ!!


「!」


銃声。


来た。


俺は反射的に身体をずらした。


右。


一歩。


「…………?」


何も来ない。


「ガウ?」


シズクが俺を見る。


「どうしました?」


「今」


銃声。


前と同じ。


フェリシア。


あの時。


俺を狙った。


「…………」


俺は振り返る。


正門が遠い。


でも見える。


衛兵たちが騒いでいる。


ノア。


リオ。


ミナ。


その近くで淡い光が消えていく。


「…………」


あれ。


「ガウちゃん~?」


セリアの声。


「そっち?」


「なにが~?」


俺じゃない。


狙われたのは。


「…………」


たると。


「グオオオオオッ!!」


「!」


目の前。


巨大な熊型の魔物。


「ガウ!」


シズク。


「《障壁》!」


キィィンッ!!


透明な壁が爪を受け止める。


「今は戦闘中です!」


「ごめん!」


結界を蹴る。


タンッ!


上。


魔物の頭上。


《朧》。


「《朧斬》!」


ザンッ!!


「グオッ!」


魔物がよろめく。


着地。


雪。


ズボッ。


「…………」


やっぱり歩きにくい。


「ガウ!」


「分かってる!」


結界。


蹴る。


「《瞬牙》!」


ザシュッ!!


魔物の横を抜ける。


巨体が雪へ倒れた。


「…………」


俺はもう一度正門を見る。


「ガウ」


シズクが隣へ。


「何があったんですか?」


「撃たれた」


「え?」


「たるとが」


「っ!?」


シズクの顔色が変わる。


「たるとさんが!?」


「大丈夫」


「大丈夫って――」


「偽物だから」


「…………」


シズクが止まった。


「偽物?」


「うん」


「どういうことですか?」


「ガウちゃん~」


セリアが近付いてくる。


「ちゃんと上手くいったみたいだね~」


「うん」


「…………」


シズクが俺とセリアを交互に見る。


「説明してください」


「あとで」


「ガウ!」


「今は魔物」


まだいる。


数は減った。


でも戦闘は終わってない。


「…………」


シズクが小杖《白晶》を握る。


「分かりました」


そして。


「ですが」


俺を見る。


「絶対にあとで説明してください」


「うん」


「私にも~?」


「セリアは知ってるでしょ」


「そうだった~」


「…………」


シズクの視線が怖い。



少し前。


中央研究院。


「セリア」


「なに~?」


「お願いがあるんだけど」


「お願い~?」


「うん」


俺はこたつから顔を出す。


「たるとの偽物って作れる?」


「…………」


セリアが瞬きをする。


「たるとちゃんの~?」


「うん」


「作れると思うよ~」


「本当?」


「見た目だけなら簡単~」


セリアが魔杖《創星》を見る。


「動かすなら少し調整がいるけど~」


「喋れる?」


「できるよ~」


「近くで見ても分からないくらい?」


「たぶん~」


「たぶん?」


「やってみないと分かんない~」


「…………」


少し不安。


「ガウ」


隣。


たるとの声。


「はい?」


「私の偽物を作ってどうするんですか?」


「念のため」


「何の!?」


「狙撃」


「…………」


たるとの虎耳が止まった。


「狙撃?」


「うん」


「昨日の魔物」


俺はこたつから少しだけ出る。


「変だったでしょ?」


「はい」


「誰かが操ってたなら」


「うん」


「ミスティアを襲わせた理由がある」


「…………」


「フェリシアの時も」


男。


通信。


宝玉。


銃声。


「混乱してる時に撃たれた」


「…………」


たるとの表情が変わる。


「同じ人だと思ってるんですか?」


「分かんない」


「でも」


また来るかもしれない。


「狙われるなら」


俺は自分を指差す。


「たぶん私かも」


「…………」


「前も撃たれたから」


「だったら!」


たるとがこたつから飛び出した。


「ガウの偽物を作ってください!」


「私はいいよ」


「なんでですか!?」


「避けるから」


「…………」


「そういう問題じゃありません!!」


虎耳が立った。


「危ないじゃないですか!」


「前も避けたよ」


「次も避けられるとは限りません!」


「避けるよ」


「なんで言い切れるんですか!?」


「避けるから」


「答えになってません!」


「ガウちゃん~」


セリアが笑う。


「ガウちゃんの偽物も作ろうか~?」


「いらない」


「ガウ!」


「だって」


俺はたるとを見る。


「私は避けられるけど」


たると。


「たるとは無理でしょ?」


「…………」


虎耳が止まる。


「だから」


念のため。


「たるとの方を偽物にする」


「…………」


たるとが俺を見る。


「ガウ」


「なに?」


「私だって避けられます!」


「弾丸?」


「…………」


「避けられる?」


「…………」


虎耳が伏せる。


「たぶん」


「たぶんじゃ駄目だよ」


「むぅ……」


「それに」


本当に俺が狙われるならーー


何も起きない。


それならいい。


「保険」


「…………」


たるとが黙る。


そして。


「分かりました」


「いいの?」


「納得はしてません!」


「うん」


「ガウも偽物にしてほしいです!」


「それは嫌」


「なんでですか!」


「戦えないから」


「偽物に戦ってもらえばいいじゃないですか!」


「それは無理だよ~」


セリアが答えた。


「見た目とか動きは作れるけど~」


魔杖《創星》を持ち上げる。


「ガウちゃんと同じ強さまでは再現できないよ~」


「…………」


「ほら」


「ほらじゃありません!」


「たるとちゃんの偽物も~」


セリアが続ける。


「戦闘は無理だよ~」


「だから本物のたるとは安全な場所にいて」


「…………」


「お願い」


「…………」


たるとは俺を見る。


じー。


「…………」


「じー」


「自分で言うようになったね」


「誰のせいですか!」


「知らない」


「ガウです!」


そして。


たるとが大きく息を吐いた。


「分かりました」


「うん」


「でも!」


指を差される。


「絶対に無茶しないでください!」


「分かった」


「絶対ですよ!」


「うん」


「本当に!?」


「たぶん」


「ガウ!」



正門へ向かう途中。


「セリア」


「なに~?」


俺は走りながら声を落とす。


「さっき言ってたことなんだけど……」


「うん~」


「やっぱりお願い」


「分かった~」


セリアが魔杖《創星》へ触れる。


「たるとちゃんは~?」


「リュミエールに頼んで研究院に残ってもらう」


「じゃあ~」


セリアが笑う。


「正門に着く前に入れ替えるね~」


「うん」



雪原。


「…………」


俺は目の前の魔物を見る。


狙撃。


来ると思ってた。


だけど。


狙われるのは俺だと思ってた。


前に撃たれたから。


たるとは念のため。


それだけだった。


「…………」


でも。


違った。


狙われたのはたると。


「…………」


《朧》を握る手に力が入る。


もし。


偽物を用意してなかったら。


「…………」


胸。


そこを撃ち抜かれた。


本物だったら。


「ガウ?」


シズク。


「…………」


「ガウ?」


「ごめん、あとよろしく」


深く沈みこむ。


「アークスキル」


「《黒煙支配シャドウ・ドミネーション》」


俺の周りに黒い煙が漂う。


視線を伸ばす。


雪山。


高い場所。


「…………」


吹雪の中。


一瞬の小さな光。


俺は目を細める。


弾丸の軌道。


発砲時の光。


重なる場所。


雪山。


高い崖。


「……見つけた」



「撤退するぞ」


魔物使いが言う。


「…………」


白い外套の男はまだスコープを覗いている。


「聞いてるか?」


「ああ」


「偽物を置いてたってことは」


男がミスティアを見る。


「警戒されてた」


「…………」


「長居はまずい」


周囲。


魔物たちが立ち上がる。


狼。


鳥。


巨大な獣。


「次はどうする?」


「ボスに報告する」


狙撃手が武器を下ろす。


「ターゲットの殺害に失敗」


「それと」


「?」


「…………」


スコープから目を離す。


その時。


遠くの雪原に一人。


こちらを睨み付ける狼獣人が居た。

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