第27話 違和感
魔導国家。
中央研究院。
「…………」
俺はこたつに入っていた。
暖かい。
やっぱり素晴らしい。
「ガウ」
「なに?」
「昨日からずっと入ってません?」
隣にたると。
「ずっとじゃないよ」
「本当ですか?」
「昨日は戦った」
「それ以外です!」
「寝る時も出たよ」
「当たり前です!」
虎耳がぴこぴこ動いてる。
「それに」
俺はたるとを見る。
「たるとも入ってるじゃん」
「…………」
たると。
肩までこたつに入っている。
「私はガウの監視です!」
「駄目虎」
「駄目狼に言われたくありません!」
研究院に声が響く。
その少し離れた場所では砕けた宝玉の解析が進められていた。
セリア。
シズク。
モルフォ。
ノア。
リオ。
ミナ。
そしてミスティアの研究者たち。
「う~ん」
セリアが魔法陣を覗き込む。
「やっぱり複雑だね~」
「こちらの術式も同じですね」
シズクが別の破片を見る。
「意図的に接続情報を消しているように見えます」
「ええ」
リュミエールが頷く。
「破壊された影響だけではないでしょう」
「…………」
モルフォが宝玉を見る。
「誰が作ったかは分かりますか?」
リュミエールが首を振る。
「残念ながら」
首を横に振る。
「まだ分かりません」
俺はまたこたつへ。
すぽっ。
「ガウ」
「聞いてるよ」
「顔しか出てません!」
「耳も出てる」
「そういう問題じゃありません!」
その時。
「リュミエール様」
研究院の入口。
衛兵が入ってきた。
「昨日の襲撃について、周辺調査の報告が届きました」
「分かりました」
リュミエールの表情が変わる。
「聞かせてください」
「はい」
衛兵が一枚の紙を開く。
「北東部を中心に調査を実施」
「残存個体は確認されておりません」
「魔物の死骸についても調査しましたが……」
止まる。
「?」
たるとの虎耳が動く。
「何かあったんですか?」
「それが」
衛兵が少し困った表情をする。
「妙なのです」
「妙?」
俺も見る。
「はい」
「昨日確認された魔物は少なくとも十二種」
「生息域の異なる個体も含まれていました」
「…………」
「さらに」
紙を見る。
「本来なら互いに捕食関係にある魔物も確認されています」
「捕食関係?」
たるとが聞く。
「はい」
「通常であれば、同じ場所に集まれば争うはずです」
「ですが」
「昨日の群れに争った形跡はありません」
「…………」
俺はこたつの中で衛兵を見る。
狼。
熊。
飛ぶやつ。
甲殻のやつ。
確かに種類はバラバラだった。
「それだけではありません」
衛兵が続ける。
「魔物たちはミスティアへ一直線に向かっていました」
「攻撃を受けても」
「仲間が倒されても」
「逃走した個体は確認されていません」
「…………」
研究院が静かになる。
「それは……」
シズクが考える。
「通常の行動なのでしょうか?」
「いいえ」
リュミエールが答える。
「少なくとも私は初めてですね」
モルフォが眼鏡を上げる。
「魔物にも生存本能はあります」
「勝てないと判断すれば逃げる個体も珍しくありません」
「ですが昨日は」
「うん」
俺が答える。
「一匹も逃げなかった」
倒しても。
倒しても。
次が来た。
「…………」
セリアが宝玉から顔を上げる。
「誰かに操られてた~?」
「可能性はあります」
モルフォが答える。
「誘導」
「支配」
「あるいはそれに類する能力」
「ただ」
「これだけの種類と数を同時に操るとなると……」
「相当な能力ですね」
シズクが続ける。
「…………」
たるとの虎耳が少し伏せる。
「誰かがミスティアを襲わせたってことですか?」
「断定はできません」
リュミエールが答える。
「ですが」
「自然発生した襲撃と考えるには不自然な点が多すぎます」
「…………」
俺は黙る。
「ガウ?」
たるとの声。
「…………」
昨日の魔物。
百五十以上。
種類はバラバラ。
逃げない。
ミスティアへ一直線。
「…………」
それだけ?
なんか。
引っ掛かる。
「ガウ?」
「考えてる」
「こたつの中で?」
「暖かい方が考えられる」
「本当ですか?」
「たぶん」
「たぶん!?」
俺はさらに潜る。
「ガウちゃん寝ないでね~」
「寝ないよ」
目を閉じる。
「寝る体勢じゃないですか!」
「考えてるんだってば」
「…………」
考える。
昨日。
魔物。
その前。
フェリシア。
侵入していた男。
通信。
宝玉。
撃ち抜かれた。
男も。
俺も狙われた。
「…………」
なんで?
あの時。
撃った人は。
何を見てた?
「…………」
今回も。
もし。
誰かが魔物を操っていたなら。
何のため?
ミスティアを壊すため?
でも。
「…………」
俺は目を開く。
こたつから顔を出す。
セリアを見る。
「セリア」
「なに~?」
「お願いがあるんだけど」
「お願い~?」
「うん」
セリアが首を傾げた。
「なに~?」
「――――」
◇
昼。
ミスティア。
昨日の襲撃が嘘だったみたいに街には人が戻っていた。
壊れた場所の修理。
結界の点検。
装備を整える攻略組。
物資を運ぶ衛兵。
「…………」
だけど。
少し違う。
監視塔には人が増えてる。
門にも衛兵も多い。
街を歩く人たちも時々、結界の向こうを見る。
「警戒してますね」
たるとが言う。
「うん」
「また来ると思います?」
「分かんない」
「…………」
たるとの虎耳が動く。
「でも」
「?」
「来ても大丈夫です!」
胸を張る。
「昨日も守れましたから!」
「そうだね」
「ガウたちもいます!」
「うん」
「ミスティアの皆さんも強いです!」
「うん」
「セリアさんのすごい魔法もあります!」
「それはもう撃たせない方がいいと思う」
「なんでですか!?」
「魔力なくなってたから」
「あ」
たるとの虎耳が伏せた。
「確かに……」
「ガウちゃん~」
後ろ。
セリア。
「今日は大丈夫だよ~」
「撃つ気?」
「魔力回復したから~」
「そういう問題じゃないよ」
「大丈夫~」
何が大丈夫なんだろう。
「セリアさん!」
ノアが走ってくる。
「無茶は禁止です!」
「は~い」
「返事が軽いです!」
「…………」
いつも通り。
その時だった。
――ウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
「…………!」
「え?」
たるとの虎耳が立つ。
警報。
昨日と同じ赤い魔法灯。
「また!?」
「緊急!」
衛兵が走る。
「魔物を確認!」
「正門方面へ接近中!」
「戦闘可能な者は正門へ!」
「…………」
俺は正門の方向を見る。
「ガウがさっき言ってた通りでしたね!」
「行きましょう!」
たるとが走り出す。
俺たちも続く。
◇
正門へ向かう。
衛兵。
攻略組。
街中から次々と集まっていく。
「昨日より少ないそうです!」
前を走る衛兵が叫ぶ。
「ですが大型種を複数確認!」
「油断しないでください!」
「分かりました!」
たるとが答える。
俺は走りながら少し速度を落とす。
隣。
セリア。
「セリア」
「なに~?」
小さな声。
「さっき言ってたことなんだけど……」
「うん~」
◇
正門。
「全員、配置につけ!」
「外壁部隊は上へ!」
「攻略組は第一防衛線!」
「治療班は門内で待機!」
次々。
人が動く。
俺たちも到着する。
ガウ。
たると。
シズク。
セリア。
モルフォ。
ノア。
リオ。
ミナ。
全員。
正門前。
「来ます!」
衛兵が叫ぶ。
門の上。
見張り。
「正面!」
「大型六!」
「中型二十以上!」
昨日より少ない。
だけど。
「速いね」
雪原。
魔物たちが走ってくる。
「門を開けろ!」
ゴゴゴゴゴゴッ!!
巨大な門が開いていく。
「前衛!」
攻略組が武器を構える。
俺は《朧》へ手を掛ける。
「外へ出よう」
「はい!」
シズクが答える。
「行こう~」
セリアも続く。
「承知しました」
モルフォ。
四人が正門へ。
「治療班!」
衛兵の声。
「負傷者が戻り次第、対応を!」
「分かりました!」
たるとが答える。
ノア。
リオ。
ミナ。
三人もその場へ残る。
「第一防衛線!」
「前進!」
「おおおおおっ!!」
攻略組が雪原へ飛び出す。
俺たちも続いた。
◇
「《障壁》!」
キィンッ!!
シズクの結界。
巨大な魔物の爪を受け止める。
「ガウ!」
足場。
「うん!」
蹴る。
タンッ!
《朧》。
「《瞬牙》!」
ザシュッ!!
横を抜ける。
「グオオオオッ!!」
魔物が振り返る。
「《蜘蛛牢糸》」
バシュッ!!
白い糸。
脚へ絡む。
「今です」
モルフォ。
「分かった!」
結界を蹴る。
「《朧斬》!」
ザンッ!!
一匹。
雪へ倒れる。
「次~」
セリア。
魔法陣が光る。
「サンダ~」
バチバチバチッ!!
ドォンッ!!
雷。
二匹まとめて吹き飛ぶ。
「…………」
俺は周囲を見る。
大型。
中型。
昨日より明らかに少ない。
攻略組も押してる。
衛兵。
外壁の魔法部隊。
次々と魔物を倒していく。
「ガウ!」
シズク。
「左です!」
「うん!」
結界を蹴る。
左。
熊型。
「《狼牙連斬》!」
ザシュッ!
ザンッ!
ザシュッ!!
「…………」
倒れる。
「ガウちゃん~」
「なに?」
「こっち終わったよ~」
見るとセリアの前に魔物が三匹焦げてる。
「早いね」
「今日は特大魔法いらなそう~」
「使わないで」
「え~」
「え~じゃない」
「…………」
モルフォが周囲を見る。
「妙ですね」
「うん」
俺も思う。
昨日。
百五十以上。
今日は三十くらい。
強い個体はいる。
だけど。
俺たちを倒すには少ない。
「これなら」
シズクが小杖を構えながら言う。
「問題なく撃退できそうです」
「…………」
俺は正門を見る。
遠い。
でも見える。
正門。
外壁。
そこに残った人たち。
「…………」
「ガウ?」
シズクが俺を見る。
「どうしました?」
「なんでもない」
《朧》を構え直す。
目の前には魔物。
「早く終わらせよう」
◇
雪山。
高い崖。
「…………」
男が笑う。
遠く。
雪原。
戦っている四人。
狼獣人。
結界術師。
魔法使い。
眼鏡を掛けた男。
「出てきたな」
その隣には白い外套の男。
雪の上で伏せている。
長い黒い武器。
「狼獣人」
男が言う。
「結界術師」
「昨日の魔法使い」
「虫を使う奴」
「…………」
白い外套の男は答えない。
スコープ。
ゆっくり動く。
戦場。
外壁。
門。
「全員」
男が笑う。
「街の外だ」
「…………」
白い外套の男の指は引き金の近く。
「昨日より少なくして正解だったな」
「多すぎれば警戒される」
「少なすぎれば出てこない」
「…………」
「あいつらを引っ張り出すには」
男は魔物たちが戦う雪原を見る。
「これくらいで十分だ」
「…………」
正門。
衛兵。
攻略組。
治療班。
そして。
「…………」
止まる。
虎獣人。
小柄な身体。
「いた」
白い外套の男が静かに話す。
照準。
中央。
たると。
「邪魔者はいなくなった」
男が笑う。
「絶好の機会だ」
「…………」
白い外套の男が呼吸を整える。
風。
雪。
距離。
「やれ」
「…………」
指。
引き金へ。
ゆっくり。
力が入る。
照準の中央。
たると。
そして。
――カチッ。
バァンッ!!
銃声。
弾丸が――
たるとの胸を貫いた。
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