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第26話 防衛戦

――ウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


警報が鳴り響く。


「魔物の群れ多数!」


「――ミスティアへ接近中!!」


「…………」


俺は北東を見る。


「ガウ!」


「うん」


たるとの声。


俺は《朧》へ手を掛けた。


「行こう」



北東門。


「…………」


門の上。


高い外壁。


そこから外を見る。


白い雪原。


吹雪。


そして。


その向こう。


「…………多くない?」


影。


一つ。


二つ。


なんて数じゃない。


数十。


いや。


もっと。


大量の魔物がこちらへ向かってきていた。


狼。


熊。


大きな角を持つ獣。


氷の甲殻に覆われた魔物。


さらに。


空。


翼を持つ魔物までいる。


「報告!」


衛兵が叫ぶ。


「北東より魔物の群れ!」


「推定百五十以上!」


「百五十!?」


たるとの虎耳が立った。


「多すぎません!?」


「多いね」


「ガウ冷静ですね!?」


「数えても減らないし」


「それはそうですけど!」


「第一防衛線、展開!」


衛兵の声。


門が開く。


「前衛!」


「行くぞ!」


「おお!」


攻略組が飛び出していく。


盾。


剣。


槍。


衛兵たちも続く。


「魔法部隊!」


外壁の上。


ローブを着た人たちが並ぶ。


何人かは研究院で見た人もいる。


「研究者?」


俺が聞く。


「ミスティアの研究者には戦闘可能な魔法使いも多くいます!」


案内してくれた女性が答える。


「非常時には防衛にも参加します!」


「なるほどね」


「術式展開!」


杖。


魔法陣。


一つ。


二つ。


十。


二十。


外壁の上に大量の魔法陣が浮かび上がる。


「第一射!」


直後。


ドドドドドドドドッ!!


炎。


氷。


雷。


岩。


様々な魔法が一斉に飛んだ。


雪原に爆発。


魔物が何匹も吹き飛ぶ。


「すごい!」


たるとが声を上げる。


だけど。


「止まらない」


俺が言う。


魔物の群れ。


仲間が吹き飛ばされても止まらない。


一直線にミスティアへ。


「第二射、準備!」


「飛行種来ます!」


空。


複数の影。


「迎撃!」


魔法が飛ぶ。


一匹。


二匹。


落ちる。


だが、まだいる。


セリアたちが走ってきた。


「どうしたの~?」


「魔物の群れがミスティアに来てるみたい」


「それはまずいですね」


息を切らしながらシズクが話す。


「ガウ!」


「うん!」


俺は外壁から下を見る。


雪原。


「…………」


やっぱり。


雪。


「シズク」


「分かっています」


小杖《白晶》。


シズクが前へ出る。


「足場は私が作ります」


「助かる」


「ただし」


「?」


「あまり遠くへ行かないでください」


「分かった」


その時。


「来るぞ!」


下。


前衛と魔物の群れ。


ぶつかった。


ドォンッ!!


「モルフォは下に行って!」


「分かりました」


モルフォが眼鏡をクイッ!


「私も行ってくる!」


俺は外壁から飛び降りた。


「ガウ!?」


「《障壁》!」


キィンッ!


足元。


半透明の結界。


着地。


そのまま蹴る。


タンッ!


次。


キィンッ!


新しい足場。


「シズク!」


「右です!」


「うん!」


右。


結界。


蹴る。


《朧》を抜く。


目の前に巨大な白狼。


「《影走》!」


一気に加速。


牙。


避ける。


横。


「《瞬牙》!」


ザシュッ!!


そのまま次の結界へ。


「前!」


シズクの声。


二匹。


雪を蹴って飛び掛かってくる。


結界。


一枚。


二枚。


蹴る。


上へ。


「《狼牙連斬》!」


ザシュッ!


ザンッ!


ザシュッ!!


一匹。


落ちる。


もう一匹。


振り返る。


「ガウちゃん~」


「なに!?」


「そのまま右へ~」


「分かった!」


考えず右の結界へ。


直後。


ゴオオオオオオッ!!


炎。


「熱っ!」


巨大な炎が魔物を飲み込んだ。


「セリア!」


「当たってないよ~?」


「熱い!」


「寒くなくていいでしょ~?」


「ミスティアに行く前も聞いた!」


「便利だよ~?」


「便利じゃない!」


「ガウ!」


「今度はなに!?」


「前です!」


シズクが前を見る。


大きな熊型が迫ってくる。


「分かってる!」


結界を蹴る。



「負傷者!」


「こちらへ!」


治療施設。


「次の人!」


たるとの声。


攻略組の一人が運び込まれる。


腕に大きな傷。


「大丈夫です!」


たるとが手をかざす。


淡い光。


「《ヒール》!」


回復魔法。


傷が少しずつ塞がっていく。


「ポーションを!」


「はい!」


ノアが走る。


「こちらです!」


「包帯!」


「持ってきました!」


リオ。


さらに。


「次の負傷者が来ます」


ミナが入口を見る。


「三名です」


「分かりました!」


たるとが立ち上がる。


「ベッドを空けてください!」


「はい!」


ノアたちが動く。


外。


爆発音。


ドォンッ!!


「…………」


たるとの虎耳が動く。


だけど。


すぐに目の前の負傷者を見る。


「痛みますか?」


「少し……」


「大丈夫です」


にっこりと笑う。


「ちゃんと治しますから!」


「……ありがとう」


「はい!」


攻略組。


衛兵。


負傷者が運び込まれてくる。


「たるとさん!」


ノア。


「次です!」


「はい!」


たるとは走る。


「こっちへ!」



北東門。


「押し返せ!」


「前衛、下がれ!」


「交代!」


衛兵。


攻略組。


入り混じりながら戦っている。


「…………」


俺は結界の上に立つ。


息が白い。


「まだいる」


多い。


倒しても。


倒しても。


次が来る。


「ガウ!」


シズク。


「下です!」


「!」


結界の下。


氷の甲殻。


大きな魔物が体当たりをする。


ドォンッ!!


「うわっ!」


結界が揺れる。


「っ……!」


シズクが小杖を握る。


「硬い……!」


もう一度。


ドォンッ!!


結界に亀裂。


「ガウ!」


「うん!」


飛ぶ。


魔物の頭上。


《朧》。


振り下ろす。


ガキンッ!!


「硬っ!」


弾かれた。


「なら」


後ろから声。


「私が」


「モルフォ?」


モルフォが前へ出る。


「アークスキルーー」


「《百虫のインセクト・ロード》」


右腕の形が変わる。


硬質な甲殻。


巨大な角。


「《剛角腕ビートル・アーム》」


魔物がモルフォへ突進する。


「大丈夫?」


「問題ありません」


ドォォンッ!!


受け止めた。


「…………」


巨大な魔物が片腕で止まってる。


「ふっ!」


剛腕を振り上げる。


ブォンッ!!


魔物の巨体が浮いた。


「今です!」


「分かった!」


結界を蹴る。


空中でひっくり返った魔物。


腹には甲殻がない。


「《朧斬》!」


ザンッ!!


魔物が雪へ落ちる。


「やった!」


「まだです」


モルフォが言う。


「?」


「後ろ」


見る。


「…………」


同じ魔物が三匹。


「多くない?」


「多いですね」


「手伝って」


「もちろんです」


モルフォの腕が元に戻る。


直後。


指先から白い糸が放出される。


「《蜘蛛牢糸スパイダー・バインド》」


バシュッ!!


三匹の脚へ絡みつく。


「今です」


「うん!」


結界を蹴る。


「《狼牙連斬》!」



「《障壁》!」


シズクが小杖《白晶》を振る。


キィィンッ!!


巨大な結界が魔物の攻撃を受け止める。


「右側です!」


「分かった!」


「ガウちゃん~!」


セリアが手を振ってる。


「どうしたの?」


「ちょっと下がって~!」


「どれくらい!?」


「いっぱい~!」


「分かんないよ!」


でも。


嫌な予感。


俺は結界を蹴る。


「みんな下がって!」


「何だ!?」


「いいから!」


前衛の攻略組。


衛兵。


俺と一緒に後退する。


「セリア!」


シズクが見る。


「何をするつもりですか!?」


「ちょっと数が多いから~」


セリアが魔杖《創星》を持ち上げる。


「減らそうかな~」


「アークスキル」


「《幻想創造ファンタズマ・クリエイト》」


その瞬間。


空に光。


「…………?」


俺は見上げる。


一つ。


巨大な魔法陣。


「…………」


いや。


違う。


一つじゃない。


その上。


二つ目。


さらに。


三つ目。


巨大な魔法陣が重なる。


「なんだ……?」


近くの攻略組が呟く。


ミスティアの研究者たちまで空を見上げている。


「見たことない術式だ……」


「三重構築?」


「いや、違う!」


「術式そのものを今組み替えている……?」


「…………」


セリアが《創星》を高く掲げる。


「範囲~」


魔法陣が広がる。


「ガウちゃんたちは除外~」


「絶対だよ!?」


「大丈夫~」


「敵性反応~」


魔物たちの下に無数の小さな魔法陣。


一匹。


一匹。


次々。


「固定~」


カチッ。


そんな音がした気がした。


「…………」


俺はセリアを見る。


「セリア?」


「なに~?」


「それ大丈夫?」


「たぶん~」


「たぶん!?」


「できたばっかりだから~」


「新しい魔法!?」


「今作った~」


セリアはやっぱり天才だった。


「セリア!」


シズクまで驚いている。


「出力は!?」


「いっぱい~」


「具体的に!」


「いっぱい~」


駄目だこりゃ。


「全員!」


俺は叫ぶ。


「もっと下がって!」


「ガウちゃんひどい~」


「だって怖いもん!」


セリアが魔杖《創星》を空へ向ける。


巨大な三つの魔法陣が回転。


光が強くなる。


そして。


セリアが笑った。


「それじゃあ~」


「《星天爆撃アストラル・レイン》~」


空が光る。


「…………」


次の瞬間。


無数の光が星のように魔力弾が降り注ぐ。


ドォンッ!!


ドドドドドドドドドドドドドドッ!!!


「うわっ!?」


爆発。


爆発。


爆発。


雪が舞い上がる。


地面が揺れる。


「…………!」


俺は腕で顔を隠す。


「セリア!」


「なに~!?」


「やりすぎ!」


「まだだよ~」


「え?」


第二波。


「…………」


ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!


なんだか魔物たちが可哀想に思えてきた。



しばらくすると静かになった。


俺はゆっくり顔を上げた。


「…………」


雪原には何もいない。


さっきまであれだけいた魔物。


ほとんどいなくなっていた。


「…………」


周囲にいる攻略組。


衛兵。


研究者。


みんな固まっている。


「…………」


俺もセリアを見る。


「なに~?」


「…………」


「ガウちゃん?」


「最初からやればよかったんじゃない?」


「無理だよ~」


「なんで?」


「魔力いっぱい使うから~」


「…………」


セリアが魔杖《創星》を下ろす。


「疲れた~」


「そっか」


ふらっ。


「セリア!?」


シズクが支える。


「大丈夫~」


「大丈夫に見えません!」


「魔力ほとんど使っちゃった~」


「やっぱりやりすぎじゃん!」


「でも倒せたよ~?」


「そうだけど!」


「…………」


ミスティアの研究者がまだ固まっていた。


「今の……」


一人が呟く。


「なんだ?」


「知らない」


「新規術式?」


「いや……あれをその場で?」


「…………」


セリアが注目されてる。


「セリア」


「なに~?」


「見られてるよ」


「本当だ~」


「嬉しそうだね」


「あとでお話したいな~」


「まず休んで」


「は~い」


その時。


「おおおおおおおっ!!」


声。


攻略組。


「撃退したぞ!」


「終わった!」


「やった!」


歓声。


衛兵たちも武器を下ろす。


「負傷者を運べ!」


「残存個体を確認!」


「結界の損傷を調べろ!」


すぐに次の行動。


「…………」


俺は《朧》を鞘へ戻した。


「ガウ」


シズク。


「はい?」


「たるとさんのところへ戻りましょう」


「うん」


たるとは治療してるはず。


「セリア歩ける?」


「歩けるよ~」


一歩。


ふらっ。


「…………」


「セリア」


「なに~?」


「背負う?」


「ガウちゃんが~?」


「うん」


「…………」


俺。


超厚着。


セリア。


「…………」


「やっぱりシズクお願い」


「なんで~!?」


「動きにくいから」


「ガウちゃん~!」


「私が支えます」


シズクが苦笑した。



治療施設。


「次の方!」


たるとの声。


「傷はどこですか?」


「左脚です!」


「分かりました!」


「…………」


俺たちが戻ってきてもたるとは忙しそう。


「たると」


「ガウ!」


虎耳が立つ。


「大丈夫でしたか!?」


「うん」


「怪我は!?」


「ないよ」


「本当に!?」


「本当だよ」


「…………」


じー。


「じーって言わなくなったね」


「今それ言います!?」


「成長したなって」


「してません!」


「たるとさん!」


「はい!」


走って負傷者の元へ。


「ガウさん」


ノア。


「セリアさんは?」


「魔力使い切ったみたい」


「え!?」


「特大魔法撃ったから」


「セリアさん!?」


ノアが走っていった。


「怒られるね」


「そうですね」


シズクが笑う。


「セリアさん!」


遠くからノアの声が聞こえる。


「大丈夫だよ~」


「大丈夫じゃありません!」


「怒られてる」


「ですね」


外の警報が止まる。


赤かった魔法灯が少しずつ青白い光へ戻っていく。



ミスティアから遠く離れた雪山。


吹雪。


白い世界。


高い崖。


その上に二つの影。


「…………」


一人の男が遠くを見ていた。


眼下。


雪原。


そこには大量の魔物が倒れている。


「…………」


男が小さく笑った。


「さすがはミスティア」


その周囲には数匹の魔物。


狼。


鳥。


巨大な獣。


だが襲わない。


男の傍らで静かに伏せている。


「百を超える魔物をぶつけても」


男は遠くの都市を見る。


「この程度か」


少し離れた場所。


雪の上に伏せている人影。


白い外套。


その手には長い黒い武器。


筒のような物が付いている。


「…………」


白い外套の男は何も言わない。


遠く。


ミスティアを見ている。


その時。


小さな宝玉が光った。


「…………」


手を伸ばす。


通信。


短い会話。


そして光が消える。


「誰だ?」


男が聞く。


「ボスだ」


「へえ」


「何だって?」


「…………」


白い外套の男が再び武器へ手を添える。


覗き込む。


「次の指示だ」


「次?」


「ああ」


「ターゲットが決まった」


男が笑う。


「誰だ?」


「…………」


吹雪。


雪。


その中。


白い外套の男が静かに告げた。


「ターゲットは――」


一拍。


「たるとだ」

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