第26話 防衛戦
――ウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
警報が鳴り響く。
「魔物の群れ多数!」
「――ミスティアへ接近中!!」
「…………」
俺は北東を見る。
「ガウ!」
「うん」
たるとの声。
俺は《朧》へ手を掛けた。
「行こう」
◇
北東門。
「…………」
門の上。
高い外壁。
そこから外を見る。
白い雪原。
吹雪。
そして。
その向こう。
「…………多くない?」
影。
一つ。
二つ。
なんて数じゃない。
数十。
いや。
もっと。
大量の魔物がこちらへ向かってきていた。
狼。
熊。
大きな角を持つ獣。
氷の甲殻に覆われた魔物。
さらに。
空。
翼を持つ魔物までいる。
「報告!」
衛兵が叫ぶ。
「北東より魔物の群れ!」
「推定百五十以上!」
「百五十!?」
たるとの虎耳が立った。
「多すぎません!?」
「多いね」
「ガウ冷静ですね!?」
「数えても減らないし」
「それはそうですけど!」
「第一防衛線、展開!」
衛兵の声。
門が開く。
「前衛!」
「行くぞ!」
「おお!」
攻略組が飛び出していく。
盾。
剣。
槍。
衛兵たちも続く。
「魔法部隊!」
外壁の上。
ローブを着た人たちが並ぶ。
何人かは研究院で見た人もいる。
「研究者?」
俺が聞く。
「ミスティアの研究者には戦闘可能な魔法使いも多くいます!」
案内してくれた女性が答える。
「非常時には防衛にも参加します!」
「なるほどね」
「術式展開!」
杖。
魔法陣。
一つ。
二つ。
十。
二十。
外壁の上に大量の魔法陣が浮かび上がる。
「第一射!」
直後。
ドドドドドドドドッ!!
炎。
氷。
雷。
岩。
様々な魔法が一斉に飛んだ。
雪原に爆発。
魔物が何匹も吹き飛ぶ。
「すごい!」
たるとが声を上げる。
だけど。
「止まらない」
俺が言う。
魔物の群れ。
仲間が吹き飛ばされても止まらない。
一直線にミスティアへ。
「第二射、準備!」
「飛行種来ます!」
空。
複数の影。
「迎撃!」
魔法が飛ぶ。
一匹。
二匹。
落ちる。
だが、まだいる。
セリアたちが走ってきた。
「どうしたの~?」
「魔物の群れがミスティアに来てるみたい」
「それはまずいですね」
息を切らしながらシズクが話す。
「ガウ!」
「うん!」
俺は外壁から下を見る。
雪原。
「…………」
やっぱり。
雪。
「シズク」
「分かっています」
小杖《白晶》。
シズクが前へ出る。
「足場は私が作ります」
「助かる」
「ただし」
「?」
「あまり遠くへ行かないでください」
「分かった」
その時。
「来るぞ!」
下。
前衛と魔物の群れ。
ぶつかった。
ドォンッ!!
「モルフォは下に行って!」
「分かりました」
モルフォが眼鏡をクイッ!
「私も行ってくる!」
俺は外壁から飛び降りた。
「ガウ!?」
「《障壁》!」
キィンッ!
足元。
半透明の結界。
着地。
そのまま蹴る。
タンッ!
次。
キィンッ!
新しい足場。
「シズク!」
「右です!」
「うん!」
右。
結界。
蹴る。
《朧》を抜く。
目の前に巨大な白狼。
「《影走》!」
一気に加速。
牙。
避ける。
横。
「《瞬牙》!」
ザシュッ!!
そのまま次の結界へ。
「前!」
シズクの声。
二匹。
雪を蹴って飛び掛かってくる。
結界。
一枚。
二枚。
蹴る。
上へ。
「《狼牙連斬》!」
ザシュッ!
ザンッ!
ザシュッ!!
一匹。
落ちる。
もう一匹。
振り返る。
「ガウちゃん~」
「なに!?」
「そのまま右へ~」
「分かった!」
考えず右の結界へ。
直後。
ゴオオオオオオッ!!
炎。
「熱っ!」
巨大な炎が魔物を飲み込んだ。
「セリア!」
「当たってないよ~?」
「熱い!」
「寒くなくていいでしょ~?」
「ミスティアに行く前も聞いた!」
「便利だよ~?」
「便利じゃない!」
「ガウ!」
「今度はなに!?」
「前です!」
シズクが前を見る。
大きな熊型が迫ってくる。
「分かってる!」
結界を蹴る。
◇
「負傷者!」
「こちらへ!」
治療施設。
「次の人!」
たるとの声。
攻略組の一人が運び込まれる。
腕に大きな傷。
「大丈夫です!」
たるとが手をかざす。
淡い光。
「《ヒール》!」
回復魔法。
傷が少しずつ塞がっていく。
「ポーションを!」
「はい!」
ノアが走る。
「こちらです!」
「包帯!」
「持ってきました!」
リオ。
さらに。
「次の負傷者が来ます」
ミナが入口を見る。
「三名です」
「分かりました!」
たるとが立ち上がる。
「ベッドを空けてください!」
「はい!」
ノアたちが動く。
外。
爆発音。
ドォンッ!!
「…………」
たるとの虎耳が動く。
だけど。
すぐに目の前の負傷者を見る。
「痛みますか?」
「少し……」
「大丈夫です」
にっこりと笑う。
「ちゃんと治しますから!」
「……ありがとう」
「はい!」
攻略組。
衛兵。
負傷者が運び込まれてくる。
「たるとさん!」
ノア。
「次です!」
「はい!」
たるとは走る。
「こっちへ!」
◇
北東門。
「押し返せ!」
「前衛、下がれ!」
「交代!」
衛兵。
攻略組。
入り混じりながら戦っている。
「…………」
俺は結界の上に立つ。
息が白い。
「まだいる」
多い。
倒しても。
倒しても。
次が来る。
「ガウ!」
シズク。
「下です!」
「!」
結界の下。
氷の甲殻。
大きな魔物が体当たりをする。
ドォンッ!!
「うわっ!」
結界が揺れる。
「っ……!」
シズクが小杖を握る。
「硬い……!」
もう一度。
ドォンッ!!
結界に亀裂。
「ガウ!」
「うん!」
飛ぶ。
魔物の頭上。
《朧》。
振り下ろす。
ガキンッ!!
「硬っ!」
弾かれた。
「なら」
後ろから声。
「私が」
「モルフォ?」
モルフォが前へ出る。
「アークスキルーー」
「《百虫の王》」
右腕の形が変わる。
硬質な甲殻。
巨大な角。
「《剛角腕》」
魔物がモルフォへ突進する。
「大丈夫?」
「問題ありません」
ドォォンッ!!
受け止めた。
「…………」
巨大な魔物が片腕で止まってる。
「ふっ!」
剛腕を振り上げる。
ブォンッ!!
魔物の巨体が浮いた。
「今です!」
「分かった!」
結界を蹴る。
空中でひっくり返った魔物。
腹には甲殻がない。
「《朧斬》!」
ザンッ!!
魔物が雪へ落ちる。
「やった!」
「まだです」
モルフォが言う。
「?」
「後ろ」
見る。
「…………」
同じ魔物が三匹。
「多くない?」
「多いですね」
「手伝って」
「もちろんです」
モルフォの腕が元に戻る。
直後。
指先から白い糸が放出される。
「《蜘蛛牢糸》」
バシュッ!!
三匹の脚へ絡みつく。
「今です」
「うん!」
結界を蹴る。
「《狼牙連斬》!」
◇
「《障壁》!」
シズクが小杖《白晶》を振る。
キィィンッ!!
巨大な結界が魔物の攻撃を受け止める。
「右側です!」
「分かった!」
「ガウちゃん~!」
セリアが手を振ってる。
「どうしたの?」
「ちょっと下がって~!」
「どれくらい!?」
「いっぱい~!」
「分かんないよ!」
でも。
嫌な予感。
俺は結界を蹴る。
「みんな下がって!」
「何だ!?」
「いいから!」
前衛の攻略組。
衛兵。
俺と一緒に後退する。
「セリア!」
シズクが見る。
「何をするつもりですか!?」
「ちょっと数が多いから~」
セリアが魔杖《創星》を持ち上げる。
「減らそうかな~」
「アークスキル」
「《幻想創造》」
その瞬間。
空に光。
「…………?」
俺は見上げる。
一つ。
巨大な魔法陣。
「…………」
いや。
違う。
一つじゃない。
その上。
二つ目。
さらに。
三つ目。
巨大な魔法陣が重なる。
「なんだ……?」
近くの攻略組が呟く。
ミスティアの研究者たちまで空を見上げている。
「見たことない術式だ……」
「三重構築?」
「いや、違う!」
「術式そのものを今組み替えている……?」
「…………」
セリアが《創星》を高く掲げる。
「範囲~」
魔法陣が広がる。
「ガウちゃんたちは除外~」
「絶対だよ!?」
「大丈夫~」
「敵性反応~」
魔物たちの下に無数の小さな魔法陣。
一匹。
一匹。
次々。
「固定~」
カチッ。
そんな音がした気がした。
「…………」
俺はセリアを見る。
「セリア?」
「なに~?」
「それ大丈夫?」
「たぶん~」
「たぶん!?」
「できたばっかりだから~」
「新しい魔法!?」
「今作った~」
セリアはやっぱり天才だった。
「セリア!」
シズクまで驚いている。
「出力は!?」
「いっぱい~」
「具体的に!」
「いっぱい~」
駄目だこりゃ。
「全員!」
俺は叫ぶ。
「もっと下がって!」
「ガウちゃんひどい~」
「だって怖いもん!」
セリアが魔杖《創星》を空へ向ける。
巨大な三つの魔法陣が回転。
光が強くなる。
そして。
セリアが笑った。
「それじゃあ~」
「《星天爆撃》~」
空が光る。
「…………」
次の瞬間。
無数の光が星のように魔力弾が降り注ぐ。
ドォンッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
「うわっ!?」
爆発。
爆発。
爆発。
雪が舞い上がる。
地面が揺れる。
「…………!」
俺は腕で顔を隠す。
「セリア!」
「なに~!?」
「やりすぎ!」
「まだだよ~」
「え?」
第二波。
「…………」
ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
なんだか魔物たちが可哀想に思えてきた。
◇
しばらくすると静かになった。
俺はゆっくり顔を上げた。
「…………」
雪原には何もいない。
さっきまであれだけいた魔物。
ほとんどいなくなっていた。
「…………」
周囲にいる攻略組。
衛兵。
研究者。
みんな固まっている。
「…………」
俺もセリアを見る。
「なに~?」
「…………」
「ガウちゃん?」
「最初からやればよかったんじゃない?」
「無理だよ~」
「なんで?」
「魔力いっぱい使うから~」
「…………」
セリアが魔杖《創星》を下ろす。
「疲れた~」
「そっか」
ふらっ。
「セリア!?」
シズクが支える。
「大丈夫~」
「大丈夫に見えません!」
「魔力ほとんど使っちゃった~」
「やっぱりやりすぎじゃん!」
「でも倒せたよ~?」
「そうだけど!」
「…………」
ミスティアの研究者がまだ固まっていた。
「今の……」
一人が呟く。
「なんだ?」
「知らない」
「新規術式?」
「いや……あれをその場で?」
「…………」
セリアが注目されてる。
「セリア」
「なに~?」
「見られてるよ」
「本当だ~」
「嬉しそうだね」
「あとでお話したいな~」
「まず休んで」
「は~い」
その時。
「おおおおおおおっ!!」
声。
攻略組。
「撃退したぞ!」
「終わった!」
「やった!」
歓声。
衛兵たちも武器を下ろす。
「負傷者を運べ!」
「残存個体を確認!」
「結界の損傷を調べろ!」
すぐに次の行動。
「…………」
俺は《朧》を鞘へ戻した。
「ガウ」
シズク。
「はい?」
「たるとさんのところへ戻りましょう」
「うん」
たるとは治療してるはず。
「セリア歩ける?」
「歩けるよ~」
一歩。
ふらっ。
「…………」
「セリア」
「なに~?」
「背負う?」
「ガウちゃんが~?」
「うん」
「…………」
俺。
超厚着。
セリア。
「…………」
「やっぱりシズクお願い」
「なんで~!?」
「動きにくいから」
「ガウちゃん~!」
「私が支えます」
シズクが苦笑した。
◇
治療施設。
「次の方!」
たるとの声。
「傷はどこですか?」
「左脚です!」
「分かりました!」
「…………」
俺たちが戻ってきてもたるとは忙しそう。
「たると」
「ガウ!」
虎耳が立つ。
「大丈夫でしたか!?」
「うん」
「怪我は!?」
「ないよ」
「本当に!?」
「本当だよ」
「…………」
じー。
「じーって言わなくなったね」
「今それ言います!?」
「成長したなって」
「してません!」
「たるとさん!」
「はい!」
走って負傷者の元へ。
「ガウさん」
ノア。
「セリアさんは?」
「魔力使い切ったみたい」
「え!?」
「特大魔法撃ったから」
「セリアさん!?」
ノアが走っていった。
「怒られるね」
「そうですね」
シズクが笑う。
「セリアさん!」
遠くからノアの声が聞こえる。
「大丈夫だよ~」
「大丈夫じゃありません!」
「怒られてる」
「ですね」
外の警報が止まる。
赤かった魔法灯が少しずつ青白い光へ戻っていく。
◇
ミスティアから遠く離れた雪山。
吹雪。
白い世界。
高い崖。
その上に二つの影。
「…………」
一人の男が遠くを見ていた。
眼下。
雪原。
そこには大量の魔物が倒れている。
「…………」
男が小さく笑った。
「さすがはミスティア」
その周囲には数匹の魔物。
狼。
鳥。
巨大な獣。
だが襲わない。
男の傍らで静かに伏せている。
「百を超える魔物をぶつけても」
男は遠くの都市を見る。
「この程度か」
少し離れた場所。
雪の上に伏せている人影。
白い外套。
その手には長い黒い武器。
筒のような物が付いている。
「…………」
白い外套の男は何も言わない。
遠く。
ミスティアを見ている。
その時。
小さな宝玉が光った。
「…………」
手を伸ばす。
通信。
短い会話。
そして光が消える。
「誰だ?」
男が聞く。
「ボスだ」
「へえ」
「何だって?」
「…………」
白い外套の男が再び武器へ手を添える。
覗き込む。
「次の指示だ」
「次?」
「ああ」
「ターゲットが決まった」
男が笑う。
「誰だ?」
「…………」
吹雪。
雪。
その中。
白い外套の男が静かに告げた。
「ターゲットは――」
一拍。
「たるとだ」
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