↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
135/207

第25話 最前線

魔導国家ミスティア


中央研究院。


「…………」


俺はこたつに入っていた。


暖かい。


すごく暖かい。


「ガウ」


「なに?」


「そろそろ出ませんか?」


隣にたると。


「たるとも入ってるじゃん」


「…………」


「さっきより深く入ってる」


「これは……」


たるとの虎耳が動く。


「ガウが出ないからです!」


「なんで私のせいなの?」


「一人にしたら駄目だと思ったんです!」


「じゃあ出たら?」


「…………」


たるとがこたつを見る。


「あと少しだけ」


「駄目虎」


「ガウにだけは言われたくありません!」


その少し離れた場所。


研究者が展開した魔法陣をセリアが覗き込んでいる。


「この部分~」


セリアが魔法陣を指差す。


「やっぱり普通の通信術式とは違うね~」


「ええ」


リュミエールが頷く。


「接続情報を隠蔽するための術式だと思われます」


「こちらにも似た術式があります」


シズクが別の破片を見る。


「一つではない?」


「そのようですね」


「…………」


モルフォが宝玉を見る。


「かなり慎重に作られていますね」


「ええ」


リュミエールの表情は真剣。


「まだ断定はできませんが」


破片を見る。


「解析されることそのものを想定して作られた可能性がありますね」


「…………」


俺はこたつから顔だけ出して聞いていた。


難しい。


でも。


一つだけ分かる。


あの宝玉は普通の物じゃない。


そして。


作った人はかなり用心深い。


「もう少し調べたいね~」


セリアが言う。


「残ってる術式を一つずつ分けてみたいな~」


「時間が掛かりそうですか?」


たるとが聞く。


「掛かるよ~」


即答。


「どれくらいですか?」


「分かんない~」


「…………」


たるとの虎耳が動く。


「今日中には?」


「無理だと思う~」


「明日は?」


「それも分かんない~」


「…………」


たるとがリュミエールを見る。


「そんなに大変なんですか?」


「ええ」


リュミエールが答える。


「破損している魔導具の解析ですから」


「残存している術式を壊してしまえば、二度と確認できなくなる可能性もあります」


「そのため慎重に進める必要があります」


「なるほど……」


たるとの虎耳が少し伏せる。


「じゃあ」


俺が聞く。


「まだ時間掛かる?」


「掛かりますね」


「…………」


こたつ。


暖かい。


なら問題ない。


「ガウ」


「なに?」


「今、嬉しそうでしたよね?」


「気のせい」


「絶対こたつに入っていられるからですよね?」


「気のせい」


「目を逸らさないでください!」


その時。


「ふふっ」


リュミエールが笑った。


「でしたら」


「?」


俺とたるとが見る。


「解析の結果が出るまで」


リュミエールさんが言う。


「お二人は街をご覧になってはいかがですか?」


「街を?」


たるとの虎耳が立つ。


「ええ」


「せっかくミスティアまでいらしたのですから」


「研究院にずっといるのも退屈でしょう?」


「…………」


俺はこたつを見る。


「ガウ」


「なに?」


「行きますよ」


「まだ何も言ってない」


「顔に書いてあります!」


「書いてないよ」


「こたつ見てるじゃないですか!」


「別れの挨拶を……」


「行きますよ!」


リュミエールがまた笑った。


「案内役を一人お付けします」


「いいんですか?」


「もちろんです」


そして。


研究組を見る。


「皆さんは引き続きこちらで?」


「やるよ~」


セリア。


「お願いします」


シズク。


「私も残ります」


モルフォ。


三人とも即答。


「ノア」


「はい?」


俺が見る。


「セリアをよろしく」


「任せてください!」


「ガウちゃん~?」


「リオ」


「はい」


「シズクも」


「承知しました」


「ガウ?」


「ミナ」


「はい」


「モルフォを――」


「監視します」


モルフォの声。


「私だけ扱いがおかしくありませんか!?」



研究院の入口。


「お待たせいたしました」


「!」


一人の女性が立っていた。


青いローブ。


腰には小さな杖。


年齢は俺たちより少し上くらいに見える。


「リュミエール様より、お二人の案内を任されました」


軽く頭を下げる。


「よろしくお願いいたします」


「こちらこそ!」


たるとも頭を下げる。


「よろしくお願いします!」


「まずはどちらをご覧になりますか?」


「おすすめはありますか?」


たるとが聞く。


「でしたら」


女性が少し考える。


「一通り街をご案内しましょう」


「お願いします!」


俺たちは研究院を出た。



「…………」


改めて見る。


ミスティア。


石造りの建物。


高い塔。


道の脇には青白い魔法灯。


建物の壁。


道路。


至る所に小さな魔法陣がある。


そして。


街全体を覆う巨大な結界。


その向こう。


吹雪。


「…………」


俺は結界の外を見る。


真っ白。


雪が横向きに飛んでいる。


「すごい」


「結界ですか?」


案内役の女性が聞く。


「うん」


「外と全然違う」


「ミスティアの生命線です」


女性が答える。


「第七階層の寒さと吹雪を完全に防ぐことはできません」


「ですが、結界によって街内部への影響を大幅に軽減しています」


「もし壊れたら?」


俺が聞く。


「大変なことになります」


「…………」


俺は結界を見る。


「絶対壊しちゃ駄目だね」


「はい」


即答。


「特にガウは困りますね!」


たると。


「なんで私だけ?」


「死にかけてたじゃないですか!」


「死にかけてないよ」


「寝ようとしてました!」


「ちょっと眠かっただけ」


「それを死にかけてるって言うんです!」


「そのため」


案内役が続ける。


「結界は複数の術式で構成されています」


「一部に異常が発生しても、すぐに全体が停止しないようになっています」


「へえ」


「シズクが聞いたら喜びそうですね!」


「うん」


たぶん一日中見てる。



「ここは商業区です」


「おお!」


たるとの虎耳が立つ。


店。


露店。


人。


かなり多い。


「防寒具!」


たるとが指差す。


厚手のコート。


手袋。


靴。


マフラー。


大量。


「こっちにもあります!」


「雪山用の装備ですね」


案内役が説明する。


「ミスティアの外で活動する方には必須です」


「こっちは?」


俺が見る。


小さな箱。


「携帯用の暖房魔導具です」


「…………」


「ガウ?」


俺は箱を見る。


「欲しい」


「即答!?」


「外でも暖かい?」


「周囲の温度をある程度保つことができます」


「買う」


「ガウ!」


「必要だよ」


「目が本気です!」


「必要だから」


「…………」


たるとも箱を見る。


「…………」


「たると?」


「一個くらいなら……」


「欲しいんじゃん」


「ガウが寒そうだからです!」


絶対違う。


他にも。


凍結耐性を高めるポーション。


雪山用の靴。


氷を砕く道具。


簡易テント。


魔物避けの魔導具。


「フェリシアと全然違いますね」


たるとが周囲を見る。


「そうだね」


フェリシアの商業区。


食べ物。


日用品。


装備。


色んな物がある。


ここも同じ。


だけど。


商品を見るだけで分かる。


この国の外がどれだけ危険なのか。



「こちらは宿泊区域です」


「宿泊?」


「はい」


大きな建物がいくつも並んでいる。


出入りする人はプレイヤーしかいない。


武器。


防具。


明らかに戦闘職が多い。


「攻略組?」


俺が聞く。


「ええ」


案内役が頷く。


「第七階層を攻略している方々です」


近くにいた数人のプレイヤーが大きな地図を広げていた。


「昨日のルートは無理だ」


「吹雪が強すぎる」


「西側から回るか?」


「そっちは氷結種が増えてるぞ」


「なら南側は?」


「崖が凍ってる」


「…………」


攻略の話。


別の場所。


「明日は北東を調べる」


「回復役は?」


「二人確保した」


「タンクが足りない」


「他のギルドに声掛けてみる」


「…………」


俺は周囲を見る。


「すごい人ですね」


たるとも驚いている。


「常にこのくらいいるんですか?」


「時期にもよりますが」


案内役が答える。


「ミスティアは第七階層攻略の拠点ですから」


「攻略の拠点……」


「はい」


さらに進む。


「こちらです」


大きな建物。


中。


カンッ!


カンッ!


金属音。


「鍛冶場?」


「装備整備施設です」


傷だらけの盾。


刃こぼれした剣。


凍りついた鎧。


「これ全部?」


「外から戻った攻略組の装備です」


「…………」


職人たちが次々修理している。


「第七階層では装備の消耗が激しいんです」


「寒さ」


「氷」


「魔物」


「長時間の探索」


「そのため、装備を整備する施設も必要になります」


「なるほど……」


たるとが真剣に見ている。


さらに。


隣の建物。


「治療施設です」


中。


ベッド。


回復役。


怪我をしたプレイヤー。


「っ……」


腕に包帯。


「凍傷ですね」


治療する人の声。


奥には鎧を脱いで座り込んでいる人。


疲れている。


奥を見ると片腕が無いプレイヤー。


「…………」


さっきまで魔法の街。


綺麗。


すごい。


そんなことばっかり考えてた。


でも違う。


ここは。


「……最前線なんだ」


俺が呟く。


「はい」


案内役が答える。


魔導国家ミスティアは」


少し先を見る。


「魔法研究の中心地であると同時に」


「第七階層攻略の最前線基地でもあります」


「…………」


「ここから先を目指す攻略組へ」


「装備」


「食料」


「宿泊場所」


「情報」


「治療」


「必要なものを提供する」


「そして」


「探索から戻った者たちを受け入れる」


「それもミスティアの役目です」


「…………」


たるとの虎耳が動いた。


「帰ってくる場所なんですね」


案内役がたるとを見る。


「帰ってくる場所?」


「はい」


たるとが笑う。


「攻略に出た人たちが」


「疲れたり」


「怪我したりしても」


「ここまで戻ってくれば休める」


「…………」


「また頑張ろうって思える場所です」


案内役が少し驚いた顔をする。


そして。


微笑んだ。


「そうですね」


「そういう意味では」


街を見る。


「ここは彼らの帰る場所なのかもしれません」


「…………」


たるとの尻尾。


ゆらゆら。


「嬉しそう」


俺が言う。


「はい!」


「なんで?」


「フェリシアと少し似てると思ったので!」


「確かに」


国の形は全然違う。


フェリシア。


ミスティア。


でも。


帰ってこられる場所。


そこは少し似ている。



「ここは攻略情報共有所です」


「…………」


またすごい。


大きな建物。


壁一面。


地図。


第七階層のマップ。


雪山。


雪原。


森。


谷。


洞窟。


色んな場所に印。


「この印は?」


俺が聞く。


「魔物の確認地点です」


「いっぱいある」


「はい」


「こっちは?」


たるとが指差す。


「危険区域です」


「こっちは?」


「現在調査中の地域ですね」


「…………」


情報が細かい。


壁には紙も大量に貼られている。


《吹雪発生区域》。


《氷結湖・通行注意》。


《大型魔物確認》。


《雪崩発生》。


《未確認反応》。


「情報は随時更新されます」


案内役が説明する。


「探索から戻った攻略組から情報を集め」


「他の攻略組へ共有しています」


「すごいですね……」


たるとが地図を見る。


「フェリシアにもこういうの欲しいです!」


「第一階層で?」


俺が聞く。


「国の外の情報を共有する場所です!」


「ああ」


それなら便利かも。


「帰ったらゴウマたちにも相談しましょう!」


「うん」


たると。


ちゃんと勉強してる。


俺も何か――。


「…………」


あ。


「ガウ?」


「なに?」


「どこ見てるんですか?」


「向こう」


「?」


売店。


湯気。


何か暖かそうな飲み物。


「…………」


「ガウ」


「寒くないけど」


「まだ何も言ってません!」


「暖かい物は大事だよ」


「さっき暖房魔導具買いましたよね!?」


「それとこれとは別」


「もう!」



街を歩いた。


魔法道具を扱う店。


攻略組向けの食堂。


補給施設。


衛兵の詰所。


街の至る所に。


第七階層を攻略するための設備がある。


「…………」


俺は歩きながら周囲を見る。


到着した時はただすごい魔法の国だと思った。


でも違った。


ここで研究して。


ここから攻略へ出て。


戻ってきて。


装備を直して。


怪我を治して。


情報を集めて。


また外へ出る。


「本当に基地なんだね」


「はい!」


たるとも街を見る。


「でも」


「?」


「皆さん楽しそうです!」


言われて見る。


店で笑っている人。


攻略から戻って仲間と話している人。


食事をしている人。


研究者。


衛兵。


攻略組。


「最前線なのに」


たるとが言う。


「ちゃんと皆が暮らしてる」


「うん」


フェリシアとは違う。


でも。


いい国だと思う。


その時だった。


――ウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


「…………!」


大きな音。


街中。


一斉に響いた。


「なに!?」


たるとの虎耳が立つ。


さっきまで青白かった魔法灯。


赤に一斉に変わる。


「…………」


空気が変わった。


「警報です!」


案内役の表情が変わる。


「警報?」


次の瞬間。


「全員、持ち場へ!」


衛兵の声。


「北東門へ急げ!」


「結界術師は防壁へ!」


「治療班、準備!」


街中。


人が動く。


さっきまで食事をしていた攻略組。


立ち上がる。


武器。


装備。


店の人たちも商品を片付け始める。


「…………」


早い。


迷いがない。


「何があったんですか!?」


たるとが聞く。


「分かりません!」


案内役が周囲を見る。


その時。


「退いてくれ!」


衛兵。


走ってくる。


「緊急報告!」


「北東監視所より確認!」


周囲の衛兵が振り返る。


「何が来た!」


「魔物です!」


「数は!?」


衛兵が息を切らしながら答える。


「多数!」


「正確な数は確認できません!」


「…………!」


そして叫んだ。


「魔物の群れ多数!」


一拍。


「――ミスティアへ接近中!!」


「…………」


俺は北東を見る。


巨大な結界。


その向こう。


真っ白な吹雪。


何も見えない。


だけど。


遠く。


雪の向こうから何かが近付いていた。

よろしければ感想や評価、ブックマークで応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。